邂逅輪廻



※もうここまできたら最後まで書くべきだという気もしているのですが、先のことは不透明だから面白いって意見も有力だから困ったものだと思うのですよ。

 悠久なる氷結の大地、レイアムランドにて。
「私達は」
「私達は」
「私達は」
「卵を」
「卵を」
「卵を」
「守っています」
「守っています」
「守っています」
「三重ステレオは勘弁してください、頭がキンキンしてきます」
「いやー、私達もそう思うんだけどさぁ」
「台本に、そうしろって書いてあるし、しょうがないじゃない」
 制御不能のくせに、台本を盾にするとは卑怯千万なり。
「んで、世界中に色分けされた六個のオーブが散らばってるんだけど」
「全部この祭壇に掲げるとラーミアって神鳥が蘇って」
「それに乗ったらバラモスの居城に向かえるっぽいから」
「頑張って集めてきてねー」
「かつてこれ程までにざっくばらんな旅の目的の提示があったであろうか」
 分かりやすくはあったけど、雰囲気とかはもうちょっと大事にした方がいいような。
「ところで、そのオーブって、どれくらいの大きさなんだ」
「それが資料によってマチマチで、どうも安定しないんだよね」
「握り拳くらいだったり、一抱えくらいあったり」
「台座にくっついてるのもある感じだし」
「納得できるサイズなら何でもいいから、脳内補完しといて」
 だから、もうちょっと空気とかをだな。
「つーか、この広い世界で、六個の球を見付けてこいとか、さりげに無茶苦茶すぎないか」
「あー、その件なんだけど、山彦の笛ってのがあって」
「それを吹いて山彦が返ってくる地域にあるっぽいよ」
「かなりの広範囲で有効みたいだから活用してね」
「で、その山彦の笛はいずこに」
「さぁ?」
 ちょっと待ちなされ。
「私達、レイアムランドの巫女でオーブは担当してるけど」
「山彦の笛は範疇外だし」
「この情報渡しただけでも、感謝してもらいたいくらいだよ」
「人、これをお役所仕事と言う」
 まあ、神とか精霊の使いってことは、究極の公務員だし、間違ってない気もするけどな。


 転職の神殿ダーマ、大広間にて。
「何かここ、転職だけじゃなくて改名もできるらしいんだが」
「変えてどうしますの」
「いわゆるところの、ソウルネームってやつ? ダニエルとか、ドン・松本とか」
「呼び方に困りますから、絶対に許可致しませんわ」
 ゲーム内で本名を使うか、何かから拝借するか、自分で捻り出すかで、年齢層がある程度分かるよな。
「そういや、どっかの物書きっぽい生き物は、キャラクター作れる系のゲームに俺達の名前付けてるって話聞くな。どこまでいっても胡散臭いという理由で、狩猟専門レンジャーのキミヤスがいるとかなんとか」
「ものぐさも、そこまでくると表彰したくなりますわね」
「あれでしっくりくる名前付けるのって割と大変だからなぁ」
 真面目に付けたからいい名前になる訳ではないのは、現実世界も一緒かも知れないけど。
「まあ改名は諦めるとして、誰か転職しようって奴はいるのか?」
「全員、レベル20は超えてるけどね」
「レベル1からやり直しっていうのがネックです」
「さりげに、自己満足の強キャラ作る以外にはあんまし活用方法無いんだよな。よっぽど偏った編成にでもしない限り、レベルと装備さえ整えればクリア自体はどうとでもなるし」
「そんなことを言い出せる時点でマシですわ。勇者は、永遠に勇者のままですのよ」
「システムの話なのに、何か哲学的な響きがする発言を頂きました」
 勇者とは、職業なのか、称号なのか、生き様なのか。ダーマ神殿とは、それを今一度見詰め直してみる場所なのかも知れない。


 東洋の異文化薫る国、ジパングにて。
「なんだろう、ここは俺らにとってやたらと懐かしい場所に思えてきたんだが」
「ですが邪馬台国と大和朝廷は歴史的に空白の期間があって、文化的に連続しているか不透明ですよね。邪馬台国に郷愁を感じるのは、一種のイメージ操作というか、刷り込みみたいなものじゃないでしょうか」
 誰がそういう真面目な話をせいっちゅうた。
「統治者に挨拶するのが、とても面倒ですわ」
「そんな勇者が、どこにいる」
「今までのことを思い起こして尚、そんなことが言えますの」
「ごめん、たしかにロクなのが居なかったな」
 王位をホイホイ行きずりの若者に譲り渡そうとするのやら、魔法の力で女王になったのやら、黒胡椒で大型の船をくれるのやら。
「オー、このガイジンどもめ、よくぞマイッタものじゃ、とっととゴーホームね」
「魔法の力、すげーな」
「古代日本をモチーフとした国で外国人が我々をガイジン呼ばわりするという、実にややこしい状況ですわ」
「金髪で青い瞳のヒミコとか、一周してワクワクする物語として展開できそうですね」
「うー?」
 文化的に断絶してる可能性があるんだし、何かしらの力でローマ帝国の女傑が辿り着いて権力者になったというファンタジー作品を誰か書いてくれないだろうか。既にあったとしても、謝る気は全く無い。
「このお嬢さんは、世界中の女君主ポジションを兼任する気なのかしら」
「イシスの女王と、ここ以外に居たっけ」
「南サマンオサの、海賊の首領くらいかな」
「ネタツブシは、よくないことよ」
「一理ある、が、世の中ってのは、大体、予想を超えた出来事が待ってるもんだからなぁ」
 それはそれとして、この後、旅の目的を話してパープルオーブはあっさり譲ってもらえたよ。
 ヤマタノオロチ? 一体、何の話をしているのやら。


 南サマンオサ、海賊の村にて。
「いやー、請われてやってきてみたけど、海賊のお頭ってのもいいもんだね」
「うむうむ」
「やっぱり、賊って言ったら海賊だよねー」
「山賊とやってることは大差ないのに、何故かロマンとかいう謎の言葉で許される不可思議モード」
「運動音痴のお姉ちゃんは船の上じゃまともに立ってられなさそうだから、追われる心配も無いしさ」
「このカルテット、どこまで行っても、こういう立ち位置なんだろうか」
 つーか、女顔だから女頭目役なのか、賊繋がりでカンダタから引き継いだのか、よく分からんな。
「さて、君らは私達が持つレッドオーブを欲しているらしいが」
「そう簡単にくれてやる訳にはいかんねぇ」
「どうだね。我々と勝負をして勝ったら譲ってやらんでもない」
「貴様らに勇者としての資質があるかどうか試してくれようぞ」
「別に、そっちの方が面白そうだからという理由ではないからな、絶対に」
「お頭抜きでドンドン話が進んでるけど、いいのか?」
「よきにはからえ。僕はトップの肩書きがあって、そこそこチヤホヤされるなら、それ以上は何も求めないよ」
 神輿は軽い方がいいと、誰かが言ってたなぁ。
「それで、何をしようと言うんですの」
「ちょっと待って、勝てそうな種目考えるから」
「勇者さんに、知力で勝てる気がしないし」
「武闘家さんに、腕力で挑めるはずもなく」
「僧侶さんは、何だか搦め手とか得意そうで」
「しまった、意外とこのパーティ、一点特化型が揃ってる!」
「ナチュラルに数に含めないの、やめていただけませんか」
 偽善的な平等主義は好きじゃないけど、ハブられると差別だって叫びたくなる気持ちは分かってしまうよな。
「よし、決めた!」
「早口言葉で勝負ってことで」
「勇者の資質とは何なのか、問い直しては如何だろうか」
「でも、何だかそれっぽいこと言って人々を騙くらかすのが仕事の一環じゃないの」
「それは、残念な教祖とか、怪しげな政治団体がやることだ」
 勇者ってその二つを組み合わせたものじゃないかと言われると、そんな気もしてくるんだけど。
「それじゃ、小手調べだよ。青スライム、赤スライムベス、銀メタルスライム」
「青スライム、赤スライムベス、銀メタルスライム」
「青すらいみゅ、あきゃスライムベス、銀めらるしゅらいむ」
 おい、りぃ、初っ端から全力で噛んでるじゃねーか。
「巻いていくよー。バブルスライム、バブリーにバンパイアとバックパッキング」
 早くも、何言ってんだか分からなくなってきたぞ。
「薔薇バリイドドッグ、百合バリイドドッグ、芹バリイドドッグ」
「魔法オババ、魔王と魔法でマホガニー伐採」
 よくもまあ、次から次にポコポコと出てくるもんだ。
「ふっふっふ、僧侶さん。私達についてくるとは中々やるねぇ」
 ここまで、一回も噛んだり詰まったりせず三つ子達についていけたのは、岬ちゃん一人だった。
「そりゃ、僧職ですからね。考えてもみてください。説法をする時、スラスラと言葉が出てこないような人を信用できますか。小綺麗な風体も大事ですが、結局のところ大半の人間は、勢いに押されて信じてしまうものなんです」
 やっぱり、もう一度、聖職者とは何かをじっくり見詰め直して欲しいよなぁ。
「気に入った、その清濁併せ呑む度量こそ、真の勇者の資質」
「そなたに、レッドオーブを授けようではないか」
「お頭、たしか地下室で埃被ってたと思うから、探して持ってきて」
「はいはい」
 最低限のチヤホヤどころか、完全にパシリなんだけど、いいのかそれで。
「そしてこの流れだと、勇者は岬ちゃんってことになっちゃうんだけど、そっちもいいのかなぁ」
「世界を救うのであれば、それはどういった方でも構わないと思いますわ。むしろ勇者という肩書きに囚われず、個人の資質で以って評価される方が理想に近いと言えますの」
 三つ子がそこまで深いことを考えている訳がなかろうにと思いつつ、綾女ちゃんが満足ならそれでもいいやって気になってくるから、世とは不可解なものだ。


 開拓者の街、掘っ立て小屋にて。
「ついに、来てしまったか……」
「公康のこと、忘れないよ」
「魔王バラモスは、きっと倒して御覧にいれますわ」
「いやいや、何で離脱が大前提になってやがるんだ。商人なら、誰でもいいんだろ。適当に野心あるのをスカウトしてくればいいじゃねーか」
「え?」
「そこで疑問の表情を浮かべない! ちょっと泣きたくなってくるから!」
 世の中にはね、やっていい冗談と、悪い冗談があるのですよ。
「あー、かったるい。一攫千金の夢を求めてここに街を作ろうと決心したはいいが、何もかもやってくれる遣り手の商人は居ないものか」
「そして、アリアハン以来の登場だと思ったら、何ダメ人間の極みみたいな発言してんだ、遊那」
「ほぼ原作通りだろ?」
 お前は、あの老人の原住民に、土下座を三回くらいすべきだ。
「という訳で、ここでイエローオーブを手に入れるには、商人を置いて、街を大きくしないといけないのは知っての通りだ。後で戦線復帰も可能と言えば可能だが、その頃には新たなメンバーが馴染んで居場所があるまい。さぁ、ルイーダの酒場で置き去りにされた恨みを、今こそ果たしてくれようぞ」
「こんなにもしょうもない開拓者の街は、ここくらいのもんだろうなぁ」
 もうリアクションすんのも微妙な気分だわ。
「ところで、どうしてこの土地を発展させないといけませんの」
「ん?」
 何やら勇者様が、すごい根源的な問いを持ち出しましたよ。
「俺の記憶が正しければ、商人がこの街の為に奮闘するかたわら、勇者一行の力になろうと、コネと財力を活かしてイエローオーブを探し当てる――」
 あ。
「今のあなたの管財能力でしたら、それくらい出来ますわよね」
「だな」
「おい、ちょっと待て」
「いやー、残念だなー。俺、すっごいこの街に残りたかったんだけど、バラモス退治は大事だからなー。やっぱそっちは優先しないと。本当、断腸の思いってやつだよなー」
「一度ならず、二度までも放置される……だと」
 かくして、北サマンオサに商業都市を作るという計画は、世界が平和になった後にということで先送りされた。イエローオーブの回収には、俺がこの旅で築いた人脈と財産をほぼ使い果たすくらいに苦労したけど、人も金も、使うべきところで使うものだからな。
 パーティ離脱なんて憂き目に遭うくらいなら、そっちの方が、遥かにマシだ!
 
 続くのかも知れない



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