【憲法の復習とその構成】 岬:日本は、法治国家です。 公:何処までも今更だな。 岬:その法の根源となっているのが、前にも触れた憲法です。 各国で制定される法律は、それぞれの国の憲法の範疇でなければならないのも、 以前に触れた通りです。 日本国に於いても、当然、例外ではありません。 公:たしか、国会が憲法に反する法律を作ったとしても、司法のトップ、 最高裁判所が憲法に反するって判断したら、力を失うんだっけか。 岬:はい。それ程までに厳格な力を持つ憲法ですから、書き換えようと思ったら、 衆参それぞれ三分の二以上の賛成、更には国民投票に依る過半数の賛成が必要となります。 日本国憲法は戦後、1946年11月3日に公布、 1947年5月3日に施行されていますが、それ以来、一度も改正されていません。 尚、公布日が現在の文化の日、施行日が憲法記念日になっているのは余談です。 公:ゴールデンウィークがあるのは、憲法のお陰か。 岬:さて、この憲法。全11章、103条から成っています。 具体的には、第1章『天皇』、第2章『戦争の放棄』、第3章『国民の権利及び義務』、 第4章『国会』、第5章『内閣』、第6章『司法』、第7章『財政』、 第8章『地方自治』、第9章『改正』、第10章『最高法規』、第11章『補則』です。 公:そういや、改憲、改憲って一部で騒いでるけど、結局、ありゃ何なんだ? 雰囲気くらいしか知らねーや。 岬:日本国憲法は、日本が太平洋戦争で負けたのを機に、 旧来の大日本帝国憲法に差し替える形で作られたものです。 つまり、戦勝国であるアメリカに都合が良いものを押し付けられたとも言えます。 その為、日本人に依る、日本人の為の憲法を作ろうということを、 かなり昔から自民党を始めとした保守層が主張し続けています。 公:えーと……必ず出てくる、戦争がどうたらってのは? 岬:憲法9条ですね。 端的に言うと、日本は現行憲法では、自分から軍事力を使うことが出来ません。 『武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、 永久にこれを放棄する』とあるからです。 9条改定反対派の方々は、どういう短絡思考をしているのか分かりませんが、 『憲法を改正出来る状態になる=9条を改正する=アメリカと共に戦争をする』 と思っているみたいですね。 何度も言いますが、憲法が改正されるのは、衆参両院それぞれ三分の二以上の賛成、 更に国民投票での過半数の得票があってのことです。 ここまで世論が傾いている場合、それが正しい、正しくないかどうかはさておき、 従わざるを得ないのが民主主義です。 文句があるなら、護憲派で固めた政党で、衆参いずれか、 三分の一以上の議席を取れば良いだけの話です。 それが出来るだけの政治力も無いのに、自分が絶対正義みたいな顔で語るというのも、 実は物凄く恥ずかしいことなんじゃないですかね。 公:何か、具体的な個人の話になってないか? 岬:そんなことは無いですよ、あくまでも一般論です――多分。 今項目の纏め:現行の日本国憲法は、戦後に制定されたもの。改憲論議は何度と無く浮上しては沈んでいるが、そのハードルの高さゆえ、一度もされたことはない。 【自衛隊、9条あれど、現存す】 岬:不思議なことですが、日本で憲法9条問題は、 語ることさえはばかられる空気があります。 改正の可能性の検討を示唆するだけで軍国主義者、ファシズムの申し子、 戦前の侵略主義を継承する気かと徹底的に叩かれます。 憲法第19条で、『思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。』 と規定されているのにも関わらずです。 核や皇室の問題もそうですが、議論さえしてはいけないというのは、 民主主義の根幹から外れ、不穏な空気を助長させるのは、ほぼ間違いありません。 公:臭いものに蓋をしても、腐るだけだもんなぁ。 岬:まあ、タブーというのは、どの国にもあるもので、 日本だけの問題では無いんですけどね。 例をあげると、ドイツに於けるヒトラー問題、中国での体制批判、 他にもイスラム教圏での偶像問題とかですね。 公:社会というのは、一筋縄ではいかんなぁ。 岬:さて、では何でこんな感じになってしまったのか。 とりあえず、憲法9条の原文を見てみましょう。 『1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、 国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、 国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。 国の交戦権は、これを認めない。』 公:んん? 岬:先輩に分かるレベルで要約すると、 『率先して戦争はしません。その為の兵力も保持しません』ということです。 公:おぉ、それなら分かる。 岬:そして、ここで先ず問題となるのが自衛隊です。 1950年の朝鮮戦争を機に警察予備隊が結成されたのが始まりで、 1954年の自衛隊法施行に伴い、海上自衛隊、陸上自衛隊、航空自衛隊の三つが、 正式に稼動を始めました。 厳密には軍隊ではありませんが、事実上の国軍として扱われることもあります。 例として、大臣は文民にしかなれないと憲法にありますが、 現職の自衛隊員は事実上、選べません。 公:ちょっと待て。兵力を持てないんだよな、日本の憲法じゃ。 自衛隊がほぼ軍隊なら、思いっきり違憲状態じゃないのか? 岬:先輩、何を言っているんですか。 彼らが、『自衛隊』なんて名前なのは、伊達ではありません。 公:……どゆこと? 岬:9条を要約すると、『自分から外交目的で戦争はしません』と書いてあります。 そして、『その為の』兵力を持たないと書いてあるだけです。 諸外国が攻めてきたら応戦しないとは何処にも書いてありません。 あくまで、日本という国を守る為の『自衛』兵力というのが、 合憲論者の言い分です。 公:……詭弁? 岬:憲法なんて、どう読むかでかなりの幅が出るものですから、 どちらが正しいかは、私には言えません。 最高裁での判例は未だにありませんしね。 とりあえず、この様な対立があることだけ把握して、次項へと行きましょう。 今項目の纏め:9条を要約すると、『外交目的で戦争はしません。その為の兵力を持ちません』である。自衛隊が合憲か違憲かについては、一概に言うことは難しい。 【火種になるには訳がある】 岬:では、そもそも何で9条が存在するかを考えてみましょう。 公:何で……だと? 岬:答は単純で、戦勝国であるアメリカを始めとした連合諸国が、 日本が、外交手段としての兵力を持たない方が喜ばしいと判断したからです。 別に、日本の恒久的平和を願っていた訳でも何でもありません。 公:また、ぶっちゃけたな。 岬:だって数年前まで戦争してた相手ですよ? また敵になる可能性がある国に、力を蓄える可能性を与える必要はありません。 公:まー、そりゃそうかも分からんな。 岬:実際、憲法施行後数年は、日本に兵力はありませんでした。 9条の表現をそのまま実行していた訳です。 ですが1950年に朝鮮戦争が勃発し、 ある程度の兵力を持たないと危険だと政府は判断し、警察予備隊が結成されます。 自衛隊が正式に稼動するはその四年後、1954年のことです。 自衛の為の兵力と強引な解釈をし始めたのもこの時期と言われています。 尚、現在、韓国と揉めている竹島は、日本の兵力が脆弱なこの頃、 事実上、武力的に占拠されたものというのが定説で、 非武装と平和は関係無いという解釈の一端を担っています。 公:家に鍵掛けなくても泥棒に入られないみたいな話だもんなぁ。 岬:大体、攻撃しなければ攻撃されないなんて言ってる人は、 宝石ジャラジャラ付けて、治安最悪なスラムでも歩いてみれば良いんです。 公:流石、性悪論者、容赦ねぇ。 岬:とまあ、9条で揉めるのは、要するにこの思想の激突なんですよね。 私は、現在の世界情勢では、武力を持たないと護国は不可能だと思っています。 ですが非武装論者は、無い方が平和への近道と信じているか、 或いは、政治的理由でその様に言っています。 その為に憲法という、国の指針を利用しているというのが正しいところでしょう。 まあ、一部に……というか、かなりの実数が、 『世界中が9条と同等のものを持ち、軍隊を解体すれば平和になる』 と信じているようですが、とりあえず、国連常任理事である、 アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスで導入させてから言って下さい。 もちろん核兵器も即日、全撤廃です。 それを達成できたなら、こちらも土下座して謝らざるを得ません。無理でしょうけど。 公:どうどう、ちょっと落ち着いて。 岬:少し熱が入りすぎましたが、つまりは国民の財産と安全を守る国家という存在の、 方法論の違いがヒートアップする原因です。 誰だって死にたくありませんし、家族が被害に遭うのも嫌でしょう。 そして太平洋戦争での敗戦の傷が、良くも悪くも厭戦ムードを作り上げました。 たしかに、侵略された際、座して死ぬのも一つの思想でしょう。 ですが、それと9条に直接の関係はありません。 憲法とは国の指針ではありますが、所詮は、人がより良く生きていく為の枠です。 軍隊が必要であるか否かの論議に始まり、 その為に現行の憲法が充分であるかを議論する、 それが民主主義の根幹であり、正しい姿であると私は考えています。 今項目の纏め:9条とは元来、第二次世界大戦で勝利した連合国が、不必要な戦力を持たせない為に作られたもの。平和云々と、直接的関係は限りなく無いと言って良い。 【憲法に、書いてあること、絶対か】 岬:9条問題は少し熱くなりすぎたので、 今項目からはちょっと違った視点で憲法を見ていきましょう。 公:具体的には、何を? 岬:とりあえず、憲法の条項を適宜並べていって、突っ込んでいこうかなと。 公:中々に、チャレンジャーな挑戦な気もする。 岬:さて、第79条の6、司法と裁判官に関する項目なんですが、 『最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。 この報酬は、在任中、これを減額することができない。』 とあります。 公:えーと……何で憲法でわざわざ、裁判官の給料保証を? 岬:圧力や経済的理由で、職務に影響が出ないようにするのが目的、 ということになっています。 インフレが進んだ場合、同給与でも、実質的に目減りするなんてことは、 世の中、良くあることですけどね。 公:ああ……会社員、永遠の悲哀……。 岬:似た感じのものとしては、国会に関して定めた第49条に、 『両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。』 というのもありますね。 もちろん、法律を決めるのはこの両議院議員ですので、 反感を買わない限り、好きな様に自分の給料を決められる訳です。 羨ましい話ですね。 公:これは……何というか、掟破りって感じだな。 岬:まあ、仮にも国を代表する国会議員ですから、ちゃんと仕事さえしてれば、 高給でも構わないとは思いますけどね。 あくまでも、ちゃんと国民と国益の為に仕事をしていれば、ですが。 公:大事なことだから、二回も言ったよ! 岬:第24条の1、 『婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、 夫婦が同等の権利を有することを基本として、 相互の協力により、維持されなければならない。』 とあります。 日本で同性に依る婚姻が認められていないのは、これが基となっていますね。 公:ほー、そんなことまで書いてあるのか。 じゃあ、日本で法律上の同性が結婚するのは、現行憲法じゃ不可能じゃないか。 岬:そうですね。この文面をどう強引に解釈しても、日本国で同性婚は無理でしょう。 認めようと思ったら、改憲しなくてはいけないことになると思います。 公:俺、別に同性愛者じゃないけど……何か釈然としないんだが。 岬:ですから、憲法はあくまで人間社会の為の枠組みなんです。 現行の103条と世界情勢、社会状態にズレが生じていたら、 個別に論議すべきものなんです。 改憲論者=ファシストなんてアホな考え方が通じるのは小学校程度までで、 それ以降も信じてる人が居たら、思考停止してると言わざるを得ません。 公:だから、ちょっと落ち着いて。 岬:法解釈が専門でない私が見ても、憲法に関する風潮が、 明らかにおかしいってことですよ。 今項目の纏め:憲法には、本当、色々なことが書いてある。中には時代にそぐわないものもあっておかしくないのに、異論を唱えるだけで眉根を顰める層が居る現状は明らかにおかしい。 【今日も続くよ、憲法談義】 岬:思ったより面白かったので、今項目も憲法を弄っていきます。 公:いつから、トーク番組風味に。 岬:第36条『公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。』 死刑廃止論の根拠の一つとされている条文ですね。 とりあえず死刑に関しては賛否色々とあると思います。 憲法的には、死刑が『残虐な刑罰』に相当するかが焦点になるところでしょう。 ちなみにフランスでは2007年に死刑廃止を明文化した改憲を果たし、 最高法規の立場で死刑を撤廃しています。 改憲がタブーじゃない国は良いですね。 公:ネチネチ続くなぁ。 岬:第38条『何人も、自己に不利益な供述を強要されない。』 いわゆる、黙秘権ですね。 憲法の立場から言わせて貰えば、例え奥さんに浮気を問い詰められても、 旦那は不利益になると判断したなら、喋る義務は無いんです。 公:痴話喧嘩に憲法持ち出す夫婦なんて嫌すぎるわ。 岬:第40条『何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、 法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。』 要は誤認逮捕や冤罪で無罪の人が捕まった場合、国はその責任に於いて、 補償をしないといけないんです。 公:かなりの確率で免職になる訳だが、次の職でも探してくれるのか? 岬:いえ、刑事補償法によると、 一日当たり1000円から12500円の金銭補償のみです。 ちなみに死刑後に冤罪発覚の場合は、3000万円以内ですね。 公:国が認める命って……安いんだね。 岬:第15条の2 『すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。』 第99条 『天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、 この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。』 いわゆる、公僕様が守らなくてはいけない条文です。 皆さん、ちゃんと遵守しているでしょうか。 ちなみに日本で一番重い刑罰は、刑法81条、外患誘致罪と言われています。 諸外国と通謀して、日本に武力を行使させた場合に適用されます。 要は売国の極みですね。 死亡者がゼロであっても、問答無用で死刑になるのでお気をつけ下さい。 公:顔が怖い、怖いから、岬ちゃん! 岬:第27条『すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。』 いわゆるニートさんには耳が痛い様で、謎の条文ではあります。 御年配の方が楽隠居されることは良くありますから義務とは言い難いですし、 又、仕事を求めても景気状況如何では働けるとは限りませんから、 権利があるとも言い切れません。 まあ、あっても無くても実害は無さそうなので、 無理に改憲する程もないポジションの条項ですかね。 公:何処の社会にも、必要が無い奴は居るって言うんだね。 何という毒舌さん! 今項目の纏め:憲法、憲法言うけれど、色々あるよ。ちゃんと条文を読んだ上で、個別に考えようね。 【法治国家に生きるモノ】 岬:ここまで来たので、最後まで憲法を弄り倒します。 公:もう、好きにして下さい。 岬:第1条『天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、 この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。』 考えてみれば不思議な話ですけど、この総意って、 戦後、誰かが追認した訳でも何でも無いんですよね。 裁判官の国民審査があるくらいですから、天皇も十年に一度くらい、 信任票を集めてみてはどうかと言ったら怒られますかね? 公:確実に怒られるのでやめて下さい。 岬:第8条『皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、 若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。』 地味に面白い項目ですね。 皇室の方々は、何かをあげたり貰ったりするのに、 議会の承認が必要なんだそうです。 尤も、私的な買い物や、国家間で儀礼上の贈答なんかは、 ここに含まれて無い様なので、必要なのかどうかは微妙な条文です。 公:そろそろ俺も、103条、全部、見直すべきの気がしてきた。 岬:第19条『思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。』 例え、客観的に見てどんな危険思想であろうと、脳内で済ませている内は、 侵してはいけません。 第21条の1 『集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。』 第21条の2 『検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。』 創作家にとっては生命線の条文なので、厳守して欲しいものです。 公:書いてる奴の、心の声が漏れてるな。 岬:第20条の1 『信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。 いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。』 第20条の2 『何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。』 第20条の3 『国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。』 これだけで三回くらい語れそうな程にツッコミ所の多い条文です。 いわゆる政教分離ですね。 宗教が権力と共謀することは危険性を孕んでいますし、 政治が宗教を利用することも同様です。 なので、理想論としてこの条文があるのは分かりますが――。 現実的に、これが厳然と守られているかについては、御存知の通りです。 公:敢えて目を逸らすのが……訓練された国民! 岬:ダメすぎる先輩はさて置き、如何だったでしょうか。 これらはあくまで憲法の一例で、解釈は人それぞれかも知れません。 ですが、憲法とは、国の最高法規です。 法治国家の中で生きることを由とするのであれば、一度、目を通して、 自分なりに納得出来る解釈をするのも、国民として大事なことなのではないでしょうか。 今項目の纏め:憲法を語りたくば、とりあえず、一度読め。話はそれからだ。
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