※本作はドラゴンクエスト3をプレイしたことの無い方には面白くもなんとも無い気もしますが、気分転換に数時間で書いたものですので、細かいことを考えたら負けです。 ロマリア王国、謁見室にて。 「おお、勇者綾女よ。よくぞカンダタこと千織を懲らしめ、金の冠を取り返してくれた。王として、民に代わって礼を言うぞ」 「あのバカ、茜さんに唆されて、ほいほい盗賊なんかになりやがった」 ちなみに、言うまでもないことかも知れないが、カンダタ子分三名は、あの三つ子だぞ。遊び人なんて、そこらのゴロツキと大差ないなんて、現実は切ないよね。 「世界を平和にしましたら、酒場の皆さんの身の振り方を考えて差し上げませんと、治安に差し支えが出ますわね」 果たして、そこまでが勇者の責務と言えるのであろうか。 「さて、綾女よ。儂はそなたの様な若者を待っておった。どうじゃ、儂に代わって、この国の王になってみんか?」 「おぉ、これは世界各国の王侯と緊密になり、一致団結を目指す俺らにとって願ってもない申し出じゃないか?」 少なくても、どこから来たとも知れない流れ者なんかよりは、取っ付き易いはずだ。 「悪い申し出ではありませんわね。ですがその前に、一つ伺いたいことがございますわ」 「なんじゃ」 「王とは一体、なんですの?」 まさかの哲学的問い、だと。 「王家の血が最も濃い者のことですの? 政治的力学で祭り上げられた者のことですの? 前王からの禅譲で飾り立てられた者のことですの?」 「あー、えー、うー」 「この程度の問い掛けに即答できない者を、真に王と呼んでいいかは疑問ですわ。即ち、譲り受ける価値も無いということですわね」 「俺は、もう王様になるとかどうでもいいから、この後、無事に出国できるかどうかが心配でしょうがない」 でも、この一件でむしろロマリア王は綾女ちゃんを気に入ってくれたんだから、物語って都合がいいよな! 山間の村、カザーブにて。 「この村にはかつて偉大な武闘家が居た。彼は素手でクマをも倒してしまったんだよ」 「え?」 りぃは、ややもすると間の抜けたというか、拍子抜けしたような顔をした。 「クマって、何かの冗談じゃないの?」 「そう思うのも無理はないね。だけど本当のことなんだよ」 「いやいや、クマくらい、晩御飯のおかずにするくらい頻繁に倒してるし、自慢にするようなことでもないよね?」 「はい?」 「すいません、うちの武闘家、握力で爆弾岩握りつぶせるんです」 前に予想した通り、レベル10くらいでステータス上の力はカンストしくさって、今となってはどこまで振り切ってるか分かったもんじゃない。 「でも非力ながらに立ち回ったってことは、技術的には達人かも知れないし、会えるものなら会ってみたかったかも」 「お前は、ナチュラルに村民のプライドを傷付けまくってることを自覚した方がいい」 本当は鉄の爪を使って倒しただなんて知れた日には、恥ずかしさのあまり鎖国ならぬ鎖村を検討しかねない勢いだ。 ちなみに、ものは試しと、りぃに鉄の爪を装備させてはみたけれど、腕力に耐え切れずひん曲がって使い物にならなくなったよ! 代金870ゴールドは、勉強代だね! 眠りの町、ノアニールにて。 『ザメハ』 「おいコラ、岬ちゃん。一瞬でエピソードを終わらせようとするな」 さりげにシナリオ上、来る必要が全く無い町ではあるんだけど、この省略の仕方は許されてはいけない。 「さすがに、起きませんね」 「これで起きたら、仕様とか、色んな部分にツッコミを入れたくなるわ」 相変わらず回復魔法は使えないくせに、変なのばっかり習得しおって。 「では、町民の皆さんの、隠しておきたい秘密を収集してみましょうか。処分しない内には墓場からでも這い出てやるというものは大抵の方にありますし、眠りから目覚めるくらい何てことはないでしょう」 「本当にこれで目を覚ました場合、英雄譚には絶対載せられない。ましてや、慈愛と献身の象徴である、僧侶のエピソードとしてなんて」 現実とは常に非情で、このまま事件が解決したのは触れるまでもない。人が背負う業と、生き意地の汚さは、純粋すぎるエルフの女王には理解できないものだったのかも知れないな。 眠らぬ町、アッサラームにて。 「アッサラーム。なぜだかこの街は、俺のためにある匂いがするぜ」 「胡散臭いという意味で、あなたにはピッタリやも知れませんわね」 男にとってそれは、無限大のロマンを掻き立てられるワードでもあるのさ。 「何でしたら、残って頂いても構いませんのよ?」 「置き去りに、商人を置き去りにするポイントは一つだけで充分です!」 しかも辛うじて戦線復帰できる例の場所と違って、こっちは完全に卒業コースじゃねーか。 「おお、あなた私の友達。品物を見ていきませんか」 「ふっ、俺の交渉術を活かす時が来たようだな」 「頼りにしてますわ」 微妙に棒読みな気がするが、聞こえなかったことにする。 「ところで、ここにお宅の帳簿があるんだけどさ。こことここの数字がどう考えても辻褄合わないんだけど、どうなってるのかな?」 「おお、アナタ私のドモダチ。どの商品モ言い値でお譲りしますから、どうかゴナイミツに」 「我ながら、この商才が怖い」 「敢えて、何も言いませんわ」 成程、たしかにレベルが上がる度に、搦め手に対する罪悪感が減ってるな。この分だと、物語終盤には国家の重鎮級の弱みを握って、専制商売ができそうだ。それがいいことか悪いことかは、資本主義社会の是非という形で論じてくれ。 イシス王国、謁見の間にて。 「この国の女王様は、相当の美人らしい」 「容姿がいいというのは、特に女性にとって有用な政治的材料であるということを否定はしませんわ」 「オー、よくぞマイッテきてくれた、ネ」 何やってんだ、このパツキンねーちゃんは。 「砂漠の、しかも熱帯であろうこの地域の女王が白人とは、おかしなこともあったものですわね」 「それ以前に、ツッコむべきところは無数にあると思う」 ついこないだ、アリアハンの酒場で魔法使いしてた人だぞ。 「魔法の力で、クイーンになってみたよ」 「意外と、道理に適っていた」 この世界の魔法に、そんな力あったっけという疑問は捨て置くとして。 「しかし、アリアハンといい、ロマリアといい、王の権威が残念な気配がないか」 「成程、だからこそ勇者という偶像で以って世界をまとめあげる必要があるのやも知れませんわ」 「うー?」 凡庸な国家の威厳が損なわれないのは平和な時のみであって、有事にはその本性があらわになってしまう。そんなことも学べるだなんて、ドラゴンクエストは本当にタメになるね。 砂漠の墳墓、ピラミッドにて。 「この地下に眠る黄金の爪なら、りぃの力でも耐えられるって話だが」 「だけど変な話だよね。金って、鉄よりずっと柔らかいんじゃなかったっけ」 「実際は金色に光っているというだけで、或いはオリハルコン製ではないかという話ですわ」 「伝説の金属じゃないと実用に耐えないって、それはそれでヤバイんじゃ」 もはや、どこぞの竜の騎士の領域である。 「しかし、隠し階段探しとか、商人の仕事じゃない。盗賊、西ノ宮を連れて来るべきだ」 「盗賊の身分で、盗賊だか山賊だか分からない妹さん達に説教をする為、追い回してるらしいですけど」 「もう、何が何だか分からん状態だ」 ドラクエ世界で盗賊という職業の立ち位置はどうなっているのか、誰かに解説して欲しいところである。 「何やかんやで黄金の爪を手に入れたのはいいんだが、このモンスターの群れは何なんだ」 狭い通路で、限られた方向からしか押し寄せてこないからいいようなものの、これを全部倒すとか、とんでもない手間だぞ。 「今こそ、この新装備の力を解放する時――って、何で止めるのよ」 「ここが地下二階ってこと忘れんな。下手にマップ兵器投入なんかしたら、最悪、生き埋めになる」 りぃの腕力と合わさって、一振りで衝撃波とか出る可能性が無いとは言い切れないだろう。 「アンデッド主体ですが、呪文が使えないのでニフラムも無理ですし、コツコツやっていくしかないみたいですね」 岬ちゃんが使っているのは本当に浄化魔法としてのニフラムなのか、密かに疑ってる俺がいる。 「うぅ、素手で大王ガマとか、ミイラ男を殴るのは嫌だな」 既にバブルスライムやキャタピラーを屠っている奴が口にする言葉なのだろうか。そんなんじゃ、この先、大王イカや、溶岩魔神が出てきた時に困るぞ。まあ、腐った死体以上に素手で対応するのが嫌な敵は、今後出てきやしないだろうがな。 ポルトガ王国、謁見室にて。 「胡椒じゃ、東洋の黒胡椒を持ってくれば、船をくれてやろう」 「微妙に、歴史を踏襲してるんだよな、これ」 「東洋でしか入手が困難なものは、西洋の富裕層にとっては万金を積んでも手に入れたいものですもの。その為に命を賭して長旅をする商人が、後を絶たなかったらしいですわね」 シルクロードとか、その典型だよなぁ。 「安く仕入れて高く売る。商人の基本中の基本に、腕が鳴るぜ」 「独占的な通商ルートを確立して、今後の資金源にするのもありやも知れませんわね」 「鼻薬、実弾、札束ビンタは、大抵の業界で使える強力カードだからな。商人王を目指すものとして、支援は惜しまない所存だ」 「単に焼いた肉をスパイシーに食いたいだけなのに、勝手に話を進めてる若者達がおって困る」 東洋の商都、バハラタにて。 「カンダタが、いえ千織がうちの娘をさらっていったんです」 「またあいつか」 この世界を支配しようとしてる黒幕って、バラモスじゃなくて茜さんなんじゃないか。ってか、そうじゃない方が意外すぎて、リアクションに困る気がしてきた。 「ようやく追い詰めましたよ」 「あ、盗賊のお姉ちゃん、チーッス」 カンダタこと千織もそうだけど、どういったルートで辿り着いたんだかが永遠の謎だよな。 「という訳で、ここだけでいいのでパーティに加えて下さい。一人で三人を取り逃がさないというのは、さすがに難易度が高過ぎるんです」 「この、もはや千織はどうでもいいという雰囲気、嫌いではないね」 「だけど、一緒に行動できるのは、四人までだよね。誰か留守番しないとダメなんじゃない?」 なぜ頑なにパーティ人数は守られるのか。わたくし、大いに疑問に思うであります。 「じゃあ、私が残ります。悪党を更生させるだとか、道を説くだとかは、大して興味が無いんで」 「おい聖職者」 僧侶とは一体何なのか。俺の中で渦巻きつつある疑問は、とりあえずゴミ箱にでも放り捨てて、考えないことにしたんだ。 バハラタ東の洞窟、最深部にて。 「ふっ、ここで会ったが百年目。この間の借りを返させてもらうよ」 「かつて、ここまで迫力の無いカンダタが居たであろうか」 「普通にプレイする分には、結構な強敵だからねー。ドラクエ3は、中ボス少ないっていうのもあるんだけど」 「このややもすると放置気味な空気になんて、負けないよ!」 こんくらいで涙目になる奴が、よく盗賊のお頭になろうなんて思ったな。 「そして!」 「我らカンダタ子分三人衆!」 「ぶっちゃけ、本格的にお冠の身内が居て、物凄い逃げ腰だよ!」 「別に怒ってはいませんから、今すぐ降伏なさい、ね」 これぞお母様の必殺技、『叱ったりしないから素直に全部話しなさい』である。 「だが、これ以上面白い立ち位置に収まれる気がしないので、抗ってみる!」 「そう、飲んで歌って暮らせやのその日暮らし!」 「海賊にロマンがあっても、山賊にはないだなんて世知辛い世の中だと思うよ!」 一人として、千織の為と言い出さない辺りが、どこまでも千織だなぁと思う。 「ふふ、いい覚悟ですね」 「あのー、西ノ宮さん、その手に持っておられるのは一体……」 「盗賊の主武器は、鞭。何か問題が?」 「いえ、全くもってその通りですよねー」 この後、碁盤目の地下洞窟で姉妹の壮絶な鬼ごっこが始まった。俺達の仕事といえば、とっとと千織を縛り上げて入り口で待機することだったんだけど、本格的になんだかなぁ。 ポルトガ港湾にて。 「ついに、外洋航海にも耐えられる本格的な船を手に入れたぞ!」 「これで行動範囲がぐっと広がりますね」 「軍艦の一つや二つ回してくれないだなんて、ケチくさい王様でしたわね」 いくらこっちでは貴重といっても、胡椒でそこまで要求するのもどうなんだろう。 「張子の虎でいいので、砲門の十や二十は用意すべきやも知れませんわ」 「ああ、他の町に行った時、舐められないようにする為ですね」 「心証の八割は第一印象で決まりますわ。恫喝と言われようと、巨大魔法の一発でも見せつけて、軟弱な王侯の動揺を誘うべきですわね」 「それで追従派と強硬派に分かれてくれれば、分裂弱体化して、その後の交渉がしやすそうですね」 一応はポルトガ船籍で看板背負ってると思うんだが、こんな勝手をしていいんだろうか。本気で悪巧みを始めたこの二人を、俺が止められる訳ないんだけど。 「何にしても、俺達の旅は、これから世界へと羽ばたくんだ!」 あ、そういや今回、遊那だけ影も形も見えなかった気がするけど、気にすんのはやめておこうっと。 続いてしまうから世は不可解
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