邂逅輪廻



【普通に考えればお迎えの方だよね】
マ:ウッチは陽気な極楽ナース♪ 地獄の門番まっしぐら〜♪
メ:出勤したら、夜勤明けの同僚が奇怪な歌を口ずさんでいた。大丈夫、かな。
マ:いやー、思たんやけどな、白衣の天使っちゅうやん。
  病院で天の使いとか、ほんまに言うてええんかいなって。
メ:うん、帰って寝よう、割と本気でさ。


【誰がサポートするんだという問題は残る】
マ:ところがこの後、手術の助手が入っとんねん。
メ:考えてシフト組もうよ。
マ:問題あらへん、ウチが調子出るんは、丸一日働いた後やさかいな。
メ:担当の先生が、二人同時に執刀しなきゃならないなんてことは避けてね。
マ:そん時はナースの務めとして、患者を優先しぃってハッキリと言うで。
メ:倒れないようにするっていう発想は、無いんだね。


【病巣の摘出が患部だけとは限らない】
マ:手術、無事に終わったでー。
メ:何かあったら、大問題だったよね。
マ:心配あらへん。ここの病院、みんなが思とるより、色々な方面に顔が利くんやで。
メ:普通はそっちの心配をしないって、言って説いたら納得してくれるのかな。


【標準的大病院という偏見】
マ:ふぅ、これでようやく三時間仮眠できるで。
  その後は明日の夕方まで、何がしかやらなあかんけどな。
メ:今日の夜勤は私がやるから、本当、帰って寝て。
マ:そないに甘いこと言っとると、この病院では生き残れへんでー。
メ:何で戦場みたいに言ってるのかって思ったけど、
 たまにそれに近い状態になっちゃうのがなんともはや。


【割かしペテンに近い言い回しの様な】
マ:ウチは注射、得意やでー。
  いい年したオッサンが、目を逸らしてビクビクしとんのを見とると、
 得も言われん楽しさが湧いてくるんや。
メ:それ、得意って言うの?
マ:仕事をする上で不快感がないっちゅうんは、自信がある証拠なんやで。


【医療行為に見せかけた心理実験の可能性】
マ:大体あないなもん、言うほど痛ないやろ。何、ビビっとんねん。
メ:痛みの時間を指定されることって、意外と無いから、かな。
マ:予告せんでやったら、絶対、怒り出すやん。
メ:それは、全く別の問題になってるから。
マ:三本に一本が当たりの、ロシアン注射器とか打ってみたら、
 どないな反応するんやろなー。


【手術の時と言ってることが真逆だよね】
マ:しかし、何で人の血管っちゅうんは、あないに千差万別なんや。
  細くて埋もれとる奴は本気でぶっ刺したくなるで。
メ:いつものこととはいえ、ナースとは思えない発言があったなぁ。
マ:職業人である以前に、ウチの人格を第一に生きるっちゅうんがモットーやからな。
メ:病院の面接を受ける時、どんな猫を被ってきたのかが気になってきた。


【アンティークと古臭いには壁がある】
メ:あまり痛くない注射器が開発されたらしいし、普及すればこういう会話も減るのかも。
マ:失われていく伝統文化っちゅうやつやな。
メ:そこまでの話かな?
マ:最近の若もんに、磁気テープの記録媒体の話しても通じんのやろ。似たようなもんやで。
メ:逆にレコードとかは好きな人が集めてるのに、不思議な話だよね。


【何一つとして安心できる要素が無い】
則:ふむ、風邪じゃな。開腹手術をしようと思うが、どうじゃ。
患:快復……病気が治ることですよね?
則:腹を開くから、開腹じゃ。
患:風邪で、ですか?
則:案ずるでない、純粋に妾の趣味じゃての。


【野に放す方が危険だという考え方】
メ:何でこの先生、クビにならないんだろう。
マ:人間性よりも、技術と知見を重視しとるらしいで。
メ:限度ってものがあるんじゃないかな。
則:生きた人の肉を裂ける数少ない仕事じゃから選んだと言うに、
 ここのところ回して貰えんでつまらんのぉ。
マ:別の意味で病院入れないとダメな人だと思うよ、これ。


【誰も哲学的解答は求めていない】
則:それにしても、電気メスはいかんの。血も少なければ、抵抗も少ない。
  これを手術と呼ぶのは、邪道というものじゃ。
メ:手術って、なんだっけ。
マ:なんやろなー、一介のナースには難題すぎるわー。
メ:そうやって、立場を上手いこと使い分けるの、得意だよね。


【英才教育を施されても困りますが】
則:まあよい、今日のところは研修の小僧っ子で遊んで、満足するとしよう。
マ:これが大病院の知られざる暗部やでー。
メ:一般的みたいに言われても困るんだけど。
則:何を言う。専門も決めておらぬ若造など、どの様に扱おうとこちらの勝手じゃろ。
メ:汎用性の高い料理の素材みたいに言ってるけど、
 できれば普通に育てて欲しいなって、ちょっとくらいは思ってみたり。


【愛の強要は搾取と変わらぬ】
マ:今日の仕事は、献血の手伝いやでー。
メ:本当、何でもやらせるよね。
マ:さぁ、道行く衆愚共から口八丁で血を絞りとる作業に入るでー。
メ:間違ってはいないけど、言い方って大事だなって思うよ。


【関係者に働く独特の勘】
マ:お、そこの嬢ちゃん、いっちょ抜いてかんかー?
朱:ふに?
メ:なんだろう、この触れちゃダメな感じ。
マ:何や知らんが、精製したら、えらい妙薬ができる気せーへんか。
メ:うん、現場の知識しかないけど、そこのところは同意できるかも。
朱:ふにふに?


【別世界の記憶が混線するからしょうがない】
マ:年齢制限で引っ掛かるとは、迂闊やったで。
メ:何でか分からないけど、あの見た目で充分以上に生きてる感じがあったもんね。
朱:小学生なのに声を掛けられるとは思いませんでした〜。
マ:ホンマか? 実は五千年とか生きとるんちゃうんかい。
朱:な、何でそこに、トコトン食い付くんですかね〜。


【不足してると言う割に対策はショボい】
朱:とりあえず、お詫びの印にお菓子を頂きました〜。
マ:知っとるか、嬢ちゃん。
  見ず知らずの大人が子供に菓子を差し出したら、大体、よからぬことを考えてるねんで。
朱:そ、そうなんですか〜?
マ:善意で成り立たせようとしとる献血自体ロクなもんやないっちゅうたら、それまでやけどな。
メ:先生に怒られたからって、業界批判はやめておこうよ。


【本末転倒だけど人材としては貴重】
マ:今日の患者はえらい多いなー。近くで祭りでもあるんかいな。
メ:飲食店みたいに言われても。
マ:いやいや、人が集まればそこに商機があるんは、どこも一緒やで。
メ:仮にもナースなら、そういうこと言うのは慎もうよ。
マ:働いてへんと落ち着かんようになってもたんやから、しゃーないで。


【そんな露骨なことはしないから】
則:タチの悪い風邪が流行っているそうじゃ。
マ:この病院が、何よりタチ悪いのになー。
メ:笑えない冗談は、置いておいて。
則:朝から外来がひっきりなしじゃったぞ。
  バッサバッサと捌いてやったがの。
メ:適切な処理をして片付けるって意味なんだろうけど、
 一瞬、解体するって解釈したことに違和を感じない自分が怖い。


【主治医にしたくないのは間違いない】
マ:ちゅうっとったら、次は急患やで。
則:妾が執刀するぞえ。他の医者共は、適当な仕事を押し付けておけばよい。
メ:鼻息荒いなぁ。
則:ああ、この血の匂いが鼻を突くだけで、なった甲斐があるというものじゃ。
メ:これを天職と呼んでいいか分からないけど、
 割と救命率が高いせいで、何とも言えない感情が湧いてくる訳で。


【正体って自然に漏れ出るものだよね】
マ:ふぅ、ともあれ今日も何とか乗り切ったで。
メ:ナースには心技体全てが要るって話だけど、うちの場合、心と体の比率が高すぎないかな。
マ:そういう時はひっくり返して考えればええんや。
  ここの勤務を平然とこなせるようになれば、どないなとこでもやってけるで。
メ:その比較的ヌルい地獄に落とされた人に、
 もっと過酷な場所があるって言って耐えさせるみたいな理屈、実に悪魔的だよね。


【雑談は業務の内という丼勘定】
マ:何や、週刊誌にすっぱ抜かれたらしいで。
  『激録! 過酷すぎる大病院の勤務実態!!』やて。
メ:それ、明らかに誰かさん個人のスケジュール表だよね。
マ:失礼なこと言いなや。ウチはこないに小休止したりせーへんで。
メ:世間的に今の時間は休憩扱いだと思うし、本人が思うほど人って働けないよね。


【シラフならそれはそれで問題なのですが】
マ:他にも『恐怖! メスに取り憑かれた現代の切り裂きジャック!!』やて。
  一昔前の都市伝説やあるまいし、こないなもんおる訳ないのになー。
メ:ノーコメントの方向で。
則:分かっておらぬ記事じゃの。これでは妾が刃物に酔っているみたいではないか。
  如何なる道具も所詮は道具、使う者の精神性こそ肝要というに。
メ:触れないようにしたのに、本人が積極的に絡んでくるのはどうなのかなぁ。


【頭が無限ループに陥りそう】
マ:こないな雑誌、嘘八百っちゅうんが分かっただけやったな。
メ:意外と、外れてない感じもあったんだけど。
マ:そういうんは占いや予言書と一緒やで。
  合ってる思て見たら、大抵のもんは合致してる気になるだけや。
メ:もっともらしい物言いに聞こえたけど、
 その理屈も思い込まされてるだけだったらどうしようか。


【二枚舌は悪魔の基本的作法とも言える】
則:正しさなど、所詮は有象無象の他人が作り出した虚像じゃ。
  最も尊重すべきは妾の価値観と意志、その様なことも分からぬ程に耄碌してはいかんぞえ。
メ:立派なこと言っているようで、一応は医者としてどうなんだろう。
マ:医者に人格を求めすぎやで。
  どないな考え方してようとも、治してくれるんやったらそれでええやないか。
メ:じゃあ、何かあった時、この先生にお願いするの?
マ:他に選択肢があるんやったら、お断りや!


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