邂逅輪廻



「という訳だ、りぃ。帰れ!」
「だから、扱い酷いよね!?」
「こう、ボタン押すか、指パッチンで消して、独裁者ごっこを楽しみたいなぁ」
「どこかのネコ型ロボットマンガに、そういったのありましたね」
「言いたい放題、言わな――」
「……」
「消えましたね」
「お、俺がやったんじゃないぞ」
「ええ。分かってますよ」
「視線逸らして、冷ややかな声で言わない。本当に犯人が俺みたいになるから」
「言葉の機微って、奥深いですよねぇ」
「一応、それなりにオチてるんだよぉ」
「喋りが全て漫才になるだなんて、素晴らしい特技ですね〜」
 この小鳥だけには言われたくないことも、あると思うんだ。
「それで、残りは、舞浜千織、一柳綾女、浅見遊那、西ノ宮麗、一柳空哉、三つ子ちゃん、マリー=ウリエル=チェンバースです。よくよく考えてみたら、こっちが残り七名ということは、最大で残り十四話しか展開できないということですよね」
「そんだけやれば、充分だと思うんだが」
「まあ、いざとなったら、もう一周するか、マイナーキャラから選出するとか、更には別作品から持ってくるという手段も残されているんですけどね」
「俺は、その前に飽きて投げる方に賭けるがな」
「奇遇ですね。ガチガチのド本命と言われようと、私もそっちに張ります」
 賭けが成立しない程の予定調和っていうのも、どうなのだろうか。
「では、コロッと」
「二……綾女ちゃん?」
「えーっと」
「ですわ二人とか、これが女神様の差配というやつか」
「ですの?」
「ですわね」
 本当に、ヤラセも無しの運任せでこういうことが起こるから、世の中は不思議だ。っていうか、綾女ちゃん、しれっと混じって、櫛名田さんと調子を合わせるって、どういう適応力さね。
「この地球という星に、只のアミノ酸から生命が誕生した事実を思えば、この程度のこと、驚くに値しませんわ」
「比較対象でかいなぁ」
「仮にも、神様的な存在の前で、原始生命の誕生を語るのはどうなんでしょうね」
「そこに神の意思が介在したとしておけば、共存は可能ですわよ」
 政治家というやつは、究極的に言ってしまえば調整屋であると誰かが言った。なんやかんやで、やっぱり資質があるのかしら。
「で、例によって何をするよ?」
 ボケを捨て置かないという決意はしたものの、進行については、相も変わらず投げやり気味だ。
「とりあえず〜、今まで生きてきて、ですわ口調で喋る方に会ったことがあるのかについてですね〜」
「おいこら、そこの小鳥」
 いきなり、レゾンデートルをぶっ壊しにかかるんじゃない。
「たしかに、一人称がワシの御年配、語尾がアルの中国人並にレアリティの高い存在です」
「そういった細かいことは、気にしないのが吉なんだよぉ」
「ふに〜」
 ともあれ、この二人のせいで、説得力というものが色々と崩壊してるのは間違いない。
「この様な、人より高位の存在と巡りあった以上、することは一つですわ」
「ほうほう?」
「極めて特異な配線を持った――言い換えるならアホの身内を持った場合のあしらい方を伺いたいんですの」
 バカ兄貴の取り扱い方法を尋ねるのは、有用な活用方法と言えるのだろうか。
「そんなもの、こっちが聞きたいというものなんだよぉ」
「ふに〜?」
 うーむ、いかに長生きしようと、どれ程の人生経験を積もうと、苦労の元はそう変わるもんじゃないということなのか。
「でしたら、国家の基幹たる官僚が、どの時代に於いても根腐れを起こすこと、あまりに程度の低いことで諍いを起こす民衆と国家、直接的暴力に抗するには、同じ直接的暴力に頼らざるを得ない現状、に対する明確な解決策を御教授下さいまし」
 まあ、世の中には全知全能とコンタクトできるって主張する人も居るけど、だったらこういうことに答えて欲しいもんだよな。
「知ったことじゃないんだよぉ」
 うん、この返しも、概ね分かってたけどさ。
「思ったより、使えませんわね」
「使う使わないという発想が、そもそも俗というものなんだよぉ」
「面倒くさいだけですよね〜」
「俗な言葉で言うと、そうかも知れないんだよぉ」
「君達は、微妙に話を落とさないといけない星の下にでも生まれてるのか」
「誰か鏡を持ってきて、顔を映してやれなんだよぉ」
 いかん、これは同士討ちになる流れだ。
「大概の国には、この手のお偉いさんが居るものなのですが、似たり寄ったりの歴史を繰り返してる時点で、察してあげて下さい」
「岬ちゃんが一番、分かったような発言するのもどうなのよ」
「雰囲気だけで知ったかぶりを発揮するのは、中高生の特権です」
 それは、人生の黒歴史というやつに分類されるものの気もするんだがなぁ。
「ところで、さっきから櫛名田さんの影が非常に薄いんですが」
「ですわね」
「だから言っただろう、ですわ二人なんかが揃ったら、字面での判別が非常に困難になると。黒髪ロングは一作品一人までにしておかないと、危険なことになりかねんぞ」
「それは、書き分けが甘いのが問題ではありませんこと」
「キャラ多い作品で髪型と喋り方が被るのはドツボなんだぞー。あれ、こいつさっき主人公に説教してなかったか、何で主人公に説教されてんの、とかなったら目も当てられない」
「髪型と喋り方どころか、顔や声に至るまで、見分けが付かない人達なら知ってますけど」
「あれはあれで、最早、それ自体が独立したキャラクターじゃねーか」
「羨ましい話ですね〜。こちらにも、白虎さんと窮奇さんというよく似た双子さんが居ますけど〜、その点ではあまり突出した部分がないんですよ〜」
 あれが羨ましいかどうかについては、この際、二次元と三次元の狭間にでも閉じ込めておくことにして。
「そういうのって、どこで差が付くんだろうな」
「最初からそういう路線で行こうと決めるかどうかは大きい気もしますが、何とも」
「朱雀に裏人格があったり、単細胞生物の如く、二人、三人に分裂したりするから、そっちに食われてるだけの気もするんだよぉ」
「ファンタジー世界の住人、ズルいなぁ。どうやって太刀打ちすればいいんだよ」
 そもそも、何を以って勝ち負けがつくのかについては、よく分からんけど。
「はぁ、お茶が美味しいですわ」
「櫛名田さーん。蚊帳の外だからって、居直ってお茶飲んでるってのも間違ってますから」
「ですの?」
「しかし、安穏とした雰囲気を出すのに、のんびりティータイムってのも何か古典的かつありきたりで面白みがないな」
「茶道の起源は、中国から伝わった闘茶ですからね。お茶の銘柄、産地を当てる、言うなれば利き茶勝負で、もっと殺伐としていても問題はないはずです」
「その後に千利休なんかが発達させたもてなしの心とかについては、この際、全く無視するとしよう」
「まさか、『婆さん、茶を変えた?』の一言が、熟年離婚のキッカケになろうとは」
「たった一杯のお茶に秘められた、誇りと自尊心と矜持に満ち溢れた戦い。三つとも、そんなに意味変わらないけど」
「やはり、合理的に考えると、お茶を飲む時は、背景に雷か、集中線を背負うくらい緊迫してないといけませんよね」
「へー、なんだよぉ」
「……」
 いやいやいやいや。
「ツッコめよ! ボケが過剰に増殖したら、適当な所で収集を付けようとするのが、正しいツッコミ道だろうが」
 俺と岬ちゃんがボケに回ったら誰も止めに入らない環境から解放されて伸び伸びとやれると思ったのに、なんてザマだ。
「ツッコミを少し離れて思ったのは、義務感でツッコミ続ける人生は、本当に正しいのかどうかという問いだったんだよぉ」
「そこまでスケールでかい話だっただろうか」
「ボケに対するツッコミは、生物が酸素を吸って二酸化炭素を吐くくらい、自然な作業ですよね」
「嫌気性細菌に謝るんだよぉ」
「長生きしてるくせに、比較的ここんとこの科学に詳しいなぁ」
「黄龍さんでしたら〜、酸素を吐き出す生物が誕生する以前から生きていた可能性がありますから〜」
「はるか彼方の記憶に、マンモスが居た気がするのがせいぜいなんだよぉ」
 いや、それでも充分に凄いですから。
「わたくし達は、結局、どうすればいいんですの?」
「居直って、殆ど喋らずに、それでも尚、仕事をしたかのような雰囲気を出すことだけは忘れないのが吉やも知れませんわね」
「世渡り上手な雛壇芸人か!」
「やっぱり、ツッコミは他人に委託するに限るんだよぉ」
「必要は発明の母とは言いますが、逆に言うと、ある点が満たされると、怠け始めるということでもあるのやも知れません」
「まあ、猫見てれば分かるわなぁ。食いもんと、寝床が保障されてる生活を与えると、あの怠惰なことときたら」
「人間も、大多数が生活のために働いている現状を鑑みると、使命感でツッコミを続けるというのは誤ってるという考え方もあるやも知れません」
「何だか、妙な分析をされはじめたんだよぉ」
「一級の研究材料であることは〜、ある意味において名誉とも言えますから〜」
 何を言っても自分に返ってくるこの小鳥、やっぱりズルいなぁ。
「後継者を見つけて楽隠居したいというのは、至極普通のことなんだよぉ」
「たしかに、完全に耄碌してんのに、先達という理由だけで権力持ってる輩は有害ではあるがな」
「長年積み重ねたものを披露する場が無いというのは、それはそれで人材資源の無駄ですわよ」
「そもそも黄龍さんって、寿命無限なんですから、元気な限り働けばいいんじゃないですかね」
「ちっ、なんだよぉ」
 そんな露骨に面倒くさがんなくても。
「お子様達には、何千年も働き続けてきた苦労というものが分からないんだよぉ」
「一言でまとめると〜、ニート万歳ってことですか〜?」
「はっ、一万歳くらいと、掛かっているのか」
「誰かこのアホ、叩いて直せなんだよぉ」
「最近の家電は構造が複雑ですからね。一昔前みたいに、叩いて接触不良の改善だけでお茶を濁すというのが難しいみたいです」
「さすがの俺も、何処からツッコんでいいのか分からねぇ」
「まだまだ、なんだよぉ」
 この御方、自分の立ち位置を何処に置きたいのかが、そもそも分からねぇ。
「結局のところ、アホを御する術が、今一つ分かりませんわね」
「一万年、それに費やす覚悟があるなら、或いは見付かるやも知れないんだよぉ」
「長生きしないといけませんわね」
「問題は、それだけの時を掛ける価値があるかどうかということではあるんだよぉ」
「人の生きる目的は、その様なささいなことでも構わないのかも知れませんわよ」
「何だ、その人生達観してるようで、そうでもない、微妙な会話」
「常に新機軸を生み出す努力は、惜しむべきではありませんわ」
「適当に返事してたら、そんな感じの空気になっただけなんだよぉ」
「意識には、若干の違いがありました」
 何だか盛り上がりきらん感じなのは、一体誰のせいなのでしょうか。
「そしてこんな雰囲気のまま、櫛名田さんが御退席ということに相成りましたが」
「残念ですわね」
 正直なところ、綾女ちゃんが召喚されなければ、もうちょっと目立つチャンスがあったと思わんでもない。
「日本では、こんな時、神様のバカヤローと言って鬱憤を晴らす作法がありますが」
「わたくし、一応、神族ですわよ?」
「神様(月読)のバカヤローなら、丸く収まるんだよぉ」
「扱いが、酷いです」
「そんな利用価値でも、ある内が華という考え方もあるんだよぉ」
「本格的に人生を考え直してしまうわいな」
「存在理由を、自分で決めるか、他人が決めるか、どちらが正しいかとは、言い切れないのが悩ましいところです」
「そんなに重いテーマでも何でもないはずだから!」
「一般的な生き方の話でしたら、まだマシですわ。これがキャラクターとしてのでしたら、苦悩を越えて、存在を抹消されかねませんもの」
「だから、ねぇ!」
 もしや、俺が放り込まれたのは、ツッコミ界の無限地獄なのではなかろうか。ふと、そんな考えがよぎってしまう程の混沌を味わった気がしたのであった。

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