「という訳でですね。お姉ちゃんが居なくなったということで、我らがセンセーショナル・エレクション勢から一人、補充要員を呼ぼうかと思います。私、七原先輩、黄龍さん、朱雀ちゃんが基本メンバーで、一話ごとに一人、ローテーションで入れ替えるという形になると思います」 「ちょっと待て、じゃあ、私、月読之命は今回でフェードアウトということか。メンバーの人選は本当に公正に行われたのか、情報の公開を要求する」 「えー、『どーせお前ら、話をとっ散らかすんだろうから、ツッコミと司会進行できる奴を多く配置するのは当然の処置。あと、朱雀はマスコット枠』だそうです」 「うぐぐ」 見事な論破と言えばそうなんだろうが、素直に納得していいのかについては、疑問が残るんだが。 「では改めまして、こちらに多面体のサイコロを用意しました。当初は、上の方が適当に選ぶつもりだった様ですが、サプライズが足りないという理由で、方式を変更しました。 具体的には、椎名莉以、舞浜千織、一柳綾女、浅見遊那、西ノ宮麗、一柳空哉、三つ子ちゃん、マリー=ウリエル=チェンバース(敬称略)にナンバーを振って、出た方を召喚します。当人に拒否権はありません。ちなみにここに居ないメンバーは、上の方に、準レギュラーとしても認識されていないということです」 「いや、まあ、うちの兄貴とか、北島涼先輩とか呼ばれても、困るっちゃ困るが。あと、さりげに三つ子が一括りにされてるのもどうなんだ。バラ売りされても、それはそれで扱いに困るけど」 「確率の女神様とやらは、戯れが好きですからね。三回連続で三つ子ちゃんを引き当てて困惑させる程度のことはしてきます」 「そんなことになったら、書き分けされてないのが、バレてしまうではないか」 「あの三人、端っからされてましたっけ?」 その件に関しては、機密事項に分類される気がしないでもないので、ノーコメントで。 「では、尺の問題もありますし、とっとと振ります。誰が出ようと、頑張って仕切る所存です」 「何だか、言わされてるというか、誰かが乗り移ってるかのような意見だなぁ」 「出ました。一、ってことは椎名先輩ですね」 「……」 うおっ。サイコロの目が確定した瞬間、何もないはずの空間に、りぃが湧いてでた。正直、ビビる。 「俺達って、一応、ファンタジー系抜きの、現実世界に準拠した世界観で生きているはずなんだが」 神様とかと交流を始めた時点で、考えてはいけないところな気もするけど。 「その件に関しては、三つ子ちゃんが謎テレパシーやら、面白レーダーを搭載しだした時点で狂いだしてるので、正直、気にしたら負けです」 あいつら、地味に影響力高いなぁ。 「晩御飯を食べて、部屋でのんびりしてたら、謎の部屋に座り込んでいました。これがうたた寝のさなかに見る夢でないのであれば、一体、どの様に解釈すればいいのでしょう」 何故にあんまし使わない丁寧語だ。 「こういう時、中途半端に生真面目な奴は、状況に対応できなくて困るな」 諦めよ。人はそこから始まらん。 「何だか、さらっと真面目じゃないとか言われたような?」 「無礼な話ですよね〜」 「まったくもって、なんだよぉ」 「うむうむ」 図々しい連中も、居たもんだなぁ。 「んで、これからどうするよ」 というか、たった一人メンバーを入れ替えるだけでこんなに尺を使って大丈夫かいな。 「何か、色々と遊興の道具が揃ってはいるんだよぉ」 「トランプ、各種ボードゲーム、麻雀道具一式、レトロから最新までのビデオゲーム、テーブルトーク用品、インドアだと、こんなものですかね」 「妙ちくりんなサイコロがあると思ったら、テーブルトークのせいか」 未だに、キリの悪い変ちくりんな多面体サイコロをテーブルトーク以外で使う場所を知らない。 「センセーショナル・エレクション・テーブルトークとかロマンがあって作ってみたいですよね。論戦で、政敵を打ち破れ! 明日の生徒会長は君だ! 的なキャッチコピーで」 「勝ち判定を、どう処理していいものかが分からねぇ」 そもそも、プレイヤー同士が争うのか、ノンプレイヤーキャラクターを組んで倒しにいくのか、それが問題だ。ゲームマスターの心労が、ダンジョン系の十倍付けくらいで襲ってきそうだな。 「それゆけ黄龍ちゃん・テーブルトークだと〜、どうなるんですかね〜」 「まず、私が何かをやらかして始まる。それだけは自信がある」 「嫌な導入なんだよぉ」 「とはいえ、ここからどう転がして、何を目標に展開するのかが難しい。日常系の弱点だな」 「それゆけ黄龍ちゃんって、日常系だったんですか〜?」 「一話読み切りで、派手な事件も無ければ、一大目標や主たるテーマも無いんだから、日常系でいいのでは無かろうか」 「あんな何でもありなカオスを日常と認めてしまうのもどうなんだよぉ」 「その件に関しましては、読み手がどう感じているかに委ねようではないかということになっています」 一言でまとめると、知ったことか、ってことか。 「はっ!?」 りぃ、今の今まで、意識があやふやだったのかよ。 「えっと、この朱い子の羽、よくできてるよね〜、本物みたい」 「ふに〜」 それは、もうやったんだがなぁ。 「中国の故事に、汝痴者足朋友阿房也というのがあって、意訳すると、アホの友達は、やっぱりアホというのがあるんだよぉ」 必ずしも否定できない辺り、中国の古い言葉は深いな。 「まあ、今、作ったんだけど、なんだよぉ」 「……」 これは、騙された俺がアホなのか、こんなことを口にする奴がアホなのか、新たなるアホ達の邂逅を喜ぶべきなのか、どれなんだ。 「何はともあれ、初対面でややこしいものをするのもあれですし、ボードゲームでもやることにしましょうか」 「なんの躊躇いもなく、『ザ・黒幕』とか書かれてる胡散臭いものを選ぶ岬ちゃんが恐ろしいです」 「ルールはよくある双六系のそれですね。止まるマスによって、裏金プールというポイントが上下して、最終的には、その多寡で勝負を決めることになるようです。着順でボーナスもありますが、絶対的な量でも無いので、じっくり進むことが、必ずしも不利になる訳ではないようです」 「この果てしないバッタモン臭に、一種の興味をそそられるのが正しい男の子というものだ」 「同時に、検察ポイントというのも上下し、これが一定量を超えると、検察から締め上げられ、出目次第で裏金の大半を失うことになるみたいですね」 「なんだ、この深夜のテンションで提案したら、物の勢いで企画が通ってしまったような、しょうもない設定は」 「一回限りで考えれば楽しそうだから問題はありません。完全な出オチですので、二回目は無い気がしますけど」 「人生とはアップダウンがあってこそ楽しいのだと、誰かが言っていたんだよぉ。 だがそれを、本当に波瀾万丈の人生を送って尚、言えるほど貴様は強いのかと、問い返したいんだよぉ」 「ふっ、人生のピークが紛れもなく生まれた瞬間である私に、ダウンはあっても、アップなどない。転がり落ち続けるものの強さを、今見せてくれよう」 ツッコみてぇ。全力でツッコみてぇけど、単純な生存年数では遥かに下を行く俺が言っていいものなのだろうか。人生経験と言わない辺りが、こいつらを軽んじてる部分だとは思うけど。 「うわっ。『談合を無視して業界からハブられる。損益一億円』って」 「ぐぬ。『有力者を接待漬けにするも、ナシのつぶて。五千万の無駄金』だと」 「ふに〜。『裏切り者を誅殺する。必要経費二千万円』ですか〜」 「『高級官僚を天下りさせる為、ダミー会社を設立。二億円の出費』なんだよぉ」 なんか、あまりにマイナスなマスが多すぎねーか、このゲーム。 「裏金をあぶく銭だと思うなよ。血と、汗と、涙の結晶体であり、その価値は正当な労役で得たものに何ら劣るものではないという、製作者のメッセージが見え隠れするな」 「金に意志を持たせるのは結局は人であり、綺麗も汚いもないということでしょうか」 ボケに乗ったのか、割と本心寄りなのかが分かりづらくて困るんだが。 「ふにふに〜。『側近を信用できなくなり警備を強化する。三千万円の出費』になりました〜」 ……。 「ふにふにふに〜。『妻と子供が、出て行く。慰謝料と養育費で、三億円毟られる』です〜」 小鳥が、段々と孤独の王ルートに入り込んでる気がしないでもないのは、スルーしておこう。 「んがっ。『必殺、全て秘書のせいですを繰り出し難を逃れるも、マークがキツくなる。検察ポイント五上昇』」 「おうっ。『悪人面と無愛想な喋り方のせいで、マスコミに叩かれる。検察ポイント二上昇』なんだよぉ」 「うぬぬ。『脱税と節税の境目辺りで努力するも、税務署は甘くなかった。検察ポイント三上昇』だって」 しかし、爽快感のカケラもねーゲームだなぁ、おい。 「よく見たら、対象年齢十八歳以上とか書かれてるぞ」 エロティックでも、スプラッタでもないのに、妙に納得できるのはどうなのだろうか。 「これ、裏金がプールされてないってか、借金漬けの状態で検察ポイントが溜まったらどうなるんだ?」 「ルールブックには、借金が倍付けになると書いてありますけど、そこら辺はプレイサイドで調整してもいいのやも知れませんね」 「むしろ、どれだけ借金を抱えるかをゲームの焦点にした方が、楽しめるのではなかろうか。ほら、借金も甲斐性の内とか言うし」 推定百億の借金がある裏世界のフィクサーって、凄いようで、そうでもないような、よく分からん存在だけどな。 「なんやかんやとありましたが、優勝は、マイナス三千万円の七原先輩になりました」 「わーわー」 「優勝した理由が、終盤に止まった、『資産、借金を十分の一に圧縮する』マスのお陰だというのが、果てしなく納得いかねぇ」 絶対、ゲームバランス間違えてるって。元々、パチモンなんだから、まともな設計にしても、意味無いのかもしんないけどさ。 「ともあれ、岬ちゃんの予想通り、今回に限れば結構楽しんでしまった自分が憎い。二度目はねーだろうけど」 「色々と修正を入れれば、化ける要素を持ってそうなんですけどねぇ」 どんだけ推したいんだよ。つーか、一応、推奨年齢十八歳以上だぞ。十五、六歳の俺らがやってることに疑問はないんかい。 「悪党としてのし上がるのにこそ器量が必要だという、社会の厳しさを教えてくれる作品でした〜」 そういや、八歳児なんだか、五千歳オーバーなんだか、よく分からない小鳥も居たなぁ。 「もしやこれを叩き台にして、裏の神様世界を牛耳ることができやしないだろうか」 多分、まともに表を攻略しにいった方が早いと思いますよ、月読さん。 「お、面白かったね」 「もうちょい気の利いたコメントはできんのか、りぃ」 「政治家でも、芸能人でもないのに、毎度したり顔の発言をする必要ってあるんですか」 「そこはまあ、俺達の稼業も似たようなもんと言えば、似たようなもんだし」 「そうだったんですか〜。それは知りませんでした〜」 この、なんでもないはずの発言が微妙に面白いとか、この生き物、ちょっと詐欺的ではなかろうか。 「んじゃ、そろそろ尺だから私は帰る。殆ど何もしてない気がしないでもないが」 「一人一人丁寧に付き合うと、それこそ大長編になってしまうので、諦めて下さい」 「憶えておけ、人間ども。本来畏怖すべき存在である我らを蔑ろにすると、いずれ痛いしっぺ返しを食うであろう。心の隅にでも留めておくがよい」 「神様ってか、魔王の言い様じゃねーか」 「その二つの何処に差があるかと言われると、唯一神的解釈以外では難しいのだがな!」 去り際の言葉を、真面目に解釈してしまいそうになったけど、人格的に捨て台詞の域は出てないなと思い直して、考えるのをやめることにした。あんなのが最高クラスの神様って、この国はどこまで行っても、この国なんだなぁ。 続きやがれ |