邂逅輪廻



「ところで、発想を逆転させて、サイコロを振らなかったらどうなるんだ?」
「すんごいこと言い出しましたね」
「俺は、与えられたルールに縛られる様な小さな人間にはなりたくないんだ!」
「キャラクターに全く合ってないのはさておきまして、そうですね。科学の力なのか、魔術的なものなのかは置いておいて、このサイコロは、定期的に使用しないといけない召喚装置だと仮定してみましょうか。とすると、召喚行為は、水門を適切に放水することと言えます。つまり無理に堰き止め続けると、待っているのは決壊、そして鉄砲水かと――」
「すぐ振ろう、今すぐ振ろう」
 五人くらいでも扱いきれない連中ばかりなのに、一気に二桁とか湧いたら、収集を付けられる気が全くしない。
「では、残りは、舞浜千織、浅見遊那、西ノ宮麗、一柳空哉、三つ子ちゃん、マリー=ウリエル=チェンバース の六名です」
「絶対数が少ないとはいえ、そろそろ男が出てもいい頃合いではなかろうか」
「それについては、本格的に運任せなので、何とも」
 ヤラセなしってのも、これはこれでスリリングなんだよなぁ。
「コロっと。二ですので、遊那ちゃんですね」
「首から下だけ見れば、男と言っても差し支えないな」
「初っ端からそれって、色々な方面を敵に回してますよね」
「世の中には無乳という言葉があるそうだが、無とは即ちゼロであり、もっと哲学的かつ、虚無的なものであろう。そういった思考の末、微乳より小さいといっただけのまな板如きに無という称号を与えていいのだろうかという疑問にぶち当たったのだ。そして科学界では、十のマイナス六乗、即ちマイクロを漢字で微と表記し、又、十のマイナス九乗、ナノを塵とすることから、塵乳と書いて『じんにゅう』と読む造語を生み出した訳だ。ゼロでは無いが、認識するにはあまりに小さい、まさに断崖絶壁を評するに相応しい言葉だとは思わないかね。遊那はその塵乳を関する第一号であり、先駆けと言ってもいい存在なのだよ」
「大真面目な顔して語ってますけど、軽いセクハラですよね」
「お、俺のせいじゃない。何かが、何かが乗り移ったんです。信じて」
 この業界ではよくあること。思想垂れ流しの非難を受ける、ギリギリの勝負ではあるんだけどさ。
「ところで、ここで皆様に重大発表が」
「はい?」
「一部マニアに御好評頂いた、『センセーショナル・黄龍ちゃん』は、この六話で終了することと相成りました」
「いきなりすぎて、コメントに困る」
「元々、気軽に文章を書いて復帰への足掛かりにしようと目論んでたみたいですからね。何かもう、全方位にやる気復活したから、存在意義なくね? とか思っちゃったりしたみたいです」
「思っちゃったか〜」
「このタイミングでやめられると、私のせいみたいで、非常に遺憾なのだが」
「遊那さん、チーッス」
 登場までおざなりとは、貴様、できるな。
「そうです。私の登場回に人気がなくて打ち切られたみたいじゃないですか」
「天照さんも、コメントに困ること言わんといておくれやす」
 全ては、元締めが悪いって、みんな知ってることじゃないか。
「まあ、グダグダだろうとなんだろうと、最後は最後だ。その内、また異文化交流するかも知れないし、立つ鳥跡を濁さずの方針でいこう」
「ふに?」
 鳥の話だからって、とりあえず食いつかれると、キリがなくなると思います。
「但し、やりたいことはとりあえずは思いつかない」
 最後の最後まで、この酷さは直らんかったよ。
「ジャンケンでもするか。負けた奴は、校庭三周な」
 清々しいくらい、やる気を感じない。
「最後ですから〜、何か壮大なことをしましょうよ〜」
「残り文字数でできること限定な」
 いや、別に縛りがある訳じゃないんだが、何か、気分の問題で。
「短くても、それなりに盛り上がるといえばアレですね」
「ほぅ?」
「犯人は、この中に居ます!!」
「……」
「な」
「何を言うんですか〜」
「ここに居る全員に、アリバイがあるって結論は出てるんだよぉ」
 ノリいいな、君達は本当に。
「ですが、犯行時間自体が作られたものだとしたら、どうです?」
「そ、その点には気付きませんでした〜」
「まさに、発想の裏を掻かれた心持ちです」
 ミステリ的には、王道過ぎて、使うのさえ躊躇われるレベルである。トリックの出来にもよるけど。
「とまあ、こんな感じでですね。『毒舌探偵桜井岬 〜口車って初乗りいくらになるの?〜』的に。決め台詞は、『警察の尋問なんて、生温いものですよね』辺りで」
「何を言って追い詰める気だ、君は」
「手は出しませんよ? 美学が許しません」
 ある意味、犯人よりひどい探偵かも知れない。売れる気はしないけど。
「その類のでいいのでしたら、私も一案があります」
「天照さん、どうぞ」
「フワハハハ。出たな、魔獣王帝スサノオめ。今こそ、雌雄を決してくれる、ウワー、ドギャー、バキー。くっ、このままでは。ドワフワハハ、苦戦しているようだな、アマテラスよ。はっ、あなたは聖光大帝ツクヨミ――」
「擬音が多すぎて分かりづれ―よと言うべきか、誰が何の配役なのかの説明が足りねーよと言うべきなのかが分からない」
「こういう時は、半笑いで、ははは、お戯れを、って言っておけば、気品を損なうことなくあしらえます、って、お姉ちゃんが言ってました」
「便利だなぁ、あのリーサルウェポン。責任回避的な意味で」
 本当に言ってても違和感が無いという点では、最高の隠れ蓑だ。
「ふに〜。でしたら、こういうのはいかがでしょうか〜」
「もう一方のリーサルウェポンもどうぞ」
「お、黄龍さんが、私のお母さんだったんですか〜!?」
「ついに、バレてしまったんだよぉ」
「解説の桜井女史。この展開はいかがでしょうか」
「そうですね。そもそも朱雀さんの一族は卵生なのか、胎生なのかが未だもって謎ですし、黄龍さんも、端数を切り捨てたり、四捨五入する女性のサガのせいで、正確な年齢が不明です。設定の矛盾をついた、好展開と言えるかもしれません」
「一応、龍族は爬虫類、鳳凰の血族は鳥類に属するという意見もありますが」
「まあ、黄龍さんの寿命無限設定の時点で生物として色々アレですし、朱雀さんに至っては、宇宙の真理を繋がってるとさえ言われる存在ですから、その程度のことは誤差の内でしょう」
「お前ら、実況と解説入れ替えてもソツがないなぁ」
「新ジャンル、実況解説風コントというのを、開発すべきだな」
「多分、どこかにありますけどね」
「す、すっごくおざなりな気分です〜」
「全力でいじけてやるんだよぉ」
「物凄い年上がとる行動とは思えない」
 ツッコミ委託しておいて、この態度はないよな?
「それでは、先輩の番です」
「義務だったのか、これ」
 いきなり言われても、大したものは思いつかない。
「俺を呼ぶのは、天の差配か! 時を招くのは、夢の瞬きか! 心を叫んで、命と成すがいい!」
「知ってましたけど、熱血も邪気眼も似合いませんよね」
「やらせておいて、その物言いか」
 やだ、この子、割と本気でサディスティック。
「では、満を持して、私の出番だな」
「すいませーん、収録押してるんでー、カットでいいっすかー?」
「エセ業界か!」
「雰囲気で物を言う能力だけなら、そこらの奴には負けないぞ」
 それが自慢になるかについては、敢えて言及しないでおこう。
「しかし、死ぬまでに言ってみたい台詞ってのは、あるよな。もちろん、それにふさわしいシチュエーションで」
「おのれ、こしゃくな! みたいな感じですか〜?」
「そういえば、割と長生きしてるけど、年は取りたくないものなんだよぉ、と言った記憶が無いんだよぉ」
 相変わらず、すげーツッコミづれー。
「発想を転換させるんだ。使いたい台詞があるなら、不自然ではない状況を生みだせばいい」
「あ〜れ〜、おたわむれを〜と言いたいが為に、和装と、日本屋敷を用意しろ、と」
「何で男のお前が言うことになってるんだ」
「夢や希望を持つのは自由だろ!」
 ちなみに、本当に言いたいかと聞かれると、首をかしげる程度の情熱ではある。
「ああ、分かります。私も、一度でいいから、囚われのお姫様というのをやってみたいです」
「自分の意志で引き篭もって、神々に頼むから出てきておくれって泣きつかれた人が言うと、重いんだか何なんだか分からないです」
「字に起こすと、本当、只のダメな大人ですよね」
「若い頃には、過ちの一つや二つ、あるものです」
 これだけの地位の方に居直られると、誰もツッコめなくなるんだろうなぁ。
「囚われのお姫様は、全女子共通のロマンだからしょうがないな」
「遊那は、とりあえず色々と軌道修正してから発言して下さーい」
「おいこら。出てきていきなり最終回宣言された上に、何の見せ場もないまま終わらせる気か」
「この業界、よくあることよ? テコ入れで新キャラ出したものの、不発でそのまま打ち切りとか」
「むしろ、何だかんだで連載が続くのは、初期中期メンバーのバランスがしっかりしてる作品です」
「そういう話だったろうか?」
「誰と絡ませても面白い方が居ますと〜、安定感が出ていいですよね〜」
「自覚なく自画自賛できるって、ある意味、凄いことだと思うんだよぉ」
「全くもって、その通りです」
「ふに?」
 仮にも笑いに携わる人間として、この領域に踏み込むことが幸運なことなのかどうかは、敢えて深く考えないでおこう。
「あー、では、そろそろ終わりということで、一言づつコメントをお願いしたいと思います。最初に、朱雀さん、どうぞ」
「この度は〜、この様な場にお招きに預かり大変、恐縮です〜。この経験を、他の場所でも活かしていきたいと思います〜」
「どうですか、解説の桜井さん」
「そうですね。奇をてらったと言いますか、素っ頓狂な発言が目立つ朱雀さんだけに、この様な当たり障りのないコメントというのは、逆に際立つ面があるとは思います」
「ですがそれは、朱雀さんの本来の姿を知っている方にしか通用しないという指摘もありますが」
「その件に関しては、今後の課題、ということで期待するしかないでしょうね」
「お前ら、その立ち位置変えないつもりか」
「立場逆転って、やってみると意外に楽しいぞ」
 だというのに、俺がボケに回るとほとんどツッコんでくれないのは理不尽だと思います。
「では、次は天照さん、どうぞ」
「地球に生を受けた皆さん。こんにちは、天照大御神です。皆さんは、太陽というものの恩恵を、日々感じ入って生きておられるでしょうか。そう、この地球という命溢れる惑星は、ほぼ全て、太陽の恵みなくして成り立たないものだと――」
「すいやせーん。そこまで大風呂敷を広げた自己主張は、動画サイトにでも、ひっそり上げてくださーい」
「ええー!?」
 比較的低予算で全世界に発信できる時代なんだから、神様専用サイトでも作ればいいのに。凄い揉めそうではあるんだけど。
「じゃあ、遊那さん、どうぞー」
「私、本当に、何一つ、いいところなくなかったか?」
「やあ、塵乳第一号」
「作者とお前は、一度、人気のない路地裏で勝負してやるからな」
 だから、俺の意志が言ってんじゃないと主張しておろうに。
「岬ちゃんは、何かある?」
「世の中には、やっぱりまだまだたくさんのアホの子がいるんだなぁと、しみじみ感じ入りました。もっともっと、鍛錬して、御せるようになりたいと思います」
「これが、世に転がる不思議とか、ロマンだといい話なのに、アホの子だとなんだかなぁな気分になるのは何故なんでしょうね」
 自分が知覚する世界が狭いと知るという意味では、大差ないだろうに。
「黄龍さんは、どうですか?」
「まあ、こういう座興も、いいと言えば、いいんだよぉ。というか、五行の中心じゃなくなってからこっちの人生、ずっと座興みたいなものなんだよぉ」
「重すぎるコメントも、できれば控えていただきたいのですが」
 この御年配は、本当にもう。
「じゃあ、最後は先輩が」
「えー、えー……大儀であった」
「何様なんだよぉ」
「神様に対抗できるのは、人様だけだとは思わんかね」
「……」
「……」
「何だか、うまいこと言っているようで、別にそうでもないですよね〜?」
「素で返さないで。マジで恥ずかしいから」
 最後の最後が、こんなのでいいのか。ま、ある意味、俺ららしいってことで、また、本編でな!

 了


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