邂逅輪廻



※本作はドラゴンクエスト3のネタバレを豪快に含んでいる様なそうでもない様な感じですので、気になる方は御遠慮下さい。

 それは、綾女が十六歳になる誕生日のことだった。
「おぉ、勇者綾女よ、良くぞ参った」
「世界がこの危機的状況では、致し方ありませんわ」
(あやめ・勇者・レベル1・ずのうめいせき)
「はい、ちょぉっと待った、色々と待った。そこはかとなく待った」
(きみやす・商人・レベル1・ぬけめがない)
「いきなり、なんですの。
 今はこちらの王様が、魔王バラモスがネクロゴンドに居城を構えているだの、仲間はルイーダの酒場で見付けるべきだのを教えてくれて、泣けるくらい粗末な武器防具と小銭を渡してくれる、一応は重要なシーンですのに」
「いや……それ、儂の数少ない見せ場なんじゃが……」
「鬼じゃ、鬼がおる――じゃなくでだな。何で綾女ちゃんが勇者なんだよ! 主人公は俺! 七原公康! アンダースタン?」
「ドラクエ3の勇者は世襲なのですから、致し方ありませんわよ」
「今、俺は封建社会の切ない現実を見せつけられた」
 これが、貴族社会の現実というものなのか。
「ウォホン。何はともあれ敵は魔王バラモス。ネクロゴンドにその城を構えておる。如何にそちが優秀とはいえ、一人では先代勇者空哉の様な悲劇を生みかねん。ここはルイーダの酒場で仲間を集めるが良い。これは旅の資金と、装備品じゃ。くれぐれも、焦るで無いぞ」
「それはもう、聞きましたわよ」
「……ぐすん」
 『言ったのは綾女ちゃんだろ』とツッコミの言葉を入れられない程に王様の顔は哀愁に満ちていた訳で。王様ってのも、あれはあれで大変なんだなぁと、一庶民なりに思ってみたりした。

「前々から、疑問ではありましたの」
「んあ?」
「下戸の冒険者は、酒場に居ても楽しくも何ともありませんわよね?」
「こう、黙々と食事だけして、『何だか陰気な奴が居るな』とか絡まれて、『よせ。見るに耐えない顔が、更に歪むことになるぞ』とかいうサムライごっこを楽しんでるかも知れないぞ」
「その楽しみ方自体が陰気ですわよ」
 そういう説もあることは、俺自身も認めない訳ではない。
「さぁて、ドラクエ3と言えば、やっぱりパーティ構成が醍醐味の一つだな。体力と物理攻撃力を重視した重戦車タイプか、魔法力を主眼に置いた学院風味か、或いは俺の様な商人や盗賊を加えて経済的な地盤を築いてしまうのも悪くないぞ」
「もう一つ、疑問がありましたわ」
「今度はどうした」
「何ゆえ、パーティは四人と決まっておりますの。指揮系統の乱れや意思統一の観点から多過ぎるのも問題ではありますが、十人に満たない程度であればどうということはありませんわよね」
「馬車システムが導入される、4以降に御期待下さい」
 あれも不思議なもので戦闘人数に制限がある訳だけど、その件に関しては聞こえないことにする。
「とりあえずは、一通り見てから考えることにしますの」
「うむ、それも又基本」
「ほぉ、貴様が勇者か。商人なんぞと一緒に居るとは、珍しいパターンだな。世間的には、開拓者の村に放り込んで捨てる以外、何の役にも立たないというのに」
(ゆな・戦士・レベル1・なまけもの)
「おんどりゃぁ、触れてはならんことを言いおったな。それだけは、ゆーてはあかんかったんやぞ」
「ま、まあまあ、落ち着こうよ。こんなとこで揉め事起こして出禁にでもなったらアホらしいしさ」
(りぃ・武闘家・レベル1・ふつう)
「んなろめ。見てろよ、貴様とはいつかケリをつけてくれるからな」
「ハンッ。生憎だが、戦士たる私と貴様では、今後、一切の接点が無さそうだがな」
「ケッ。パーティを組むなんざ、こっちの方でお断りじゃい」
「それはむしろ、最終局面近くで盟友化する流れですわよ」
「日本語、本当にムズカシイネ」
「ウゥー。ワタシのモノマネ、とってもジョウズね」
(マリー・魔法使い・レベル1・セクシーギャル)
「勇者様、一つ宜しいでしょうか」
「今度はなんですの」
「セクシーギャルって、性格なんですかね。いや、綾女ちゃんの頭脳明晰も大概ではあるんですけど」
 どちらかって言うと、人間的特徴に過ぎないんじゃないだろうか。
「そういうことは、開発者に言ってくださいまし」
 ついさっきまでとは、完全に立場が入れ替わる俺達なのであった。
「おぉ。そういえば特に縛りを入れないんだったら、ほぼ必須な職業があったな」
「はい?」
(みさき・僧侶・レベル1・まけずぎらい)
「うむ、前衛として数に入る勇者とは別に、どうしても治療の専門家は欲しいところだ。勇者は回復呪文を憶えるのが遅めだし、頭脳明晰といっても、MPの伸びはそこまでじゃないしな」
「回復って……私、ニフラムと、ザキザラキ以外使えませんよ?」
「ナヌ?」
「癒しって、何ですか?」
 そんなドラクエは、それはそれでどうよ。
「何にしましても、一つ言わせて下さい」
(れい・盗賊・レベル1・がんばりや)
「こ、こちら様は何でごぜーましょーか」
「どういった理由で、私が盗賊なんですか」
「消去法、ですわ」
「一言で、ざっくりと」
「ウィザドリィならロードっていう適職もあったんだけどなぁ。或いは6まで待って貰ってパラディンというのも中々」
「SFC版で新加入された優遇職なんですから、文句を言うのは筋違いですわよ」
「まあ、百歩譲ってユニットとしての能力は良いとしましょう。ですが先程から、『ちいさなメダルー、ちいさなメダルを探すんだー』という、天からの声が耳について離れないんですが」
「その件に関しては、ノーコメントの方向で」
 集めなくても、クリア自体にそこまでの支障は無いけど、モヤモヤは残るよね!
「ニコニコ」
(あかね・賢者・レベル37・ロマンチスト)
「時に綾女ちゃん。さっきからえらい笑顔でこっちを見てるあの方はどうしましょうか」
「ゲームバランスを崩しかねない方は、当面は使用禁止でいきますわ」
 硬派だ。ゲームに関しては、この子、えらい硬派やで。
「そんな超難易度を求めるあなたには!」
「ん?」
「我ら!」
(ゆい・遊び人・レベル1・のんきもの)
「トリオ・デ!」
(まい・遊び人・レベル1・うっかりもの)
「遊び人!」
(かい・遊び人・レベル1・おちょうしもの)
 この三人を加えるのって、超難易度ってか、最早、苦行の域じゃ無かろうか。
「ちなみに、賢者への転職なんて出来ないし、絶対にしないよ!」
「猫の役にも立たねぇ」
「こういった徹底した自分への縛りを課すというのも、熟練プレーヤーには欠かせないものですわね」
「勇者一人旅の方が、なんぼか楽な気がしないでもない」
 少なくても、足を引っ張られることは無い様な。壁にするという選択肢もある訳だけど。
「ちなみに、僕も遊び人だよ!」
(ちおり・遊び人・レベル1・さびしがりや)
「お前ら、カルテットで劇団でも創設してろ!」
 どう考えても魔王を倒す為の面子じゃない。仮にこんな四人が目的を達成しようものなら、それは童話か寓話の世界だ。何の教訓があるかは知らんけど。
「さて、選択できるメンバーはこんなもんな訳だが、どんな感じで構成しましょうか」
 何だか、どいつを選んでも、通常以上の苦労を背負い込みそうなのは触れないことにしよう。
「そう、ですわね」
 何拍かの間を取った後に綾女ちゃんが発した言葉は、それ相応に、意外なものではあった。

「正直なところ、選ばれるとは思っていませんでした」
「わ、私も」
「僧侶である私は、自信ありましたけど」
 回復呪文が苦手な方が、何かを言っています。
「りぃ(武闘家)、きみやす(商人)、あやめ(勇者)、みさき(僧侶)の順か。常識的な配置としては、それなりのバランスだよな。武闘家と商人が居るから、金も貯まりやすいし」
「でも、何で又、この三人?」
「商人を最初から入れるのは、マニアだけだと聞いてますけど」
 何か毒が聞こえたけど気にしない。
「人格的に、あまり無茶な行動をしない方から選びましたわ」
 さしもの綾女ちゃんも、あの自由なメンバーを御する自信は無いらしい。
「え?」
「その理屈はおかしいです。だったら何で、七原先輩が入ってるんですか」
 二人して、そんな全力で疑惑の目で見なくても良いじゃないか。
「ツッコミ要員ですわよ」
 そして、綾女ちゃんは綾女ちゃんでバッサリと切り捨ててくれた。ユニットとしては、全く期待されてないこの状況。喜んで良いのか、実に微妙な心持ちだよ!
『モンスターが現れた』
「おぉっと。町を出たと思ったらいきなりのバトルか。ここは唯一の男子として、心強いところを見せつけて株を上げるところでは無かろう――」
『モンスターを倒した』
「早いよ! 何で戦闘シーンはカットなんだよ!」
「色々と、天には天のお考えというものがあるものですよ」
「ある意味、完全に宗教色に染まってますね、岬ちゃんは」
 深くは考えないでおこう。色々と、お考えという名の都合があるみたいだし。
『りぃは、レベルが上がった』
「お?」
 途中経過を省略しすぎたせいで、どれだけの強敵だったのか分かりづらいけど、一発アップってことは、相当のものだったんだろう。
『力が11上がった。素早さが――』
 何だか、ゲームバランス的におかしい上がり方をした気もするけど目を瞑っておこう。どうせ255でカンストするんだし、盗賊に電光石火くらい早熟で成長限界が来るってことにしておこう、うん。
『きみやすは、レベルが上がった』
「ん、俺もか?」
『管財力が3上がった。官憲へのコネが4上がった。罪悪感が2下がった――』
「いやいやいや。ちょっと待て、色々と待て、遣る瀬無いように待て」
「こまごまと、うるさいですわね」
「ツッコミ要員として加えたのは綾女ちゃんだろう――って、んなことはどうでも良くて! 何だよ、このステータス変化は!」
「商人なんですから、商売に関した能力が変動するのは当然じゃありませんの」
 正しいことを言われてるようで、何か納得できないものがある。あれ、ドラクエって、そういうゲームだったっけ?
「と言うか、減ってるステータスがあるのは何でだ?」
「罪悪感が0に近付くほど、悪どい商売をしても良心が痛みませんことよ」
 だから、ドラクエってそういうゲーム……いいや、もう。普通に力素早さ体力が上がってくだけじゃ戦士と変わんないし、俺は俺で商人としてパーティをサポートしていこうっと。
『あやめは、レベルが上がった』
「まあ、綾女ちゃんは勇者だし、普通の能力アップだよね」
『交渉力が4上がった。王族とのコネが3上がった――裏取引を憶えた』
「一応は、解説を求めてから突っ込むことにしようと思うんだ」
 これが、大人の階段を踏みしめるってことなんだね。
「当然のことですが、勇者とは世界各地に散在する諸問題を解決することで信頼を獲得していくものですわ。ですがそれは本来、政治力に依って成されるべきもの。その為の架け橋となるのが、勇者と呼ばれる職務の本道ではありませんこと」
 新しい気がしないでもない勇者の解釈に、俺は言葉もないよ。
「で、肝心の魔王退治についてなのですが」
「最終的には、各国の精鋭部隊を統括して、乗り込むことに致しますわ。そもそも、如何に腕に覚えがあろうとも、たかだか四人で軍隊以上の戦力を保有できる訳が無いじゃありませんこと」
 たしかに、世界の国々がエゴを捨て、一つの目的の為に力を合わせる政治課題は、果てが無いとさえ言える程の超難題であろう。あろうけど、いや、だから、ドラクエとしてはどうなのよ。
「そういや、スルーしたからあんま深くは考えなかったけど、もしや茜さんの賢者としてのスキルって――」
「各国との強力なコネクションや、交渉に使える種々のカードだと思いますわよ」
 今、確信した。このゲームは、古典的バトル系ファンタジーの皮を被った、本格政治系シミュレーションだ。否、ロールプレイングゲーム、即ち役割を演ずるゲームとしては、むしろ原点回帰とさえ言えるだろう。目指せ、キングオブフィクサー! 裏社会の顔は、君だ!

 魔王? ああ、最後に気が向いたらぶちのめしてやるよ。

 続いちゃった



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