※この物語は多分、パラレルだよ。時系列とか細かいことは気にしちゃいけないよ。作者との約束だからね。 「突然でアレだが、ハロウィンって何だ?」 とあるコンビニに立ち寄った時、やや濃いめの橙色に彩られた特設コーナーを見て、ふと積年の疑問を口にした。一緒に居たりぃと岬ちゃんは、何だか奇天烈な顔をしたけど、まあ、いつものことってことで。 「たしか、トリック・オア・トリート、だよね」 「それは俺も知っている。『お菓子をくれなきゃイタズラするぞ』と、近所の子供達が群がってくるそうだが……少し待ってもらいたい。相手は所詮、年端もいかぬ少年少女。『貴様ら如き若輩者が、大人を驚かせる程のイタズラを仕掛けられるとは思えぬな』と返してやるのも一興なのでは無かろうか」 「その時点で大人としてどうかと思いますけどね。と言うか、私が子供の立場でしたら、そんな面倒臭い家はスルーする自信があります」 「駄ガキが駄菓子を求めてくるって話だ」 「それは言わない方が良かったと思いますよ」 俺の笑い道への追求は、岬ちゃんのたしなめ如きには負けないぜ。 「あとは、大きなカボチャを繰り抜いて仮面っていうか、フルフェイスヘルメットみたいなのを作って……じゃっくおーらんたん、だっけ?」 微妙に言い切れてない気がしないでも無いぞ。まあ、俺らにゃあんま馴染みのないもんだし、仕方ないっちゃ仕方ないのかも知れないが。 「らんたん! らんたん!」 「言いたいだけだろ!」 尚、ランタンとは西洋式提灯のことであり、被るより、中にロウソクを入れて使用する方が多い気がするから、こんな名前なんだと思う。 「こう、ジャック・オー・ランタンと、ジャック・ザ・リッパーの夢の対決は見てみたいものですけどね」 「どっちも戦闘力高そうだからなぁ。つーか、ジャックってあっちじゃメジャーな名前らしいけど、桃太郎や金太郎の太郎的な扱いなのか。洋の東西を問わず、考えることは似た様な感じなのかも知んないな」 唯、御伽話ならいざ知らず、実在したであろう切り裂き魔にジャックという固有名詞をつけるのはどうなんだろう。当時のジャックさんは、色々と冷やかされたりしたんだろうか。 「しかし、ハロウィンについては、私も曖昧な記憶しか無いですね。たしか、収穫祭と、死者の霊を弔うものがいつしか融合したみたいな話は聞いたことありますけど」 「死者の霊ってことは、お盆的なものか?」 「いや、お盆に仮装はしないでしょ」 「だから……灯篭流し的なもんじゃないか? あれもロウソクで照らすし、こっちも洋の東西を問わず、霊魂を出迎える気持ちを喚起させるんだろう。 そして、ジャック・オー・ランタンみたいなお化けや魔女の役をやってる内に、転じて仮装する風習になった的な」 何となくそれっぽい理屈をつけてはみたが、所詮、想像の域を出ていない。 「お姉ちゃんなら、知ってる可能性は高いと思いますけど」 「ああ、そういう、しょーもない知識を無駄に詰め込んでる印象はある」 それが良いことなのかどうかについては、この際、触れないでおく。 「連絡を取りますか?」 「いや、たしかに茜さんなら、知っているやも知れない。だが、ちゃんと真実を教えてくれる確率まで鑑みてみると、そこまでして知りたい情報ではないな」 一応は友人関係であろうに、何でここまで無意味に心理戦を繰り広げないといけないのかについても、触れないでおいてくれ。 「じゃあ、学園に戻って図書館にでも行く? 見付かるかは別にして、あそこなら情報が無いってことは無いし」 忘れてる方も多いだろうが、うちの学園の蔵書室は独立した別棟を丸々使用していて、とても『図書室』なんかと呼べる規模じゃない。本の虫が三年の学生生活を注ぎ込んでも、読破したという記録は残されておらず、卒業後もしばしば訪れる人が居る程のものだ。 「たしかに、あそこなら確実に存在はしているだろうが、ぶっちゃけめんどい。ここは一つ、茜さん以外の誰かに聞いて、薄っぺらい知識を手にしようではないか」 「先輩のそういうところ、嫌いになりきれないのが興味深いです」 結局のところ、知りたいというのは口実で、とにかく楽しくやっていきたいだけなんだと思うぜ。 「それじゃ、あの人に連絡をとってくれ」 「ええ、お姉ちゃん以外でハロウィンと言ったら、私もあの人しか思いつきません」 言って岬ちゃんはケータイを取り出し、ピポパと電話番号を読み込んだ。 さぁて、時間が空いていれば良いんだがな。 「オー、キミヤス。何だかスッゴイ久し振りなカンジね」 えらく都合が良いことに、この金髪ネーちゃんは呼び掛けに応じてくれた。ちなみにマリーは俺と同い年らしいんだが、白人ってどうしてもちょっと年上に見えちゃうよね。 「世の中、人と人との交わりは無常というものじゃ。故に、至近で顔を合わせるか否かなどは重要な問題ではない。即ち、心と心の距離こそ肝要なのじゃよ」 「ナニ言ってるか、サッパリね」 「安心しろ。日本人の俺ですら、自分で言ってることが分かってない」 客観的に見る分にはまだしも、こういう拾いづらいボケは慎むべきかも知れない。 「まあ、単刀直入……ストレートに聞くわ。ハロウィンって、何だ?」 ゴクリと、皆で唾を飲み込むとまではいかないけど、一応はこの為に呼んだんだ。マリーが発するであろう次の言葉に、三人が三人共、注目した。 「ミンナでコスプレして、騒いで踊るオマツリね」 「……」 「まあ、アメリカ人だからといって、文化風習を事細かに説明できるとは限らないよな。俺も、お盆に、何で御先祖様が帰ってくるのか知らねーし。そもそも、あれ、仏教系なのか、神道系なのかすら良く分からん」 「神仏混淆の経緯もありますからね。専門家でも、見解が分かれるところかと思われます」 「おぼんぼんぼーん」 何だか、本日のりぃのテンションがおかしい気がするのは、俺だけでしょうか。 「ニッポンでは、ハロウィンあまり浸透してないの、サビシーね」 「そもそも、あのオレンジ色のカボチャが手に入らないのですが」 探せばあるのかも知れないけど、大体は皮が緑色で、ハロウィンの雰囲気じゃないのも大きな問題じゃなかろうか。 「こう、クリスマスとかバレンタインみたいに、日本流にアレンジすれば流行るかも知れないけどなぁ。まあ、一部じゃ、只のコスプレ大会をハロウィンと言い張ってるって話も聞くけど」 「ニッポン人、何でもチョー改造するから、ナニが何やらね」 「すいません、どうにも流れやすい国民性なもので」 とは言っても、アメリカ人は、クリスマスに借金してでも消費するって聞いたことがあるから、似た様なものだとも思うんだが。 「じゃあ、折角ですし、日本でハロウィンがどうやったら流行るか考えてみますか」 「つってもなぁ。死者の霊どーたらって時点で、お盆と被ってる訳で。そこで攻めていくのは難しいと思うぞ」 こうして考えてみると、バレンタインとクリスマスは、ちゃんと隙間産業というか、日本の守備範囲外を攻めてきてるんだな。最初から計算してたかは知らねーけど。 「となるとやはり、お化けの類とコスプレですか」 「ってか、メジャーどころで言うと、魔女、吸血鬼、狼男辺りだっけか。まあ、馴染みはあるっちゃあるんだが、舶来物のイメージが強くて、何かピンと来ない感はあるな」 「では、日本の妖怪を使ってみましょう」 「具体的に言うと?」 「日本三大庶民派妖怪と言えば、垢舐め、小豆洗い、からかさ小僧と相場が決まっています」 「そうか?」 何だか、すげー独断と偏見に満ちあふれた妖怪観を聞いたような。 「普通に、化け猫、化け狸、化け狐辺りでいいような」 「えー、だったら、だいだらぼっち、見上げ入道、海坊主にしようよ」 りぃはりぃで、巨人族に何らかの憧れでもあるのだろうか。 「ヨーカイ、おー、ファンタスティック。ひょうすべ、つるべおとし、がしゃどくろ。オリエンタルなふいんきが、実にグッドね」 待て待て待て。何でそんなマニアックな妖怪知ってやがるんだ。日本人の俺ですら、イメージ、すぐには湧かねぇぞ。 「茜さんか、茜さんだな」 「私の口から正答であるとは言えませんが、ご明察とだけ」 岬ちゃんが、俺と目を全く合わせようとしないんですが、どうしたものでしょうか。 「ってか、ふいんきって言わなかったか?」 「違うノ?」 「まさか日本人でも良く陥る罠に、遠く太平洋の向こう側の住人が掛かるとは思わなんだ」 ある意味、遠い異国の地で日本人に出会い、お茶漬けを御馳走になったような、そんな心持ちだ。俺、日本国から一歩も出たことねーけど。 「いいか、ふんいき、だ」 「ふにーき?」 「ふ・ん・い・き」 「ふいぃき?」 「フォルァ!!」 「おー、キミヤス、リアクション王子ね」 たしかに、日本人でも発音が難しい言葉の一つに入るもんなぁ。高速増殖炉もんじゅには勝てねーけど。 「と言いますか、通じてるんですし、こんなに頑張ってまで正しい発音をする必要があるんですかね」 「何かこう、人間、誰しも譲れない一線ってのがあるじゃないか」 「雰囲気の発音が、勝負所ですか?」 「多分、俺の先祖は雰囲気を微妙に噛んでしまい、公衆の面前で恥を掻かされて、失意の内に腹を切ったに違いない」 「洋風お盆のハロウィンに帰って来るだなんて、先輩の御先祖様らしいハイカラっぷりだとは思います」 微妙に、うまいこと言われて、もってかれた気がしないでもない。 「話を戻すが、ハロウィンでカボチャ食うのって、たくさん出来まくるから、消化するのが目的の一つでいいんだよな?」 いや、あくまでもそうなんじゃないかって俺が思ってるだけで、事実とは反するかも知れないけどさ。 「これから鑑みるに、クリスマス商戦、並びにバレンタインチョコレートよろしく、何か物を売る扇動という観点から攻めてみるのはどうだろうか」 「また、えらくバッサリと斬ってきたものですね」 俺はバカの家系にあることを自負しつつあるが、同時に商売人の血を色濃く持っていることも自覚しているからな。 「そして、時期が微妙に中途半端なことに気付いた訳だが」 十月末なんて、十五夜や十三夜を済ませて、秋の風情を感じ、しんみりとしてる時期だ。或いは、気の早い奴が年末年始やクリスマスの準備をしてたりもする。そもそも、割って入るには分が悪いのでは無かろうかと思えてきたぞ。 「日本で秋の味覚と言ったら、栗とか、柿とか、サツマイモですかね」 「ハロウィンの雰囲気じゃないわなぁ」 そう考えてみると、『オレンジのカボチャ=ハロウィン』って定着してる時点で、相当のイメージ戦略を伺わせてくれる。 「もう、いいんじゃないか。そんな無理に本場のハロウィンに拘らなくても。こう、『波露印』とか、適当な当て字で、全部、日本風でやっちまおうぜ。ほら、栗のトゲ部分だけ残せば、何か小妖怪っぽいじゃないか」 「明治時代、『シンデレラ』を『おしん物語』にアレンジしたみたいな話ですね」 やっぱり、トンデモ改造は日本人の得意技だと誇って良いと思うんだ。 「結局、仮装を推してくのが妥当か。何か手頃感が無くて、商売の匂いはしないけど、日本じゃ、節分に鬼になったりもするけど、何になっても特に問題がない仮装行事って、全国区じゃ無いもんな」 一応、穴は狙ってきてるんだよな。展開力が今一つなだけで。 「んじゃ、演劇部にでも行って、何が合うか、改めて考えてみるか?」 尚、我が学園の演劇部は、その名が知られているという訳でもないのに、やたらと衣装だけはたくさん持っていて、裏ではコスプレ部と揶揄されていたりする。 「ま、乗り掛かった船ですしね」 「実にオモシロそーね」 「行こう、行こう」 よぉし、早くも趣旨が何だったのか分からなくなってきてるけど、張り切って行ってみましょうか。 続く
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