拙者、この熱血学院の理事長である。 当院のモットーは二十四時間熱血あるのみ。 昨今、巷を闊歩する、感情の表現が乏しい児童に対する憂いより、この学院を設立するに至った次第である。 とりあえず、百聞は一見にしかず。院内を御案内致そう。 「うおぉぉぉりゃぁぁ!!」 うむ。今、一人の学生が缶ジュースを空けた模様だ。 飲食とは人類の存亡を賭けた一大事である。命を燃やし、最大限の力を振り絞って相対すべき行為なのだ。 「うぉぉっす! 理事長! おはようぅございまぁす!!」 元気の良い挨拶はいつ聞いても良いものだ。血液が目覚めるかの様な高揚感を覚えるというものである。 「とおぉりゃぁぁ!!」 「うおぉぉぉ!!」 おお。こちらでは学食の優先権を決定する為、拳と拳での熱き戦いが繰り広げられている模様だ。 もちろん、その中身はジャンケンである。 当院では、血は熱くたぎらせるものであり、無益に流すものではないという方針の下、揉め事は全てこれで解決しているのである。 グーは相手を殴り倒す勢いで。チョキは心臓を貫く気概で。そしてパーは頭蓋を握り潰す闘魂と共に繰り出すのである。 尚、昨今の国際化事情も考慮に入れ、JANKENという表記がされることがあることにも触れておこう。 ふむ。教室を御覧になりたいと。宜しい。今から御案内致そうか。 授業は終わりましたが、進学者向けの補講が行われているので、参考になるかも知れませんな。 「であるぅくぁるぁ! 源義経は兄者に嫉妬されて、奥州で果てたんじゃぁ!!」 「すぇんすぇ! 戦争の天才義経が、どうしてそこまでの名将でもない頼朝に負けたんですかぁ!」 「良い質問じゃのぉ! 端的に言えば、朝廷を速やかに味方に付けた頼朝の政治力の勝利っちゅうことじゃぁ!!」 当然のことながら当院では、教師にも熱血研修を施しているのである。 学生にとって勉学とは、殺すか殺されるかの、まさに戦場。 生半可な覚悟で首を取られるのは、武士達と何の変わりもありませんぞい。 ほう。少し疲れもうしたか。 では、喫茶でお休み致そうか。いや、何。拙者が奢ります故、遠慮なされるな。 「うぃぃぃっす!! 御来店、ありやとぅごぜぇいやぁす!!」 当院では、社会勉強を兼ねて、学生の従業員を使うことを奨励しておる。 もちろん、給金は相応のものだ。勤務態度に問題があると、当然ながら矯正教育を施させて頂く。社会とは、厳しいものだ。 ああ。それと出される物は番茶一択である。初めての方は大概、驚かれるが、メニューを書き損じた訳ではない。 お茶請けも当然、酢昆布一択である。甘味などもっての他。 武士は食わねど高楊枝。良い言葉では御座りませんか。 「ぬぉりゃぁぁ!」 「ぐむおぉぉ!」 はて。何やら表が騒がしいですな。 何ですと。普段のあれと何が違うと仰られるか。 はっはっは。不慣れな方には分かり難いかも知れませんな。 結論から言えば、声の張りが違うのである。 どんなに力を限界まで出してるつもりでも、訓練と戦場では緊張感が違う。つまりはそういうことなのである。 さて。理事長たるものが傍観という訳にもいかぬので、少し失礼させて頂こう。 「くおぉのガキぐぁぁ! 軽々と人のモンにちょっかい出してんじゃぬぇぇ!!」 「奪われる方が悪いことに気付かん、きさんがガキじゃけぇ!!」 青春、全く以って素晴らしいことである。 しかし、全身に痣を作る程の殴り合いは親御さんを心配させるだけである。 故にここは年長者として、少々、窘めさせて頂くとしよう。 「喝っ!!!」 一瞬にして、野次馬を含めた皆さんが静まり返ったのである。 拙者、自覚は無いのだが、それなりに地声が大きいらしいのである。 夏場に声を張り上げるとセミやカブトムシが落ちて来るのが、少々、厄介である。 いや、お待たせして申し訳ない。次は何処を御案内致そうか。 何。予定があるので帰ると仰られるか。それは残念ですな。 ですが、来年の受験には是非、当院をお選び下さい。 御嬢様を立派な淑女として、この女子学院から羽ばたかせて見せます故。
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