【この時点で怒って良い】 黄:一つ、聞きたいことがあるんだよぉ。 櫛:ですの? 黄:褒賞的結婚という、さながら中世ファンタジーの様な婚姻で、 現状に不満は無いのか、なんだよぉ。 月:何という他人の家庭事情に首を突っ込んだ質問。 黄龍姉さん、流石と言わざるを得ない。 【ビビビと直感】 櫛:あの方は、面白い方ですわよ? 黄:確かに、特異的な顔ではあるんだよぉ。 月:顔? 櫛:見詰め合っていれば、時を忘れるのは事実ですの。 月:何だか、弟夫婦の惚気を聞かされるだけの、 そんな時間になりそうな最悪の予感。 【独身者の抵抗か】 黄:それに、奴はシスコンなんだよぉ。 櫛:家族想いなのは、素晴らしいことですわ。 月:ダメだ、最早、止める手段などない。 黄:それでも今は、絶対に退けない戦いであると、 確信めいたものがあるんだよぉ。 【血縁だけど姻戚で】 黄:大体、そもそもバカなんだよぉ。 櫛:あら。バカと英雄は、紙一重と言いますわよ? 月:あばたもえくぼといい、献身的女房として素晴らしい様で、 義妹としては、ここまで盲目的でいいのか少し不安にもなるのであった。 【想定外にも程がある】 白:何か、黄龍が須佐之男に横恋慕してるって聞いたんだけど。 黄:一体、どういう歪み方をしたらそうなるんだよぉ。 白:いや、好いた子を悪し様に言うのって、 小学生くらいの王道パターンじゃない。 黄:情報とは、時に歪曲、極大化され、 本人も伺い知れない方向へ広がる可能性があると、 現実の問題として目の当たりにしてしまったんだよぉ。 【翻しは常道芸】 黄:単に、櫛名田みたいな良い子が、 あれの嫁なのが不憫だという話なんだよぉ。 月:いや、仮にも人の弟をあれ扱いはどうだろうか。 姉さんなら何の問題も無いけど。 黄:年に一度くらいでも、良い話で終わらせるつもりはないのかと思ったけれど、 月読相手では無理無駄無謀の六文字だから、考えるのはやめにしたんだよぉ。 【坊主と袈裟の関係に類似】 伊:息子が、何か不始末をしでかしましたか? 櫛:曾御爺様、久方振りですわ。 朱:ふに? 黄:櫛名田と伊邪那岐は、義理の父娘であると同時に、 血の繋がった曽祖父と曾孫という関係でもあるんだよぉ。 朱:や、ややこしいですね〜。 黄:それもこれも、兄の孫に手を出した、 須佐之男が悪いというのが、世の定説というものなんだよぉ。 【井戸端会議から政界まで】 月:この場合、曽祖父と義理の父、どちらの関係を優先させるかが問題。 黄:父娘関係は近いけれど、所詮は姻戚なんだよぉ。 月:とすれば、血縁である曽祖父を推しても問題はないはず。 伊:私としては、どちらでも良いのですけど。 白:ま、本人が関係無い所で盛り上がるのは、良くある話だから。 【打算部分がでかすぎる】 月:ともあれ、マイダディ、チーッス。 黄:挨拶が、ワンテンポ遅いんだよぉ。 月:率先して挨拶を行えば黄金色の菓子が貰える訳でもないのに、 躍起になどなれるものか。 黄:嗚呼、月読が何ゆえここまで浮かび上がって来れなかったのか、 その全容とまではいかなくても、一部を垣間見てしまったんだよぉ。 【少年漫画ならやられ役】 櫛:お義姉様、いけませんわ。挨拶は、礼節の基本ですの。 月:挨拶だけで天下を駆け上った英雄を、私は知らない。 黄:想像してみたけど、たしかに嫌な絵なんだよぉ。 朱:は、話の本質が、捻じ曲がってるのは問題だと思います〜。 【朱雀点検編参照】 櫛:ではこうしましょう。皆で茶を嗜んで、和の心を学びますの。 黄:中国聖獣に、こやつは一体、何を言っているんだよぉ。 月:しかし、茶を煎れる適温は七十度から八十度が一般的。 朱雀の体温が七十五度であることを考えると、 運命とも言えるコラボではなかろうか。 黄:その強引極まりない解釈はノストラ何とかにも負けないと、 ちょっとばかり思ってしまった訳なんだよぉ。 【求める相手に無理がある】 月:だが日本の茶道は元来、闘茶と呼ばれる茶の銘柄を当てるバトル物。 むしろ殺伐感が増すというのが、常識的解釈ではなかろうか。 黄:銘闘なら中国にもあるけれど、現代の茶道とはほぼ別物なんだよぉ。 伊:この様に、あーだこーだと理屈を付ける行為こそ、 茶道を含めたわびさびから一番遠いと思うのは私だけですかね。 【一生ものの不覚】 黄:日本式の正座は嫌いなんだよぉ。 朱:わ、私もです〜。 月:そういう時は、こう、足首を直角にして、膝を立てれば良し。 黄:……。 朱:い、今、黄龍さんの関節から、 聞こえてはならない異音を感知した気がしてなりません〜。 黄:一瞬とはいえ、月読の言うことを間に受け、実行してしまうとは、 確実に、人生の汚点として処理されるべき事案なんだよぉ。 【場外から白熱】 櫛:茶道の本質はもてなしの心ですから、 形式に拘る必要はありませんのよ。 黄:足首を痛める前に言って欲しかったんだよぉ。 月:闘茶の基本は、騙す騙されるの、ピリピリとした緊張感。 口車に乗った方が負け。 黄:それで結果として喉が潤ったとしても、 心が乾いてしまったら意味がないと思われるんだよぉ。 【和なのに和まない】 朱:お、美味しいお茶ですね〜。 櫛:朱雀さんは苦味が苦手そうですから、 お湯の温度を低めでいれてみましたの。 黄:これぞ、もてなしの心なんだよぉ。 月:まあ身内でなかったら、『この媚び媚び野郎め』と罵っているところだが。 黄:時たま、月読は本当に日本の神様なのかと、 本気で悩んでしまうのは、困ったものだと思うんだよぉ。 【心当たりは無限大】 月:しかし思った。 黄:今度はどうしたんだよぉ。 月:私は、櫛名田の小姑。 黄:それがどうしたんだよぉ。 月:立場的に考えて、 私の茶に唐辛子汁でも混ぜておくのが正しい立場ではなかろうか。 黄:そんな陰湿な嫌がらせを受ける程のことをしているのか、 今なら許してくれるかも知れないから、全てを吐きやがれなんだよぉ。 【梅雨時の惨劇】 月:御茶請けは、秘蔵の各県生菓子シリーズを。 黄:生菓子を秘蔵するという発想は難しかったんだよぉ。 月:若干、青かったり白かったりという気もするけれど、 あくまでブルーチーズ的なもの。 問題はない。 黄:何処の誰でも良いから、この阿呆を矯正し、 正しい方向に導いてくれる救世主は居ないものかと、 願ってしまうのは罪であろうか、なんだよぉ。 【年がら年中命懸け】 須:何じゃか、旨そうな匂いがするのぉ。 黄:ついに、旦那が御登場なんだよぉ。 月:やぁやぁ、須佐之男。折角来たんだから、生菓子でも食べていきなさい。 須:おぉ、姉貴、済まんの。 黄:この姉は、本当、実の弟に対しても、情け容赦が無いんだよぉ。 【気分はロシアンルーレット】 黄:そもそも、天照との姉妹ゲンカの発端は、 フグに中ったからだと記憶してるんだよぉ。 月:惨劇は、運命的に繰り返すもの。 黄:いや、完全に意図的なんだよぉ。 月:意外と知られていないが、家庭で生えるカビの多くは、概ね無害。 稀に致死性のヤバいのもあるけど。 黄:確率論で肉親を危機に追い遣れる感性、 ここまで来ると、ちょっと尊敬すべきかとも考えてしまうから、 恐ろしい話なんだよぉ。 【毒蛙などが一例】 櫛:得体の知れないものを食べては、メッ、ですの。 須:何じゃい。こいつは、模様じゃないんかいの。 黄:そんな命の危機を感じる柄は、どんな職人も入れないんだよぉ。 月:しかし華美とも言える装飾は、自然界では警告色と言われ、 カラフルな動物ほど毒を持つという通説さえ生み出している。 黄:実際、その傾向は無きにしも非ずだけれども、 生菓子が警告を発しなければならない理由については、 とんと思い付きもしない訳なんだよぉ。 【思考停止で万々歳】 天:えくっ、えっく。皆さん、私をないがしろにして妬ましいです。 黄:何だか、気付いてはいけないものが視界に入ったんだよぉ。 月:それはきっと、幼い時分にしか見えない妖精の類。 黄龍もまだまだ、ピュアな証。 黄:考えるのも面倒だからそういうことにして、 何も無かったかの様に茶会を続けることにするんだよぉ。 【常人には無理だけど】 月:あー、姉さんの居ないところで飲む茶は旨い。 黄:今更だけど、こやつは外道なんだよぉ。 櫛:私の姉達は七人共、八岐大蛇に食べられてますから、 この様な関係でも羨ましいものですわ。 黄:さらりと尋常じゃなく重い境遇を聞いたけれど、 だったらこの姉妹の関係改善に、少しは貢献したらどうなのかと、 思ってしまう自分が居るんだよぉ。 【我慢大会的なもの】 天:そうです、姉妹は仲良くしないといけないんです。 黄:いつものことながら、弟がすっぽり抜け落ちてるんだよぉ。 月:そうそう。私は義妹の櫛名田と、しっとりやっていこうと思う。 黄:おいおい、何だか表現がやましいだろうと、 ツッコミを入れたら負けに違いないんだよぉ。 【万年生きても見えぬモノ】 黄:とにもかくにも、やかましい連中なんだよぉ。 朱:ふに〜。家族って、素晴らしいですよね〜。 黄:たしかに、ある意味に於いて家族とはああいうものなのかも知れないけれど、 あれが羨ましいかについては、まだ少し、考えさせて欲しいんだよぉ。
|