邂逅輪廻



 忌まわしき数学のプリント束から開放されてはや一週間。あのプリント酷いんだぞ。半分くらいは数学の問題で、もう半分は算数の問題なんだぜ。簡単になっていいじゃないかって? 冗談じゃない。何がかなしくて高校生にもなって小学校低学年の問題なんざ解かにゃならんのだ。しかも最後の問題なんて馬鹿にしまくっている。

『かごの中にイチゴが2個、みかんが4個入っていました。全部で何個でしょう?』

 これだぞ? なめとんのか。提出の際、その旨を中川先生に伝えると「俺は自分の仕事中に居眠りする奴を見つけるたびにそう思うよ」と返された。あまりに鋭すぎる切り返しにオレのハートはブロークン寸前だったぜ。
 そのときのことを思い出し身震いする。怖かった、怖かった。お化け屋敷で幽霊のようなものを見せられるのとは違う恐怖。遊園地でフリーフォールなどで感じる恐怖と一緒だ。要するに生命の危険を感じたと言うことだ。判りにくいか?



誰かのためのおとぎ話 17
〜姫君と対価の代償〜

りむる



 土曜の丑の日。違う。オンボーロアパートで過ごす土曜の昼下がり。昼食はちょっとオシャレに高級感溢れるパン屋のウインナーロールとその他。全部びっくりするくらいおいしかったよ。さすが高いだけあるな。だがこの高級感溢れるパンはオレの部屋には致命的なまでに似合わない。そんなこと気にしてたら食事なんか出来ないよねと自分を慰める。あ、これはバイトの先輩に奢ってもらいました。先輩の仕事を手伝っただけです。そんくらいで奢ってくれるんだから良い人ですよ。
 さて、休みのうちにやっておかなくてはならんことがある。オレは携帯電話を開き、アドレス張を呼び出す。「あ」から始まる人なのですぐに出てくる。選択、発信。メールだと笑いに走るので電話だ。
『もしもし啓くん?』
「もしもし啓くんです。理香ですか?」
『はい、理香です』
「はい、理香に用事です」
『はい、受けたわまります』
 なんつー会話だよ。
「えっとな、金払え」
『私、啓くんにお金なんて借りてません』
 アホな会話のせいで思わずストレートになってしまったぜ。
「正しくは、今までのカレーを食った分の金を払え」
『はい?』
「だからさ、お前オレがカレーを作るたびに食ってったろ? オレはな、一人暮らしで財布がいつだって寂しいんだ」
『それは啓くんが無計画にDVDとか買うからですよ。先月もドラマのDVDBOX買いましたよね? それに今月も予約するか否かで――』
「アーアーキコエナーイ」
 スルー。
「それはともかく、お前がカレーを食いまくったせいで金が散っていているのも事実なんだ。だから金を払え」
『啓くんちょっと声が上擦ってますよ』
 うるさい、冷静に指摘するな。
『でも啓くん今更ですね』
「う」
 先週気がついただなんて言えない。
『もしかして先週私たちが帰ったあとに気付いたとか? うわー、どんだけ鈍感なんですか? 啓くん詐欺師とっちゃカモですよ。カモカモ。カモが葱背負って醤油付きです』
「う、うう……」
 馬鹿してる発言だが声が心配調である。兄の博と違って親切な忠告なので反論できません。
「そ、それは今後の課題なのでカレー代払ってくれ……」
 確かにオレって舞い上がると判断能力が皆無なんだよな……。つーかそれを利用しまくってカレーを食ってきた奴に言われたくない。
『うー……今月お小遣いまだなのに……でも、仕方ないですよね』
 兄なら踏み倒しかねないが、妹はそんなことしない。性根が違うんだよ。根底とも言うが。
『で、いくらです?』
「五億円」
 プツ、ツー、ツー、ツー、ツー……。
 電源を押して切る。再度コール。円じゃなくてジンバブエドルにすれば良かったかもしれないが、円にエクスチェンジされると困るのでやはり言わないで良かった。
「すみません、冗談です」
『で、いくらです?』
 先ほどより随分と声のトーンが下がっていることを付け加えておこう。
「えっとだな」
 オレは最弱ライダーの関連商品である緑色のお小遣い張を開き、材料費その他諸々と理香が来た回数とを概算。それを理香に告げた。
『――っ!』
 携帯電話越しに絶句してるのが判る。十秒後、きっかり十秒後、理香は焦りまくった口調で言った。
『け、けけけ、啓くんっ。スペクタクルな提案がありますっ』


 翌日の日曜、午前九時二十四分。オレは近所(と言っても電車乗ってバス乗ってだから結構遠い)の遊園地・スターダストパーク(略称はSDパークだ。まんまだな)に来ていた。何故来たのかというと、予想できると思うが、理香の提案を飲んだからだ。あ、バイトは代わってもらったよ。パンを奢ってもらった良い先輩にです。

『け、けけけ、啓くんっ。スペクタクルな提案がありますっ』
「ほおう? そう言って誤魔化す気だな? オレとてそうやすやすと騙されんぞ」
『だ、騙すだなんてそんな。兄貴じゃあるまいし』
 実のお兄さん、酷い言われようです。
『あのですね、今私の手元にですね、SDパークの半額券があるんです』
「騙されんぞ。それにオレは遊園地なんてそんなに好きじゃないぞ」
 ミラーハウスがあるとこは特に。
『判ってますよ。啓くん、最近テレビつけてますか? CM見てますか?』
「何が言いたい。というかさっさと言え」
『はい、つまりですね。今SDパークでヒーローショウがやってるのです』
 ぐっと心が動かされた。オレの魂に刻まれた熱きDNAが燃え滾っている。
「ふ、ふふふん、子供だましの変身後だけのヒーローなどにこのオレが――」
『なんと中の人も来てるんですよ』
「是非、連れて行ってください」

「さあ、啓くんレッツラどんです」
 背中に小さなカバン、右手にはピクニックにでも持っていきそうなバスケット。日本語で言うとカゴ。やはり弁当でも入っているのだろうか。そんでもって洋風だからサンドウィッチか。ううん、ベタ過ぎる。
「どこでそんな言葉を覚えたんだ……。まあ良い、行くぞ」
「当然、一日券は理香払いです」
「当たり前だ。なんならカレー代をまとめて払ってもらいたいくらいだ」
「いやいやあ〜啓くん意地悪です〜」
 身体をくねくねと動かしながら理香は言う。まあ、可愛いから許す。
「ほいじゃ買ってきますね〜。これ持ってて下さい」
 バスケットをオレに押し付け、小さな身体をひょこひょこ動かしてテコテコと駆けて行く。微笑ましいのう。
 チケット売り場の近くにあるイベント表を見る。ヒーローショウは午前の部は十時、午後の部は十四時か。そんで、午後の部のみ素顔のヒーローが登場。なら、午前は見なくてもいいな。ちょいと視線を下げると小学校にもまだ入ってなさそうな男の子が熱心にイベント表を見ていた。これはどう見ても同士。隣には親と思われる男女が二人。
 視線を元の高さに戻して周りを見る。日曜のせいか家族連れが多い。あとカップルも多いな。オレたちはどう見られるんだろう。カップル? それはまずい。理香は見た目はロリっこなのでオレがロリコン扱いされてしまうではないか。本人らの意志があろうとなかろうと犯罪チックでとてもいやんだ。
「啓くん、買いましたー。レッツラゴーです」
 チケットを買った理香が帰ってきた。人ごみの中を器用に抜け出てくる。オレの暴走する思考に気付くことなくチケットをオレに差し出した。ま、周りにどう見られとうとも構わないか。第一友達の妹と遊びにきているだけだ。それに理香は友達だ。なんら問題はない。
「ヒーローショウは午後の部を見よう」
「午前は良いのですか? 変身後を見るのもオツなもんじゃないですか?」
「いや、午後の部も変身後が出ると思うぞ。それにオレは素顔のヒーローたちが見たいんだ。ヒーローのオーラを感じたいんだ」
 熱く拳を握って力説。
「あはは、啓くん、江原的で美輪的で激烈に怪しいです」
 笑って人が傷つくようなことを言うな。
「まあ、啓くんがそういうなら午前は遊びましょう。やはり最初は――」
「びっくりハウスだよな」
「ええー、ジェットコースターですよう」
「お前さん、身長の関係で乗れんだろうに」
 何度でも言おう。麻生理香はちびっこだ。中学三年ながら140センチに達していないと言う素晴らしきちびっこだ。そして胸はまな板だ。有無を言わさぬロリっこだ。
「乗れますよ!! あれ確か120センチか130センチから乗れるはずですから!!」
 気にしているのか、ムキになって言う。ううん、やさぐれた女子高生ばかり見ているので理香の反応は新鮮だ。おっとやさぐれた女子高生については深く言及しないでほしい。オレの生命が危うくなる。
「判らんぞ、最近のジェットコースターは150センチからかもしれん」
「そんなの聞いたことありません!!」
 理香をからかいながら入場。
 ではヒーローショウに備え、さほど体力を使わん程度に遊びまわろう。


 休日だし、並ぶかと思いきや、家族連れの大半はヒーローショウに流れていったらしく、遊園地そのものは日曜日にしては空いていた。それでも人気のアトラクションには長蛇の列。それを避けつつ遊ぼうと思ったのだが、初めはレディーファーストならぬガールファーストということでジェットコースターに向かった。ここのSDランドの名物アトラクションだ。名前があったが、長ったらしいので読まなかった。
 二十分ほど待ち、ようやく乗車。運と気合で先頭を取ると理香から勝負を挑まれた。
「SDパーク売りの絶叫ジェットコースターです。どうです啓くん。先に悲鳴をあげたほうがあとでソフトクリームを奢ると言うのは?」
 ガタンゴトンガタンゴトン。頂上目指して登ってゆく。
「うははは、面白い。良かろう」
 オレは簡単に了承した。

 次はオレが遊園地に着たら毎回行くところ、びっくりハウス。部屋が回転しているように見える奴だ。仕掛けは知らない。
 ああ、理香ならソフトクリームを嬉しそうに食べてますよ。オレとしてはさっさと入りたいんですけど、食べ物持って入れないじゃないですか。だからね、食べ終わるのを待ってるんですよ。恨めしげに理香を見ると目が合った。得意そうに笑うとソフトクリームにパクとかぶりついた。
「……うぬれ」
 くそう、よく考えたら理香は毎日防具つけて竹刀を頭から振り下ろされたりの恐怖と戦っているじゃないか。うぬれ、道場の娘がっ。ジェットコースターごときで悲鳴をあげるわけがなかった。元々度胸が据わっているってのもあると思うけどね。いや、そっちか。
 ついさっきの、ジェットコースターでのやり取りを思い出す。

 ジェットコースターコースにてSDランドで最も高いところからの急降下。角度は怖いから確認していない。乗車前に理香がなんか言っていたが、ヨルレヒッヒーと叫んで誤魔化した。
 我慢できたのはほんの数分だったと思う。
「啓くん啓くん、見てください、景色がとても綺麗です!」
 オレ絶叫中。
「啓くん啓くん、ほら、人が小さいですよ!」
 オレ絶叫中。
「啓くん啓くん、ほら、あそこ紅葉ですよ!」
 オレ絶叫中。
「啓くん啓くん、今度は後ろに回転ですよ!」
 オレ絶叫中。
「啓くん啓くん、あ、あそこにパンダの着ぐるみがいますよ!」
 オレ絶叫中。
「啓くん啓くん、あれってブランコですよね、空中ブランコ? 正式名称ってなんでしたっけ?」
 オレ失神寸前中。
「啓くん啓くん啓くん、もう終わりですよ」
 そう揺り起こされたときには無事に生還できたことを何かに感謝していた。

 オレの名誉のために言っておこう。悲鳴をあげていたのはオレだけじゃない。確かに女の子の声のほうが多かったような気がするが、オレだけじゃないんだ。それに最初の急降下の角度が尋常じゃなかった(具体的な数字はもちろん知らないよ)。だってね、レールが見えなかったんだ。どんな角度だよちくしょう。あ、教えてくれなくて結構ですよ。
「啓くん、行きましょう」
「うむ」
 ゴミ箱にソフトクリームの包み紙を捨ててきた理香が言う。
「啓くん、顔が若干青白いです」
「ありがとう」
「誉めてないです」
 アホな会話をしつつ、びっくりハウスへ行く。

「啓くん、びっくりハウスのどこが好きなんですか?」
 ゴトンゴトンと機械が動き、部屋が回転しているような錯覚を味わう。
「無論、この錯覚だ。見てて面白い」
「はあ、そんなもんですかね」
「豪快に動いていないとつまらんと言うのはオコチャマの証だ。身長スタイルともに申し分ない」
「スペクタクルに失礼ですっ!」
 はん、と鼻で笑うと年上らしくどっしりと構えて頭をポンポンと撫でてやった。
「むう、じゃあ次は趣向を変えてお化け屋敷です」
「ふふん、良かろう。オコチャマに合わせてやるぜ」
 少々からかい過ぎたらしい。足を踏まれた。夏子だったら鳩尾を蹴り上げるよなあ……。可愛いもんだ。

 びっくりハウスを出てお化け屋敷へ。ある程度予想できたことだが……。
「全然怖くなかったですね」
「暗い道を歩かせられただけだな」
 まさに子供向けだった。作り物感が丸出しで、ちっとも怖くなかった。だいたいオレはいつも生と死の狭間で戦う戦闘民族なのだ。お化け屋敷ごときでは恐怖は覚えない。ただしジェットコースターは生命の危機を感じるので恐怖する。ああ、生と死の狭間っていうのはね、夏子さんへの対応ですよ。色んな意味でのね。
 それにね、暗いところで怖がらせたかったら、やっぱりこう、小さくて足が沢山あるような生き物が動いた音を出せばイチコロだと思うんだ。恐怖の質が変わっているが、恐怖には変わりなかろう。無論、オレはそんなお化け屋敷には死んでも行かない。
「じゃ、気分を変えてじゃんじゃん行きましょう。次はゴーカートです!」
 小走りで向かう理香を早足で追いかけた。

 ゴーカート。レース形式だったので当然勝負。デットヒートを繰り広げ、僅差でオレの勝ち。写真判定を求める理香に猛烈な悔しさを感じて満足。ジュースを奢ってもらう。
 コーヒーカップ。例によって例の如く、回転数を上げまくって降りた頃には二人とも酔っていた。ベンチで休憩。
 メリーゴーラウンド。ただ乗っているのはつまらないので回転に逆らって走ってみた。係員のお兄さんにめちゃんこ怒られた。理香の冷たい視線が忘れられない。
 フリーフォール。直訳すると自由落下。
「無重力が体験できるんですよ」
 と楽しんでいたのは理香だけで、他に乗り合わせた人たちと共に絶叫。きっと楽しかったのは理香だけだ。
 巨大迷路。入る前に「先に脱出したほうがあとから脱出したほうにクレープを奢る」と決めた。勝負事は燃える。だが確実に脱しつするために左手を壁につけて攻略。きっと夏子ならば壁を破って突破するんだろう。で、麻美は念力で迷うことなく脱出するんだな。風花はそもそもこんなとこに来ないだろう。と考えていたら、壁と地面との三十センチばかしの隙間から理香が出てきた。眩暈がした。
「えへへー」
 と笑って誤魔化してそのままどこかへ行ってしまった。あやつは迷路を舐めているんだろうか。当然、先に迷路から出たのは理香だった。勝負は馬鹿らしくなってなかったことになった。理香もオレに見つかるとは思っていなかったらしく、勝負の話を持ち出さなかった。
 などなど、色々周った。
 
 そして昼時。近くの飯屋を見回ったが、やはりどこも込んでいる。さすが日曜、さすが家族連れ。仕方がないのでオレたちは遊園地中央にある広場までやってきた。そこは弁当を持ってきた家族連れやカップルが大量に発生している。なんとなく、中学の頃に夜の大きな公園でイチャついているカップルを狙撃しようとしたことを思い出した。当然色んな人に止められた。ちなみに発案者は博である。オレは悪乗りしただけだヨ? ちなみに武器は平和的にパチンコだ。朝鮮玉のほうじゃない。Yの字のほうだ。
 なにを言いたいのかというと、狙撃したいということだ。小さな子供をじゃない。自分より明らかに弱いものを狙うほどオレは卑怯じゃない。となるとカップルの男のほうか……。いや、オレ何考えてるの?
「ガッテム、このままだと飯にありつけないぜ!!」
 不可解な考えを断ち切るように無駄にメリケンのように大げさに嘆く。

 ぐううう〜。

 そして大げさでもなんでもなくオレの腹が鳴る。お手製の昼食にありつこうとしている家族連れそしてカップルから視線を集めました。とても恥ずかしいです。
「はっ」
 鼻で笑いましたよ、このちびっこ。BPOあたりに訴えてやる!!
「さてここでお弁当です」
 オレの激情を無視しまくって理香はバスケットを開けた。中身はやはり弁当か。洋風なのでサンドウィッチに違いない。
「おばさんの手作りかあ、それは楽しみだ」
「啓くん、私が作ったと思わないんですか?」
「思わないとも」
 笑顔で大きく頷くと理香はちょっと傷ついた表情をした。はははっは、料理が出来ない人間がどうやって手作り弁当なんか持って来れるんだ?
「ならばそこらの芝生で食らおう」
「はい、お母さんがシートを持たせてくれました」
「さすがおばさんだ、用意がいい」
「はい、私はまったく考えつきませんでした」
 それはそれで問題だ。ベンチで食うつもりだったのか。この家族連れの多い日曜に。取られるに決まってるじゃないか。でも、芝生に直で座っても雨降ったわけじゃないから構わないけどね。
「飲み物はないです」
「そんくらいは買おうぜ。理香は何飲む?」
「お茶です。ウーロン茶以外のです」
 理香はウーロン茶を嫌っている。理由は黒ウーロン茶のCMの中国人らしい人間がえらくむかつくからだそうだ。味や見た目はどう思ってるのかは知らない。
「了解だ。お前は準備してろ。今日は風がちょっと強いからシートの四隅に重りを置くんだぞ。あと、知らない人に話しかけられても付いていかないように。カレーを食わせてくれるとい言われてもだ」
 目をしっかりと見て言った。ちびっこを狙う誘拐犯がいないとも限らない。万が一攫われてしまったらおじさんおばさんに申し訳が立たない。
 理香はちょいと眉をひそめ悩んでいるが、すぐに意味を理解してくれるだろう。なんて言ったってもう中学三年だ。
「判ったな?」
 釈然としない表情で頷く理香を見てオレは安心して自販機に向かって歩き出した。
「子ども扱いしないでください!! だいたいね、そんなこと啓くんに言われなくても判ってますよーだ!」
 ちらりと後ろを見ると、いーだと自分の両口端を引っ張って白い歯を突き出していた。
 うむう、やはり遠まわしに馬鹿にしたのが判ったか。しかしあいつ、本当に中学生か? あんなこと小学生でもやらんぞ。友としてちょっと不安になった。

 緑茶二本を購入。戻ってみると籐(だと思われる)を編んだ弁当箱(で良いよな)が出ていて、そこからサンドウィッチが見えた。当然パンの耳はない。オレはあっても気にしないけど。
「やはりサンドウィッチか」
 バスケットの中身は予想通りのものだった。
「おにぎりより軽いと言う娘を思う母心です」
「マジか」
「嘘です」
 しらっと真顔で嘘つくなや。
「ではまずこのウエットティッシュを」
 おおう、汚い手での食事は衛生的に良くないな。受け取り、丹念に手を拭く。理香も同じ事をする。しかしおばさん、本当に用意が良いですよ。
「では、いただきます」
「どうぞどうぞ、いただきます」
 芝生に敷いたシートの上でお日様浴びながらの昼飯。なんて健全なんだろう。学校でも全く同じことをやっていることは今は忘れよう。
 サンドウィッチを見る。卵、レタスとハムとチーズ。トマトにレタス、たぶんきゅうりやら他の野菜も入っている。まずは卵にしよう。手に取り、一口むしゃりと食らう。
「おいしいですか?」
「当然だ、理香が作ってないからな」
「そう失敬なことを言うのはやめて欲しいです」
「当然だ、博が作ってないからな」
「ううん、それは本当のことですねー」
 兄の名に変えるだけで納得出来るこのセリフ。兄の普段の行動がポイントである。ろくでもないのは言わなくても判ってるよな。いや、そもそも博が作る理由なんてないけどね。
「しかし、理香よ。お料理上手の母上がおるのだ、教えてもらったらどうなんだ? そしたらわざわざうちにカレーを食いに来たりしなくていいんだぞ」
「人間、向き不向きってのがあるのですよ……」
 食事の手を止め、遠い目をして却下する。ちょっとは検討しろよ。しかし、どんなに向いていなくても風花ほど向いていないと言うことはないだろう。いや、あれは根本的に体力が足りない。やる気が体力におっついていないので全力で空回りしている。そう考えると不憫だな、風花。
「それに何がかなしくて自分のためにご飯なんか作らなくちゃいけないんですか」
 それは毎日自炊しているオレへの挑戦状か。
「人に作ってもらうのが良いんじゃないですか。あれですよ、人が働いているときにお昼寝するのが気持ち良いのと一緒です」
 わけわかめ。疑問が表情に出たらしく、それを見た理香が鼻で笑った。
「ふ、これが判らないなんて啓くんもまだまだです」
 年下に言われるとむかつくセリフNo.1かもしれん。
「ところでカレーの代金についてだが」
「なんでそんな話をいきなりするですか!」
 無論、頭にきたからである。年下のくせに生意気なのだ。ちなみに自分より年下で、自分より身長が高い奴は全部生意気である。もしオレに弟か妹がいて、身長が越されたら間違いなく「お前なんか破門だ!」と言う。何から破門するのかはオレが一番良く判らない。
「じゃあ、いやあ大自然の中で食べる弁当は格別だねえ」
 棒読みで話を変えてみた。
「遊園地でそれ言います? 人工物の固まりじゃないですか」
 人の気遣いを消し去る心無き発言にオレは絶望した。こうなったらとことんカレーの代金について言及しなくてはなるまい。最近の物価の高騰について語ろうとした。
 その瞬間だった。
「――!!」
 オレの身体に流れる古代大和戦闘民族の血が熱く滾った。
「啓くん、どうしたんですか?」
 オレの異変にすぐに気付いた理香は食事の手を止めてオレの視線を追った。
「あ、私も風船欲しいな」
 それを見て無邪気に微笑む理香はどうでもいい。オレはゆらゆらと立ち上がると恐ろしいほどゆっくりとした動作でそれに歩み寄ろうとした。
「啓くん? なにやる気ですかって、なに殺気立ってるんですか!?」
 理香も慌てて立ち上がりオレの腕を取るが、簡単に振り払う。すう、と細く息を吸い込むと一気に距離を詰めるため腰を落とす。重心は下げておいたほうが良い。右手を芝生につけ、両足に力をこめる。そして、左足の力を解放し、力強い一歩を――
「なにをやるつもりですか!!」
 理香の罵声が聞こえたと同時に右足を払われ、見事にすっころんだ。
「貴様、なにをする!」
「それはスペクタクルにこっちのセリフです!!」
「ふげ!」
 すっころんだオレの顔面に理香は膝をめり込ませやがった。避ける暇なんてなかった。理香はすかさずオレに馬乗りになると襟をぐぐっと掴んで無理矢理起こす。
「パンダさんを襲撃しようとしましたね!? なんでそんなとこで兄貴とシンクロしているですか!?」
 聞き捨てならんことを言われたような気がしないでもないが、戦闘民族としての血が奴の生存を否定している。
「ええい、離せ理香! 古代戦闘民族・大和の血が奴を倒せと告げているんだ!」
 肩を思い切り押すと体重の軽い理香はすぐにオレから離れた。その隙に一気に奴――パンダの着ぐるみ、子供に風船を配っているあんちくしょう――に近づこうと――
「だーかーらー、やめええい!!」
「うがああ!!」
 今度は背中から攻撃を受けた。背骨が軋むと同時に顔面から芝生にダイブ。コンクリートじゃなくて良かったと思う。
「離せ理香! 奴を打ち滅ぼさねば我が魂の安息は永遠に訪れない! 古代大和国の悲願を邪魔する気か!?」
 滅茶苦茶に身体を動かし、背中から理香を落とす。すぐさま起き上がると理香との間合いを大きく取る。
「啓くんはどこの国の人ですか! 日本っぽいこといって適当な国をでっち上げてますね!?」
 大和といったらやっぱり戦艦だよね。日本人として。
 間合いを詰めようとする理香の動きに合わせ身構えつつ、距離を保つ。道場の師範代に勝てるとは思えんが、漢には立ち向かわなくてはならないときがある。拳をぎゅっと握り締め、呼吸を整える。なんとなく主人公に秘められた未知なる力を使えるような気になる。でもこれはファンタジーじゃないのできっと気のせいだろう。
「ええい、愛国心を忘れた左翼が! 中国共産党に媚を売って自分自身を客観的に見てるがいい!!」
「啓くん、言ってることがハチャメチャにカオスです!」
「いいからそこを退け! オレのDNAが叫んでいる!!」
 じりじりと動いていたせいか、理香はパンダの着ぐるみ野朗の十メートルほど前にいやがった。偶然だろうか? いや、意図的に違いない。オレ相手に自分に有利(?)な位置取りをするなど理香にとっては容易いことだ。くそう、奴を打ち滅ぼすにはどうしても理香は邪魔だ。
「寝言は寝てから言ってください!!」
「何を言う! 生命が蝕まれ、尽きるとしても! 空がそこに在ればいい!! 我が友も言っていた!! 宿命が果たせれば我が友もようやく安息を――」
「啓くん!!」
 広場に響き渡る怒気100%の理香の声。
「お昼抜きです」
 冷たい声で残酷な言葉を吐いた。
 直後、有限実行とばかりに弁当箱のサンドウィッチを大口開けて食らい始めた。みるみる理香の体内へと消えてゆく。
 オレは泣いて土下座した。


 (オレ一人が)泣きながらの食事が終わると、ヒーローショウの時間の十五分前だった。せっかちな理香に急かされながらシート等を片付け、会場へ。ステージから離れているが、正面の場所を何とか確保。時間になり魂燃ゆるショウが始まった。オレたちは年齢を忘れて大はしゃぎ。子供を連れてきただけの親御さんたちも楽しんでいたようです。なんか、どこぞのお母様が「青の人がカッコ良い!!」と子供と一緒にはしゃいでた。旦那さんはちょっと渋い顔をしていた。まあともかく、良いショウでした。
 それからオレたちはショウで体力を使いまくったので比較的穏やかそうなアトラクションを楽しむ。ただし合間にジェットコースターに乗った。体力が朝より落ちていたので気絶した。
 空がオレンジ色に染まってきた夕暮れ。最後はここだろう!! と意気込んだ理香に引っ張られたのは――観覧車だった。
「意外ですたん」
「気持ち悪いです……」
 速攻で切り返される。やはり語尾に何かをつけるのはかわゆい女の子じゃないと駄目か。
「意外ですたん」
 しまった、また言ってしまった!
「啓くん……何が言いたいんですか?」
 ものすっご呆れた顔で言われた。理香の反応と愚行を繰り返す自分にショックだ。
「うん、ジェットコースターやフリーフォールの絶叫系が好きな理香が最後にこんなのんびりなアトラクションを選ぶのが意外だ、と言いたかったんですたん」
 な、なんだこれは!? 某ピアノの妖精の呪いか!!
「…………」
 夕日を受けたその顔は嫌そうに引きつってやがる。
「ま、啓くんの言ってることは判らないでもないですたん」
 乗りやがったぞ、この小娘が!!
「判らなくもないです」
 咳払いをしてから訂正した。
「でも、遊園地で遊ぶ際、観覧車でシメなくてはいけないって、ノックスの十戒に書いてありますよ」
「大嘘吐くな」
「はい、嘘ですう……」
 ぶーたれて上目遣いで睨んできやがった。か、可愛くねえ……。
「純粋に高いところが好きなんです」
「ほほう、煙と何とかのあれか」
 今日一番の笑顔で理香は言った。
「啓くんだけには言われたくないです」
 "だけ"にむやみやたらと力が入っていた。かなしくなりました。
「で、実際の理由は何だ?」
 内心を押し殺したずねた。観覧車の中は夕日が差し込みまくって何気に暑い。
「? だって最後に激しいの乗ったら疲れるじゃないですか。だからですよ」
 本当にこれでもかってくらい不思議そうに言われた。少女漫画とかで観覧車の中でどうのこうのがあるかと思ったんだが……、ふ、期待して損したぜ。ま、相手は理香だしそんなことはないか。
 よし! ここでシミュレート、他の女の子だった場合。


 シミュレート1. 風花

「わあ、高いね」
 観覧車の頂上で風花は窓から外を見下ろした。
「そうだな、ほれ、人があんなに小さいぞ」
 オレは彼女の隣で微笑むと窓の外を指差した。
「本当。ほら見て、遠くまでよく見えるよ。あれ学校じゃない?」
 風花の視線を追いかけて見ると、なんとなく見覚えがある建物があった。
「ぬう、そうかな……、上からなんて見たことないから良く判らん」
 素直な感想を言い、風花の顔を見た。
 無邪気な笑顔だった。でも何故か真っ青だった。
「!?」
「ああ、でもこんなに高いところにいると、ふらふらして何かにもっていかれそうになるよ、……ね?」
 すぐに、もっていかれるのは魂だ、と確信した。
「ちょっと待て、お前具合悪いんじゃ」
「ああ、意識が遠のいて……」
 本当に魂を持っていかれたのかそれとも貧血か!? 顔が真っ青を通り越して真っ白だ!!
 重力に引かれ、風花の身体は咄嗟に伸ばしたオレの腕に崩れ落ちた。
「風花ーーーーー!?」

 ぴーぽーぴーぽー……。

 初っ端から酷い。しかしあり得そうってとこがさらに酷いと思う。


 シミュレート2. 夏子

「高いねー」
 観覧車の頂点で夏子は感慨深く地上を見下ろした。
「気分が良いな」
「そう?」
 素直な感想に夏子はそっけなかった。まあ、夏子に同意など求めてもしょうがないのでいい。
「なんとなく地上を支配した気になれるな」
「あははは、馬鹿じゃないの?」
 笑顔で酷いことを言う夏子は鬼畜だと思う。
「ふ、判らんかね、上から見下ろすというのは支配者の特権なのだよ――あ、そうか。夏子は暴力で地上を支配してるんだもんな、今更そんな気にもなれんか、うははうはは」
 明るく笑い飛ばした。もちろん半分ほど冗談である。もう半分は当然お世辞。
「…………」
 夏子も笑っていた。
 でもオレの表情は凍りついた。
 目がちっとも笑っていなかったからだ。おまけに指の関節をポキポキと鳴らせていた。それにこめかみに青筋が浮かんでいる。
「い、いや、夏子さん、これは一種のアメリキャンジョー」

 ガッシャーン!!

 最後まで言えなかった。理由はオレが空を舞っているからだ。正確に表現するとしたら夏子に殴り飛ばされて外まで飛んでしまったからだ。

 これは酷い。生命の危機もあってさらに酷い。


 シミュレート3. 麻美

 麻美と観覧車。まず組み合わせからしてありえない。そんなことは表に出さずに何とか頂上まできた。あとは降りるだけだ。
「……ところでヒエログリフについてどう思う?」
「ところで、の意味がまず判りません」
 そもそも会話なんてしてなかったんですが……。
「……うふふふふふふふ、メトロノームの奏でるハーモニーは心地よいわね」
 そもそもメトロノームは楽器じゃないわけでしてね……。つっこむべきなのかそうじゃないのか悩む。
「……肩こりは腕立て伏せで解消されることがあるのよ」
「何もここでそんな役立つ知識を言わなくても」
 というか脈絡がないよう!!
「……世界なで肩選手権」
 にこりと微笑んで不可解極まりないことをおっしゃった。
 誰か、オレを助けてくれ……。

 …………違う意味で酷い。


 シミュレート4. 弥生先輩

「観覧車だ、観覧車だ!!」
 弥生先輩は狭いゴンドラの中で小さい子供のようにはしゃいだ。おかげで揺れる揺れる。ぎしぎし言っててめっちゃ怖いです!
「先輩、あんまりはしゃがないでください、揺れます落ちます!!」
「けけくん心配性だよう」
 慌てて止めるけど、弥生先輩は無駄に余裕に溢れている。しかも文句まで言いやがる。
「いや実際めっさ揺れてますし!!」
 窓の外から見える他のゴンドラは安全に上昇中……だと思う。こっちら揺れてるから判らん! つーか怖い! 助けて! 死にたくない!!
「大丈夫だよう、そんな簡単に落ちるわけじゃない。日本の技術はすごいんだよ。ゆれるーゆれるーゆりかごのーわーたーしー♪」
「だーかーらー!!」

 精神的にとても良くない。


 シミュレート5. 三上先輩

「…………」
「…………」
 沈黙がゴンドラ内を支配する。機械が稼動するゴドンゴドンと言う音さえこの沈黙は破れない。
 オレのこめかみから汗が流れる。口の中はカラカラだ。膝の上で握り締めた拳は異常なほどに冷えている。すべて無用な緊張のせいだ。
 この沈黙を作り出したご当人、三上先輩は足を組み、窓に肘をついて手のひらに顔を乗せてつまらなさそうに外を眺めていた。その視界にきっとオレは入っていない。
「…………」
「あの」
 沈黙に耐えられなくなって口を開いた。
「なに?」
 三上先輩はこっちを見てもくれなかった。
「高いですよね」
 何て無難な、何より当たり前なことを言っているのだろう。でも口の中が乾いてロクに動きやしない。
「頂上はもっと高いわ」
「……そう、っすね」
 冷たく当たり前なことを返された。
「…………」
「…………」
「これって、無駄な時間よね」
 ため息と共に吐き出された言葉は無情だった。

 泣きたい。


 シミュレート終了。オレは両手で顔を覆い、泣くのを必死に堪えた。
「啓くん、どうしたんですか? いきなり」
「かなしい真実を思い知ったというか、何というかだ」
「?」
 不思議な顔をしているが、説明する気はない。疲弊した心にトドメを刺しかねないからだ。しかも自分自身の手でだ。間抜けにもほどがある。
「まあいいですけど……」
 オレから視線を外すと窓の向こうの夕日を眩しそうに眺める。
 しばしの沈黙。三上先輩(想像)のとは違い、息が詰まるような緊張感は皆無だ。
「啓くん」
 どえらく真面目な顔で理香は沈黙を破った。理香はちゃんと正面から真っ直ぐにオレの目を見ている。
「なんだ?」
 カレーの話ならば妥協はせんぞ。そんな強い気持ちで理香の視線を受け止めた。
「とてもつまらないです」
 クソ真面目な顔をして、クソふざけたことをぬかしやがった。
「ゆっくり上昇、そして下降。いったい何が楽しいのですか!!」
 真面目に受け取ろうとした自分が馬鹿みたいだ。思い切り顔を引きつらせて笑い、視線を逸らしてやった。
「遊園地はやっぱりスリルです! スピードです!! こんなのつまらないです!!」
 お前がここを選んだんじゃねーかとつっこみたかったが、聞かないだろうな。
「ああ、こんなことならゴーカートレースにするべきでした! そんで啓くんに勝ってソフトクリーム奢ってもらうんです!」
 ……勝てるかどうかは判らんだろうに。今の発言で思ったんだが、理香ってスピード狂なんだな。もし将来免許を取ると言い出したらやんわりと止めよう。本人だけじゃなく周りに迷惑だ。
「啓くん、聞いてませんでしたね」
「もちろんだとも」
「――っ……」
 速攻で肯定されると思っていなかったのか、ぽかーんとしている。歳相応でちょっと可愛い。
「しりとりで勝負です!」
 意味が判らなかった。
「先行は私です!」
 流れ的に「ドロー!」と勇ましく言って欲しい。
「り、ですから……りんご!」
「ごますり」
「りんごあめ」
 ちっ。メビウスゲームに突入できなかったぜ!! 博の妹のくせにノリが悪い。
「めぐすり」
「りす」
「すり」
「? ああ、財布をこっそり盗む奴ですね。ええっと、……理科室!」
「つりばり」
「えーと、りー、りー、りー……」
 球場で盗塁を望む観客のような発言をする理香を眺める。どうやら意図的に"り"で終わらせているのに気付いていないようだ。ふふん、メビウスゲームが出来ない腹いせだい。
 降りるまで不毛なしりとりを続けた。

 そのあとは何事もなく帰路についた。
 帰りの電車で理香が居眠りをしていたが、オレはやさしいので降りる駅まで寝かしてやった。
 が、降りる一駅前で理香を揺するがなかなか起きない。ちなみにオレの降りる駅はまだ先だ。オレは辛抱強く理香の名を呼び揺さぶり続けた。それでも起きなかった。
 頭にきたので理香を荷物のように肩にしょって麻生宅まで届けてやった。駅から麻生宅まで歩いて五分くらいだが理香は目を覚まさなかった。こんな不安定な状況なのに。着いたら博の母親とは思えないほど華奢な(理香の母親と言われれば納得出来る)おばさんにお礼を言われ、理香の父親とは思えないほどガタイの良い(博の父親と言われれば納得出来る)おじさんには豪快に笑われた。理香の荷物っぷりが面白かったらしい。
「おおう、マイシスターがまるで荷物のようだ」
 おじさんの笑い声に呼ばれたのか、博が出てきた。
「プレゼントフォーユーです」
 おじさんに理香を渡すと、晩飯飯食ってけ、泊まってけと豪快に言われ、有無を言わさず中に入れられた。晩御飯代が浮きました。ラッキー。

 翌日、昼休みに理香からメールが来た。

『啓くんはレディに対する接し方がなってないです!!』

 きっと家族の誰かに昨夜の荷物っぷりを教えてもらったんだろう。しかし休み時間に抗議とはなかなか空気の読める奴だ。
 素直に『お前さん……レディってよりガールだろ……つうか体型だけで見たらボーイだよな』と返してやろうかと思ったが、夏子の顔を見て止めた。その直後夏子に因縁を付けられたが華麗にスルー。
 代わりに『ぐっすり寝てたから起こさなかったんだ。寝顔可愛かったよう』とハートマークをたくさん付けて返信してやった。これならきっと怒られない。

 放課後、校門で待っていた理香に襲撃された。
 理不尽である。



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