ネットの世界には、回線を切断する妖怪の類が棲んでいる。 そして、その妖怪の存在に気付き始めた人は、いつかその身体をも回線の如く切り裂かれる……。 皆さんは、こんな冗談染みた噂は、どうせ誰かが流した嘘だろうと思うでしょう。 ――ですが。 もし、ソレが本当に存在するとしたならば。 アナタハドウシマスカ…………?
KO:それじゃー寝るから、そろそろ落ちるわ〜 (4:36) 柘植:了解。切断魔に注意しろよ〜ww (4:36) KO:あいよww おやすみ (4:37) KOさん が退室しました。 (4:37) 柘植:んじゃな^^ノシ (4:37) 柘植さん が退室しました。 (4:38) 「――ふぅ」 俺は、チャットルームから退室したところで一息つくと、ふと壁にかかっている時計へと視線を移した。 いやはや、もう朝四時半を過ぎてるのか。道理で外が明るいわけだ。 さて、あと少しネット巡回でもして寝るか――そう思い、俺はリンクを開きページに飛ぼうとするのだが……。 「チッ、またかよ……」 出てきたのは『ページを表示できません』というおなじみのエラー表示。 アドレス自体は合っているはず。――つまりは“また”回線の調子が悪くなったせいのようだ。 “また”――今日はチャットを始める前から、ちょくちょく回線が切断され、何度もエラーが起こっていた。それも今夜に限って、だ。 そして、その異常なまでのエラー頻度に俺はチャットでも話題になった一つの噂が脳裏を過ぎる。 その噂とは……“ 切断魔――それは、国内最大級の某巨大匿名掲示板群を発端に広まった怪談の類の一つである。 ネット世界に棲みつき、ネット閲覧者のインターネット接続を切断してしまうのが切断魔の性分である。 これだけなら、非常に些細であり、広まるような噂では無いだろう。この話には続きがあるのだ。 切断魔は、次第に閲覧者のパソコンに居座るようになり、そうなると切断頻度は多くなる。 居座った切断魔は切断する対象を回線から閲覧者本人へと移し、最終的には閲覧者を切り裂き、更にネット世界へと引きずり込むというのだ。 しかも、閲覧者が殺された痕跡は全て消滅してしまうらしい。 そして引きずり込まれた閲覧者はというと、ネットの世界で永遠に切り裂かれる苦痛を味わうこととなる……。 これが切断魔の噂。 今やこれは、国内ウェブ上では都市伝説化し、新種の人工知能説や国家機密情報漏洩を恐れる政府による特殊工作説、CIA陰謀説、果ては宇宙人説など諸説が流れるまでに至っている。 誰もその切断魔を見たものは誰もいないから、存在自体証明する手立ては無いんだけどな。 ――ま、切断魔を目で確認するのは切り裂かれる直前だっていうから、目撃情報があるわけなんて無いかもしれないけど。 「って、何考えてんだか」 思わず、自分が今まで考えていたことを振り返って馬鹿馬鹿しくなる。 そもそも俺は、こういった怪談や超常現象を信じるような性分ではない。 このあらゆる現象が科学的に証明できつつある二一世紀、そんな不可思議な事が起こるわけが――。 ジジッ! 起こるわけが……。 ジジジッ! 起こるわけがないんだけど……今、目の前で突然起こり始めたディスプレイの点滅は何なんだろう? ディスプレイ自体は、去年買ったものだし、ついさっきまで正常に動いていたはずなんだけど……。 すると、今度はディスプレイの奥から声らしきものが聞こえてきた……気がしてきた。 「……離しなさい、カエデ!」 「やっぱりダメだよ、お姉ちゃん!!」 「……いい加減にしないと、逃げられるよ?」 気のせいか? いや、でもこの耳にはっきりと聞こえる。 テレビやラジオは電源が切ってあるし、何より音がパソコンから聞こえてくるのだ。 でも、だとしたらこれは一体何なんだ? 俺がそう思い、ディスプレイに顔を近づけた瞬間だった――!! 「きゃぁぁ!!」 「うげっ!!」 いきなり少女らしき声が聞こえてきたかと思うと、何かがディスプレイから飛び出し俺の顔面に直撃し、その衝撃で椅子から派手に転倒してしまった。 「いたた……ったく、一体何なんだ……?」 俺が、ぶつけた部分をさすりながら身を起こすと――。 「いたたた……。あ〜、もうサイアクだよ〜!」 突如聞こえてきた声に、横を振り向くとそこにいたのは一人の少女。 そう、俺以外に誰もいるはずの無いはずの部屋に、しかも玄関を介さずに彼女は現れたのであった……。 これだけで、既に立派な不審人物だというのに、俺たちが着ているような洋服とは明らかに違う和風な格好と手に持っていた死神がもつような そして今、俺はその不審人物に第一種接近を試みようとしていた。 ――つまり、話しかけようとしているわけだ。 「あ、あの〜……」 「これも全部、カエデが私の足を引っ張ってたせいだね!」 「もしも〜し、聞いてますかぁ〜?」 「あの子には後でちゃぁんと、おしおきをしてやらない――ってほえ?」 二度目の呼びかけでようやく気付いてくれたようで、こちらを振り向いた。 正面から見ると、なかなか可愛い顔をしている。年は俺と同じくらいだろうか……。 「えっと……君は一体……?」 「え? 私はアオイっていうんだよ。キミは?」 「お、 「そっか、よろしくだよ。――で、早速で悪いんだけど……」 そう言って、にっこりと微笑み、そして 大鎌を構えなおすと……。 「キミには死んでもらいたいんだよね♪」 その刃先を俺へと向けてきた。 一体、何がどうなってるんだよ……。 どこからともなく現れた第一級不審少女アオイ、そしてその少女に鎌の刃先を向けられている俺。 少し前の俺だったら「何夢見てんだよ」と、一蹴するような状況だろうが、これは今まさに俺のみに降りかかっている状況である。 「……もう一回言ってくれないか?」 「だからぁ、キミには私に殺されてほしいんだよ♪」 少なくとも、笑顔で言うような言葉じゃ無いのは確かだ。 「あの〜、それは本気で――」 「異論はないんだよね? それじゃあ――」 「って、ちょっと待て待て待てぇぇぇい!!」 振りかざされた大鎌に慌てて、俺は思わず近所迷惑を顧みずに大声を上げてしまった。 声に驚いてか、アオイが大鎌を構えたまま動きを止めた。 「も〜、こんな大事な時に一体何なの〜?」 「いや、だからどうして、俺が君に殺されなきゃいけないの!? 俺、君に何にも悪いことしてないでしょうに!」 すると、少し悩むような表情を見せた後にアオイは口を開いた。 「切断魔、って知ってるよね?」 「そりゃ、噂くらいは聞いたことはあるけど……」 「私、その切断魔ってヤツなんだよ」 「……は?」 少女の言葉を聞いて、思わず聞きなおしてしまうが、彼女はそんな俺の態度に頬を膨らませた。 「あ、嘘だと思ってるでしょ? 本当なんだよ〜?」 そんな事を言われても、はいそうですかと信じられるわけが……無い。 今までの不可思議な現象を差し置いても、だ。 だが、それでも彼女は俺にその事を信じさせようとしているようだ。 「本当なんだよ! 今から証拠を見せるんだから!」 そう言うと、彼女はパソコンのディスプレイの前に立ち、手をかざすと「えいっ!」という掛け声とともに腕を画面へと突っ込んだ! その姿は水槽に腕を入れる様にも似ていたが、相手は流体である水ではなく、硬質の画面のはず。 しかも、彼女は画面をまさぐるように腕を動かすと、今度はその腕を引き抜き、そして――。 「ほら〜、これで信じてくれた? 私“達”は正真正銘の切断魔なんだよ!」 嬉々として俺に言うアオイが画面から引き抜いた手が掴んでいたもの。 それは、人の腕であり、その腕の持ち主である少女が画面から体を半分ほど出していた。 「姉さん、私の出番はまだ早いと思うんだけど……」 「な〜に言ってんの! 出番も何も段取りが滅茶苦茶になっちゃったんだから、そこらへんはいいのいいの!」 アオイが腕を引っ張ると、画面から体を出していたその少女は完全にディスプレイを抜け出し、俺の部屋の床へと降り立った。 「姉さんがそれでいいなら、私も別に構わないけどさ」 改めてみると、その少女はアオイに似た顔立ちであり、話し方からも伺えるような姉妹である事が分かる。 ただ、表情がやや硬いのと、姉のようなポニーテールではなく、ストレートロングなところは違ったが。 と、俺が彼女を見ていると、アオイがにゅっと俺の目の前へ顔を出してきた。 「どう? 信じてくれた? 私達は、ここの世界の住人じゃないんだよ」 「わ、分かった……ってことにしておくよ」 「え〜、まだ信じ足らないの? だったら――」 「姉さん、それよりも仕事はしないの?」 妹さんの言葉に、アオイは硬直すると……。 「わ、忘れてなんかないんだよ? 私はただ、ナデシコちゃんを紹介したくって――」 どうやら、無愛想な妹さんはナデシコというらしい。 アオイにナデシコちゃんか。美人姉妹って感じだな。 「と、とにかく! 仕事を進めるんだから!!」 とそこに、アオイの大鎌が突如振られた。 「お命頂戴!!」 「って、うおぉぉぅ!!」 咄嗟によける事で鎌の斬撃をなんとか回避する事は出来た。 ……だが、その背後にあった本棚はというと……音もなく斜めに斬られ、真っ二つになっていた。 時間差で崩れる本棚を見て、俺は呆然としてしまう。 そして、それと同時にこのアオイとかいう少女、予想以上に危ない、と脳内でエマージェンシーコールレベルワンが発令された。 「も〜、逃げたら当たらないんだよ〜?」 「わざと当たりにいく阿呆がどこいにるかぁー!!」 その後もアオイによる斬撃は繰り返され、俺は家中を逃げ回った。 この結果、家中のあらゆる場所が切り刻まれていったが、俺はというと奇跡的に無事だった。 「いい加減、勘弁してくれっての!!」 「だぁ〜め! 私達だって、仕事なんだよ〜」 「何が仕事だよ!! ――ってうわぁ!!」 廊下を必死に逃げている時だった。 突如足を何かに絡み取られたかと思うと、一瞬のうちに俺はロープらしきもので、体を雁字搦めにされてしまった。 「やった、ナデシコちゃん! 大手柄だよ! 日の丸飛行隊級だよ!」 俺が拘束されている間にアオイが追いてしまった。 そして、ナデシコという名前に反応して、顔を横に向けてみるとそこにいたのは縄を操るナデシコちゃんの姿だった。 「ナ、ナデシコちゃん!? き、君まで俺を?」 「……それが、仕事だからね」 さっきから仕事仕事って、この子達は何なんだ!? 切断魔だから、人を殺すのが仕事ってか? 冗談じゃない! 「それじゃ、ここで切り裂くのも雰囲気で無いから、最初のあの部屋まで運ぼっか!」 「うん。あっちにはカエデがいるし、色々と都合がいいと思う」 だけど、縄でぐるぐる巻きにされ、運ばれている今、俺の死は刻一刻と近づいているわけで。 誰かヘルプミー!!! 舞台は戻って俺の部屋。 鎌による斬撃で、見るも無残な様子になっていたが、今はそれどころではない。 この斬撃を今度はまさに俺が食らおうとしているのだから。 ちなみに俺は今、ナデシコちゃんによって、両手を広げたまま拘束された、いわゆる磔ルックで天井から吊るされている。 どうやらアオイの大鎌のように、彼女は縄を得物としているようだ。 そして、ナデシコちゃんが立っている横で、アオイはというとにっこりと笑ってこっちを見ていた。 「さ〜て、審判の時だよ〜」 そんなことを言って恍惚の表情を浮かべながら鎌の刃を舌で舐める仕草は、どこか妖艶に見え―― 「痛っ!」 「姉さん、そんな風に舐めたら舌が切れるって何度も言ってたのに……」 「ふるふぁい(うるさい)!」 訂正。 鎌を舐めようと彼女は彼女のままのようだ。 「そ、それじゃあ、ちゃっちゃと終わらせるんだよ!」 「な、なぁ……本気か?」 「本気と書いてマジと読ませるくらいは本気だよ♪」 「俺を殺さないで仕事を終わらせる済む方法とかは……」 「今回のターゲットはキミだから、殺さないと仕事が終わらないんだよ」 うわぁ、こいつはいよいよをもってヤバいぞ……。 「じゃ、遅れたけど、いっくよ〜!」 アオイは鎌を大きく振りかぶる!! が、次の瞬間だった。 「ダメぇぇぇ〜〜〜〜!!!!」 アオイともナデシコちゃんとも違う女の子の叫び声が聞こえてきたかと思うと、ディスプレイからまたもや少女が飛び出てきた。 セミロングヘアのその少女は、年こそ他の二人よりも幼く背も低いようだったが、顔立ちは似ており、姉妹である事は明らかだった。 そして、彼女が両手で持っているそのバケツのような容器が、俺の目を惹いた。 「げ、カエデ……」 アオイにカエデと呼ばれた小さい少女は体に縄を絡ませたまま、アオイとナデシコちゃんのもとへと歩み寄る。 「酷いですぅ、ナデシコお姉ちゃん! 私を縛るなんてぇ!」 「姉さんの仕事の邪魔になりそうだったから、仕方ないでしょ」 「し、仕事って……あ、そうだ!!」 すると、カエデちゃんは、俺の方を向いた。 「良かったぁ〜。まだ生きてますぅ〜」 「間一髪だったがな……」 もし、あの時この子がアオイとナデシコちゃんの気を逸らしてくれなかったかと思うと、ぞっとしてしまう。 すると、彼女は俺とアオイの間に立ち、アオイに向かって声を張り上げた。 「アオイお姉ちゃん! 人を殺すなんてやめよ! 私、やっぱりヤダよぉ!」 ……どうやら、このカエデちゃんという子は、姉二人と違い、殺すことに抵抗があるようだ。 ま、普通に考えたらそっちが当たり前なのだけど。 だけど、普通じゃない彼女は、それを聞いて顔を赤くする。 「今更何を言ってるんだよ! そんな事、はいそうですかって言えるわけ無いんだよ!」 「だけど……だけど、私はイヤだよ! お姉ちゃんが人を殺すのを見過ごすなんて!!」 その言葉に返す言葉が詰まっている様子のアオイだったが、少しすると……。 「じゃあ、どうすればいいの……」 「――え?」 「私達が切断魔として生を受けた以上、人を殺さずしてどうやって生きていけばいいんだよぉ!!」 「そ、それは……」 するとナデシコちゃんも話に加わってくる。 「アオイ姉さんの言う通りだ。私達は、具現化できたり心を持ってたりするけど、所詮は人を切り裂き魂を奪う事を運命付けられたただのプログラム。カエデは運命に逆らうつもりなの?」 「そんな言い方って……ないよぉ……」 「でも、これは事実。現実から目を背けて綺麗事を言うなんて、まだまだ子供って証拠よ」 冷たく言い切るナデシコちゃんの理屈には、確かに一理ある。 だけど、ここまで聞かされていると放置されていた俺の中にも色々と溜まる感情があるわけで。 「仕事? 運命? プログラム? それがどうしたってんだよ……」 俺が突然口を開いた事で、三人はともに俺のほうを向いてきた。 「なぁ、ナデシコちゃん。さっき、君達には心がある、って言ってたよな」 「そ、そうだけど、それが?」 「だったら、君達が正しいと思ったことをすればいいだろう。さっきから聞いていれば、仕事だからだのプログラムだからだの自分の意志がまるでないじゃんか!」 彼女達自身はあれだけ個性的なのに、仕事の事となると機械のようにこなそうとする。 そんな姿に違和感を覚えていたのと同時に、上手く言いくるめれば助かるかもしれないという邪な希望を抱いて、俺は思いのたけを口にした。 すると、俺の言葉を聞いて、アオイが鎌を持つ手を震わせて答え始めた。 「私だってイヤだよ。……人を殺すなんて、ホントはやりたくないんだよ……」 よし! 事態はいい方向に傾きつつある! 今畳み掛ければ、死の危機も回避できる――!! 「それがお前の意志なら、そうするべきなんじゃないのか?」 「そうだよ、お姉ちゃん! この人の言う通りだよぉ!」 カエデちゃんも俺に賛同してくれるが、それでもアオイは意見を曲げない。 「だけど、だけどね、私達は違うんだよ!? 私達はキミみたいに自由に生きられる人間じゃない、特定の行動を起こすためのプログラムなんだよ! もし命令に背いたら、私達は存在できなくなっちゃうかも知れないんだよ!?」 「存在ってお前……」 「私達は所詮プログラム。もし、目的に反する行為を行えば消去される可能性だって大いにあるさ。恐らく、姉さんだけじゃなくて、私やカエデも巻き込んでね」 存在の消去――それは人間における死と同義なのだろう。 つまり、姉妹揃って死なない為に、仕事をしているわけか。 「そういうわけだから……私達の為にお願い! 死んで!」 「なるほど、生きる為に俺を生贄に捧げるって訳か――って待て待て待て待てぇ!!」 鎌を持ち直して振りかぶるアオイを必死に止める。 だけど、それを聞く耳など持っていないかのように、振りかぶった鎌を振り下ろす!! 「お姉ちゃん、ダメェー!!」 「痛いのは一瞬だから安心なんだよ!」 「安心じゃヌェー!!!!!!」 口では抵抗するものの、体はナデシコちゃんによって縛られている為に動きがとれない。 鎌は弧を描きながら、俺へと迫ってくる。 それはまるでスローモーション。死の瞬間とは時の流れまでも変わってしまうのだろうか。 そして、近づいてきた刃の先端がまず、俺の胸元へと到達、続いてその先端をめり込ませるようにして、刃は弧の軌道を描き続ける。 本当に切れ味のいい刃物は、斬った相手に痛みを感じさせないというけど、それは本当らしい。 刃は既に、俺の体を胸の位置で真一文字に切り裂き終えようとしているのに、俺はまだ痛みを感じていなかった。 だが胸元の切り口からは確かに血飛沫が噴き出し始め、実際に斬られた事をまざまざと見せ付けてくれていた。 そして、顔を上げると見えるのは、無言のまま俺を見るナデシコちゃん、何かを叫んでいるカエデちゃん、そして――涙を流しながら鎌を振り下ろし続けるアオイの姿……。 俺の視界はそこで真っ暗になった…………。 都市伝説のはずの“切断魔”を名乗る少女に斬殺、か。 何というか、訳の分からない死に方したよな俺……。 あぁ、明日はチャットの定例会だったんだよなぁ。 そういや、まだ修学旅行いんも行ってなかったか。沖縄行きたかったなぁ……。 と、人って死ぬと随分冷静になれる事を実感していると急に意識が浮上する感覚を受け、そして――。 「う、うぅん……」 俺は目が覚めた。 ――ん? 目が覚めたって事は……もしかして! 起き上がり周囲を見ると、そこは紛れも無い俺の部屋。しかも無傷の。 次に俺は、上半身裸になり、胸の辺りを見たが、そこには傷一つついていなかったし、痛みもない。 無傷の部屋と俺。このことから導き出される答えは――。 「何だ、夢かよ……」 ここまで引っ張っておいて、なんて下らないオチなんだろう。 しかし、夢なら話は早い。 今日は日曜日。ゆっくりと寝かせてもらおう。 そう思って布団を被りなおしたその時だった。 「あ、起きてたんだ? おはよ」 ドアが開いた先にいたのは、紛れも無い俺を殺した殺人犯。ただし、今は鎌を持っていないようだったが。 「え、あ、え……は?」 「何だよ〜? 近頃の青少年は朝の挨拶も出来ないの〜?」 「あ、いや、おはよう……じゃなくって!!」 どうしてお前がここにいるのか、そしてどうして俺は生きているのか、を俺は殺人犯アオイに問い詰めた。 確かに俺はあの時、斬られて死んだはずだし、それで目標が達成できたのだから、こいつがここに留まる理由も無いはずだ。 すると、アオイは複雑そうな笑顔を浮かべて答え始める。 「カエデに感謝しておくんだよ! あの子がキミを助けてくれたんだから」 「カエデ――って、確か俺を殺すのを反対していたあの子?」 アオイは首肯する。 「あの子は、再生能力の応用でキミの傷を治してくれたんだよ」 「再生って何だよ」 「私の鎌やナデシコちゃんの縄術みたいに、カエデの持っている特有の力のこと。ほら、切断魔の伝説だと、証拠を隠滅する役がいるでしょ? あれがそう」 証拠隠滅――つまり、血痕や指紋、被害者のダイイングメッセージ等の事件の痕跡を全て消すってことか。 「本当はね、死んだ生き物を復活させる事は無理なんだよ。だけど、カエデはキミの命が消える直前、魂が抜ける直前に傷を回復したんだね」 「……で、お前はそれを止めなかったのか? 俺を殺す事が目的じゃなかったのか?」 すると彼女は、苦笑を浮かべた。 「必死だったカエデちゃんを見てたら、ね。なんかどうにもそれを止められなかったんだよね」 「それで……お前は良かったのか?」 「――え?」 「俺を殺さなきゃ、お前達はヤバいんじゃなかったのか? その決断でよかったのか?」 って、俺は何を言ってるんだ!? こんな助かった命を転炉に捨てるようなことを何で……。 だけど、アオイは冗談を言うわけでも鎌を取り出すわけでもなく、ただ淡々と喋り始める。 「正直、キミを斬った瞬間ね、私体の震えが止まらなかったんだよ。人を斬るってことが、こんなことだったのかって初めて実感してさ」 「え? 初めてって……」 「私達の生まれてから初の仕事が、キミを殺す事だったんだよ」 初仕事のターゲットに選ばれるってことは、彼女達が主人公のストーリーだったら、俺は彼女達を映えさせる為のやられ役だったってことか。 そう考えると、少し空しくなる。 「そんな訳で、私にはこの仕事向いてないかも、って思ったんだ」 「で、結局俺を生かしたと」 「そうだよ」 「妹達はどう言ってる? ってか、今はどこにいるんだ?」 「カエデちゃんは大歓迎だったみたいだし、ナデシコちゃんも私が言ったら了承してくれたよ。二人なら今頃、朝食の準備を――」 「お姉ちゃん、朝ごはんが出来たから下に……って、あ、起きてたんですかぁ!」 開きっぱなしの入り口から、エプロンをつけたカエデちゃんとナデシコちゃんがやってきた。 ……どうやら、全員家に留まってるらしい。 「傷、大丈夫ですかぁ?」 「え、あ、あぁ。大丈夫だよ。それよりも、君が治してくれたんだろ? ありがとうな」 「え? あ、はにゃにゃぁ!」 感謝の気持ちを込めて頭を撫でてやると、カエデちゃんはそんな可愛らしい声を上げる。 そして、撫でながら俺はナデシコちゃんを見やる。 「ナデシコちゃんも撫でてほしい?」 「な、何を言うか、この男は!」 「う、うわっ! 冗談だって冗談! ギブギブ!」 彼女の袖口から縄が出て来たかと思うと、それが俺の首に絡みつき、絞り始めた。 「姉さんが言うから助けてやっただけだってことを忘れないで貰おうか!」 「わ、分がっだがら、分がっだがら、ぐびがぎがんじがぁ!」 言葉を聞いてようやく解放され、息をする事を素晴らしさを改めて実感していると、今度はアオイが俺の肩を叩いてきた。 「ってな訳だから、今後はこの家に住まわせてもらうんだよ!」 「――は? 今ナント?」 「だからぁ、仕事を終わってないのに元の世界に戻っても消されるだけだから、こっちの世界に留まらせて、って言ってるんだよ」 「元はといえば、お前が死ななかったせいだ。それくらいの責任は取っても貰っても罰は当たらないだろ?」 そう言われるとまるで俺が悪いみたいじゃないか。 そもそもは、彼女達が勝手に俺を殺しに来たのが悪いはずなのに。 俺は、最後の望みを掛けてカエデちゃんの方を向くが――。 「えっと……これからお願いしますぅ、和巳さん!」 ぺこりと下げられた頭に俺は、超弩級戦艦大和の如く轟沈。 前門の切断死、後門のかしまし姉妹同居。 選ぶなら、そりゃ後門かもしれないけど……だけど、やっぱりおかしいよなぁ。 こんな文句を垂れては見るものの、結局状況が変わる事はない。 そう、ここから俺と電脳三姉妹の奇妙な生活が始まったのである……。 本当にどうなることやら……。 <後書き(言い訳?)パラダイス> どうも、作者のcivilです。 というわけでお送りいたしました『デジタルぱにっく!?』ですが…… そうです、見たまんま美綾管理人の『切り裂き娘々放浪記』と同じ設定で話が進められております。 これは、ある日の定例会での「ネット接続を勝手に切断する妖怪が存在する!?」という美綾さんの発言から生まれた産物であり、版権フリーという事だったので、書いた次第だったのです。 で、その結果が本作なわけです。故に、決してインスパイヤなど(ry 人によっては、まんまパクリじゃねえかと思う方もいるかもしれませぬが、気分を害されたのなら申し訳ありませんorz まぁ、こんな作品ですが、少しでも皆様の娯楽になっていただけたのなら幸いです。 それでは。
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