そんなわけで、今僕らは拉致られ中です。



邂逅輪廻
ハンドメイドメイデン3
〜アンド・トリックスター〜

七桃りお



「……これは、考えてなかった」
「どうしました、マスター」
 僕は現在、アルビノとともに七人のメイドに周りをがっちり固められて廊下を歩いていた。
 結局、あの後僕のとった行動は一つだ。
 ――降参。
 彼女らは朝、僕を連行すると言った。ならば、ある程度僕が無事でないといけないはずだ。大人しく従えば、そう危害を加えてくることはないだろう。だったら素直に降参するのが一番だろう。そもそも僕は、とりあえずあの状況から逃げ出すことが出来ればそれでよかったのだ。
 少し離れた位置にいる、無表情のアルビノを確認する。彼女は僕に従ってくれた。その時に武器類は全て没収され、今は一番後方の二人のメイドが肩に下げるクーラーボックス内にあるはずだ。
 アリアは「面倒はゴメンだわ」とさっさと屋上を立ち去った。アーチブリッジ経由で別の場所から校舎へと入ったらしい。全く協力してくれないというのは、予想できてたけど。
 というわけで今は動かない。とりあえず、なされるがままに。敵の親玉との謁見もいいだろう。



「って、ここは――大学?」
 葦原大学。
 葦原高校とは背中合わせになっており、その二つを結ぶ門(小ぶりだがこれまた凱旋門)に僕達は立っていた。
 ……もしや、親玉は大学生なのだろうか。いや、十分ありえるかもしれない。そもそもこのメイド達も正規のメイドではないだろうし、そうなると誰かが産み出したことになる。葦原大学だけでなく、高校にも――つまるところ葦原学園には、それこそ天才と呼ばれる人物が何故か数名いる。学園七不思議の内の一つだとか。
 大学生にちらちら見られながら、僕達は奥深くへと入ってゆく。すんなりと中に入れることから、やはりこのメイド達は大学に関係しているのだろう。道順を頭に叩き込みながら、僕はある一室に辿り着いた。
「……葦原学園大学M.A.I.D.研究会」
 嫌な名前だった。たぶん、命名するときかなり悩んだと思うなぁ。
 なんて思っていると、右のメイドが扉をノックした。
「おかえりー。入ってきてっ!」
 軽快なソプラノ声。女性らしい。
 失礼します、と軽く頭を下げるメイドに挟まれる形で僕は部屋へと押し込まれてしまった。後にアルビノが続く。
 教室の二倍ほどの白亜の一室には、天井壁床問わず四方八方から奇怪な機械が飛び出していた。幾何学的な椅子や机が並んでおり、その更に奥の机の上。そこに彼女は、いた。

「――はじめまして、藍原遊弥クン。そのメイドの主は、この早乙女躯瑠々さおとめ くるるだよ」

 クラスメイトの女の子が。
「……って、ウチのクラスの早乙女さん!?」
 僕は彼女を知っていた。いや、正しくは知らない。
「うにゃ、バレちゃったかー。……あ、クルルのことはクルルでいいよん♪」
 が、その名前は知っていたのだ。早乙女さん――クルルはウチのクラスで一番変な名前なんだから。
 にこにこ笑顔を浮かべるクルルに、僕はため息と共に緊張を吐き出しながら、
「……えーっと、ここって大学だよね」
 てっきり敵は年上大学生だと思っていたのだ。その正体がクラスメイトだったのだから、脱力の一つもしたくなる。もっとも、彼女とクラスメイトとなったのは今日で、満一日も過ごしていないんだけど。しかし同年代というだけでも十分に落ち着ける。いや、敵前なんだから落ち着いちゃダメなのか。ううむ。
「うん。クルルはね、大学のサークルに入ってるの!」
 サークルって、あの『葦原学園大学M.A.I.D.研究会』とかいうやつだろう。
「大学生でもないのに?」
「クルルは特別なんだよっ。ほら、頭いいからね〜」
 そういう問題なのか。めちゃめちゃ頭弱そうだぞ。
「で、その天才サマサマがこの僕に何の用件かな?」
「へぇ、可愛い顔して毒吐くんだ。意外だよ〜」
「ははは、クルルの方が可愛いよ」
「だよねっ、だよねっ!」
 張り倒してやろうか、この娘。
 僕はふつふつと怒りだかなんだか分からない感情を胸に抱きながらあくまでもクールに問いかける。
「もう一度聞くよ。クルル、君はどうして僕を拉致ろうとする」
「んもぅ、真面目だなぁ。そんなカタブツじゃ女の子にモテないよ――と、言いたいトコだけど」
 いきなり、ぴょん、とクルルが机から飛び降りた。もっとも、腰掛けていただけなのでほんの数センチの浮遊だが。そのまま彼女は文字通りぴょこぴょここちらへ詰め寄ってきて、
「それ以上は……」
 途中でメイドに遮られた。メイドの最優先事項は主を護ることなのだから。
「…………」
 アルビノも身構えているが、がっちり三人のメイドに拘束されている。大丈夫、と目配せすると、アルビノはこくりと頷いた。伝わるのか。
「む、いいんだよ。ゆーやクンはクルルに手出しできないよん」
 それもそうだ。僕単体にあまり戦闘力はない。クルル相手ならまだしも、武装メイドに勝てるとは思えない。
 メイド達はしぶしぶ、といった風に左右へと散っていった。そしてクルルが、一歩、もう一歩と距離を詰める。やがて僕と鼻先をつき合わすほどの近距離で、
「ねぇ、知ってるかな。――大いなる遺産、っての」
 未知の語句を呟いた。
「ねぇ、知ってる……?」
「……しら、ない」
 鼻腔をくすぐる甘い香りに、酔ってしまいそうになる。麻薬のような、媚薬のような――
ちっ、薬品嗅がせて駄目ってことは本当なんだ
「ってこらちょっとまてぇ!!!」
 ちょ、おま、何嗅がせやがった……!!
「き、聞こえた? いや、大学には色々便利な薬品があってねー。こう、いい感じにアッパーになれるヤツとかっ」
「僕を薬漬けにするつもりかっ!!」
「ダイジョブだって、たぶん」
 そう言ってクルルはどこからともなく取り出した小瓶をメイドに手渡した。マジかよ。
「……こほん」
 全てを水に流すような――水に流す咳払いを一つつき、クルルは再度僕へと向き直る。さっきほどじゃあないが、やっぱり距離は近い。どうも緊張する。
「ゆーやクンは、大いなる遺産を知らないんだね?」
「残念ながら。僕は全く微塵一欠けらも存じてないよ」
 おおいなるいさん? そんな言葉聞いたこともない。それは間違いようの無い真実だ。
「なぁんだ。やっぱ知らない、か」
 残念だというように、クルルは演技っぽく肩をすくめた。
「博士本人はアレだし手がかりストップ――」
 と、何かに気づいたようだった。そのまま僕を見て、そして奥のアルビノを見て、
「ねぇ、ゆーやクン。そのメイドといつ出会ったの?」
「随分唐突だね」
「冗談はいいから」
 何故か声は真剣だった。さっきまでのおちゃらけた雰囲気が霧散している。一体なんだというのだろうか。僕はその雰囲気に飲まれる形で、
「今日の朝だよ。そこのメイド達に囲まれた時に助けてもらったのが初めて」
「……そうなんだ」
「それがどうしたんだよ」
「どうしたもこうしたも――」
 この時、クルルは真剣な表情などしていなかった。
 笑っていた。子供がおもちゃを見つけたかのような無垢な笑みで、
「――とりあえず、そこのメイドを解剖バラさせてもらうね」
 とんでもないことを言い放った。
「興味深いんだよねー、クルルはハードウェア専門だから。ウチのメイドを上回る戦闘力に、見惚れるほど綺麗なパーツデザイン――まさかもしかしてチェリーメイデン!? うっわぁ、初めて見るデザインだよっ。何で今まで気づかなかったんだろ! お持ち帰りして骨格の髄まで調べつくさないと――」
「駄目」
 ぽかんとするクルル。アホかこの娘。
「駄目に決まってるでしょ」
 バラす? ふざけんな。
「彼女を何だと思ってる」
「……メイドでしょ?」
「そう、メイドだ」
 謎が多少あったって、アルビノはメイドであることは間違いない。
「メイドは主に仕えてこそ。そして主はこの僕」
 今日出会ったばかりだけど、時間なんて必要なかった。

「――アルは僕の家族だ。バラすだなんてそんなこと、この僕が許さない」

 屋上で彼女を信頼した時から。
 僕がうっかり名付けた時から。
 突然僕を護ると告げた時から。
 アルビノは、僕の家族メイドになったのだから。
「それにアルには沢山僕を護ってもらわないといけないからね」
 もちろん抵抗もあった。突然のことで、振り回されて、思いっきり疲れた。
 それでも、家族になってしまったのだから。多少なりとも愛着を持ってしまったのだから。
 カタブツで融通利かずで屁理屈と曲解ばっかで言っててムカつくほどステキなメイドだけど、
「一人は寂しいと、思ってたところだったからね」
 メイドなんていらないと思っていた時期もあった。その頃は何もかもが信用できなくて、引っ掻いて、無茶苦茶した挙句、全部零れ落ちてしまっていた。そんなことがもうないように。戒めるつもりで彼女を傍に置くのもいいかもしれない。多少利用してる感じもあるが、それぐらいは僕の従者、ガマンしてもらおう。
「……ふ、ふんっ!」
 突然鼻で笑うクルル。顔が真っ赤だった。
「でも結局護れてないよねっ! こうして捕まって、絶体絶命だよね!」
 憤慨しているようだった。とてもわがままで、こちらを考えない物言い。
 何故だが笑みがこぼれる。これは、そう。おもちゃをせがむ子供みたい。ついつい与えてしまいそうになる。元気溌剌猪突猛進天真爛漫早乙女躯瑠々、そこが彼女の魅力だろう。
 でも、それとこれは違う。たとえどんなに彼女が魅力的な女の子であろうとも、
「そうかな? アルが僕を護れてないって、そう言ってるのかな」
「そうだよっ! だってゆーやクンのメイドは今捕まってるんだもん! それにその気になれば、ここの倉庫に保管してるメイドを総動員することだってできる。大事にはしたくなかったから使わないけどね。でもこういう脅しは実行しないからこそ効果があるんだからっ!」
「うん、さすがにそれはマズい」
「余裕ぶらないでっ! メイドが最優先することは、主のめいよりもいのちなんだよ! それすらも護れてない――」
「――些か、甘く見られていますね」
 遮ったのは、冷たいアルビノの声だった。
 五対以上のメイドに周りを取り囲まれ、今となっては銃さえ突きつけられている状態の彼女は、これ以上ないほどの危機的状況だとも言える。それでも、僕自身に危機が迫った時にしか身構えたりはしなかった。メイドの思考パターンは人間を模している。焦りや緊張すらもメイドは取ることが出来るのだ。それでもなお、悠然余裕だった。
 それは、何処から来るものか。
 油断ではない、余裕。過信ではない、信頼。
 全ては――この状態ですらこの僕を護っているということ。
 つまり、
「私が、この程度を相手に負けるとでも? マスターを護れないとでも? 少々、度の過ぎる冗談ですね」
 アルビノは、いつだってこの拘束を抜け出すことが出来るのだ――!
 
「――調子に、乗るな」
 瞬間、光が弾けた。

「――――!?」
 アルビノから白亜の雷が迸ったのだ。その放電で内部機関が狂わされたのか、近くのメイド達が揃って膝をつく。
 驚愕するクルルに、スパークを纏ったアルビノがゆっくりと向き直った。
攻性防衛機能……!?」
 僕には理解できない語句を放ち、一歩下がった。恐怖。彼女の表情からはそれが感じられる。
「私はマスターの命で此処に。主の命令一つで、私は全力を出せるのです」
 ちらりとアルビノがこちらを見た。こくりと頷く。
「来られませ御客人。主望まぬ客人は、この私めが存分に御持て成しをさせて頂きます」
 歌うように、謳うように。
「ですが私は戦闘用故――言葉は撃鉄、賛美は弾丸で御座います」
 アルビノはいつもの無表情のまま、スカートの両端を持ち上げ、
「――主思う、故に我在り。ご理解の程を」
 一礼した。
 あまりに場違いな光景で、誰もが呆然とする。僕ですら見つめていた。
 可憐にして凛々しく。清楚にして雄々しく。
 僕はただ、彼女に見惚れていたのかもしれない。
「……は」
 静寂を破ったのはクルルだった。
「すごい……すっごいよ。本当に興味深い」
 でもね、と彼女は前置きし、
「そこのメイド達だって、クルルが一生懸命がんばってデザインして創った――家族なんだよ。クルルはバラしちゃ駄目だなんて思わない。元々そういうことが趣味だからね。でもね、ゆーやクンが、家族だから壊しちゃ駄目って言うんなら、クルルだって言うよ。それ以上、クルルのメイドを傷つけないで」
 もっともな言い分だ。
 僕の家族だからバラしちゃ駄目で、君の家族だから殺していいなんて自分勝手なことは言わない。僕の考えを押し付けるだけだなんてのは、侵略者と変わりない。
「だから、一人も殺さないよ。僕らは戦争をしてるわけじゃない」
 相手を殲滅するのが目的じゃない。
 アルビノは力の方向を間違えない。僕の告げた約束を護ってくれるだろう。
 僕の考えた作戦。
 誰も傷つかないで、なるべく騒ぎが起きないで、もう僕がクルルのメイドに狙われなくなる作戦。
 たったひとつの、ばかなやりかた。

「こう、するんだよ」
 ひょいっと。クルルを担ぎ上げた。

「ひゃ――」
 お姫様抱っこというヤツだ。意外と軽い。
「アル、銃パス」
「了解です、マスター」
 床に転がった空気銃を、アルビノが一丁投げて寄越す。それを空中でゲットし、
「動くな。人質にさせてもらう」
 呆然とするクルルの頭へと突きつけた。
「……は、い?」
 クルルの、理解できていないまぬけ声。ぽかんとする彼女は、少し可愛かった。
「だーかーらー、人質だっての。強盗と同じだよ。……動くな」
 よろよろと立ち上がるメイド達に、静止をかける。
「君の主がどうなってもいいのかな〜?」
「い、いいから! ゆーやクンだけ狙うこと、できるでしょ! 早く助けて!」
「……できません」
「メイドはめいよりもいのちを優先する。そういうことだね」
「…………!!」
 ようやく気づいたクルルが、顔を真っ赤にしてじたばたしだす。おっとと、片手なんだからあんまり暴れないでくれ。無理か。さすがに無理な相談だよなぁ。全く、無茶だ。無茶な作戦だった。
 そもそも屋上で戦えなかったのは、セキュリティ・クラックという異常事態だったからだ。しかしここで多少暴れたって、メイドの暴走事故やらなにやらで切り抜けられるかもしれない。本当は学園内から出るつもりだったんだけど、本拠地は大学だったってのは予想してなかった。
 この通り、かなりの無理無茶無謀な大作戦だと思う。時間が無かったとはいえ、普通ならこんな力技は僕だって考えない。しかし、この作戦を結構すると決めた言葉。
 彼女は言った。
 ――『それに、勝ち目がないわけではありません』
 そしてアルビノは、まだ全力を出し切っていない。
 僕らが出会った今朝。あの時、メイドに囲まれていた僕を救ったのは、轟音と閃光の一撃。あれがなんだったのかは僕は知らない。だが、あの攻撃をメイドたちは知っている。あの破壊力、そして攻性なんたらなんて隠し玉の存在。メイドはこちらの手に居る主に害が及ぶことを危惧し、沈静化するだろう。そう踏んでの作戦だ。
 もちろん実行する気はさらさらない。目立たないためにこうしているのに、ここを吹き飛ばしたのでは意味ないし、僕の命もかなり危険だ。
 だが、
「こういう抑止力おどしは実行しないからこそ効果がある、だろ?」
 抱えた女の子の動きがピタリと止まる。みるみる顔が真っ赤になる。さっきまでも真っ赤だったというのに、これ以上赤くなったら爆発するんじゃないだろうか。
「十秒待ってやるよ、クルル。その間に武装解除と金輪際僕らを襲わないという誓約書でも書いてくれ」
「え、そんなの無理――」
「いち、じゅう。終わったぞ!」
「卑怯ものー!」
 そりゃどうも。
 またジタバタ暴れだした。まったく、短いスカートのクセして足もジタバタするなよ。いい感じにひらひらなってるじゃないか。むぅ、見えない。
 なんて青少年らしい青春を思い浮かべながら、
「――チェック、メイト。僕の勝ちだ」
 僕らは完璧な勝利を収めた。



「く〜や〜し〜い〜!!」
 クルルは、遊弥の腕の中で暴れ続けた。
 が、結局己のメイドに止められ、遊弥の言葉通りにおざなりな誓約書も書かされた。
 早乙女躯瑠々の完全敗北。
 なぜなら誓約書を書くときに遊弥は、
「そんなにアルを調べたいんだったらさ、こいつの専属技師になってよ。違法だから一般の整備は利用できないし」
 なんて言ったのだ。それはクルルにとって屈辱他ならない。
 遊弥に終始踊らされていた感じがするからだ。そしてそれは錯覚ではなかった。
 実質的、全て遊弥の思惑通りだったのかもしれない。それが偶然の産物だであったとしてもだ。
 ――『トリックスターペテン師
 彼を表す言葉に、これ以上はないとクルルは思う。
 こちらの追い風が、いつの間にか豪風となって向かい風になる。にこにこ笑顔で追い詰め、掌を返して味方へ引き込む。これがペテン師でなくしてなんだというのか。
「でも、見つけちゃった」
 そもそもクルルの行動原理は単純なものだ。
 知的好奇心を満たしてくれる何か。それを追う探求者。
 つい先ほどまでは、とある筋の情報で仕入れた『大いなる遺産』と呼ばれるシロモノが興味の矛先だったが、
「"大いなる遺産"よりも、好奇心を与えてくれる人!」
 彼と、そのメイド。
 特に彼の方は、初めての屈辱の所為かリベンジを申したいとも思っている。もちろんメイドを使って脅すことは、アルビノができないし、クルル自信のプライドが許さない。
 クルルはメイドのハードウェアデザイナーだ。ならばリベンジ方法は二つ。
 アルビノを上回るメイドを創りあげることと、
「絶対、惚れさせてやるんだから〜!!!」
 恋する乙女、迷走中。



 そんなこんなで騒ぎは終わり、全ては一時閉幕。
 故にここからは間幕。物語の裏側を御覧あれ。
「……学校のセキュリティをクラックだなんて。馬鹿じゃないの、アンタ」
「おやおやおや。手厳しいものだね」
「うるさいわね、気が立ってるんだから早く用件を済ませて頂戴」
「ふふ、お気に入りの彼が他の女の子といちゃついてるのが、そんなに嫌かい?」
「……覗き見とは趣味が悪いわね」
「それは君も同じだろう?」
「私はいいのよ。元々趣味悪いから」
「確かに――はは、そう怒るな。軽いジョークじゃないか」
「黙りなさい。早く用件!」
「はいはい……これが次の仕事のデータだ。よろしく頼むよ」
「あらそう。ま、いつものことだからいいけどね」
「済まないね。近々大きなコトが起こるんでね。その準備で忙しいのだよ」
「アンタが何をしてるかは興味ないわ。ただ……」
「なんだい?」
「遊弥には手を出さないで。絶対に、絶対に」
「……わかってるよ、十分承知している。君が彼に惚れ込んでいるというのはね」
「そうよ、私は遊弥しか見ていないわ。私は、アイツに――」
「ふ、想いは言葉にすると減るらしいよ。胸に秘めておきたまえ」
「黙りなさい。もう行くわ。あなたに付き合ってられないもの――生徒会長」
「そうかい、ふふふ。まぁ頑張ることだよ、青春は今しかないのだから――アリア」
 舞台裏で踊るは、何者か。



 今日の疲れは今日の内に。
「っつあー、疲れた!」
 熱めの湯が全身を刺激して、心地よい感覚に包まれる。
「ふぅー、いつになっても風呂ってのはいいもんだなぁ」
 なんて親父臭いことも多目に見る僕。それだけ疲れてたんだよぉ。
 ウチの風呂は結構広い部類――っつうかそれなりの高級住宅なのだった。しかしだたっぴろいのは落ち着かないし寂しい。その分ではアルビノが居て助かったと思う。色々問題はあるけど。
「――マスター」
「いや、別にアルはメイドだしなんてことないんだけどね? でもやっぱ女の子と一つ屋根の下ってのは青少年教育的になんたらってテンプレートないいわけをしてみたりって、ぶぉ……っ!?」
 早速問題爆発ー! 内心期待してたけど、実際に実行されると恥ずかしくて堪らないぞこのシチュエーション!
「どうなされました、マスター」
 平然と言い放つアルビノの姿を横目で確認する。オーケー、タオル巻いてる。何故だろう。まぁいいや。
「……ああ、私は完璧なメイドですので。おはようからおやすみなさいまで、きちんと対応できるのです」
「うん、それは十分理解したでもなんで風呂!?」
「藍原博士権限での命令ですから。――湯の世話もすること、と。この格好も博士の命令です」
「くっそ親父ぃ……!!」
 次会ったらホントに殴り倒してやる。
 しかし、長い髪を上げてるアルビノも綺麗だ。僕自身の好みはもうちと年下だけど、そういう問題じゃなくてただ綺麗だと思える。肌も滑らかで、起伏の激しい体躯は見てるこっちが恥ずかしくなる。
「如何なさいましょうか、マスター」
 膝をつき、構えるアルビノ。こいつは本気だ。
「はぁ。じゃ、一回洗ってるけど背中流してもらおうかな。背中だけ」
「了解しました」
「……って、タオルもってきて欲しいんだけど」
 かぽーん。







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