【天使と悪魔のくせに現実主義者】 メ:今日も残業、明日も残業。 マ:毎日こんだけ働いとったら、逆に残業とは言わんのとちゃうやろか。 メ:雇用契約とか、労働基準法って、なんなんだろうね。 マ:所詮、人間が作った枠やからなー。 全知全能の不完全なコピーのやることに、完璧なんてありえへんで。 メ:理屈としては間違ってないと思うけど、 問題解決に一切なってないっていうのは理解してもらえるかな? 【結局は諦観に終始してしまう】 マ:どこの病院も、ナースは不足しとるからしゃーないな。 メ:そもそもの根幹はそこだよね。 マ:そのせいで一人当たりの仕事量が増えて逃げ出す奴が後を絶たない、 まさに負の連鎖っちゅう仕組みやで。 メ:歯車が一度狂うと修正できないまま悪くなる一方なのって、 社会の宿命でどうしようもないのかも知れないね。 【どっちが天使でどっちが悪魔だ】 玄:今日からナース見習いとして勤務することになりました、玄武です。 マ:待望の、下っ端やでー。 メ:面倒な仕事を押し付ければ、少しくらいは楽が出来るね。 玄:配属早々、先輩方が不穏なのですが、病院とはどこもこんな感じなのでしょうか。 【この程度に耐えられない奴など必要ないという理屈】 マ:そないなことあらへん。ウチは新人に甘々ちゅうことで有名なんやで。 メ:詐欺師と悪魔は、最初だけすごく優しい。これは、世界の常識。 玄:早くも挫けそうなのですが、 面接での『君は十年に一人の逸材だ』という言葉を心の支えにしたいと思います。 マ:分かっとる思うけど、ウチもそれ言われたで。 メ:ここの理事が一番悪魔的って、チラホラ言われてるんだよね。 玄:仮に明日、出勤を拒否しても私のせいじゃないと思うのですが、どうでしょうか。 【奪うか救うかなど些細な差異さ】 則:ほぅ、新人か。 玄:この、獲物を狙う猛禽類の様な目をした方が、本当に医者なのですか。 則:いずれも、命と向き合う仕事じゃからの。 暴力団員と刑事が似た風貌になるのと同じく、物事とは表裏一体じゃ。 メ:この先生、とても口が回るから、勝とうとは思わない方がいい。 玄:初対面にして、痛切に思い知らされました。 【対患者用の最終兵器として】 則:しかし数多ある病院の中からここを選ぶとはのぉ。 玄:何かしら、影を落とさないといけない決まりでもあるのでしょうか。 マ:ウチらなりの、歓迎のスタイルっちゅうやつやで。 メ:風味が強い食べ物に最初は拒否反応を示しても、 慣れると病みつきになることもあるのに似てるかな。 玄:研修の一環として、詭弁や言い訳の講座があるのではと、 割と本気でマニュアルを読み返したくなってきました。 【選ばれし者にのみ許される荒業】 マ:なんにしても、分からんことがあったらなんでも聞いてやー。 丁寧に教えるとは限らんし、忙しい時は無視するかも知れへんけど、 どの部署も似たようなもんやからな。 玄:とりあえず、退職願の書き方は教わっておこうと思います。 マ:辞める時は出勤せんと、電話や来客もガン無視が基本やで。 玄:一度、基本という言葉を辞書で引くことをオススメ致します。 【完全に洗脳されきってるかも知れない】 メ:人間って不思議なもので、その環境に身を置いていると、 客観的にどんなに理不尽でも、それが普通って思っちゃうものだから。 玄:その物言い、この職場がどれだけおかしいか、分かってますよね? メ:薄々勘付いてるけど目を背けるのも、人の本能みたいなものだよね。 マ:人生っちゅうやつの厳しさが学べる、有能な職場やで、ほんま。 【それを期待してるようにも見えるけど】 メ:今日は、地域の方々を対象とした健康管理講習会のお手伝い。 マ:冬場は、急に熱い風呂に入ったりして、心臓を驚かせたらあかんでー。 玄:軽快な口調で皆さんを和ませるとは、中々やりますね。 則:正月じゃからといって勢いよく餅を飲み込んではいかんぞえ。 最悪の場合、喉を切開して吸い出すことになるやも知れんからの。 玄:時には脅かして危機意識を促すことも、大事なのかも知れません。 【リアクションしろというのは無茶振り】 マ:年末年始は酒を飲む機会も増えるやろけど、 肝臓っちゅうんは処理量に限界があるんや。 ほどほどにせなあかんでー。 メ:まあ、私達は限界なんて存在しない勢いで働かされてるんだけどね。 マ:ここは、笑い飛ばすとこやでー。 玄:いまだかつて、これほどまでに愛想笑いと苦笑いが、 絶妙な配分で交じり合った表情を見たことがありません。 【異世界設定は全てを蝕む】 則:東洋医学の基本は、身体を温めることじゃ。血流をバカにしてはならんぞ。 滋養を隅々にまで届けるのは、血の仕事じゃからの。 玄:命の基本は血液、実に含蓄のある言葉です。 メ:何だか、物凄い違和感が? マ:あんた、ほんまに血が流れとるんかいな。 玄:な――私が、それほどの冷血漢に見えると言うのですか。 メ:そういった話じゃないんだけど、なんだろうね、本当。 【ナースロボと考えればロマンの塊なのに】 マ:あとはやっぱり、ストレスを溜め込み過ぎへんことやなー。 快食快眠がでけへんようになったら、要注意やで。 メ:人間も動物の一種だっていうのを忘れないでってことだよ。 玄:何故だか、更に疎外感を覚えるのですが。 メ:その件に関しては、終わってからちょっと話し合おうかなって思う。 【こんなに輝いてる玄武見たことない】 マ:新入りー、内科の先生が内服薬の在庫確認してこいやてー。 玄:はい、分かりました。 メ:会計収支のここのところ、辻褄が合わないんだけど原因分かるかな? 玄:おそらくですが、領収書の処理に問題があるのかと。確認してきます。 マ:いやー、使える新入りで助かるなー。 メ:あとは逃げ出さないように、搦手を考えておかないとね。 【こんな品行方正な玄武も見たことない】 玄:仕事をするのはいいのですが、何故、在庫管理や会計処理といった、 データ的なものばかり回されるのでしょうか。 マ:そういうの、得意そうやん。 玄:何を根拠としているのですか。 マ:滲み出るオーラっちゅうやつやな。 玄:何だかよく分かりませんが、人の役に立てる喜びを感じているので、 問題ないことにしておきます。 【完全に悪徳経営者の論理】 マ:こうやって、人は社会の歯車になっていくんやなー。 メ:それもまた人生と、割り切れるようになったら大人だよ。 玄:せめて私が認識できないところで言っていただけませんか。 マ:見方を変えてみーや。 歯車にすらなれへんやつは没落の一途を辿るんが世の中のルールやで。 玄:それが私を丸め込める為の方便であることは、 短い付き合いですが理解しているつもりです。 【一日を二十パーセント引き延ばす魔法の言葉】 マ:ま、何でもええわ。今日中に、この書類まとめといてや。 玄:今日中って、既に二十二時を過ぎているのですが。 マ:安心しぃ。この業界じゃ、午前七時までは今日の内やからな。 玄:テレビ番組欄の二十五時などといった表記に違和感を覚えていましたが、 三十時の大台に乗ると、ちょっと笑えてくるのは何故でしょう。 【モチベーションが高いのはいいことだ】 則:〜〜♪ 〜〜♪ マ:なんやあの先生、えらい上機嫌やな。 メ:人手が足りなすぎて、手術の予定がぎっちり詰まってるんだって。 玄:そこは、喜んでいいところなんですか。 マ:警察と病院は暇な方がええっちゅうんは昔から言われとるけど、 そないなもん、軍隊が無ければ戦争は起こらんくらいの絵空事やからええんちゃう。 【只でさえミスが許されないというのに】 マ:お陰でウチも、通常のと助手の仕事が、とんでもないことになっとるで。 メ:何、このミルフィーユみたいに薄く折り重なった予定表。 玄:分単位で書き込まれてますが、手術が時間通りに終わるとは限らないのでは。 マ:そん時はしゃーない、次をほっぽり出す訳にもいかんし、 誰かに引き継いでもらわなあかんやろな。 玄:これはもしや先生方の緊張感を高める為の作戦なのではと、 深読みしてしまったのですが、どうなんですかね。 【虚弱体質だと一年もたないな】 マ:よっしゃー、三つ目の手術、二分はよう終わったでー。 メ:ナース業って、タイムアタック制だっけ? 玄:再現性が無いので、ベストラップを刻めているかも分からないですよね。 マ:何ゆうとんのや、三分あれば飯が食える。五分あれば仮眠がとれる。 それがどれほど幸せなことか、噛み締めるチャンスやで。 玄:そのまま人生の方も最速で終えてしまいそうな生活だと、 言ってしまってはいけない流れなのでしょうか。 【コケた時が大惨事というのもそっくり】 マ:しっかし終えてみると、 よくこんな無茶なスケジュール組んだもんやと思うで、アホちゃうか。 メ:まだ喋る元気があるんだし、余裕ありそうな気がしてきた。 マ:次の機会は、もっと攻めろっちゅう前振りやな。 メ:変に仕事量を加減したら医療過誤が増えそうな辺り、 全力疾走で駆け下りる自転車みたいな話だよね。 【言葉から誠意を感じない】 玄:お二方は、どうしてナースになろうと思ったのですか。 マ:人の命を慈しみ、救う手助けが出来る。こないに素晴らしいことがあるかいな。 メ:学生の頃、皆が頑張る姿を見て、私もちゃんとしなきゃな、って。 玄:明らかな面接用の返答に、お茶を濁す気満々なのが透けて見えます。 【珍しく強欲の悪魔らしい理屈】 マ:この病院、過酷やけど残業手当はしっかり出るからな。 それが理由でええんちゃう。 玄:たしかに、初任給とは思えない額面になってましたね。 使う暇ありませんけど。 メ:結婚資金にしようにも、その相手を探す隙もないこの理不尽。 マ:通帳の残高見るんが唯一の趣味になったら、危険水域やで。 【アイデンティティだから消しようがない】 マ:残業代出るんやったらブラックちゃうやんとか思うたら、相当に毒されてるで。 玄:触れるつもりもなかったのに、何故先んじたのですか。 マ:奴隷根性で自分の方が不幸やっちゅう自慢始めたら、誰も得せーへんからな。 それはそれで、なんや楽しくなってくるウチがおったりもするんやけど。 玄:人は誰もが、心に悪魔を抱えているということでしょうか。 【服の乱れは心の乱れという余計なお世話】 マ:でもまあ、結局のところ理由なんてどうでもええやろ。 人は今を一生懸命に生きとれば、過程は問うべきやないんや。 メ:ナース服可愛いなぁって、女の子は誰しも一度は思うよね。 玄:茶化しているようで、これが本音っぽく聞こえてきました。 マ:その制服も、超過勤務で大分へたっとるんやけどな!
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