【げに恐ろしき家庭環境】 月:知恵の実ハンティングタイム〜。 黄:バカに付ける薬が欲しいんだよぉ。 月:解説しよう。知恵の実ハンティングタイムとは、 現状で知性を持った生命体が知恵の実を食した場合、 どの様な反応を示すかを検証する、科学的実験のことである。 黄:一人で盛り上がって楽しめるその体質、 如何に姉や弟と折り合いが微妙だったか、 見てこなくても分かるから恐ろしいんだよぉ。 【こんなのでも高位神】 月:つー訳で、知恵の実寄越せや、コンチキショー。 メ:ん……あれは私達にも、レアもの。 黄:何処まで他力本願なんだよぉ。 月:だったら、種だけで許してあげる。 メ:さりげなく、無茶苦茶言ってる。 黄:たった今、恐喝現場というか、麻薬取引現場というか、 何はともあれ、酷い掛け合いを見た気がしてならないんだよぉ。 【人格評価は積み重ね】 月:知恵の実を栽培して育てたい。 黄:そもそもあれは西洋の植物で、こっちの風土に合うか分からないんだよぉ。 月:そういう時は何度でも品種改良を繰り返し、 意地でも適応させるのがジャパニーズスピリッツ。 黄:その精神は買うけれど、それで薬効が変な方向に伸びても責任は取らないだろうなと、 過去の事例から勝手に判断させて貰うんだよぉ。 【百均舐めんなよ】 月:裏ルートから、密輸した。 黄:恐ろしく胡散臭いんだよぉ。 月:さぁて、この日の為に用意した、百円ショップで買い揃えた園芸キットを――。 黄:それにしても、伝説の植物を栽培するのに、 道具がこんなにもチープで良いのか、専門家の御意見を伺いたいところなんだよぉ。 【どう考えても別物】 月:ほほぉ。 黄:何を呑気な声をあげてるんだよぉ。 月:知恵の実が生るであろうと思われた種が、 まさかジャックと豆の木の豆だったとは、御釈迦様でも思うめぇ。 黄:人んちの庭に天まで昇るツタを生やしといて、 言うことはそれだけなのか、なんだよぉ。 【実際は翻訳の問題】 朱:どうでも良いですけど〜、これってどう見てもツタなのに、 どうしてジャックと豆の『木』なんですかね〜? 黄:本当にどうでも良いんだよぉ。 月:宇宙を司るとされる大樹ユグドラシル協会が、巨大な植物を表現する時は、 木、ないしは樹という表現をするのが望ましいという通達を出したのが通説。 朱:そ、そうだったんですか〜。 黄:本当、その一瞬で適当なことを言う能力、 何か世間様の役に立たないか、本気で考えてしまう自分が居るんだよぉ。 【ある種の理想像】 月:何はともあれ、登ってみよう。 黄:そのツタにしがみ付く格好、殆どコアラなんだよぉ。 月:ふむ。私もついに、そのレベルの人気者になったということか。 黄:特に何をするでもなくチヤホヤされることで満足なら、 それはそれで生き様というものだから、とやかくは言わないんだよぉ。 【残念ながら末期です】 月:全く関係が無いけれど。 黄:何なんだよぉ。 月:ジャックと豆の木で天上に居る奥さんは普通サイズなのに、旦那は巨人。 これは旦那が特殊な趣味と考えて良いのだろうか。 或いは、嫁の方が――。 黄:何はともあれ、天まで突き抜けているのはツタじゃなく、 月読の脳構造ということで、返答とさせて貰う訳なんだよぉ。 【推定百四十センチメートル】 月:ところで、中腹まで来ておいてなんだけど。 黄:何なんだよぉ。 月:朱雀を置いてきて、本当に良かったのだろうか。 黄:生憎、あの小鳥は自分の身長程の踏み台にさえ耐えられない高所恐怖症で、 話が全く進まなくなるから、妥当な決断だと思うんだよぉ。 【場の流れは重要】 月:もう一つあれなんだけれど。 黄:今度はどうしたんだよぉ。 月:黄龍は天帝の運転手として活躍した過去がある訳で、 空を飛べたと思うのだけど、何ゆえツタにしがみ付いているのか。 黄:生憎、この状況でそんなことをして顰蹙を買う、 どこかの日陰さん程に空気が読めない訳でもないんだよぉ。 【簡易バベルの塔状態】 月:更に言いたいことが。 黄:地道に登るのが、暇なら暇と言うんだよぉ。 月:倭の国で天と言えば高天原の訳で、姉さんの住処なんだけど。 黄:また姉妹喧嘩が始まるんだよぉ。 月:まあ、ここが高天原に繋がってた場合、 世界中に豆を蒔いて、嫌がらせしてやる訳だけど。 黄:今更ながら、この妹、最低だと言わざるを得ないんだよぉ。 【安全地帯でのうのうと】 月:ふぅ、ようやく目的の雲が見えてきた。 黄:腕がパンパンなんだよぉ。 月:これから巨人を相手にする先鋒が、そんな気構えでどうする。 黄:さりげなく、人を突撃隊長に仕立てて高みの見物をしようという精神は、 如何なものかと言わせて貰うんだよぉ。 【飛び出せ不可思議現象】 月:さて、ここは雲の上な訳だが。 黄:何で水滴と氷で構成された雲に乗れるんだよぉ。 月:神族と竜族たる我々が、そういうことに触れてはいけない。 自己の存在を大いに否定することになる。 黄:ここで不貞腐れて帰ると言い出したら付き合いが悪いことになるのか、 月読以外の誰かがちょっくら答えて欲しいんだよぉ。 【聖徳太子を見習え】 メ:食べ掛けたゲテモノは……最後まで飲み込むのが御仕事。 黄:何で本当に答えてるんだよぉ。 一体、いつから見てたんだよぉ。 そもそも、どうしてここに居るんだよぉ。 メ:ん……質問は、一度に一つにした方が良い。 黄:たった三つの質問で処理能力を超えるというのも、 神の代理人として本格的に如何なものなんだよぉ。 【残念無残でまた来週】 メ:結論として……ここは私の家だから。 月:ナヌ? 黄:ちょっと呆けすぎなんだよぉ。 月:おのれ渡来の眷属め。 私の様な純真な神を掌で踊らすとは、何たる悪辣さ。 黄:えーと、とりあえず基本的なツッコミとして、 誰が純真なのか、原稿用紙一枚で簡潔に述べて欲しいんだよぉ。 【姦計の名の下に】 月:あ、もしや貴様、あの胡散臭い行商人だったのか。 メ:ふっふっふ。今頃気付くとは、実に甘ちゃん。 黄:もう、何が何やらなんだよぉ。 月:今にして思えば、ジャックと豆の木の行商人も、 随分、おかしな部分が多々あると思う。 黄:おかしいのは間違いなく月読とメタトロンの頭脳だと、 本日、二度目の返答をさせて貰う訳なんだよぉ。 【基本的に虚弱体質】 メ:まあ、我が家でお茶でもどうぞ。 月:何と、この家、屋根が無い。 黄:そりゃ、雲の上に雨は降らないんだよぉ。 月:陽射しを遮るものが無いとは、肌ケアが大変そうで困る。 黄:かつて紫外線のカットを気にした神様が居たであろうかと思ったけれど、 夜を司るこの御方では、仕方無いのかも知れないんだよぉ。 【そこはパスタやパンとかで】 月:思ったのだが、空気が薄い気がしてならない。 黄:そりゃ、これだけの高所だと必然なんだよぉ。 メ:ん……御飯を炊くと、芯が残るのが悩み。 黄:あんた本当に西洋の熾天使なのか、 常々、疑問に思う自分が居るんだよぉ。 【賢者は意見を大切に】 メ:泥棒も殆ど来ないから、実に安心。 黄:究極のセキュリティなんだよぉ。 メ:汝、隣人を愛せよ。だけど、その隣人が居ない。 黄:今のはキリストジョークとして笑って良いのか、どうなのか、 今度は、メタトロン以外の意見を伺いたいところなんだよぉ。 【職人芸の域】 月:ハハハ。ナイスジョーク。 黄:他に誰も居ないことを、うっかり忘れてたんだよぉ。 メ:喜んで頂けたなら、何より。 黄:この実に微妙な空気感、実際問題として理解出来るのは、 世界に何人居ることであろうか、なんだよぉ。 【ちょっとした重労働だけど】 メ:そう言えば、知恵の実だけど。 月:!? メ:実は、うちに、ちょっとだけ生えてる。 月:ハァハァ。 黄:犬じゃあるまいし、息を荒らげすぎなんだよぉ。 月:探し求めた桃源郷がこんな場所にあった現実、 そなたは認めぬというのか。 黄:とはいえ、こちらが何をしたかといえば、豆を蒔いて、 登ってきただけとも言うんだよぉ。 【何だそのリアクション】 メ:ん……裏に小さいのがあるけど。 月:早く、早く案内して! 黄:キャラが変わってる気がするんだよぉ。 メ:人に物を頼む時には、言うべき言葉がある。 月:!? 黄:いや、そこは驚くところではなく、 素直に口を動かすだけで良いかと思われるんだよぉ。 【ある種の安心感が】 月:お、おね、おねが……。 黄:何でガチガチに緊張してるんだよぉ。 月:けっ、舶来の天使如きに、日の本の神が、頭を下げられるかってんだ。 黄:相変わらず、意地を張るポイントが恐ろしい程にズレている訳だけど、 こうでなくちゃ月読じゃない気もするから困りものなんだよぉ。 【明日へ向かってダイブ】 月:おのれ、見ていろ、いずれ侵略して、知恵の実ごと奪ってくれるわ。 黄:これ程に、小悪党が似合う輩も少ないんだよぉ。 メ:ところで、ツタは私が作った訳で……もちろん、とっくに撤去済み。 月:……。 黄:あらあら、なんだよぉ。 月:黄龍さん。土下座しますので、下まで連れていって下さい。 黄:この子のプライド基準が凄まじいまでに分からないけれど、 まあ月読だから、深く考えるだけ時間の無駄なんだよぉ。
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