邂逅輪廻



「要するにあれだよな。このトリオ・ザ・トワイライトを見分ける方法って、ヒヨコの雌雄鑑別みたいなもんだってことだよな?」
 ある日の放課後。今日も今日とて居並ぶ三つ子を眺めながら、ふと思ったことをそのまま口にした。
「たまにしれっと、凄いことを言いますよね」
 それを聞いた西ノ宮の表情は、呆れてるような、どうでもいいような、実に微妙なものだった。
「それが数少ない取り柄だと自負しておりやす」
「かなり鋭利な、諸刃の剣ではありますけどね」
 うん、今はまだ許されることが殆どだろうけど、社会人になったらまずいなぁって薄々勘付いておりますよ。いい年した、国民が選出したはずの政治家の先生がしょーもないこと言ってるのを見てると、心の底から思い知らされるんだ。
「ちょっと待ったぁ!」
「いかが致しました、舞ちゃん」
 一応、名前を口にしてみたけど、当たってる可能性は純粋に三分の一だ。
「諸刃って言葉出てきたけどさ。普通、切り裂くことを前提とした剣って片刃だよね」
「そうそう、日本刀然り、アラブのシャムシール然り」
「西洋の大剣は叩き潰すことが主目的だしさ」
「まあ、レイピアみたいなのもあるっちゃあるけど、あれは突くのが主要な使い方らしいし」
「結局、諸刃って、言うほど自分にとっちゃ危険じゃないと思うんだけど、どうなのかなって」
「ま、言っても私達、ゲームで得たくらいの知識しかないんだけどね!」
「……」
 どう処理してくれたもんかなぁ。
「あなた達、この話題、広げた方が良い?」
「うーん、言ってみるだけ言ってはみたけど」
「なーんて言うか、思ったよりも発展性に欠けるって感じで」
「泥沼にはまる前に、撤退も視野に入れるべきかと思われます」
 伊達に十五年、姉貴やってねぇな。扱いが完璧に近いよ。
「で、話は戻るけど」
「ヒヨコの雌雄鑑別ってどういうことさねと」
「『ハハハ。君達は成長したところで、所詮はチキンってことさ』」
「何かアメリカンなつもり?」
「やれやれ。欧米への憧憬を持つ若者が増えて久しいと言われているけれど」
「ここまで来ると、滑稽という言葉以外当てはまらないね」
 俺も大概、お喋りな方だと思うけど、この子達は格が違うと思うんだ。
「前に、こいつらを猫の集会の様だと例えたことがあったが」
「ありましたね」
「正直、このピーチクパーチク具合は、ヒヨコでも良いんじゃないかって思えてきた」
「奔放さ加減を加味すれば、猫以上にしっくり来るものが無いのですけど」
「ふっ、人を猫だ、猫だと軽んじるのは勝手だが」
「猫は一夜にして虎へと化けることを知らんと見える」
「世に言う、選択的進化という奴さ」
 進化って、こういう使い方する言葉だったかなぁ。生物得意って訳じゃねーから自信無いけど、違う気がしてしょうがない。
「飼ってた猫が朝起きたら虎に変わっていたら困りますよね。いつものドライフードと缶詰で満足してくれるかなぁとか、散歩させたら御近所様を無闇に威嚇するんじゃないかなぁとか」
「お姉様、ボケにボケを被せて収集つかなくするのは、マジ勘弁して下さい」
 正直、俺のキャパシティは三つ子だけで溢れつつあるんですから。
「甘いな。ボケを二重三重に張り巡らせ、その特殊な空気自体をツッコミと化すのは西ノ宮家の家風というもの」
「デュオ、トリオ、カルテット、クインテットに留まらず、あたかもオーケストラが如き、無限のシンフォニーを奏でてこそ真骨頂」
「それを理解せずに、お笑い二冠王を名乗ろうとはおこがましいぞ」
 本当、こう、全ての箇所がツッコミどころって、そうそう真似出来ねーよな。
「そういや親父さん、ラジオのパーソナリティだっけか。こう、いっそ君達も園内放送なんかをやってみてはどうかね」
 そろそろ、近しい奴だけに聴かせるのが惜しい領域にまで食い込んでる気がしてならない。
「やれやれ、私達のことをまるで分かっていないようだな」
「はい?」
「たしかに、台本無しでしゃべくっても、ある程度、楽しませる能力はあるだろう」
「お父さんもそれなりに認めてくれてるから、ほぼ間違いはない」
「だが、我々には致命的な欠陥があるのだよ」
「すいません。ある意味、人として欠落してるところばかりで、逆に指摘が難しいのですが」
 俺も大概、歯に衣着せなくなってきたと思う。
「誰が、そんな大上段に構えた話をしているのかね」
「もっと基本的且つ、重要な問題があろうに」
「ん〜?」
 はて、ちょっと何を問われてるのかすら、分からない。
「園内放送をやるとすれば、大体はお昼休みでしょ?」
「そりゃ、殆どの生徒が園内に居て、まとまった時間が取れるのはそこら辺くらいだな。あとはせいぜい、放課後? 唯、部活とか、とっとと帰る奴も多いだろうから、聴取率って意味じゃ悪そうだけど」
「いずれにしても、決まった時間に、決まった場所に行かなければならないというのが、私達にとってどれ程の難題であるか」
「自慢じゃないけど、遠足や修学旅行なんかで計画表を作らされたことはあっても、守れたことなんて一度も無いからね」
「毎朝学園に来るのだって、家族にどんだけ迷惑を掛けてるかって話な訳よ」
「ぶっちゃけ、姉の前で、威張って言うことじゃないよな?」
「幼稚園に上がってから早十年超……正直、慣れました」
 ああ、西ノ宮が何か悟ったみたいな目しちゃってるし。
「好きな時間にふらっと立ち寄って好き勝手喋って帰って良いなら話は別だけど」
「いくらうちの学園でも、そこまでの無理は通らないと思うんだよね」
「あー、うん。俺も思い付きで言っただけだし、詳しいことは分かんないな」
 でも、放送部に掛けあって、自由入室自由退室で誰でも参加出来る番組枠作って貰うってんなら、何とかなりそうなのが怖いところだ。
「という訳で、我々のインタラクティブトークを聞きたくば、この様な機会を有効活用すべきということだ」
 正直、ヒモ引きずって歩いてれば猫が釣れるように、こいつらを捕獲するのはそう難しくないとは思ってる。
「ほら、最近のパソコンって、デュアルコアだの、クアッドコアだの、中央演算処理装置が複数あって、並列で計算してるだろ」
「何の話ですか」
「ひょっとすると、こいつらの脳味噌も見えない部分で繋がってて、同時に処理してるんだとしたら、この放出量も頷けるなぁと」
「本当、しれっと凄いこと言いますよね」
 単純な発想力では負けてないつもりなんだか、どうしても物量で押し切られる現状を鑑みると、この様な仮説も侮れないのではないでしょうか。
「しれっと痴れ者、おのれ、この不埒者!」
「一度はちゃんとした場面で言ってみたいよね、不埒って言葉」
「あとは、『破廉恥な!』 とかさ」
「ちょっと違うけど、オタンコナスなんて罵倒も、一生しないだろうなって思うと切ないものがあるよね〜」
「な、圧倒的情報量で押し切られるだろ」
「世間的に妹という生き物は、こんなものだとばかり思っていました」
 うん、それだけはないから安心してくれ。
「とはいえ、どんなハイスペックなスパコンも所詮はツールで、どう活用するかが本題な訳ではあるんだが」
「一応、姉としましては有意義な使い方をして欲しいのですが」
 もうほぼ諦めてるくせに、淡い期待を途切れさせない辺り、ちっちゃなマザーっぽい。
「しかし、今日は私達も機嫌が良い」
「故に、そのラジオ的なもの、即興でやってやってもいいぞよ」
「お前ら一体、何様だ」
「ふっ、知らぬのか」
「知らぬとあらば教えて進ぜよう」
「我ら生まれは静岡、育ちも半分くらい静岡」
「そう、静岡と言えば、かの天下の大将軍、徳川家康生誕の地」
「天下最強、三河武士の血を引く勇士なのだよ、チミィ」
「あぁ、そういやチミィっていう上司にも一度で良いから会ってみたいよねぇ」
 話が微妙に脱線と言うか、退行してる気がしてならない。
「まあ静岡と言いましても、東の方で、どちらかといえば今川義元の所領だったことで有名なんですけどね」
「お姉ちゃんは夢がないなぁ」
「今川義元を桶狭間でやられただけの凡俗大名だと思っているのなら、ちょっとばかり説教を始めたいところではあります」
 まーた西ノ宮に変なスイッチ入っちまったぞ。つーかパーソナリティ四人体制なのか、これ。
「はーい、じゃあ、オープニングトークはこれくらいにして」
「お手紙、読ませてもらいますねー」
 来てない、来てない、さようなブツは。まあ、実際のラジオ放送も、どれだけが本物の聴取者から来たもんかなんて分かったもんじゃないんだけどさ。
「えー、レイジオネーム、アメンボやまんばさん」
「いつもありがとうございます〜」
 設定細かいな、おい。つーか、何で無駄に前半だけ発音が良い。ネームは思い切り日本語読みのくせしやがって。
「皆さんは、テレビゲームが好きだということですが、具体的にどの様なジャンルがお好みなんでしょうか。僕はシューティングやアクションといった、リアルタイムで動き回るのが好きです、っと」
「ん〜。ゲーム、楽しいですよね」
「最近は携帯機や、ケータイでプレイする方も多いようですが、それでもやっぱりテレビゲームと一括りにされるこの不可解さ」
「テレビに繋ぐゲームが殆どだった時代の名残なんでしょうね〜。私達生まれてすらいませんけど」
「んで、好きなゲームということですが」
「やっぱりアレですね。私達、三つ子ですし」
「こう、何だかんだで連携できる奴を好んでやってますね」
「同時プレイできる音ゲーとか、アクションゲーとか」
「製作者の想定を超えるシンクロっぷりで、虐殺を試みるのが大好きです」
 ゲームの楽しみ方として正しいのか、ちょっと小一時間ほど検討を重ねさせて欲しい。
「ああ、思い出しました」
「どうした、西ノ宮」
「私、ちょっとばかり古いレースゲームが得意、というか、それ以外、あまりやらないのですが――」
 西ノ宮がテレビゲームに興じている姿が想像しづらかった俺は、絶対にマイノリティじゃない。
「ほぼ全てのコースでレコードを持ってるのは私なんですけど、この子達と同時プレイすると、どうしても封じ込められてチェッカーを受けられないんです」
「ふっ、勝負とは、常に非情なもの」
「最速こそが最強であるなどという幻想は打ち砕くためにあるのだよ」
 えげつねぇなぁ。そりゃ、個別に操作することが前提となってるゲームで、三人がかりで潰しに掛かったら、勝てる訳ねーだろうと。
「まあ、ざっくりですが、好きなゲームについてはこんな感じですかねー」
「他にゲームのエピソードと言うと、うちで一番のゲーマーはお父さんなんですが」
「具体的にどれくらいのゲーマーかと言いますとね」
「日本の第一世代くらいの古ーいアクションゲームで、パワーアップ系のアイテムを一切取得せずにクリアできるくらいです」
「無論、ステージをジャンプするワープなどは邪道だそうで」
「さすが、コントローラーは指先と同化していると豪語するだけのことはあると思います」
「オーケー、お前らの親父さんだわ、間違いなく」
 常々、何をどうしたらこんな奇怪な娘さんが育つのか疑問だったんだが、家庭環境が原因ならしょうがないよな。
「一方で、お母さんの方は、ちょっと堅物な面がありまして」
「私達が幼少の折、『教育に悪いから、娘達の前では控えなさい』とか言っちゃう様なこともあったのです」
「ですが、そんなことで怯むようなお父さんではありません」
「むしろ私達と和気あいあいゲームを楽しむ始末となりまして」
「そんな光景を見て、お母さんも興味をそそられてしまう訳なんですよ」
「けれでも、前言があるだけに、今更混じって遊ぶことも出来ないのはお分かり頂けると思います」
「そこでお母さんが選んだ道は、夜中にこっそりプレイするというものだったのですが」
「まあ、私達が知っているってことは、バレバレだったんですよね、これが」
「……」
「何で、私の方を見てるんですか」
「同じ血だな」
「同じ血っすねぇ」
「はぁ?」
 自覚が乏しいお姉様が、時たま底知れなく思える。
「と言うか、家庭崩壊とは全く無縁の様で何よりだな」
「え、これが、極々一般的な、家族っていうものですよね?」
 西ノ宮は、そろそろ自分がとてつもなく恵まれてた家庭環境にあると自覚した方がいいと思う。

 続く



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