暗室 ・九時頃、弥生とありりん、暗室に到着 / 基本的に鍵をかけます ・十一時三十分頃、ありりん、お昼ご飯を買いに退出 / 退出後、すぐに鍵をかける ・十一時三十分頃から十一時五十分頃まで、暗室に弥生一人? / 暗室密室状態(仮定) ・十一時五十分頃、ありりん、お昼ご飯を持って暗室前到着 / 上に同じ ・十一時五十五分頃、ありりん、ノック。返事はなし / 上に同じ ・十一時五十五分頃、ありりん、廊下から弥生発見 / 上に同じ ・十一時五十五分頃、ありりん、暗室近くの用務員室に駆け込んで暗室を開けてもらう / 暗室NOT密室 ・十二時頃、ありりんと用務員さんに弥生救出される / 上に同じ 生徒会室 ・九時頃、会長と洋子と文化委員長が生徒会室に到着。 ・十一時四十分頃まで生徒会室で会議。 ・十一時四十分頃からそれぞれ食事。 音楽室 ・十時頃、音楽室に到着。 ・お昼が過ぎても一人で自主練習。 去年起きた暗室密室殴打事件。 この事件の犯人を見事に見つけられたら、来年の写真部の副部長の座は君のもの!
「ふむ」 オレを馬鹿にした後、元樹は立ち上がり、暗室をぐるりと見回した。オレも真似して見回す。 「そうだ、オレ現場検証してきます!」 ミステリのお約束じゃないか。現場と遺体にはいつだって真実が隠されている!! 「いいけど、……去年の話なんだよ?」 弥生先輩はもう少ししか残っていないケーキをまた小さく切りながら言った。オレは首を傾げる。 「うん、だからね、トリックとかそーゆーのの跡は残ってないよ?」 「……っ!!」 忘れてた、なんて言えやしない。 「い、いや、ドアとかなんか見ればトリックが思いつくかもじゃないですか!」 そ、そうだ、ドアの隙間から糸を通して鍵をかけたりとか、その確認だ。必死にこめかみから伝う汗を拭いながらまくし立てる。 「んー、そうだね。うん、どうぞ見てきちゃって」 フォークでケーキを一口入れてからこくこくと何度も頷く弥生先輩。うし、誤魔化したぞう。 「じゃ、暗室のドアから」 胸を張って堂々と歩く。がたりと後ろから音がした。振り向くと風花、それに元樹。麻美は冷めたコーヒーを飲んでいてこちらにはまったく興味を示さない。……こいつ、考える気ないな。 「風花はともかく、元樹、何の用だ?」 「君に用はない。あるのはドアのほう」 「なんだとう!?」 「いいから、早くどけてよ。時間の無駄だ」 「うがうう!!」 反射的に威嚇。しかし悔しいが元樹の言っていることは正しいのですぐ止める。大人しく三人揃ってドアの元へと歩いた。 「ふむ」 まず鍵の確認。 よくあるつまんでガチャと回す奴だ。横なら開いてて、縦なら閉じているって奴。ステンレス製かな? 「ステンレスって磁石くっつくの?」 元樹ではなく、風花に尋ねる。 「くっつくよ」 オレを見てにっこりと微笑む風花。その笑顔に心が和む。 「ふーん」 元樹の手前、それは表に出さないようにして、流す。 「磁石はくっつくんだ」 てことは、上手いこと鍵に強力な磁石をくっつけて、糸かなんかで上手いこと引っ張れば鍵はかけられるんだ。 よし、ならば次は隙間があるかどうか調べよう。 まずは壁とドアとの隙間。 「…………」 ……ねぇ。これっぽっちもねぇ。何でだ! たかだか部室のドアの分際でこの密閉性! 視聴覚室かお前は!? 「隙間ないじゃん!!」 隙間あり前提のオレの推理は早くも瓦解した。 「ホントだ……」 双子は声をハモらせ感心している。 「やよ先輩、このドアっていつからこんな立派になったんですか?」 「りっぱ?」 「教室のドアよりはって意味でしょ。でも暗室でこのドアってのは納得できるよ」 「にゃんでー?」 「やよ先輩言っていたでしょう? 光は天敵だって」 うん、確かにそんなことを言っていた。そっかそっか、光を遮るには普通のドアじゃあかんな。 「んー? わらひらちがはいったとひはらそーだひょ」 弥生先輩が明らかに口に何かを入れながら答えた。 んー? 私たちが入ったときからそーだよ。だな。 「推理小説の基本、糸で鍵かけは出来ないね」 肩をすくめ、元樹が言う。オレは肩を思い切り落とした。 「で、鍵は弥生先輩が持っていたと」 用務員さんも持っていたが、アリバイが成立している。 「ピッキングしたってのが現実的だね」 「それは……お約束違反じゃないのか?」 元樹のすべてをおじゃんにしかけない一言に思わずツッコんでしまう。 「そのとーり!!」 いつの間にかオレたちの背後には弥生先輩がいた。口の周りに生クリームをつけて。一応言わないでおこう。 「ピッキングなんてないよ。だいたい、私一人殴るのに何でそんな技術得なくちゃなのさ」 そう言われるとそうなんだが……。 「でも犯罪行為には役に立ちますよ?」 「私はそんなことしないよ!」 妙に慌てて弥生先輩は手と首を振る。……誤解したくなる反応なんですが。 「やよ先輩、ピッキング出来るんだ……」 元樹の独り言は……えーと、まあ捜査に関係なさそうなのでスルー。 「とにかく、容疑者の五人にそんなこと出来る人はいないよ」 「……被害者は出来るのね」 今度は風花がこそりと言う。えーと、スルー。 「てことで頑張れ諸君!」 片手をあげて去ってゆく弥生先輩。逃げたんじゃなくて本当に気にしてないだけだろう。 ま、それは良いとして、捜査捜査。 「仮に隙間があってもどうってことないよね」 風花はドアから視線を外し、天井を見つめながら言った。 「にゃんで?」 「だって鍵はかけられても開けられないでしょ」 「んー?」 腕を組んで思い切り首を傾げる。 「啓輔が検証していたのは出てから外から鍵をかける手段でしょ。出る前にまず入らなくちゃ」 「あ」 ……すっかり忘れてたよ。 「あ」 今度は風花が何かに気が付いたように声をあげた。 「どうまさいなしたか?」 「どうなさいましたか、ね」 視線は天井に向けたまま訂正する。 「で、どったの?」 「あれ?」 風花が指差すのは天井。何の変哲も――なくなかった。一昔前のアイドルのポスターが張ってあった。 「変なところに張るんだね」 元樹が感心している。感心することなんだろうか。 「……まあ、弥生先輩率いる部活だしなあ」 特に不思議なものでもあるまい。 「ん?」 何気なく見上げた先に暗幕が。左を見るとカーテンのようにヒモで軽く縛られていた。 「これは?」 「ああ、それはドアの隙間から光を通さないための暗幕」 部員の元樹が答える。 「え? でもこのドアだよ?」 「白いドアに黒い紙が張ってる時点で不思議に思うと思うんだけど、ここ、光を入れるための嵌め殺しの窓があるんだよ。紙だけじゃ完全に光を遮られないから、これがある」 あ、ホントだ。何か黒い紙張ってやがるぜ。何で気が付かなかったんだろう……。 それはともかく。そっか、そうだよな。暗室作業って本当に闇の中なんだな。つかその馬鹿にしまくった目はやめなさいこのやろう。 「さて」 息をついて目を閉じる。次はどこを調べようか。 「あれ、元樹。他は調べないの?」 「うん、あとは考えれば何とかなるでしょ」 「確かに」 むかつく会話に目を開けた。すでに元樹はイスに座り左手を口元に当て思考に没頭していた。 「啓輔は?」 「音楽室に行くっ」 無駄に力強く言い放った。風花は頷くとテーブルのほうに向いた。 「そう、じゃあ、ちょっと行ってきますね」 「えー……」 弥生先輩は口に付いたクリームを舌でぺろりと舐めてから不満の声を上げた。 「ここで考えても判ることだよー。わざわざ見に行くとこでもないよう」 そうなのか? しかし、思い切り嫌がってるなー。見られちゃまずいもんでもあるんだろうか。 「別にいいじゃない。音楽室は」 「うーうー」 テーブルのほうを見ると弥生先輩は足をばたばたさせて不満を表していた。……あんたいくつだ? 「うー……でもここでだだっこさんっぷりを発揮してると先輩の威厳がなくなるので許可します」 最初から"先輩の威厳"なんてないだろう。 「でーもーやーだー!!」 だだっこさんっぷりでもなく、立派なだだっこですよ先輩……。 「いいから、行ってきなさい」 相手にしないで三上先輩がそっけなく言った。 「はあ」 いいのかなあ……。弥生先輩の顔見てたらすげー行きにくい……。それに、テケトーに言ったことなんだから無理して行かなくても―― 「でもうるさいからすぐに帰ってくるように」 ――行くはめになった。 「あい、了解ッス」 「はーい」 オレと風花の声が重なる。違う言葉なのでただの雑音にしかならない。 「……そして私は元樹の代わりに行くのです」 麻美が立ち上がった。元樹は頭脳労働専門ってか、けっ。 「……残念。風花と二人きりにさせないためです」 それ以前の問題でオレちょっと泣きそう。 「あ、そう……。 じゃ、じゃあ三人でちょっくら行ってきます」 「すぐ帰ってきてね」 心配そうな声と顔で弥生先輩は俺たちを見送った。 廊下に出て、弥生先輩の表情を気にしつつも階段に向かって歩き出した。 「……そっちへいくとかえっちゃうよ」 どこの古井戸だよ!! 麻美のボケは無視して歩き出す。 「啓輔、そっちじゃないよ」 「風花までボケるのか!?」 おのれ、オレの捜査を邪魔する気か! 「違うって、そっちの階段より体育館側の階段のほうが近いよ」 「へ?」 うちの学校は全部で三つの階段がある。生徒用玄関近くに一つ。職員用玄関近くに一つ。そして体育館近くに三階までしかないのが一つ。三階までなのは純粋に建物が三階建てだからである。うちの学校は四階建ての建物と三階建ての建物が繋がっているのだよ。 「音楽室の場所って知ってるの?」 とても重要なことを風花は聞いてきた。当然、学校の構造を知っているからといって教室全部を把握しているわけじゃない。 「………………知らない」 芸術は書道をとってるんだい。音楽室なんて関わらないんだい。 「じゃ、付いてきて」 「あい……」 大人しく音楽を選んだ人間に付いて行こう……。すたすた歩き始める風花を肩を落として追いかける。隣には音もなく麻美が付いてくる。 「何でまた音楽室に?」 「……捜査」 元樹に教えるんじゃなくて、自分で考えるってことか? へえ、考える気があったのか。つくづく何を考えているのか判らないやっちゃな。 「……嘘です」 「――……っ!」 そーですかそーですか。もういいです。 体育館近くの階段を上る。たどり着いた二階。目の前には音楽室があった。 「ありゃ、確かにこっちのほうが近いや」 オレが通ろうとしていたルートは、職員玄関近くの階段を上り、職員室の前を通って、実験室集団(物理地学生物化学)を通り過ぎて奥の音楽室へ――だった。うん、遥かにこっちのほうが早い。 「んならば調べるか」 何を? とは問わないように。オレも思いつきでここに来ただけで特に考えていない。 「入ってみる?」 風花の言葉に無言で頷く。……音楽室前なのに静かだ。誰もいないし、今日はブラバン部は休みなのだろうか? 「鍵かかってる」 ブラバン部がいない時点で気付くべきだった。ブラバン部とはいえ毎日活動してるわけじゃないってことか。毎日やってんのなんて体育会系だけか。いや、でも中学の時のブラバン部は毎日活動してたんだけど……、高校だと違うのか。 「それで、啓輔は何を調べようと思ったの?」 「う」 だからね、風花さん。特に考えないで出てきたので、そう言う質問は困ります。 「あ、怪しいものとかないかなーって」 「去年のことなのに?」 風花さん、無邪気に人を追い詰めるのは感心できませんな。 「あ、暗室から音楽室までのルートの確認と、所要時間を知りたかったのさ」 「なるほど」 口からのでまかせだが、風花は納得してくれたようだ。 「で、どのくらいかかったの?」 計ってない、なんて言えません。背中に嫌な汗がだらだらと流れた。 「……二分ちょっと」 言いよどむオレの代わりか助けか知らんが、麻美が答えた。 「なら、走ったら一分もかからないね」 「そうだな」 オレは無駄に大きく何度も頷いた。 ここから走って暗室へ行く、でも暗室は鍵がかかって入れない。 「ううん、鍵がかかってるってのがどうにかならんのかなー」 「やよ先輩に開けてもらうしかないよね。でも、開けたなんて言ってないから……」 答えは誰かが弥生先輩に気付かれずに開けた、と言うことになる。隙間の欠片も無いドア。鍵が無い以上ピッキングでもしなくちゃ開けられないドア。 「……どうにかして開けたとする。上手いことしてやよやよ先輩を窓で気絶させたとする」 麻美が人差し指立てあらぬ方向を見つめながら言う。 「……さて、どうやって外から鍵をかけましょうか?」 そう、この問題もあるのだ。入っても外から鍵はかけられない。まあ、入る方法も見つかってないから棚上げしてもいい問題だが……。 「ああ、ドアをどうにかせんとあかんねや!!」 現地人が聞くときっと不快になるであろう関西弁を言い放つ。 「窓は?」 「弥生先輩が言ってたろ、前日は雨で中庭はぬかるんでいた、そんなとこ歩いたら足跡が絶対に残るって」 残ってなかったんだ。だから中庭経由は無理。 「じゃあ、壁を伝って入ってきたとか」 「蜘蛛男か!」 映画の彼なら出来るかもしれない。 「……窓って誰が開けたのかしらね」 ぼそりと重要そうなことを麻美が言った。 「…………」 「ドアから入っていないとなるとやよ先輩しか開けられないと思う」 弥生先輩じゃないってことは犯人が割らなくちゃいけないことになる。 「開いていたのは換気用の窓。窓を割られたってならやよ先輩は言ってくれると思う。ならやっぱりやよ先輩が開けたんじゃない?」 風花の言葉をゆっくりと吟味しながら頷く。うん、別におかしいことは無い。念のため弥生先輩に聞いておくべきことだろうが。 「地面に足跡つけないで窓に近づく方法ってある?」 半ば冗談の問に麻美は笑顔で答えてくれた。 「……宙に浮けば良いじゃない」 そーですね、そうですとも。人間にそれが出来るかああ!! 「麻美さん、壁に張り付いてって意見のほうが現実的でっせ」 内なる激情は隠したまま、あくまでも冷静にツッコむ。 「……そう?」 ぼうっと虚空を眺めつつ首を傾げる。 「そうだ、細長い板を窓からかけて」 「やよ先輩に気付かれるね」 風花が視線を天井に張り付かせたままツッコミを入れた。うぬ、そうか。 「なら、縄をピーンと張ってそこをこう、よじよじと移動するんだ」 「……やよやよ先輩に気付かれる、っていうよりそんな怪しい人を入れないと思う」 ……いや、弥生先輩なら入れそうだけど。 「……凶器を持ってるかもしれない人なのに?」 「暗室には金属バットとかあるんだし、持ってないかもしれないじゃないか」 反論。 「……犯人の顔は見てないって言ってたじゃない」 「う」 言ってた、確かに言ってました。失念してましたともっ。 「こ、こーゆーときはなあ、第一発見者を疑うのが基本なんだ!」 強引に話を変えよう。 「……ありりん先輩ね」 暗室を退出あとコンビニに行って帰ってきただけの人。その姿を校内で見た人がいないのでアリバイはない。 「本当にコンビニ行ったのかな?」 「……レシート持ってたって言ってた」 行ったのは確か。コンビニにいた時間は店員がアリバイを証明してくれる、か? 「そういう細かいアリバイは考えなくて良いと思う」 天井を見つめたまま風花は口を挟む。 「どう言う意味?」 「そんな難しい問題じゃないと思うの」 お嬢様は何かひらめいたのだろうか? 視線を固定したまま上の空だ。考えに集中してるってことか。 「なあ、あそこの中庭ってどうやって入るんだ?」 風花は考えに集中してもらうことにして放っておく。オレはほけーとしている麻美に尋ねた。 「……暗室の隣の?」 「うん」 そら、他にも中庭はあるけど、今聞くったら暗室の隣だろうが。 「……廊下の窓か、暗室の窓」 「は?」 間抜けな声を上げてしまった。 「ドア、ないの?」 無言で首を振る麻美。どっちじゃ!! 「……あるよ」 何故素直に言わんのじゃ!? まったくわけわかめですこの人。 しかし、ドアの存在をまったく知らなかったぜ。まああそこを歩くのなんて体育館に行くときくらいだから気付かないもの当たり前っちゃ当たり前なんだが……。 「……あるけど、開いてるとこ見たことない。いつも鍵がかかっている」 何の意味があるんだ、そのドア……。――もしかして、あそこ中庭じゃなくてデッドスペース? 実際他にやったらと広い中庭があるし。そこはベンチやらなんやらがあって生徒の憩いの場になっている。おかげでちょいと汚いけど。 麻美の話じゃ常に施錠されている中庭(デッドスペース?)へのドア。となると、窓から行くしかないよな。窓ならすぐに鍵をあけることができるし。事件当日、校内にそんなに人がいなかったとはいえ、窓から中庭に出ようとするのは危ない、かな? 少なくとも見つかったら変な人に思われる。 「うううん……」 中庭へ侵入、足跡をつけないで暗室の開いている窓から入るとする(方法は別として)。でもそうなると弥生先輩に顔を見られる。見られないようにするには、窓に背を向けた状態で気絶させる。でも弥生先輩は窓から身を乗り出して気絶してた。だからこれはありえない。でも窓に運べばそれは解決されるよな……。倒れた跡があったなんて言ってないし。それに助けに入ったときにそーゆーのってなくなりそう。でもそもそも暗室に入る方法がないんだから……。あかんやん。 「……そろそろ戻りましょう」 ぬぼーとした麻美の声がオレの思考をストップさせる。 「うん、そだな。心配してたし……ここで考えても判らん」 「心配……」 やはり風花は天井を見たまま上の空。 「何で心配してた、音楽室ならいい、音楽室なら、他の部屋、中庭、廊下、生徒会室、体育館……」 「風花、暗室に帰ろう? ここじゃなくても考えられるだろ?」 「鍵はかかってる。開かない開けても閉められない鍵はやよ先輩、開いていたのは窓、上半身、身を乗り出して」 視線を固定させてぶつぶつと独り言を言うお嬢様。ちょっと怖いです。 「どこを殴られた? 場所は内緒、凶器も内緒、見つかってはいる、何故隠す?」 何故隠す? その言葉を脳内で繰り返す。いや、隠しているわけじゃない。見つかったけど教えてくれていないだけで……。でも教えてくれないのは何故だ? あれ? 話を聞いたときも思ったなそれ。やっぱりすごいヒントが隠されているのかな? 「出て欲しくない、ここで、暗室で考えれば判る」 それは現場検証しなくても良いって意味だ。つまりオレのこの行動は無駄ってこと。おろろーん。 「出て欲しくない、出て欲しくない、音楽室なら良い」 音楽室なら良い。逆を言うと、音楽室以外は駄目。 ん? 音楽室以外は駄目? 「……帰ろ? やよやよ先輩が心配してるよ」 「うん……」 頷くが……なんで心配するんだ? 音楽室なら良くて他は駄目。他ってどこだろう? アリバイのない人間は五人がいた場所。第一発見者のありりんさんは廊下にいた。一人で練習していたブラバン部の部長さんは音楽室。生徒会室で会議後、フリーになった生徒会長、文化委員長、生徒会副会長の三上先輩の三人はどこにいたんだ? 「あ」 元々さほど動いていなかったが、風花の動きが止まった。 「うん、なるほど。戻ろ」 一人で納得して風花はさっさと歩き出した。 「え、ちょっと待って、一人で納得するな!」 慌てて追いかけるオレとのんびり歩き始める麻美。 「風花、犯人もトリックも判ったのか?」 「うん」 あっさり頷いた。 「犯人はともかく、トリックはね、トリックじゃないよ」 「は?」 意味の判らないことを言うのはオレの専売特許だ。使用料を請求する! 「多少はあると思うけど、やよ先輩の話をよぉく思い出せば判るよ」 そう言うとニッコリ微笑み風花は一人で楽しそうに歩き出した。 「どう言う意味?」 振り返って麻美に問い掛けた。 「……そのまんまの意味」 「そのまんまって、お前も判ってるのか!?」 「……まあ、やよやよ先輩の言うことだから」 えええ、てことはオレだけ判ってないの? てこたあ、風花か麻美が副部長じゃないか! 元樹の言う通りになってしまう!! 「……それに、私たぶん凶器を見たことがある」 「なんですとー!?」 衝撃の発言にオレは絶叫。麻美の肩を掴むとZ方向に揺さぶった。が相手が相手なのですぐに手を止める。後が怖いからである。 「どういうことだどういうことだそれはフェアじゃないじゃないか!!」 「……暗室で見たんだもん。仕方ないじゃない」 暗室!? そ、それなら麻美が見かけるのも仕方がない……。暗室か、気絶されられるものったら、竹刀に金属バットにバスケットボール、バレーボールサッカーボール、公式野球のボールもあったな。軟式のボールもあったけど、あれは無理だ。 「でもボールって速度がなきゃ気絶なんかさせられないよな……」 となると、距離も必要だ。 「…………」 視線を感じて麻美を見た。なんか、意味深に笑ってらっしゃるんですけど……? 「……どうやって気絶したのか、それが一番重要じゃない?」 いや、殴られたんだろ? 笑ったまま、麻美はやはりのんびりと歩き始めた。立ち止まったオレは一人置いていかれる。 「……やよやよ先輩らしいわ」 廊下に響く、麻美の独り言。 弥生先輩らしい? それって付き合いの短いオレには良く判らんってことじゃないのか? うぬれ。 「むむむうう」 唸っても仕方ない。戻ろう。腕を組んで階段を下りる。危ないので真似をしないように。 「あ、二階って生徒会室もあったんだっけ……」 でも音楽室だけって言ったし……言ってはないか。まあ寄ったら遅くなるからいいや。 しっかし……、風花と麻美は判ったのか。残った元樹はどうだろう? ここで考えてれば判るって言ってたからその場から動かずにじっくり考えてるに違いない。なあんか、判ってそうなんだよなー。暗室でのあやつは余裕綽々だったし……。 ま、相手のことはともかく。 「うがー」 真面目に考えないと……。 弥生先輩は窓に身を投げ出し、気絶していた。そのとき部屋は密室だった。 ドアは施錠され、鍵は弥生先輩が持っていた。しかも胸ポケット。ドアは密閉性の高いドア。糸を入れる隙間はもちろん、光すら入れ――多少は入るか。 とにかく、完璧に鍵がないと開かない状態だ。 次に窓。 中庭に面した窓は開いていたが、前日の雨のせいでぬかるみ、歩けば足跡がついてしまう。窓の出っ張りを利用して入るにも足跡が残ってしまうので駄目。 「…………」 完璧な密室じゃないのか、これ? もしかしてここで犯行は行われていない! とか……。それはないか。弥生先輩、ずっと暗室にいたって言ってたし。 でも密室状態でどうやって中に入る? 『犯人はともかく、トリックはね、トリックじゃないよ』 ふと蘇るのは風花の言葉。 トリックは、トリックじゃない。なんのこっちゃ。トリック使わねば入れないじゃないか。 『やよ先輩の話をよぉく思い出せば判るよ』 『……やよやよ先輩らしいわ』 事件を見抜いた二人の言葉。 弥生先輩、"らしい"。 よぉく思い出せば、判る。 って、風花さんや、あの人たっくさんしゃべってましたぜ? それを一から思い出せってか? 考えながらゆっくり歩いたせいで二人に完璧に置いていかれたようだ。でも暗室はもうすぐそこだ。 てくてく廊下を歩いてふと窓の外を見る。中庭、と言う名のデッドスペース。ここの中庭は体育館へ続く廊下二本に挟まれている。北側と、南側。暗室は南側である。そんで中庭に面しているのは廊下とトイレ(階段近くにある)と暗室と講義室のみ。中庭を挟んで暗室、講義室とトイレが向かい合ってるんだな。 ドアが駄目なら窓だけど……地面に足をつけないで入る方法。 『……宙に浮けば良いじゃない』 人間に出来るかっつーの。ったく麻美さんは普通の人間というものを理解していないから困る。 「……ふう」 大きなため息をついて、肩を竦めててくてく歩く。 ううん、やっぱり頭脳労働はオレの仕事じゃないよう……。 夏:結城夏子 博:麻生博 【初ミステリ記念出題コント】 博:やあやあやあ、みんなのエーロー博だよ。元気にしてたかい? 夏:出てない二人の出題コーナーです。えーと―― 博:ちょ、夏子、どうしてそんなあっさりと話を進めるんだ。せっかく出たんだ、 こう、なんかド派手なことをやってどさくさに紛れて主役交代とかやっちまおうぜ。 夏:…………(うわあ、面倒な奴と組まされたよ的な沈黙&露骨に嫌な顔)。 さて問題です。 博:スルーかよ! 問題 1. 暗室に一人で居た弥生先輩を気絶させたのは誰でしょう? 2. どうやって気絶させたのでしょう? 3. そしてその凶器は一体なんでしょう? 夏:作者がアレなので、頭の体操くらいの気持ちで考えてください。 博:もちろん、BBSやメールでの推理や答えを待っているぞ。 当然、正解者先着千名様には作者お手製の念が送られる。 ボグワア!!(夏子が博を蹴り飛ばした音) 夏:まあ、実際に正解者が出たら――三つのうち一つ……はいくらなんでもだから、二つ以上当てられた方がいたら何か考えるそうです。 これも作者がアレなのであまり期待しないほうがいいです。 ……大体さ、あの部員の事件でしょ。馬鹿らしいオチが予想出来そう―― 博:おおっと、ヒントっぽいセリフはそこまでだ。 夏:……あんた、元気よね。 博:ああ、俺は三上先輩に冷たい眼で見下されるためならいくらでも甦る! ついでにハイヒールで踏んでもらいたい!! 夏:そう。じゃあ、後編に続きまーす。 博:ふ、夏子に冷たくされたってちっとも嬉しくないぞ。 お前も三上先輩みたいにこう、おちt(ry ガッシャーン!!(夏子が博を場外に蹴り飛ばした音) 博:俺は、俺は星にー……(徐々に遠ざかっていく)。 夏:後編、お楽しみにー♪ 後編 に続く |