※調べてみたら、セネレデクエストの一話目は2011年5月に作られたものらしいです。こんな訳の分からない過程を経て完結へと向かうだなんて、作者すら全く思いませんでした。 エジンベア港湾内、船上にて。 「えーっと、この城に入るには消え去り草っていうアイテムで姿を消して、門番の目を誤魔化さないといけないらしいんだけど」 「レムオルっていう、同じ効果を発揮できる呪文もありますが、魔法使い系統の為、私達のパーティじゃ無理ですね」 「いずれにしても、手間と時間が惜しいですわ。袖の下で何とかなりませんの」 「勇者から一番遠い発想の様で、この作品なら何一つ間違ってない気がしてならない」 むしろ下っ端への賄賂程度で済むなら、目くじら立てる方が器が小さいんじゃないかって思えてきた。 「でも、そこまでしてこの城に潜り込まなきゃいけない理由があんの?」 「たしか、地下のパズルを解いて渇きの壺を拝借して、どっかの浅瀬に沈んじまった祠を浮かび上がらせることで最後の鍵っていう万能のマスターキーを手に入れられたはずだ」 「何でそう、面倒ですの」 テレビゲームのロープレで、それを言ったら楽しめないのだ。 「鍵が、必要、ねぇ」 「何か、引っ掛かりますよね」 「ん」 「あ」 「どしたの、みんなして私のこと見てさ」 「いや」 考えてみれば、りぃの握力と腕力なら、オリハルコンででも出来てない限り、錠なんてあってないようなものだ。万一、そんなものがあったとしても、壁を壊すくらいなんてことはない。それに伴う諸問題は、俺の経済力と岬ちゃんの手回しで、どうとでも揉み消せるしな。 「よし、撤収。次の街行くぞ」 かくして、最後の鍵周辺のイベントを、大幅に短縮することに成功した。テーブルトーク的に言えばこういう枠に囚われない発想こそが楽しみと言えるのだが、あんまし無茶なこと言いすぎてゲームマスターを困らせるのはやめておけよ! ランシール、地球のへそにて。 「よくきた、綾女よ。ここは勇気を試される神殿じゃ。例え一人でも戦う勇気がお前にはあるか?」 「何これ、謎かけかな」 「一人ぼっちで戦っていても味方が心にあると言えば許される空気があるんですから、逆に誰かと組んでいても心は一人であると言い張っても、何の問題も無いですよね」 「一応言っておくが、物理的に一人でしか入れない洞窟じゃからな」 そりゃ、神官さんもツッコミを入れるわな。 「ちょっと待ってくださいまし。個別に一人ずつ入って、たまたま中で同じ道を歩いたり、同じ敵を狩るのは、許されるはずですわ」 「悪知恵ばかり回るのぉ」 「ルールの網の目を掻い潜れるなら、それはルールを制定した方にも多大な責任があるって断言するメンバーなので」 「いずれにしても、一人が入ったら、帰ってくるまでは他の誰も入れんからの」 「……」 「どうした綾女ちゃん」 「おかしくありませんの。今の言葉を額面通りに受け取るなら、たった一人で魔物が徘徊する洞窟に潜ったというのに、必ず生きて帰ってくるということですわよ。仮に中で死んでしまうと、いつまで経っても次の方が入れませんもの」 「ドキリ」 中々、古典的な動揺をしてくれる神官様である。 「つまり、この洞窟は文字通り勇気を試すだけの、言うなれば舞台装置ですわね。少なくても神殿サイドは、内部を事細かに把握できて、おそらくはモンスターもその管理下にあるとするのが妥当ですわ」 「勇者殿。できましたら、そのことはどうかご内密に。我らが神殿も、この洞窟があることで権威を保てる訳でしての」 「ブルーオーブを頂けるのであれば、やぶさかでもありませんわ」 「それはもう。おい、ちょっとひとっ走りして取ってこい」 「はい」 言って小僧さんっぽい人が、裏口に向かって走っていった。そして、ものの数分もしない内に帰ってくる。おい、洞窟最深部に繋がる抜け道まであんのかよ。思ったよりひでーな、ここ。 「世の権勢は、それ相応の努力によって成立するということを垣間見た気分だぜ」 実際問題、そういうものだと割り切って物を見れば、新たな世界が拓けるもんだと適当なことを言っておこうと思うんだ。 世界樹の根元にて。 「たしかこの樹の下だったり、内部に複雑怪奇なダンジョンがあって、日々、冒険者達を容赦なく滅殺しまくってるんですよね?」 「ゲーム違うから」 真っ当に考えて、どういった理由で幹の中に迷宮ができるのか分からんけど、俺らが挑戦することは無さそうだし、深く考えるのはやめておこう。 「で、ここの葉っぱを使うと、死んでも生き返れるらしいんだが」 「根本的な話として、この場合の生き返るってどういうことなんですかね。代償に残りの寿命が何割か削られるとかありそうですし、死後硬直や腐敗が始まっていた場合も治るのか。そもそも死の定義が、脳死なのか、心臓死なのか、全ての生命活動を停止した瞬間なのかなんかが曖昧だと思うんですが」 「ザキ一発で死ぬけど、低レベルなら教会に数十ゴールド払えば生き返れる世界で、そういう話をされましても」 大体、岬ちゃんがザオラル、ザオリクを憶える気配が全くないから、ここに来た訳ですよ。 「これは、同時に一枚しか持てないそうですわね」 「ハンマーかなんかで思いっきり叩いたら、結構落ちてきそうなもんだけどね」 「世界樹倒壊なんかさせたら、歴史に燦然と悪名を残してしまうので、やめてくだされ」 仮に俺らがバラモスを倒したとしても、どちらが大きく扱われるかは微妙なところだ。 「ですが聞くところに依りますと、一パーティにつき一枚だそうですわ。ここで一時的にパーティを解散し、それぞれ独立した体にすれば、四枚手に入るはずですわよね」 「そういう一家族につき一つの特売品を買う時に、『あいつなんか家族じゃねーし』とか言い出すみたいな真似はありなのか」 世界樹が意志を持っているとすれば、不届き者扱いで一枚もくれないんじゃないかと思いつつ、何とか一攫千金に持ち込めないかとも考える辺りが、筋金入りの商人だよな。 辺境の村、ムオルにて。 「あっ、ポカパマズさんだー」 「誰のことですの」 「明らかに、綾女ちゃんを指差してるな」 「そんな奇っ怪な名前、聞いたこともありませんわよ」 「そう言われてもなぁ」 既に村人が十人くらい集まって、我も我もという勢いで綾女ちゃんを取り囲んでいるのですが。 「うむ? よく見てみれば別人じゃの。じゃが、ほんによう似ておるのぉ」 「どちら様なんですか、そのパカパカナマズさんって」 「ツッコまんぞい」 様式美を軽視するのは、既に罪悪の領域なのではなかろうか。 「ポカパマズ殿は、この村に訪れたアリアハンの勇者での。そちらでの名前は……クウヤとか言うておったかの」 「……」 「……」 「綾女ちゃん」 「私、絶対、兄には似ておりませんわ」 「まずそこ?」 そもそも、行方不明の先代勇者が空哉さんだということを、どれほどの人が憶えているかという方が問題だ。 「何にしても、性別もそうだけど、頭一つは身長違うのに見間違うとかは、ちょっと無理があるよなぁ」 「その手のことを、どれだけ繰り返して言えば気が済みますの」 「勇者なんだから、様式美を軽視するのはやめようぜ!」 「その、うまいこと絡めてやったぜと言いたげな顔が腹立たしいですわ」 「ポカパマズ殿の話は、いいのかいのぉ」 「あ、それば別に。特に誰が困るという訳でもなさそうなので」 空哉さんがどんな過程を経てこの村に寄ったかは知らんけど、ドラクエ的に考えて普通の手順で旅をしている訳でもない俺らの参考になるとも思えないし。そもそも、当の綾女ちゃんが全く執着してないんだから、致し方ないよね。 サマンオサ、墓場にて。 「うちの王様は、数年前から人が変わったかのように酷い政治をするようになった。民はみな、苦しんでおる」 「長い間、権力が独占されると、まず確実に自制心を失って腐敗します。王権社会というものは、長い目で見れば問題も多いので、いずれ廃れるやも知れませんね」 「その解釈をした奴は、他にどれだけ居るんだろうなぁ」 案外、製作者自身、そういうのを籠めていたという深読みもしてしまうけど。 「仕方ないですわね。革命を起こしますわ」 「いきなり何だ」 「根腐れを起こした中央政府を立て直すよりは、いっそのこと更地にして再建した方が早いことも、ままありますわよ」 「そうですね。幸いにと言うべきか、うちは政治力なら一柳さん、経済力なら七原先輩、謀略なら私、腕力なら椎名先輩と、パーティバランスがいいですから」 「ドラクエってか、ロープレのパーティバランスってそういうもんだったか?」 戦略シミュレーション系統ならまだ分かるんだが。 「では、まずは不満を抱えている中で、中心的な人物を教えてくださいまし。そういった方々と連携を取らずして、成功への道筋は開けませんわ」 「え、えーっと、私達が求めてるのって、そういう展開でしたっけ」 「グズグズしていると、官憲の手が伸びて、全てが手遅れになりますわよ」 「は、はいぃ」 かくして、僅か四人の外国人を中心とした解放運動が火蓋を切って落とされた。民草に、そして王に付き従うべき臣下に蓄積された不満は限界を超えており、王城陥落に一月も掛からなかった。その王が取り囲まれた際、実はすり替わったボストロールということが判明した訳だが、そういうことなら、話は簡単だ。りぃの一撃で――いや、随分とタフな奴で、沈めるのに二発掛かった訳だが、とにかくブチ倒してやった。いやはや、終わりよければ全てよし。これからは共和制の国家として、再出発してもらおう。報酬として、変化の杖も貰ったしな。 その後、地下牢から王を名乗る老人が発見されたらしいが、俺達には、関わりのないことだ! 最果ての僻地、グリンラッドにて。 「飽きてきましたわ」 「はい、勇者がそういう発言をしない! たしかに、シナリオ的にダレてくる感が出てくる頃合だけども」 何故シルバーオーブに関わるイベントだけ、こうも長く、世界を転々とさせられるのか。ドラクエ3七不思議に数えられるよな。ちなみに七不思議筆頭は、キメラが確認されない世界で、どうやってキメラの翼を安定供給してるかってことだ。大商人に数えられるまで成長した俺にすら分からない、まさに世界の闇と言えよう。 「さて、儂は変化の杖が欲しい。そなたらはこの船乗りの骨が欲しい。話は簡単じゃな」 「成程、ウィナーテイクオール、勝者総取り方式で殴り合いをするっていう訳ですね。椎名先輩、出番ですよ」 「何故そうなる」 後ろではりぃの奴がシャドーボクシングの要領で、拳を交互に突き出していた。何か頬に強烈な突風が当たってる気もするけど、隙間風が多いんだなぁ、この家。 「どれかと言いますと、最近、椎名先輩の出番が今一つなので、ちょっとでもスポットが当たればなという親心がですね」 「そういう同情が一番心に来るんだけど!」 「安い憐れみは、下手な暴力よりタチが悪いものだ」 「何の話でしたっけ?」 それは引っ掻き回した岬ちゃんが言っていい言葉ではない。 「勇者が必要とするものは、合法的に徴収できるという話でしたわよね」 「お前さん、おっとろしいことを言うのぉ」 「非常時には、物資はおろか、人民さえ国が召し上げるというのに、世界の危機に対価を要求するだなんて不遜な真似に腹を立ててはいけませんの」 「ああ、綾女ちゃんが本格的に飽きて、やさぐれかけてる」 衛生兵ー、衛生兵ー、彼女に何がしかの癒やしをー、って叫びかけたけど、うちの衛生兵に相当するのは岬ちゃんだった。もう、どうにもならないかもな。 「要するに、ここで変化の杖を手放してしまうと、二度と手に入らない仕様がいけないんです。ファミコン版限定ですけど」 「言うほどエルフの隠れ里で買い物するかと問われると首を傾げるけど、何か悔しいんだよなぁ」 祈りの指輪を結局は使わない内にクリアしてしまうあなたは、出世できないタイプですよ。 「仕方ない。金やアイテムで済む問題に過ぎないし、後々、俺が何とかできるだろう。ここは素直に交換するってことで、綾女ちゃんもいいな?」 「よきにはからえ、ですわ」 まさか勇者のモチベーション維持が最大の難関になろうとは、誰が思ったであろうか。本当に、この冒険譚は予想外のことが起こりすぎて、驚きの連続だよな! いつになったらバラモスにまで辿り着けるのか、それが問題だ |