※ロールプレイングゲームとは、文字通り役に成りきって楽しむ遊びです。そういった意味で、セネレデクエストはまさにロープレそのものであると居直ろうかと思いましたが、果たしてどうなんでしょうね。 ロマリア、闘技場にて。 「冒険に飽きたのであれば、脇道歩きを楽しめばいいのですわ」 「これ、完全に本筋に戻れない流れだ」 「人生に通じるものがありますわね」 「いいこと言ってるようで、意訳するとギャンブルに嵌まって抜け出せないダメな若者なんだよなぁ」 こと賭け事に関しては、理で得られる利などないのに、何ゆえ熱狂の渦を巻き起こすのか。商人としては気になるところである。 「まあまあ、資金は潤沢にあるんだからいいじゃないですか」 「遊び金に近くても、商売用の金をこういうことに使うのは気が進まんってのが本音だ」 「商売って、賭けみたいなもんでしょ。あんま変わんないんじゃないの?」 「りぃよ。そういうことを言い出すと、延々と説教モードに入らざるを得なくなるが覚悟はいいか?」 「えー」 まったく、世の中、商道というものを理解してないのが多過ぎて困るな。 「しかし常々思っていたのですが、ここで戦わされているモンスター達は、どこから供給されていますの」 「そこら辺は、割と触れてはいけない業界の闇だと思うのです」 もしかしたら、モンスター捕獲を専門として食っている人が居るのかも知れない。そう考えると、意外とロマンが溢れてる気もしてきたぞ。 「皆様、楽しまれておりますかな」 「千織、お前、こんなとこで何やってるんだ」 最後に会ったのは南サマンオサで海賊のお頭やってた時だったか。派手派手しい服や装飾で着飾ってるつもりらしいが、マイルドに表現して成金の域を出ていない。 「いや、色々とあってここの支配人を任されることになったんだよ」 「その華麗なと言うか、いきなりな転身は何だ」 「賭博場というのはどうしても裏社会との繋がりを消しきれませんから、かつてアウトローの盗賊や海賊であった舞浜先輩が納まったというのは自然な流れとも言えます」 「自然かぁ?」 そこんとこ掘り下げて問い詰めても、納得できるものが返ってくる気がしないからスルーするけどさ。 「それで、ここだけの話、ちょっとずつだけど売上が落ちてきててマズい感じなんだよね」 「たしかにギャンブルっていう優位性があるにしても、モンスターが戦うってのだけじゃ、興業としてはいずれ飽きられるかもな」 冷静に考えたら話に乗ってやる義理など無いのだが、ついつい分析したくなるのが商人の性というものだ。 「だから客の立場で見て、面白そうなアイディアを何か出してくれると嬉しいんだよ」 「アイディア、ねぇ」 聞くところに依ると、この闘技場は王様が猛烈に推して建造された国営らしい。その為、大赤字を延々と垂れ流すことにでもならない限り潰れはしない。だから無難にやっておけば問題無いと思うのだが、功を焦って動きたくなる心の機微も分からなくはない。その結果としてクビになる可能性も否定できないが、それは千織だけの問題だし、全部請け負ってもらおう。 「古来より、動物同士を戦わせる見世物は幾らでもありましたわ。闘争心と加虐趣味を戦争以外の手段で満たすという意味で成功したものも多いですが、人とは刺激に慣れる生き物ですの。その結果、次に戦わせるものといえば当然、人――」 「ハァイ! ストップゥゥ!!」 こういう無駄に重い設定や展開が、むしろドラクエっぽいじゃないかという御意見はさておくとしまして。 「どうせ下層には生きているだけで社会の害となるような血の気の多い輩がゴロゴロしているじゃありませんの。一種の間引きだと思えば秩序維持システムとしても効率的ですわ」 「あぁ、まだ軽くやさぐれてるのね」 とても勇者とは思えない発言があった気もするが、そもそもあいつら作品内では喋らないんだから勇者らしいってこと自体、一種の幻想なのかも知れない。勇者とは一体なんなのか、旅を続ければ続ける程に分からなくなってきたぞ。 アッサラーム南方、すごろく場にて。 「まさか今更すごろく巡りを開始するとは思わなかった」 「辿り着いた段階で見ればいいアイテム貰えるんですけどね。今更、鋼の剣やモーニングスターを手に入れても大した感慨は無いでしょうに」 そもそもの問題として、武力担当のりぃは素手で充分強いし、強力な武器が必要な局面が無かった気がしてしょうがない。小柄な綾女ちゃんが鋼の剣なんか装備したら、もう殆どギャグの世界だしな。 「そういやモーニングスターって、棒の先にトゲ付きの鉄球付けてぶん回す武器だったよな。たしか戒律で刃物使えない僧侶が開発したとか何とか」 「そうですね。一般的なファンタジー作品やドラクエでは鎖がついていますが、歴史的には棍棒やメイスの派生武器です」 「どっちにしても、こんなもんブォンブォン振り回して刃物じゃないからセーフってのも、倫理的にどうなんだ」 「全身鎧を相手取った時には、衝撃がそのまま響く分、剣よりダメージが大きかったとも聞きます」 宗教家が詭弁大好きなのは、どの時代、どこの世界でも変わらないってことかな。 「すごろく場なんて、滅んじゃえばいいのに」 りぃが何かえらく物騒なこと言ってるけど、聞き流すか、問い質すかの選択が難しい。 「何か嫌な思い出でもありますの」 さらっと『聞いてみる』を選んだ綾女ちゃんが、とても男前に見えた。 「こんな理不尽なミニゲーム無いじゃない。純粋に運だけで勝負が決まるのに、小さなメダルとかレアアイテムが宝箱に入ってるんだよ」 「ゲームするならコンプしないと気が済まないタイプか」 リーダーの綾女ちゃんはそういうとこサバサバしてるから、今まですっ飛ばしてきた訳だしな。 「で、入場する為に必要なすごろく券も結構レアだし、何回でも入れるゴールドパスは小さなメダル百個必要だけど、盗賊抜きじゃかなり厄介だわで、許されることじゃないよね」 「そこまで本気で怒るってのは、作った方にしてみれば、かなり嬉しいことだと思うぞ」 多分、新職業である盗賊を使って欲しいが故の処置なんだろうけど、りぃの言い分も分からんことはない。 「そういえば最近、盗賊枠の方を見ませんよね」 「あのトリオが神出鬼没すぎるからなぁ。追い掛けてとっちめるのも楽じゃ――」 「……」 「……」 あれ、何かどこかで見たことある黒髪のお嬢さんと目が合ってしまいましたよ、っと。 「何してんだ、西ノ宮」 「いえ、妹達を追い続けて幾星霜。様々な土地を巡っている内に小さなメダルが相当数集まってしまい、ゴールドパスなるものを頂いてしまいました。となると人情として、使えるだけ使いたくなるじゃないですか」 「つまるところ、道に迷って、別に必要でもないサブアイテムを何とはなしに回収して、現実逃避気味に遊び倒していたと」 「そういう解釈は、後ろ向きだと思いませんか」 ぶっちゃけた話、上の世界だけで百ものメダルを集めることは出来ないので、半端無い迷い方をしていたんだろうな。 「まあ、言ってることは理解できんことも無いが、本来の使命である三人組は放っておいていいのか」 「その件でしたら、逆に考えてみることにしました。私が満足するまで遊び尽くした後、このパスを景品とする何がしかの大会を開けば、確実に釣れるのではないでしょうか」 「れいは、まちぶせをおぼえた!」 この言葉を放っただけでファンファーレ的な効果音が聞こえる気がしたら、割と末期症状だと言われているぞ。 「ってか、どんくらい入り浸ってるか知らんが、満足してないのか」 「と言いますか、五十回は挑んだと思うのですが、まだクリアをしていません」 「ナヌ?」 ここのすごろく場は二つ目だから、かなり難易度が低い方だ。普通なら、五回もやれば充分にクリアは望めるだろう。だが、りぃも言っていたけど、純粋に運が悪いとどれだけ挑戦しようと、上がることが出来ない時は出来ない。 「まあ、西ノ宮ってパラメータ化すると、全体的に高スペックだけど、ラックだけは突出して低そうなイメージあるよな」 「うわっ、本当です。運のよさだけ一桁ですよ、一桁」 「見れるのか」 岬ちゃんがパッド的なものを取り出して数値をチェックしてるけど、世界観どうなってるんだろう。 「運のよさなんて、状態異常攻撃の効きやすさに関わるだけですから、何とかなるものですよ」 「ソロプレイ状態の西ノ宮だと、割と深刻そうな弱点なんだが」 パーティ全員麻痺食らったら、全滅扱いになるんじゃなかったか。どうやって生き延びてきたのか気になってきたぞ。 『ラリホー』 「くーくー」 「たしかに、効きやすい感じですね」 「躊躇いもなく実地で検証してみるその姿勢、研究者としては将来有望だな!」 この際、人間的にどうかは触れない方向で詰めていこう。そしてりぃはりぃで、腰に下げてるゴールドパスに興味を示すな。盗賊の上前を撥ねるだなんて、それも人間的に問題ありありの行為ですよ、全く。 アッサラーム北方、オリビアの岬にて。 「岬、ですか」 「この場合、一般名詞なので食い付くのはやめておくとしてだ」 『ウォォ、ウォォォン』 「この悪霊はやべぇなぁ」 話に依ると、昔、船乗りの恋人を持つオリビアって女性が居た。だが彼の乗った船は帰港することなく、絶望した彼女はこの岬で身を投げたらしい。そして怨霊となり、この海峡を通ろうとする船全てを追い返してしまうのだとか。 「当人としてみれば、せめて迷惑を掛けない為に崖で自殺を選んだんだと思うんだよ。街中で飛び込みだのされても、色々と大変だろ。だけどその結果が世界に知れ渡る難所となって大迷惑になろうとは、人生ってのは分かんねぇよなぁ」 「オリビアさんの人生、大分昔に終わってますけどね」 そういう、細かい揚げ足取りはさておくとして。 「岬ちゃん、強制浄化魔法とか使えない?」 「今の流れで、よくそんなことが言えますね。外道ですか」 「岬ちゃんにだけは言われたくないやい」 さんざっぱら好き放題言ってきた過去を忘れたりしませんよ。 「ニフラムって、この手の悪霊に効くんですかね。元は人間っぽいマミーや腐った死体にも有効なんですから、もしかするかも知れませんが」 『ニフラム』 自問自答しながら、物は試しとばかりに岬ちゃんは呪文を唱えた。 「まあ、こう言っちゃなんだか、駆け出しの僧侶にできるもんなら、どっかの高僧が何とかしてるよな」 「分かっててやらせましたね」 オリビアさんは、何事も無かったかの如く、恨めしそうにこちらを見下ろしていた。 「あなた方は一体、何をしておりますの」 「何って、ここをどうやって突破したらいいのか忘れたから、試行錯誤をだな」 イベントを一つくらい飛ばしてる気がしてならないんだが、綾女ちゃんの心が荒んでいた関係で、うまいこと繋がってくれない。 「その件でしたら、既に解決していますわ。私達が向かおうとしている祠の牢獄はこの海峡の先の内海にありますわよね。ということは外海と比べ波高も大したことはない――陸路を取って最短距離から臨めば、小舟で充分、往復できますの。その為の人員と手はずは、既に整えてますわよ」 「一体、いつの間にその様な真似を。というか、金庫番である俺を介さず、どうやってそんな予算をだな」 「この間、闘技場で大勝ち致しましたの」 小遣い程度の予算から、小さいとはいえ、船を造船所でも無いところで作れるくらいの金に膨らませるってどういうことなのさ。つーか、それをポーンと惜しげも無く使える欲の無さも、さりげに恐ろしくないですか。 「お金など、大量に保持し続けていても魂を澱ませるだけですわ。必要とあらばすぐさま使うのが常道ですの」 「商人として、ある程度の同意はするが、その境地に達するのは大変なんだぞ」 裏でコソコソ資金稼ぎしてたから分かるが、金が絡むと世の人々はマジで魑魅魍魎だからな。人が金を求めるのか、金が人を使役しようとしてるのかという悩みを抱えて初めて一人前の世界だ。それを軽々突破してのける綾女ちゃんはやっぱり天性の勇者なのかも知れないと、適当なことを思っておいた。 昨今の週刊連載マンガくらい話が進んでないけど続いていいのかなぁ |