邂逅輪廻



【換気機能に難有りという逆ギレ】
月:いやー、おでんが美味しい時期になってまいりました。
黄:研究室にコンロ持ち込んで土鍋でグツグツ煮立ててる教授は、
 もしや本邦初ではなかろうか、なんだよぉ。
月:おでんは日本独自のものだから、同時に世界初という偉業も達成だな!
黄:それで満足なら別に何かしら言う気は無いけど、
 この充満するダシつゆの匂いは苦情が来る前にどうにかすべきなんだよぉ。


【普通に関わりたくないと思うんだ】
月:もう完全に諦められてるから、何かを言ってくる人は居ないぞ。
黄:哀愁すら感じる発言があったんだよぉ。
月:こないだ、学内の有志を集めてワイワイテーブルトークをやったけど、
 通りすがりの先生に、チラ見すらされなかったからな。
黄:こいつ本当に精神年齢が十代で止まってるんだと、
 得たくもない確信を手にしてしまったんだよぉ。


【余剰分の絞りカスみたいな立ち位置だからな】
月:さて、残った汁で、雑炊を作るか、うどんを放り込むかが問題だ。
黄:割と本気で、あんた大学を何だと思ってるんだよぉ。
月:とりあえず研究室に来て、テケトーに講義すれば、
 最低限の食い扶持を確保できる夢の様な職場?
黄:世に幾万と居る研究職志望に全力でケンカを売っていってるけど、
 学業自体、社会に遊びが無いと出来ないのもまた事実なんだよぉ。


【胃に血が集まってるから無理という言い訳】
月:食った食った、余は満足じゃ。
黄:驚くことに、まだ正午にもなってない時間帯の話なんだよぉ。
月:寝坊してダルいし、このまま休講にしてやろうかって思ったけど、
 頑張って何も食わずに家を出て、途中のスーパーで材料を買い揃えて、
 朝飯兼昼飯にしたというのに、何たる言い草。
黄:どこに自己弁護できる要素があるのか、
 客観的に、今の発言を咀嚼してみやがれなんだよぉ。


【世界記録に挑戦する勇者にすら思えてくる】
月:宗教ってあるじゃん。
黄:何という、ざっくばらんすぎる話題振りなんだよぉ。
月:まあ、待て。ここからちゃんと面白おかしく転がすから。
黄:どうして自分でここまで高いハードルを設定できるのかというか、
 もはや走り高飛びのバーなのではなかろうか、なんだよぉ。


【あいつらの世界観は謎が多い】
月:いや、世界にはたくさんの宗教があるけど、誰が最初に考えたのかなって。
黄:原人時代から、何かを崇める風習はあったって聞いたことあるんだよぉ。
月:でもそれ、人間だけじゃん。
  生命の歴史が四十億年くらいあって、ほんの数万年って、ちょっとおかしくね?
黄:とはいえ、犬や猫に『あなたは神を信じますか』と聞いて答えられるはずもなく、
 人間だけという証左にはなりえない気もしないでもないんだよぉ。


【好奇心旺盛な中学生くらいの思考回路】
月:宗教の雛形が精霊信仰の類だってのはいいとして、
 それを為政者が利用しだしたのは同時多発的なのか、
 誰か一人が考えたのをパクりまくったのかちょっと気になってな。
黄:それを調べて持論をまとめるのが、あんたの仕事なんだよぉ。
月:どれだけ膨大な情報処理が必要か、分かって言っているのか。
黄:いつものことと言えばそうなんだけど、
 なんでここで逆ギレができるのか、精神構造の方が気になってしょうがないんだよぉ。


【それも大概今更感が】
月:世界を変えるのは一握りの天才か、圧倒的多数の凡人なのかは、
 私の研究に於ける永遠のテーマだからな。
  軽々に結論を出してはいけないのだよ。
黄:今更軌道修正しても、手遅れなんだよぉ。
月:そして面倒くさいという行動原理が凡人側のものだと気付いてしまい、
 意気消沈してしまう私が居る。


【なぜ言わなくていいことを口走るのか】
月:正直、スーツで大学来るのが面倒になってきた。
黄:いつも通りの、碌でもない発言があった気がするんだよぉ。
月:学者先生は学生に、既成概念に囚われてはいけないとか言っているのに、
 自らが着ているものに関しては疑問を持たないのか、甚だ遺憾である。
黄:別に全員が全員スーツ着てる訳でもないのにこの言いざま、
 むしろ自分の襟を正しやがれなんだよぉ。
月:服装の話だけにな!


【どういう訳だか主役気取り】
月:そういや学生時代、学会で雑務あるからフォーマルな格好で来いって言われて、
 振袖着て行ったら怒られたことがある。
黄:どんだけアホなんだよぉ。
月:入学式、成人式とこれで通したから、問題ないって判断するだろ、普通。
黄:まあ、これを相手に大雑把な指示を出した担当教授も悪いと思える辺り、
 大分、感覚が狂ってきてる面もあるんだよぉ。


【幸運の妖精的立ち位置を目指す】
黄:大体、普通は私服のコーデを毎日考えるのが厄介だから、スーツで済ますんだよぉ。
月:そこが根本的に間違ってる。大学など、所詮は世間から隔絶された雲海の巨塔。
  いっそのこと、エプロンドレスでやってきてもいいはずだ。
黄:教授自ら、七不思議的なものになるつもりなんだよぉ。
月:目撃した貴方は、今日という一日が充実したものになるかも知れないぞ。


【ダブルベッド並にゆったりしようという発想はない】
月:まあいくら童顔低身長といっても、この年で不思議ちゃん気取りはちょっと。
黄:自分で言っておいて、なんだよぉ。
月:教授権限で、助手の服装をダーツかルーレットで決めるというのはどうだろうか。
黄:その場合パワハラで訴えて、只でさえ矮小な居場所を、更に削ってやるんだよぉ。
月:そろそろ足の指一本で体勢を保てそうな私に、死角など無い!


【底辺大学の名が更に失墜する】
月:どんな願いでも一つだけ叶えてくれるって言われたら、何にする?
  全知全能になりたいとか、願いを増やしてくれ系は無しにして。
黄:いい大人が提供する話題じゃないんだよぉ。
月:学者なので、それを思考実験と言い換えることで、高尚っぽくすることが可能だ。
黄:この詭弁力を研究に注いでくれればいくらかマシだろうにと思いつつ、
 詐欺師として立件される可能性の方が高そうで困るんだよぉ。


【一点特化型と言えば聞こえはいいけれど】
黄:大体、ここで何を言おうと、粗を探す気満々なのが透けて見えるんだよぉ。
月:学問とは、否定から真実を見出すのが正しい過程だからな。
黄:この屁理屈大魔神め、なんだよぉ。
月:まあ貴様如きに、私を唸らせる程の発想が出来るとも思えんがね。
黄:こんなこと言われると一泡吹かせてやりたい気分にもなるけど、
 この手のしょうもない閃き合戦で勝てる気がしないのも事実なんだよぉ。


【ダモクレスの剣とかいう張り子】
月:でも、熟考できるとなると、結論出せなくて困りそうだけど、
 一分以内に決めろって言われたら、それはそれでしょうもないこと言いそうじゃね。
黄:金とか異性とか言って、果てしなく後悔しそうではあるんだよぉ。
月:世界の支配者とか言っても、維持は自力でやれって言われそうだよなぁ。
黄:大体、最高権力者は孤独で、一般人にとってそんないいもんでもないんだよぉ。
月:それ、保身の為に偉い人が言いふらしてるって気もしてるんだが、どうなんだろうな。


【魔神的なものも逃げ出しそうだけど】
月:こう、即物的で、充実感に満たされ、一生嬉しい物って無いものだろうか。
黄:仮にそんなものがあったとしても、
 自力で手にしないと意外に感慨は無いのではと、常識的な意見を述べておくんだよぉ。
月:たしかに、棚ぼたで回ってきた教授の椅子は、言うほどのものでもなかったな。
黄:もしやその全方位にケンカを売れる性格を矯正してもらうのが、
 一番豊かに人生を送る方法なのではなかろうか、なんだよぉ。


【超長寿番組になれば許される荒業】
月:カキ氷食べたい、超食べたい。
黄:この、晩秋に差し掛かった時期に、何ほざいてるんだよぉ。
月:食べたい時に食べたいものを食べるのが、ストレスフリーの第一歩だ。
黄:購買かコンビニにでも行きやがれなんだよぉ。
月:海の家で売ってるみたいな、ふわっふわの山盛りになってる奴がいい。
黄:この、とりあえず無茶を言っておけば周りが困惑するだろうという安直感、
 そろそろ新たな芸風を模索してみる頃合なのではなかろうか、なんだよぉ。


【概ね当たってる気もするけど】
月:結局、カキ氷なんて溶けたら、風味が付いてるだけの砂糖水だよな。
黄:高い場所のぶどうは酸っぱいとは、よく言ったものなんだよぉ。
月:マジでシャーベット系のしか売ってなかった。どうなってんだ、この界隈は。
黄:そこらで妥協できない辺りに、駄々っ子の本性が見え隠れするんだよぉ。
月:大人になるなんて言葉は、自分に対する嘘がうまくなるっていうのが持論だからな!


【この世界では一人っ子設定らしい】
黄:お日様のポカポカさ加減が、身に染みる涼しさになってきたんだよぉ。
月:私の前で太陽を褒めるのはやめてもらおうか。
黄:前々から気になってたけど、あんた、吸血鬼の類なのか、なんだよぉ。
月:灰にはならんぞ、ちょっと頭に血が上ってハイになるだけだ。
黄:はいはい、そういったハイソサエティなジョークは、ゴミ箱にでも廃棄するんだよぉ。


【その材料自体が太陽エネルギーで作られているという事実】
月:究極的に言うとだな、太陽無しで生態系を維持できる環境に住みたいとすら思ってる。
黄:現代科学、完全否定なんだよぉ。
月:地熱だけで何とかならんかなぁ。
  マグマの熱でタービン回して光を作って、植物と動物を育てるコロニーをだな。
黄:宇宙に住む為の実験として、外界から隔絶されたドームというのは聞いたことがあるけど、
 それはもはや、目的と手段がごちゃ混ぜすぎて、何が何やらなんだよぉ。


【何がどうなってこうなった】
?:この度は、世界的に権威のある賞を受けられたということですが、
 今、どの様なお気持ちでしょうか。
月:あー、記者くん。そんな定型文の質問しか出来ないのかね。
  親にいい大学出してもらったんだろうに、もっと知性のある問答を用意したまえ。
?:こ、これは手厳しい。
月:私の研究を欠片として理解しようともしない輩には、
 何も返答する気は無いので、その心構えで頼むよ。


【壮大過ぎる自作自演に涙を禁じ得ない】
月:しかし不可解なものだよね。いくら交通費を出すと言っても授賞式をするから来いだとは。
  この大学ですればいいじゃないか。選考委員は研究者より格上と、思い上がっていないかね。
?:そ、そうでしょうか。
月:これを機に、私の名前を冠した新たな賞を作るとしようか。
  出資したいという企業が幾らでも来ているから、資金の点では何の問題もない。
?:初代受賞者は、月読教授ということで宜しいのでしょうか。
月:ノーベルがノーベル賞を受賞したとでも思ってるのか、貴様は。


【何だこの圧倒的茶番感】
月:だが、こういったものは死後、ないしは晩年にするものだからね。
  とりあえずは老後の楽しみにとっておいて、今は精力的に研究を続けようと思うよ。
?:次のテーマには、何をお考えなのでしょうか。
月:うむ、『お色気マンガに於けるラッキースケベの確率は宇宙創世とどちらが高いのか』、
 これは大論文になるよ、チミィ。
?:それが解明されれば、世界の真理にまた一歩近付くことが出来る訳ですね。
月:大分、分かってきたじゃないか、ハーッハッハ。


【二度寝が近しいようでそうでもないような】
月:という夢を見た。
黄:まあ、そんなこったろうと思ってたんだよぉ。
月:実にいい夢だった。もう一度見たいくらいだ。
  そうだ、今からでも遅くはない、昼前にもう一眠りと洒落込もう。
黄:スペイン語で昼食後の仮眠をシエスタと呼ぶけれど、
 午前中のそれは世界中探しても相当する言葉がないんじゃないかって思うんだよぉ。


コント連載中



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