【エサ時の猫の様】 長:さぁ! 年末大掃除の季節ね! メイドの本領発揮よ! ?:め、メイド長〜。芽依さんが見付かりません〜。 長:大丈夫よ。こういう時は、夏の残り香、冷麦を茹でればすぐにでも――。 芽:こんな、古典的な罠に掛かってしまった自分が憎い。 【基本的に戦力外】 芽:冷麦に、ダシ醤油は邪道だと言いたい。 長:あんたの嗜好は、この際、どうでも良いの。 芽:ああ、この小麦の芳醇な香りだけで、 御飯三杯はいけるというもの。 長:どう考えても体調を崩しそうだけど、 あんたなら物置に放り込んでおくだけで済むから、 特に誰も困らないわよね。 【立場は瞬時に入れ替わる】 芽:それで、私は何をすれば。 長:似合わないくらい、殊勝な態度ね。 芽:ここで私をどう扱うかで、メイド長の器が分かるというもの。 長:どういった経緯で私の方が試されてるのか、 ちょっと解説を求めたい気分だわ。 【半ば本能で】 芽:結局、ひたすらに雑巾とモップを絞り続ける御仕事。 長:紐で括りつけておけば、逃げ様も無いでしょうしね。 芽:おのれ、この横暴さ。動物愛護委員会に訴えてくれる! 長:だから、何で又、動物愛護の団体な訳よ!? 【新手の宣伝かと】 芽:年末の風物詩と言えば、やっぱり年賀状。 長:あんた、そんな張り切る程、友達居るの? 芽:失礼な。この界隈、一キロ四方の猫達とは盟友と言って良い。 長:飼い主の方も、猫宛に年賀状が届いたら、 どうしたものかと思うことでしょうね。 【人を呪わば穴たくさん】 長:それにしても悪筆ね。 芽:この位が、猫にとっては読み易い。 長:程度をあんたに合わせるなら、 たしかにこれくらいが妥当っていうのも頷けるわね。 芽:ええい、人が清書しているのに横からゴチャゴチャと――。 長:真面目にやってる人の妨害をするのは、 あんたの専売特許って訳じゃないのよ。 【典型的ブーメラン】 長:さぁ〜て。正月に向けておせちを仕込まないとね。 芽:洋館でメイドがおせちというのも、随分とシュール。 長:私は、働かないメイドなんて物を見慣れてるせいで、 このくらいじゃ違和を感じたりしないけどね。 芽:にゃー。 【きっと数の子に反応】 長:さて、猫が寄らない、良いおせちの保管場所は、と――。 芽:ふー! 長:何であんたが、無闇にテンション上げてるのよ!? 【殺されるかと思った】 芽:北海道産メイドと言うと、何か良い響きがする。 長:どういうことなのか良く分からなくて困るわ。 芽:北海道産と明記されれば、何となく品質が高い気がする。 つまりは、そういうこと。 長:メイドをポテトチップスや乳製品と一緒にされるというのもね。 芽:要は鮮度が命と言いた――いえ、何でも無いです。 ?:め、メイド長の眼光に、さしもの芽依さんもたじろぎました〜。 【不可侵条約締結】 芽:ブルーチーズなんかは、熟成が命。 ?:こ、こんなにも媚びた芽依さんは中々見られません〜。 長:更に逆撫でしてるんだけどね。 芽:……どうもすいませんでした。 長:誰にでも逆鱗はあると、分かっただけでも良い勉強だったでしょ。 【死亡確認は定例行事】 芽:ところで、結局、メイド長は何歳なのか。 長:あんたの反省しないところは、まさしく猫レベルね。 芽:自分を曲げてまで長生きはしたくない。 つまりは、そういうこと。 長:たった今、命運が尽きたことも、受け入れる覚悟があるってことね。 芽:うにゃー!? 【メイド長よりありがたい御言葉】 ?:あれ〜? 芽依さんは何処ですか〜? 長:年末恒例、年忘れの精神を注入されるまで、寒風に晒してるところよ。 ?:と、年忘れってそういうものでしたっけ〜? 長:何があっても、自分に都合よく解釈すること。 これが社会で長くやっていく秘訣よ。 【所詮は川柳】 芽:ふむふむ。今年は、猫からの年賀状が多くて嬉しい限り。 長:猫の飼い主って、バカしか居ないのかしら。 芽:新春ということで一句。 親バカを、バカと呼ぶには、若過ぎて。 長:バカって季語だったかしらと、 一瞬、真面目に考えた自分が憎いわ。 【ダブルスタンダードと二枚舌】 ?:今年こそ〜、時給アップと休日増加を願いたいところです〜。 長:今、浅ましい部下を見たわ。 芽:いやいや、人間として、実に正しい姿勢だと思う。 長:私の中では、人間と猫を使い分けるあんたが一番浅ましいんだけどね。 【面倒だから却下】 芽:新年ということで、今年の目標を。 長:どうせ、今年もクビにならないようにとかでしょ。 芽:今年こそ、役職手当が貰える立場になりたいな、と。 長:私を踏み越えていくくらいの器量を見せたら、 幾らでも進言してあげるけどね。 【自分に厳しく猫には甘く】 ?:そういうメイド長の、今年の目標は何なんですか〜? 長:このふてぶてしい粗大猫を、飼い慣らすことよ。 芽:うにゃーご。 ?:ですけどそれって〜、猫さんのサーカスより難しい話ですよね〜。 長:自分で言ってなんだけど、 余りに高い設定に、頭がクラクラしてきたわ。 【勤務外扱いということで】 芽:新年と言えば、やっぱり羽子板。 長:随分と古典的な遊戯ね。 芽:羽を使って、猫と戯れるのも又一興。 長:まあ、正月くらい、あんたが好きな様に生きれば良いと思うけどね。 【人物補正は大切】 芽:構ってくれないというのも、寂しい。 長:何、そのアウトロー気取りの組織依存体質。 芽:どの様にか細い糸であろうと、人と人というのは縁で繋がって――。 長:あんたの説法ほど心に響かないものはないと、 今更ながらに実感させられたわ。 【相手は達人級か】 芽:カルタ大会を、決行する。 長:誰か、構ってあげて。 ?:わ、私は〜、一枚も取れなかった過去がありましてですね〜。 長:それはそれで、凄いと思うのは私だけ? 【メイドとしては役立たない】 芽:あさぼらけ〜。 長:それは百人一首って言ってね。 芽:その昔、阿修羅と化した侍が一度の合戦で百の首級を挙げたことに感服し、 主君が作ったとされる歌集。 長:あんた、本当、適当なことを言わせたら大したもんよね。 【とにもかくにも面倒で】 芽:寝正月にも、飽きてきた。 長:今の、ひょっとして笑うところ? 芽:ああ、笑いたくば笑うが良い。 長:何で軽く逆ギレされたのか、誰か説明してくれない? 【無闇とストレス蓄積中】 芽:ここは新たに、煮正月を開発しようと思う。 長:言ったからには、責任取りなさいね。 芽:こう、雑煮以外で火を使ってはいけない、 正月だからこそ出来る煮込み的なものを――無理。 長:だから、何でちょっと逆ギレちっくなのよ。 【キュッとくびりたい】 芽:おかしい。正月は、何もしなくていい至福の時のはず。 長:普段から、何もしてないじゃないとは言っちゃダメなのね。 芽:はっ! 何かをしなければならないのにサボるからこそ、 喜ばしいということか。 長:テスト期間の部屋掃除みたいな話だけど、 私の中で若干の殺意が芽生えたわ。 【そして日常へ】 ?:お、お正月も、もう終わりですね〜。 芽:あー、何だか凄く落ち着く。 長:この、ダメメイド! 芽:やっぱり、こうじゃないと私じゃない。 長:世間的には、自覚の無い無能が一番手に負えないって言うけど、 自覚がある無能っていうのも、神経に障るって意味じゃ大差無いわよね。
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