邂逅輪廻



「さて、補充要員を呼ぶ、サイコロタイムのお時間です」
「タイムと時間が被ってると、野暮なツッコミをしたいお年頃」
「ところで、言い忘れてましたが、この作品はフィクションです。実在の個人、団体、宗教とは何の関係もありませんので、あらかじめ御了承願います」
「遅い遅い。つーか、わざわざ言わなくても、みんな知ってるから」
「世の中は、先輩が思うより遥かに面倒な方向に進んでいるんです」
「こう、手心というか、心のゆとりが欲しいよなぁ」
「何か、漫才が始まったんだよぉ」
「月読さんが居る間に〜、私も披露すればよかったですかね〜?」
「異次元漫才は、初心者には刺激が強すぎるんだよぉ」
「そう言われると、ちょっと見てみたくなるのが人の常」
「好奇心は猫を殺すとは、実に的確な言葉だと思うんだよぉ」
 何処まで危険な漫才なんだよ、本格的に気になるじゃねーか。
「ともあれ、振らせてもらいます。黄龍ちゃんサイドは、武則天、玄武、青龍、白虎、麒麟、天照、須佐之男、櫛名田姫、フェンリル、ヘル、メタトロン(敬称略)ということで。細々としたのを入れると倍くらい居ますけど、正直、絡み方が分からないのばっかりらしいので」
「懸命な判断なんだよぉ」
「では、コロッと」
「八、ということは、櫛名田姫?」
「呼ばれて飛び出て、ぱんぱかぱーん、ですわ」
 だから、いきなりポンっと湧くな。ワンクッション、何か入れろと言うのに。
「この登場の仕方を憶えている読者が居るとは思えないところが、自由なんだよぉ」
 え、定番のネタなんじゃないの、これ。
「ちなみに、このフレーズ、ドラゴンクエスト5二次創作コント、フローラ嬢で使ったのが妙に気に入っての流用なんだそうです。更に元ネタを遡ると、相当古い、某有名大魔王のアレなのですが」
 段々と、書いてる奴の、自分探訪の旅になってないか。
「ちなみに、そのアニメに対して何かしらの思い入れがあるという訳でも無いそうです」
「そういう、反応に困る部分は、カットできないものなのかしら」
 割と本気で、顔が引きつってくる訳なんだが。
「ともあれ、はじめまして。櫛名田、ですわ」
「おぉ、そういえば、綾女ちゃん以外の、ですわ使いではないか」
「何か、ツッコミどころ、おかしくない?」
 いくら俺でも、距離感が掴めないと、扱い方にムラが出るんだよ。
「喋り方からして、お嬢様なんですかね」
 ほら見ろ、りぃ。岬ちゃんも、何か微妙に調子が狂ってるじゃないか。
「三貴子、須佐之男の嫁ということを考えれば、立派なお嬢様、というか、淑女様なんだよぉ」
「ふふっ」
「その、三貴子というのが、どれ程のものかピンとはきてないんだが、次子がアレだっただけで、尊敬の念を持つのは難しそうなのですが」
 ん? ってか、何か聞き捨てならない言葉があったような?
「嫁、ってことは、もしかして人妻?」
 え、ヘタすれば岬ちゃんより幼く見えるんですが、マジですの。
「日本神話の神様は〜、ある程度以前の方ですと、寿命が無限で年を取らないんですよ〜」
「昨今の言葉で言うと、ロリババァって奴なんだよぉ」
「正確な年齢が分からず若作りという点では同じ、君達が言うのかね」
「てへへ、なんだよぉ」
 うわぁ、割と本気で殴りてぇ。多分、見事なクロスカウンターで轟沈させられるんだろうけど。
「ふっ、気合の乗った、いいパンチだったぜ」
「何の真似なんだよぉ」
「エア友情ごっこ? 俺、痛いの嫌いだし、想像力で補完しておけばいいかなぁって」
「アホしか居ないんだよぉ」
 その件に関しては、そっくりそのまま、のしまで付けてお返しするぜ。
「んで、何するよ」
 いい加減、誰か手際のいい司会進行をしてくれないかなぁ。俺は面倒だからやらないけど。
「少し私でも触れたことですし、皆様のキャラクターのルーツなどを語ってみてはいかがでしょうか」
「身内ネタというか、楽屋ネタすぎて、誰も楽しめない予感しかしない」
「楽しませるという発想自体が、奢りという考え方もあるんだよぉ」
 一瞬、謙虚に聞こえるけど、やっぱり只の職務放棄だよな、それって。
「私、岬の名前が、某サッカー漫画のアーティスティックプレイヤーからきているみたいな、そういう話ですかね」
「恐ろしいほど、何の役にも立たねぇ豆知識だ。たしかに、みさきっていう音なら、美咲とかのが一般的だけどさ」
「ちなみに、桜井と椎名は、昔から最後の切り札として付けられる名字です。ええ、過去作を調べてもらえれば分かると思いますが、十万に及ぶとさえ言われる日本の名字から見れば、異常とも言える確率で桜井と椎名が登場するんです。もちろん、桜井と椎名に、何か深い思い入れがあるかと言われると、そこまで思い当たることはないそうなのですが」
「最後の切り札って、女性キャラの登場順って、りぃ、岬ちゃん、茜さんだったような気がするんだが……」
「戦力は出し惜しみしない、高火力高機動低装甲主義なんでしょう、きっと」
「どっかのプロ野球チームみたいな話だなぁ。どことは具体的に言わないけど」
「十点取られたら、十一点取らない打線が悪いと断言するのが、最低限の嗜みです」
 野球って、そういうスポーツだったっけか。
「ち、ちなみに、私の莉以ってどこから来てるか分かる?」
「たまに、莉以と表記されると、一瞬、誰のことだか分からなくなる俺が居ます」
「酷いこと言ってるよね!?」
「いつからか、完全に脳内表記と発音が、平仮名でりぃなんだから、仕方がないと思うんだ」
「えっと、それで莉以の由来なんですが、昔、猫にりぃって名前を付けようとしたけど空振ったから流用して、それっぽい漢字をあてたものだそうです」
「……」
「知らない方がいい真実って、あるよな」
「七原公康の七原については、『記憶に無い。多分、適当』というアンチョコが回ってきました」
「おいコラ」
「公康に関しては、西武ライオンズ、ダイエーホークス、読売ジャイアンツ、横浜ベイスターズを渡り歩いた工藤公康投手からだとか。お兄さんの名前は、久信でしたよね」
「本編では、一回として出てないがな」
 つーか、工藤公康と渡辺久信じゃ、工藤の方が歳上なんだが、そこんとこ適当だよなぁ。
「お父様が、黄金期西武のファンだったという、まず一生使うことのない設定があるようです」
「あー、うん、たしかにそういうところあるような気がするな。実の父親で、つい最近まで同居してたのに、まともに話した記憶が無い不可解な感覚は残るが」
「学生ものにはよくある、奇妙な常識です」
 いいのかなぁ、それで。
「そういった意味で、黄龍ちゃんは名前と種族と役職が、潔いくらいごっちゃだから楽でいい、だそうですが」
「一応、蛟になる前は、固有名詞としての名前があった気がするんだよぉ」
「蚊?」
「ミズチ、なんだよぉ」
「蝮さんが蛟になって〜、その後、龍、角龍、応龍、黄龍と出世魚のように名前を変えるのは世界の常識ですよね〜 」
「黄龍自体が知られていないのに、それはないと断言せざるを得ない」
「さりげにこいつ、失礼なんだよぉ」
「気付くのにこれだけの時間が掛かるなんて、黄龍さんもまだまだ甘いなぁ」
 何でりぃが勝ち誇ってるんだろうか。
「そう考えると、生まれた、ってか転生してからずっと朱雀で通してる朱雀は、楽でいいんだよぉ」
「朱雀といえば、二十八代目朱雀である私のことと認識されるのが目標です〜」
「歌舞伎役者や落語家か何かか!」
 あの襲名システムのせいで、それなりの通じゃないと誰が誰なのか分からなくなるのは、弊害の域だと思うんだが、どうなのでしょうかね。
「あー、そういや最近の子供って、個性的な名前多いじゃない。りぃが可愛く見えるくらいの」
「何で私を引き合いに出すかな!?」
 さすがに、りぃを見て思い出しただなんて言えない。
「これを防ぐため、幼名システムを復活させるべきなんじゃないかと、割と本気で思うんだ。若い両親が、子供を授かったハイテンションの中で付けるから、話がややこしくなる訳で。こう、成人までは仮の名で通して、二十歳になったら、本人の同意の上、役所で改名手続きをすれば、悲劇は大分減らせると思わないかね」
「高校生くらいになったら、『お前、どんな名前にするつもりよ?』とかいう会話がされる訳ですか?」
「うむ。俺も過度な改名は混乱を招くだけだからいいとは思えないんだが、一生に一度ならそう問題はあるまい。大人のライセンスを貰ったって感じもするしな」
「まあ、信長の長男の幼名も、顔が奇妙だからで、奇妙丸だもんね。元服したら信忠って、すっごい普通の名前になってるし」
「りぃも、成人したら改名するか?」
「私はこの名前、結構気に入ってるから!」
 グフッ。りぃの場合、裏平手ツッコミすら、骨を軋ませる力を持っていやがるぜ。
「どなたとでも漫才ができる方ですね〜」
「朱雀的特質を持ってるんだよぉ」
 まるで褒められてる気がしないのは、どういった理由であろうか。
「ではここは、朱雀さんと公康さんが漫才をするということで決着としましょう」
 櫛名田さーん。何、その何処から出てきたかも分からない、謎の落としどころ。
「魔女さんがくつくつ煮込んでる釜は〜、秘伝のコラーゲンスープということで結論が出ましたけど〜」
「え、結論出てたの? 俺、その会議参加してないから、納得いかないんだけど」
 つーか、しまった。これは途中下車できない流れだ。
「やっぱり若さを保つというのは、女性最大の命題ですから〜」
「だから君達、老けないんでしょうが」
「ですけど公康さんも〜、もう何年も高校二年生してますよね〜?」
「危険だから! 昨今の少年漫画くらい、話が進んでないのは事実だけどさ!」
「進級した後に慌てて学年ループを始めるよりは潔いと思うんですよ〜」
「色んな物を敵に回すからやめてーな」
「ちなみにそれゆけ黄龍ちゃんはリアルタイムで年をとるので、私は八歳ほどになります〜」
「主人公が、五歳や十歳くらい、誤差の範囲っていうのが笑いどころなんだよな?」
「ははは、なんだよぉ」
 やばい、あのイエロードラゴンさん、目が笑ってない。
「話は変わりますが〜、私、メガネをクイッとするのに憧れてるんですけど、クラクラして掛けられないんですよ〜」
「世の中には、伊達メガネという、度が入ってないものがあってだね」
「レンズ無しのフレームだけでも、ダメなんです〜」
「光学技術の結晶であるレンズを介さず、光を捻じ曲げる力を持っている……だと?」
 一瞬とんでもないことの様にも思えたけど、俺らが知る自然科学なんぞ、この小鳥の前では、大陸間弾道ミサイルに投石で挑むくらいのことだと感覚が訴えてきたので、スルーすることにした。
「ところで、話の腰を折るって言いますけど〜、首だったら大惨事ですよね〜」
「発想を変えてみよう。話の首を獲ったりー、と名乗りを上げれば、うまいこと切り返した感じがしないでもない」
「新しい慣用句って、こうやって生まれるんですね〜」
「段々と、異次元漫才に近付いてきた気もするんだよぉ」
 え、こういうもんだったの。たしかに、落としどころが見つけにくくて、扱いづらい感はあるけどさ。
「いかなる発言もボケとなる小鳥と、いかなる発言も柔軟に処理する男、中々に興味深い組み合わせでしたわね」
「何で矛盾みたいになってんだよ」
「漫才は、言葉とリアクションで織り成す総合格闘技だからしょうがないよ」
「りぃも、何うまいこと言ってやったみたいな顔してんだ」
「首獲ったよ〜、お母さん見てる〜」
「駅前撮ってるテレビカメラの後ろで、テンション上がっちゃってる学生か!」
 ああもう、何でこうも、ボケしか居ないんだ。
「自動ボケ処理機があると、楽で良いんだよぉ」
「普段は黄龍さんの仕事ですものね〜」
 うーわ、めっちゃ呑気に茶すすってやがる。何で三つ子の件といい、俺はこういう気疲れする面倒事を委託されるんだ。
「ボケるということは才能なのかも知れませんが、ツッコミもまた然り。先輩はどちらも天分として授かったのですから、惜しみなく使うことが、社会貢献なのではないでしょうか」
「ボケなのかマジなのか判断に困る発言は、処理に困ります」
 オーケー、分かった。何かここまでお客さんというか、アウェイに居る気分が抜けなかったんだが、こういうことなら遠慮はしねぇ。てめぇら片っ端からツッコミ倒してやるから覚悟しやがれ。

 続いてしまう


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