邂逅輪廻



【温泉回は業界の必須事項です】
朱:ふに〜、極楽極楽です〜。
天:今時、温泉に入って、この言葉を口にする方も珍しいのではないでしょうか。
白:いやー、穴掘ってたら湯が噴き出した時はどうなることかと思ったよ。
黄:人んちの山、勝手に掘り返しやがって、なんだよぉ。
白:変温動物の黄龍にとっちゃ、大事な暖を取る手段じゃないの。
黄:たしかに氷河期を思えば命を繋ぐものと言っても過言ではないけど、
 結果オーライで居直ってる事実に変わりはないんだよぉ。


【腹は減るけど長生きらしい】
朱:ところで〜、極楽って仏教でのすごい世界のことですよね〜?
黄:人を含めて、生き物は六道の苦難に満ちた世界を巡るものだけど、
 悟りを開くことで解脱し、極楽へ行けるようになるんだよぉ。
朱:天道、人間道、畜生道、修羅道、餓鬼道、地獄道でしたっけ〜。
白:餓鬼道に堕ちたら、二日で死ぬね、あたしゃ。
黄:いや、死んだ結果その世界に行くようなもので、
 大体、簡単に飢え死に出来るなら、システム自体が成立してないんだよぉ。


【夢のカード連発で観戦マニアも納得】
天:修羅道など、逆に喜ぶ戦闘狂が居そうですけども。
黄:バトル漫画の主人公達を送り込んで、半永久的に潰し合わせるんだよぉ。
朱:この世界の支配者は、阿修羅さんでしたっけ〜。
白:あー、思うに自分と同等のバトルマニアを生み出す為、蠱毒的に作ったんだろうね。
黄:トーナメントの方が短期的な人気は確保できるだろうけど、どうせ死ねないんだし、
 ありあまる時間を有効活用するということで、総当たりを採用するんだよぉ。


【蜘蛛の糸ってそういう話だと思うんだ】
白:んでさ、極楽って一度行ったら帰れないの?
黄:何の憂いもない世界から、なんでわざわざ戻ってくるんだよぉ。
白:下々が苦しむ姿を見てこそ、自分が如何に恵まれてるか分かるもんじゃない。
黄:言ってることは案外正しい気もするけど、それって全然悟れてないよなと、
 パラドックスが生じてきた気がするんだよぉ。


【現代社会で混浴を義務化は難しいな】
猿:ウキャキャ。
朱:山の動物さんまで集まってきました〜。
白:最初から、蝮やら、鳥やら、神様やらまで入ってるけどね。
黄:冷静に考えると、すごい環境なんだよぉ。
朱:世界の皆さんも、温泉に入って争いをやめられればいいんですけどね〜。
天:何だかいいこと言ってるような感じだけはしますが、月読曰く、
 『温泉回は男主人公が女の子に引っ叩かれるまでが様式美』だそうです。


【現場で殉職は叶わぬ願いさ】
朱:そういえば、神様は何人か会ったことありますけど、仏様は無い気がします〜。
白:まー、言葉の問題で、神ってある程度の格を持った存在の総称だけど、
 仏は仏教派生系にしか使われないから。
黄:ってか、朱雀自体を神様と呼んでも差し支えは無いんだよぉ。
朱:私は崇められるより、もっと身近な存在として親しんで貰いたい派ですから〜。
白:世間はそれを、出世を諦めた者の捨て台詞として処理するけどね。


【宗教界にも外来種は存在するからな】
天:仏教! なんと恐ろしい単語でしょう。
  千五百年くらい前に進出してきた時の衝撃は、黒船以上でした。
黄:中々に粘着質な話なんだよぉ。
白:黄龍にだけは言われたくないってのはさておくとして。
天:もっとも江戸時代には神仏混淆で、一緒に温泉に入るくらいの仲にはなってましたけど。
白:結局は、千年以上いがみ合ってる黄龍と麒麟がおかしいってだけの話になっちゃったね。


【面白い展開だけは保証されている】
天:明治に入って、時の政府の意向で分割されましたが、
 初詣に神社とお寺、どっちに行ってもいい辺り、再統合の向きはありますね。
朱:神社にも鐘があったりしますもんね〜。
白:除夜の鐘って、仏教的な百八の煩悩を滅するものだっけ。
黄:この日本人的な、よくも悪くも大雑把な宗教観を輸出したらどうなるのか、
 見てみたいようで腫れ物に触るような、そんな微妙な感じなんだよぉ。


【養殖して世界に配布すべきという意見も】
?:失礼する。
朱:また、新たなお姉さんが入ってきました〜。
黄:もういっそ、一般開放してやろうか、なんだよぉ。
白:黄龍ハウスの保養所度が増すね。
朱:たくさんの動物さんも居ますし、サファリパーク的な楽しさもありますよね〜。
黄:一応、義務として、見てて一番面白い生き物は朱雀だと、
 お約束だけは口にしておこうと思うんだよぉ。


【時には変身シーンは攻撃を控える悪の幹部のように】
朱:ところで、どちら様ですか〜?
黄:ワンテンポ遅いんだよぉ。
白:只でさえ朱雀なのに、温泉浸かってダルダルだからね。
阿:我が名は阿弥陀。悠久より来たりて、悠久へと還る者。
黄:そしてこっちも大概テンポがズレてるし、
 これはもう、グダグダのグズグズが約束されているんだよぉ。


【もしかすると逆に噛み合ってるかも知れない】
朱:ふに〜、阿弥陀さんですか〜。
黄:多分、どんな素性か理解してないと思うんだよぉ。
天:話題に出た、仏様のイメージに近い存在の一つと言って宜しいかと。
阿:そう、我こそは如来にして、極楽に住まう天上の超越者なり。
朱:それはそれは、立派な方なんですね〜。
黄:この、ある意味において頂上決戦的な感じに、
 ワクワクするような、ゾワゾワするような微妙な気分になってくるんだよぉ。


【能力的には特甲級なのに節穴なせいで丁級みたいな】
白:まー、私達の業界って基本的に偉いことになってるから、
 ランキング制にでもして貰わないと、どれくらいの格なのかは分かりづらいよね。
黄:また荒れそうなことを、なんだよぉ。
朱:黄龍さんは、霊格を重視して上位なのか、働いてないから下位なのか、
 意見が分かれそうですよね〜。
黄:どう評価されようと今更気にしないけど、
 その手の格付け屋には裏があるとしか思えない辺り、年を取ったものだと思うんだよぉ。


【或いは遥かに下なのかも】
朱:それで、そもそも如来ってなんなんですか〜?
黄:まずはそこから、なんだよぉ。
阿:うむ、天部の上位たる明王を超越せし菩薩をも凌駕する存在、それが如来だ。
朱:課長、部長、役員、社長みたいなものですかね〜。
黄:まー、大体合ってるけど、一気にありがたみが無くなる辺り、
 朱雀というやつは本当、更なる高みの存在なのではと思えてくるんだよぉ。


【でっかいことはいいことだ的な方針】
白:あー、何か聞いたことあるかも。
  菩薩から如来になるのに、何十億年って掛かるんだっけ。
朱:ふ、ふに?
阿:弥勒菩薩のことだな。彼奴が人々を救える修行を終えるのに、
 五十六億七千万年掛かるというのが通説となっている。
朱:ち、地球の歴史より長いじゃないですか〜。
黄:たしか太陽の残り寿命がそんなもんだった気がするし、
 真の救いは、世界の消滅であると説きたい可能性はあるんだよぉ。


【ビッグバンから宇宙の終わりまでを見詰めてみよう】
天:わ、私、五十億年後、確実に消滅するんですか?
黄:そんだけ生きりゃ充分すぎるだろ、なんだよぉ。
朱:黄龍さんですら生きてるか分からないですよね〜。
黄:いやいや、なんだよぉ。
白:こういうこと言ってるのに限って、なんやかんやで長生きするもんだからなぁ。
黄:一万年くらい生きてきただけで一杯一杯なのに、その一万倍以上とか、
 お前ら、ちょっとは長生きするということを考え直しやがれなんだよぉ。


【無駄と言っていいくらい世界観が壮大】
阿:案ずることはない。太陽系の終焉など、極楽に住まえば些細なことだからな。
朱:何だか、新興宗教の勧誘みたいですね〜。
白:そりゃ、どんなに歴史があっても、始まったばかりの頃は新興だからね。
阿:根源たる命題として、時や空間の概念自体が瑣末なことであると、
 知覚することこそ一つの真理であるぞ。
黄:そろそろ、言えばいいってもんじゃねーぞと誰かがツッコむべきなんだろうけど、
 ある種のアンデンティティではあるから否定しづらいのもまた事実なんだよぉ。


【もはや天寿の方が誤差扱い】
天:浄土宗、浄土真宗では、
 この阿弥陀さんが悩める人々を極楽へと導いてくれることになっています。
阿:やぶさかでもないぞ。
朱:解脱って、本来は自分の力で成されるものなんじゃないですか〜?
天:理想的にはそうですが、その為に数十億年の修業が必要なのは触れた通りでして。
阿:人の身では、ちと寿命が足らぬのも事実であるな。
朱:ち、ちとで済ませていい差じゃない気もするんですけど〜。


【ぶっちゃけ最初の目的忘れてるよな】
天:そこで阿弥陀さんに救いを求める言葉として南無阿弥陀仏が提唱された訳です。
阿:森羅万象を統括する者としては、見過ごす訳にもいくまい。
朱:それはそれで、お手軽すぎませんか〜?
白:極端から極端に走るのが、世の常ってやつだからねー。
黄:これが、本来の意味での他力本願なんだよぉ。
白:門戸広げすぎて成功しちゃうと、元に戻れなくなるのも、よくある話だよね。


【人間界を極楽に作り変えた方が早いんじゃないか】
白:ってかさ、仏教的に殺生はアウトなんでしょ。
  肉も食えないのに何が極楽かって感じがするんだけど。
黄:価値観の相違は、永遠に埋めがたきものなんだよぉ。
天:解釈に依って違いはありますが、生きている間にどれだけの罪を犯そうと、
 最終的に阿弥陀さんにすがれば許されるというのが本流のようです。
朱:どんどんと、何でもありになってきました〜。
阿:俗なる世からは隔絶されし我からすれば、
 善と悪の観念すら比すべき程のものではないということだ。


【世界が周回している可能性を考察する】
白:それはそれとして、なんで天照が阿弥陀の解説してんのさ。
阿:我より希求せし訳では無いぞ。
天:この様に、言葉遣いが少々独特なので解読役は必要かと思いまして。
朱:私達の業界では、よくあることですよね〜。
黄:何かこの話題、マモンの時にもあった気がするけど、
 既視感として処理するのが、長生きの秘訣なんだよぉ。


【十四年ものの美少女が究極にして至高みたいな】
天:私達の黄泉の国と、仏教的な地獄が同一視されているのは、いささか不満ではあるのです。
阿:似て非なるを通り越し、同一たる箇所を見付けるのが難儀なほどだからな。
朱:そもそも、地獄ってどういうところでしたっけ〜?
白:あれでしょ。血の池地獄で吸血鬼が、
 『血ならなんでもいいと思ってんじゃねーぞ』ってソムリエ気取ってる感じじゃない。
黄:何か随分と愉快な地獄観だけど、住めば都と言うし、
 案外、慣れたら普通に生活できるものなのかも知れないんだよぉ。


【宇宙の歴史が数百億年という事実誤認】
天:生前の罪にも依りますが、基本、人間界換算で兆年単位の罰を受けます。
白:兆?
黄:インフレさせればいいってもんじゃないんだよぉ。
阿:げに重き罪状とあらば、京を上回ることもあろう。
白:京?
黄:こういう、数字をでっかくしとけばいいだろうって安直さがリアリティを損なうと、
 昨今の創作業界で批判が殺到してる次第なんだよぉ。


【具体的に人生のどこで使うんだレベルに突入】
朱:弥勒さんの修行期間は、むしろ短いくらいなんですね〜。
黄:感覚がおかしくなってるんだよぉ。
白:朱雀の全部の代の年齢足しても、六千年いかないって話だしねぇ。
天:そういえば、未来永劫の『劫』は元々仏教用語で、極めて長い時間のことを指すんだそうです。
黄:この長さには諸説あるけど、物によっては、とうとう垓の単位に乗ったりもするんだよぉ。
白:アホか!


【そういやずっと温泉入りっぱなしなのか】
阿:先に述べた通りだ。時という鎖に縛られているようでは、真なる意味で悟ることなど出来ぬ。
白:どうにも、共感するのが難しいんだけど。
黄:根本的な話として、仏教的な悟りを簡単に言うと肉体が持つ欲を捨て去るってことで、
 白虎からは一番遠いものではあるんだよぉ。
白:つまり、今日も普通に肉食べていいんだよね?
黄:ある意味、こんなにも自然の摂理に則って生きてる輩も居ないだろうし、
 これを罰するというのなら、それは裁きの方が間違ってるという気がしないでもないんだよぉ。


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