「ほっっっんとうにゴメン! さっきのは寝惚けて口が滑った勢いなんだ!」 リビングで朝食を摂った僕は、飛月にひたすら謝っていた。 まぁ、言い過ぎたのは確かなのだから。 飛月は、先程の出来事以来、むすっと無視したままで、今も洗濯したものを部屋に干していた。 ……その『ごすろり』ファッションをそのままにして。 「……まぁ、謝ってくれてるのに許さないって訳にもいかないしね」 ようやく口を開いてくれた。……とりあえず一安心。 「でさ、結局のところ、それって何なの? しかも僕のこと“お兄ちゃん”って……」 そう尋ねると、飛月は溜息をついてから答え始めた。 「う〜ん……あのね、それはぁ――」 「それは俺から説明してやろう!」 いきなり背後からした声。 驚いて振り返ると、そこには得意げな笑みを浮かべる駿兄がいた。 「しゅ、駿兄!? ……ってことは、また何かくだらないことを……」 「くだらなくなどない! そう、これは己が身を賭けた壮大な物語の結末だったのだぁっ!」 ―――― 莞人が起きる前まで時を遡る。 駿太郎は探偵事務所にいた。 とは言っても、いつも通り依頼客はまったく来ず、『閑古鳥が鳴く』という表現がこれ以上にないほど似合う状況だった。 「あぁ〜暇だぁ〜。部屋でネットサーフィンしたいぞ〜」 「うるさいわねぇ……。それだけ暇なら、他にどこかでバイトしたらどう? 莞人だって家計の事で頭抱えてるし。何ならあたしが紹介するよ?」 飛月が、お盆にお茶を入れた湯飲みを載せて、事務所にやってきた。 「いや。いついかなる時に重大な依頼を抱えた客が来るかもしれんからな。事務所を離れるわけにゃいかんのだよ」 要するに、バイトをやる気はないということである。 飛月は、溜息をつきながら湯飲みをデスクの上に置く。 「まったく……。莞人が可哀想に思えてきたわ……」 「なに言ってやがる。あいつと俺は血を分けた兄弟だ。弟なら兄の苦労を理解し、それを助けるのが――って、お!」 莞人が聞いたら怒り出しそうなことを言っていた駿太郎は、ふと雑誌の下に埋もれていたトランプに目がいった。 駿太郎はそれをひょいと持ち上げる。 「おい、飛月さんよ。こいつでちょっと遊ばないか?」 住居スペースの方へと戻ろうとしていた飛月が、その声に振り返り、駿太郎の元へ戻る。 「……え、何それ? って、あぁトランプね」 「そう、見ての通りトランプだ。これで少し勝負をしてみようじゃあないか」 「勝負?」 「その通り! もし、お前が勝ったら、お前の紹介するバイトをやってやるよ」 「え、ホント!?」 食いついてきた!! 駿太郎は、飛月に気付かれないように口元を歪める。 「ホントさ。男に二言は無いからな! だが! もし俺が勝ったら、今日一日、俺の言う事を聞いてもらうぜぇ。なぁに、そんな無茶な事は言わないからよ。……どうだ、勝負すっか?」 不敵な笑みを浮かべて、飛月の顔の方を向く。 すると、飛月もニヤリと笑い、勇ましい声を挙げた。 「分かった! その勝負乗ったわ!! 勝って、あんたに高層ビルの窓拭きや新薬の臨床実験、その他の高額バイトをやらせてみせるわ!!」 こうして勝負の幕は切って落とされた。 ―――― 時間は元に戻る。 「――で、駿兄が勝った訳なんだ……」 『ごすろり&お兄ちゃん』な飛月が生まれた理由を知る過程で彼女と駿兄から勝負の経緯を聞いた僕は、仕事中にそのような勝負をしている兄に少し呆れてしまう。 一方の駿兄は得意気だったが。 「おうよ! 五番勝負で前線全勝の大圧勝よ! んで俺が命じたのが――」 「コスプレして妹になりきれっていう命令! まったく……本当に、あ、兄上様はふざけた事を言ってくれるわね!」 飛月が不機嫌そうに頬を膨らませていた。 しかしそれよりも、駿兄は“兄上様”なんだ、という点に僕は注目してしまった。 「まぁ、なんだ。折角くじ引きで十二個の呼び方から選んだっていうのに、“お兄ちゃん”と“兄上様”じゃ面白味がないと思ったんだがな」 と、駿兄は悔しそうな顔をする。 僕としては“兄チャマ”とか“兄ぃ”とか呼ばれるよりはイタくなくて、まだマシだと思うが……。 「……それはともかくさ、その服は……一体どこで調達したの?」 僕が飛月の着ていた例の“ごすろり”の服装を指差すと、駿兄は少し気まずそうに視線を逸らした。 「あ、あはは! まぁ、あれだよ、あれ!」 「いや、あれじゃ分からないって」 「お、俺の知り合いによ、某所で活躍する服飾デザイナーがいるんだよ。で、そいつが売れ残った衣装一式達を安値で引き取ってくれって言ってきてな、それで……」 「で、それを引き取った、と。……はぁ〜」 つくづく頭が痛くなるほど馬鹿馬鹿しい話だと思ってしまう。 こんなことをしているから事務所から金が逃げていくのだ。 「ま、まぁ、その筋じゃありえないくらいの値段だったからよ、これは買いだと思ってな!」 「……買いって、使い道がないものをどうしてそうホイホイと……」 「いいだろ、それがロマンってもんなんだからよ! それに今後は使い道があるかもしれないじゃないか」 「そ、それってまさか」 こういう時の嫌な予感とは大抵当たるものである。 「うむ。今後は定期的に飛月にコスプレをりご!!」 布団叩きによる後頭部への強烈な一撃がクリーンヒットした駿兄がマットならぬソファへ沈んだ。 「まったく、冗談じゃない! あたしがそう毎度毎度そんな事をするわけ無いでしょ!」 身近にある物であっても飛月に扱わせたら十分に武器になるんだなぁ、と僕はその光景を感心しながら眺めていた。 飛月がどんな格好をしていようと、僕が送る日常はさほど変わらないようだ……。 昼食後。 いつも通り僕と飛月は皿洗いと調理器具の片付けをしていた。 ただ、飛月の格好と口調だけがいつもと違うわけだったが。 「お兄ちゃん、そのフライパンこっちによこして」 「……あのさ飛月、別に僕に対しては無理に呼び方変えなくてもいいよ。……ほら、駿兄も見てないしさ」 というか、僕自身“お兄ちゃん”などと呼ばれていると、どこか歯痒くてならなかった。 だが、飛月は首を横に振る。 「これは私と兄上様とで約束した事だからね。お兄ちゃんに言われたからって、それを破るわけにはいかないよ」 「……飛月って結構、変なところで義理堅いよね」 「そう? ……ま、でも早くこの服何とかしたいのは確かね〜。動きにくいったらありゃしない」 そう言って、飛月は狭いキッチンスペース内でくるくる回ってみせる。 普段、無地シャツやキャミソール、それにパンツスタイルというラフな格好の飛月に見慣れた僕であったが、別に今のような格好でもおかしくはないと思う。 「う〜ん……。別にそういう格好だって似合ってると思うけどなぁ」 「え、そう?」 飛月が、些か意外そうな顔をする。 「う〜ん、お兄ちゃんがそう言ってくれるなら、まぁこれはこれでいっか」 飛月は一人納得した表情をすると、鼻歌を歌うくらい機嫌がよくなっていた。 しかし、やっぱり“お兄ちゃん”は無いだろ……。 そして、おおよそ一週間ぶりの事務所の方の来訪者を知らせるチャイムが鳴ったのは、そんな時だった。 「こんにちは。莞人君」 依頼客にお茶を出すべく、事務所のほうへと赴いた僕に挨拶してくれた依頼客は、見知った女性だった。 眼鏡とシワ一つないスーツ、そしていかにも生真面目そうなその顔……以前も依頼に来た尽文社の編集者、来宮恭子(年齢不詳)さんだ。 そして、来宮さんが依頼に来ているということは恐らく……。 「こんにちは、来宮さん。もしかして今回も……」 「……えぇ、先生が消えました」 来宮さんが小さく溜息をついた。 「まったく……あの人は、休載で生じる穴をどう埋めるかに東奔西走する我々の気持ちをいつになったら理解してくれるんでしょうね。私だって締め切りの翌日から休暇の予定なのに……」 相変わらず、来宮さんは苦労しているようだった。 彼女が“先生”“あの人”と言っているのは、彼女が担当している推理作家、未来歳記のことだ。 彼は、期待の新星と呼ばれるような売れっ子作家で、僕や飛月も大ファンなのだが、逃走癖があるようで原稿を落とすこともザラにある困った小説家でもあるのだ。 前回彼女が来たときも、そんな未来歳記の失踪先を見つけ出してくれ、という依頼だった。 「ま、まぁ、そんな気を落とさないでくださいよ」 このままだとどこまでも気落ちしていきそうだったので、僕は早々に話を切り上げて、お茶を作るべく事務所内の簡易キッチンスペースへと移動する――が。 「ちょっと待った!!」 その歩みは駿兄に止められた。 「いい機会だ。飛月を呼んで来てくれ」 「……は?」 何がいい機会なのか、さっぱり分からない。 飛月は、今日一日あの格好だから、とあえてここに顔を出していないというのに。 「あのねぇ、飛月は今あの状態でしょ? お茶だったら僕が作るから……」 「そっかぁ〜。そういやそうだったなぁ」 文字で表すと、然も納得しているような言い草であるが、口調からは、微塵もそのように感じられない。 ワザとらしく頷きながら続ける。 「あいつ、今日は特にアレが重くて気分が悪いなばぅぁっ!!!」 下品な事を言おうとする駿兄が、いきなり側方へ不自然な態勢で吹き飛んだ。 まるで、朝の僕のように。 「何言おうとしてんの!? この馬鹿!!」 気付いたら、駿兄の元いた位置の傍に拳から煙を立ち上らせる彼女が立っていた。 「く、くくく……かっかったな、飛月……」 倒れていた駿兄がそのままの体勢で不敵に笑う。 「な、何のこと……? ……あ!」 飛月が「しまった」と言わんばかりの表情をしていた。 そう、事務所に飛月が来たということは、つまりあの格好を来宮さんに見せている訳で。 「こ、こんにちは、九十九さん。す、素敵な格好ですね、えぇ素敵ですよ」 来宮さんの少しぎこちない微笑が全てを語っていた。 飛月はそれを聞いて、顔を赤くするとガックリと膝を落として、両手を床についた。 いわゆる自己嫌悪のポーズだ。 「か、勝った……。飛月に勝った……ガクッ!」 そしてそれを見届けた駿兄は、丁寧にも効果音を口にしてから事切れた。 まぁ、すぐに復活するわけだけど。 「どうぞ」 「あ、ありがとう」 飛月がコーヒーの注がれたカップを来宮さんの前へと差し出す。 結局、飛月は「出てしまったのだから、もう後には引けない」と、居直ることにしていた。 勿論、事情は掻い摘んで説明していたが。 しかし、あの格好で給仕していると妙に様になっているというかなんというか……。飛月には口が裂けても言えない事である。 「はい、兄上様も!」 「うむ、ご苦労」 飛月が乱暴に目の前に置いたカップに早速口をつける駿兄。 だが、次の瞬間駿兄は顔を真っ青にした。 「……お、お前……何を入れた?」 震えながら飛月に目を向けると、彼女はしてやったりという顔をしていた。 「兄上様の健康を考えて、コーヒーの中に青汁粉末を入れてみたの。全部飲んでね」 「あ、青汁って、おま――」 「飲・ん・で・ね♪」 飛月は満面の笑みを浮かべているが、それが好意によるものではないのは明白だ。 それに加えて、飛月の背後には何か赤く黒いオーラが見えているように気がする。 「は、ははは…………負けた」 駿兄は、首をがくりと落とすと、意を決したように一気にカップの中身を飲み干す。 そして、日本語に出来ないような呻き声をあげながら、流しへ直行、戻ってきた時にはげっそりしていた。 「兄上様、具合がよろしくないようですが」 「誰のせいだよ……」 「え? もう一杯欲しいんですか? なら今すぐ」 「入れんでいいから!」 二人は、いつも通りの調子で会話をしている。 ……お客さんがいるというのに。 「……で、お話は聞いていただけるのですか?」 予想通り、来宮さんが痺れを切らして、厳しい口調で口を開いた。 まぁ、ここまで無視されれば、当然だろう。 駿兄は慌てて応接スペースへと戻り、彼女と対面するように座る。 「そ、それで今回はどんな事が? また、あいつの件みたいだけど……」 あいつ、とは未来歳記のことを指している。 驚いた事に駿兄は、未来歳記とは旧知の仲だったのだ。 来宮さんは何度目か分からない溜息を吐きながら、事情を説明し始めた。 「先程も言いましたが、またも先生が自宅から消えてしまいました」 「……で、また居場所を突き止めて欲しい、と?」 駿兄の問いに、来宮さんは首を小さく横に振って答える。 「それが……原稿は既に出来上がっていて、私の元に届いているんです」 「って、原稿があるならいいじゃないですか!」 原稿を仕上げて失踪したのなら、それはただの息抜きの為の旅行じゃないか。 そう思うやいなや、僕は口を出していた。 「ま、莞人の言う通りだやな。……でもあんたは依頼することがあってここに来た。何かまたあいつがやらかしたって事だろう?」 そういうと、来宮さんは黙ったまま、持って来ていた紙袋の中に入っていたものをテーブルに置いた。 「昨日、自宅宛に先生からこのようなものが届きました」 置かれたのは小さな手提げ金庫と一枚の葉書。 金庫には鍵穴の代わりに零から九までのボタンが付いており、指定された暗証番号を押す事によって開く仕組みであると予想が出来る。 そして、葉書の表部分には宛先の代わりになにやら文章が書かれている。 駿兄はとりあえず、葉書の方から手に取り、それに目を通し始めた。僕達も駿兄の後ろからその文面を盗み見する。 ―― 拝啓、来宮様。 只今、わたくしこと未来歳記は、諸国漫遊中でございます。 つきましては、完成原稿を金庫の中に入れて送った次第です。 金庫は、七桁の暗証番号を入力することでロックが解除されます。 頑張って、開けてみてください。 草々。 追伸: 今回のヒントはこれのみということで。 未来歳記 ―― それが、葉書に書いてあった文面の全てだった。 「……つまり、暗証番号を当ててこの金庫を開けてくれ、とそういう依頼で?」 駿兄が目を葉書から来宮さんへと移すと、彼女は頷いた。 「えぇ。御察しの通りです」 「かくれんぼの次は、番号当てゲームかよ。……ったく、あいつも相変わらずくだらないことばっかり考えやがるよ」 駿兄は呆れたような表情をしながら、葉書を裏返してみた。 すると、裏面は、甲冑と兜に身を包んだ武士が馬に乗っている銅像の写真になっていた。 飛月がそれを見て反応する。 「……これって、伊達政宗公の騎馬像じゃない!」 「伊達政宗ってことは……仙台土産の絵葉書かな、これ?」 「わざわざ、こんな絵葉書で送るなんて……未来歳記も変わってるわね」 「先生はそういう変わったところがありますから……」 と、僕達が話している時、駿兄は何かを考える仕草をしていた。 そして……。 「なるほど、ね……」 と呟くと、今度は手提げ金庫を持って立ち上がり、デスクの方へ向かう。 だけど、それを飛月は腕を掴んで引き止める。 「――ちょ、ちょっと待った!! もう分かっちゃったの!?」 「まぁ、まだ予想の段階だがな」 「待って待って!! あたし達、まだ分かんないからもう少し待っててよ!」 「あのなぁ、待っててって言っても、これは仕事なわけで……いや、待てよ……」 駿兄は、何かを思いついたような表情をした後、再び口を開いた。 「じゃあ、今から三十分猶予をやるから、暗証番号を考えてみろ。もし答えが見つかったんなら、お前の言う事を聞いてやる。その代わり、もし解けないようだったら、俺の言う事をまた聞いたもらうがな」 「ちょ、ちょっと! 来宮さん待たせてるんだよ!? そんな事してる場合じゃ――」 「いえ。原稿が今日中に手に入るのでしたら、三十分くらい時間が延びても私のほうは構いませんよ」 穏やかな表情であっさりと許可される。 来宮さん、金庫が開くとわかった途端に上機嫌になったなぁ……。 「で、どうする? 乗るか? それとも、やっぱり辞めるか?」 「ふっ……聞くまでもないでしょ? 当然、その挑戦受けて立つわよ!」 「ま、そう言うと思ったがな。……後悔するなよ!」 いつの間にか、依頼された仕事は賭けの対象となっており、飛月と駿兄は睨みあう事態となってしまった。 僕を置き去りにして……。 「さ、お兄ちゃん! 一緒に頑張りましょ!」 飛月が僕の腕に絡んできた。 ……訂正。僕もまた、その賭け事に巻き込まれてしまいそうだった。 「それじゃ、今から三十分数えるからな。ヨーイ、スタート!!」 デスクでパソコンをいじる駿兄が、ゲーム(?)開始の合図をした。 つまり、これより三十分以内に未来先生の考えた暗証番号を当てないと、飛月はまた罰ゲームを受ける事になってしまうのだ。 「さあ、さっさと暗証番号を当てて、兄上様をギャフンと言わせるわよ! そして、この服と口調を元に戻してもらうの!!」 「う、うん。それはいいんだけどさ、僕もそれに強制参加させられるのかな?」 「当たり前でしょ。非常任理事国に拒否権は無し!」 久々に非常任理事国って言われた気がするのはさておき、どうやら一緒に考えねばならないのは確定のようだった。 とは言っても、僕も未来先生の出題するクイズを自力で解いてみたくて丁度良かったので、別に嫌ではなかった訳だが。 「それじゃあ、とりあえず根幹から情報を整理していこうか。整理しているうちに答えが見つかるかもしれないし」 「根幹っていうと……、金庫の中に未来歳記の原稿があるとか?」 「そうそう。で、その金庫と一緒に来宮さんに届けられたのがこの伊達政宗像の絵葉書。絵葉書に書かれていたことは、先生が旅行中であることと、七桁の暗証番号を入力することによって金庫が開くという事。ま、これくらいかな?」 「でも、こう纏めてみちゃうと、やっぱりヒントが少ないわね」 「確かに、ね。でも今回の場合、ヒントが少ないことが逆に幸いしているかもよ」 普通、ヒントというのは多い方がいいの決まっている。 だけど、今回のように出題者(つまり未来先生のこと)が出すヒントが意図的に少ない場合、その数少ないヒントに大きな意味が持たされている可能性があると思うのだ。 そして、今の場合に大きな意味を持っていると思われるヒントは、つまり……。 「きっと、未来先生はこの絵葉書に写っている伊達政宗に暗証番号の謎を解く鍵があるって言ってるんじゃないかな?」 「政宗公に鍵?」 「うん。わざわざ写真のついた絵葉書をメッセージを残すのに使ったってことは、何か写真に意味があるはずなんだよ」 「確かに言われてみれば……。あ、じゃあ『ヒントはこれだけ』って書いてあったのも、『ヒントは暗証番号が七桁』というだけ、って事じゃなくて、この絵葉書にヒントがあるって事を伝えてたんだ!」 そう、飛月の言う通りだと思う。 つまり、絵葉書全てに注目する必要があるのだろう。 「じゃ、じゃあ、伊達政宗公に関する歴史の年号が使われてたり?」 「おいおい、年号じゃ七桁じゃなくて四桁になっちまうだろ?」 飛月が提案すると、駿兄のツッコミが容赦なく入る。 「兄上様は黙ってて!! ……じゃあ、政宗公の生年月日?」 「生まれた年は分かっても、月日まではまだ分かっていない筈では……?」 今度は、来宮さんからの冷静なツッコミ。 顔が少しずつ赤くなってきている。 「じゃ、じゃあ語呂合わせ! 『ダテマサムネ』を数字で当ててみて……」 「語呂合わせなんて、そのやり方は人それぞれだからなぁ。誰かに番号当てクイズとして出すんだったら、そんな不確実な方法を未来先生が取るとも思えないよ。だいいち、ダとかネって数字に当てようが――あだっ!」 拳骨を脳天に被弾し、舌を噛みそうになる。 「な、何で僕だけ殴られる!?」 「近くにいたから!」 「んな理不尽な……」 「と・に・か・く! 文句を言うなら代案を考えてちょうだい!」 強い口調で言われてしまっては、僕としてもどうしようもない。 大人しく、考える事とする。 先述の通り、語呂合わせのような個人単位でしか伝わらないであろう方法は、とりあえず除外しよう。 すると、残るのはヒントを見て皆が共通して連想するような汎用的な数字を使う方法くらいだ。 汎用的な数字というと、年号や日付といったものだけど……。 「やっぱり、七桁ってのがネックだよねぇ。年号とかじゃ余るし」 「そうそう! 中途半端この上ないって」 「それでも駿兄は、一発で分かったんだよね……」 「はっはっは! ま、俺は天才だからな! ほれほれ、十五分経過だ。あと半分だぞ〜」 駿兄はすっかり漫画雑誌を読んでくつろいでいた。 う〜む、ここまでされると、流石の僕も悔しくなってくる。 しかし実際、駿兄はどうやって一発で暗証番号を見抜いたのだろう? 考えてみれば、絵葉書のメッセージを読んていた時から、どこか呆れたような表情をしていたが、もしかしたら、もうその時点である程度目星がついていたのかもしれない。そして、裏面の写真を見て、全てを把握していたようだった。 だとすれば、意外と簡単に考えていいのかもしれない。 年号や日付、ましてや語呂合わせなどを考える訳でもなく、もっと簡単な何かを。 未来歳記。手提げ金庫。原稿。絵葉書。七桁の暗証番号。伊達政宗…………。 「――あれ?」 まさかと思うが、確かにこれならすぐに思いつくだろう。 駿兄の並々ならない理解スピードも納得が行く。 「何々、どうしたの? もしかして、分かったとか!?」 「う、うん。それっぽいのを、ね」 飛月の問いに、やや自身有りげに答えてみせる。 実際に入力していないので確証は持てないけれど、それが合っている確率は高いと思う。 ……というか、改めて考えてみると、こう考えるのが自然だったように思える。 「ほう? それなら聞かせてもらおうか。莞人、お前の考えって奴をよ」 低い調子で渋く喋る駿兄であったが、足を机に引っ掛け、漫画雑誌を持っている今の状態では台無しだ。 「うんうん! あたしにも教えてよ! あたしの未来の為にも!」 未来ってのは大袈裟だと思うけど……まぁ、いっか。 僕は頷いて、説明を始める。 「何もそんな難しく考える必要は無かったんだよ。これはね――」 【第一回 出題ミニコント(?)】 莞:莞人 飛:飛月 駿:駿太郎 飛:さぁ、遂にやってきました! 恒例の出題の時間がやってきたよ! 莞:まぁ、出題って言っても、今回はそんな大したことを言うわけでもないけどね。 駿:んじゃ、とっとと出題しとこうや。 Q: 金庫を開ける為の暗証番号を答えよ。 駿:ま、これだけなんだよな、実際。 飛:注意と補足もいつも通りだって(『逃亡者の挑戦状』参照) 莞:解答推理もいつも通り、BBSかメールでお願いします。 駿:……なぁ、一つ言っていいか? 莞:何、駿兄? 駿:ここまでやっといて何だけど、これってミニコントじゃないろはぅっ! 飛:ごめんなさい、兄上様。ついうっかり、わざと拳がうなっちゃったわ!! 莞:あ、あはは……(僕もそう思ってたけど、口にしなくて良かったぁ……) 飛:さてさて、莞人の語る推理とは!? そしてあたしの運命や如何に!? 莞:真相は解答編にて! それでは〜。 <解答編に続く!!>
|