邂逅輪廻



【政治は一体、誰の物?】
岬:では、今項目より国レベルの政治からちょっと離れて、
 地方政治を見ていこうと思います。
公:何か、地方派の政治家と聞くと、自分達の利益を優先するだけの、
 強欲爺さんのイメージが湧くんだが、偏見かね?
岬:政治とは本来、自分達が所属する集団、
 つまりはコミュニティに最大限の恩恵を供与させることが目的ですからね。
  そのこと自体は別に批判されることではありません。
  不思議と、国家レベルになると自国を捨ててでも他国に尽くせという、
 奇々怪々な論理がまかり通っていますよね。日本だけの話ですが。
公:フグの毒でフグは死なぬ様に、桜井の毒で桜井の血族は死なない。
  俺はそう悟っている。
岬:ちなみに、そんな利益供与がどうして叩かれるかと言えば、
 自分と、その周りの狭い人間にしか恩恵を与えないことが多いからです。
  道路を作ろうと思ったら建設会社に発注する訳で、
 その建設会社と政治家が繋がっていれば幾らでも税金を毟り取れます。
  昨今はこんな露骨な関係は減ってきていますが、世界中の各国、
 各地方で脈々と受け継がれる、政治の伝統芸能みたいなものですね。
公:その内に消されるぞ、岬ちゃん。
岬:こんな一般論くらいで消されてたら、
 民族浄化なんて三日を待たずして達成されることでしょう。
公:一般論と言い切った!
岬:とは言え、道路を始めとした公共事業は基本的に必要なものです。
  古来より、一部、無駄とも思える大規模建築はされてきましたが、
 同時に人の流れを生み、商業を活性化させる経済効果ももたらしました。
  何が必要で何が不必要かを見極める必要があるんですけど、癒着大好きな政治家に、
 腐りきったマスコミ、扇動されることが唯一の特技と言える国民では、
 結局、今後も踊らされるだけでしょうね。
公:何か、こっち方面に恨みでもあるのか。
岬:それくらい、真摯に向き合わなければ改善は難しいと言いたいだけです。
  政治とは、水の流れるイメージで考えることが出来るかも知れません。
  始めは、岩の先から零れる、清純な雫でした。
  これは、生活を良くしたいという、一人一人の願いです。
  やがてそれらは合わさり、小さな川から池や湖へと流れ込みます。
  ここが、地方政治を含めた政治全体の現場です。
  絶え間なく水が流れ込み、また流れ出していけば、
 清らかさを保つことが出来るでしょう。
  ですが循環の悪い場所では、いずれ水は澱み、汚泥が溜まります。
  流れ込むだけで、出て行く場所が無ければ、
 死海の様に誰も生きていくことが出来ません。
  あなたの生活に関わる地方政治だからこそ、常に思いを注ぎ込み、
 見守っていかないといけないんですよ。

今項目の纏め:政治が人を幸せにする為にあるのならば、地方へある程度の利益誘導は必然とも言える。だが同時に、そこに眠る欺瞞も、監視し続けないといけない。


【地方分権と中央集権】
岬:端的に説明しますと、国としての権力を一点に集中させることを中央集権、
 全国各地に散らばらせることを地方分権と言います。
公:久々に、結論を冒頭で纏めましたね。
岬:今の日本は、地方分権へのシフトが検討されていますが、
 基本的には霞ヶ関とも呼ばれる中央省庁に依る中央集権であると言えます。
  典型的な地方分権型国家は、アメリカでしょう。
  何しろ、州ごとに憲法と軍隊を有してるくらいでして、
 全国画一規格でないと一部団体がうるさい日本とは根本から違います。
  日本で、一歩、県境を跨いだら消費税が違うなんて、
 想像も付かないことでしょう。
公:ビッグビジネスの匂いがするな。
岬:日本の場合、江戸時代は各藩がそれぞれ、かなりの力を持っていまして、
 中央政府である幕府が直接統治して居た訳ではありません。
  同時に、各藩には参勤交代に始まる労役等の負担も課せられていて、
 力を持ちすぎないようにもされていました。
  二百五十年に及ぶ統治には、
 この様な権限のバランスが巧かったという解釈も可能な訳ですね。
公:それってつまり、今の日本はアンバランスだと?
岬:そういう考え方も充分に出来ます。
  日本という国は、狭い様に見えて、縦三千キロメートルに及ぶ、
 地域差が小さくない国家です。
  黒船の来航を機に開国し、明治政府となった後、
 東京という都市を中心にこの国は発展しました。
  それは短期間で世界の列強と渡り合う為には効率的だったかも知れません。
  ですが同時に、権力と経済の一点集中を生み出し、硬直化も起こしました。
  政治に限らず、全ての業界に通じることだと思うのですが、
 動き続けない限り、澱み腐っていくものなんです。
公:つまり岬ちゃんは、地方再分権派?
岬:必ずしもそうとは言い切れません。
  江戸時代、日本が地方分権で機能していたのは、あくまで鎖国をしていて、
 他国の干渉がとても少なかったからです。
  更に、藩の間で人が流れることも少なく、現代の日本とは事情が違いすぎます。
  中央集権であっても、流れをスムーズにすることが出来るかもしれません。
  イメージとしては、血液って必ず心臓を通って全身を巡りますけど、
 ドロドロ血だと血管が詰まったりして危なく、
 サラサラだと割と安全みたいな感じですね。
公:分かり易いような、そうでも無いような?
岬:何にしましても、これは軽々に結論を出せることではありませんので、
 ここでは問題提起だけにさせて貰いますね。

今項目の纏め:地方分権とは、国権を各地方自治体に分割し、自治権を増強すること。逆に地方の権限を減らし、中央政府一点に集めることを中央集権を言う。どちらが良いかについては、国情や地理的要因、国民性などもあるので、簡単には結論を出せない。


【密かに進む道州制問題】
岬:昨今、一部で騒がれてる道州制とは、将来的に、
 日本をアメリカの様に幾つかの州に分割し、同等とまではいかなくても、
 それなりの自治権を与えようというものです。
  北海道はほぼ独立で扱われそうなので、道州制という名称になっています。
  今のところ、9分割案、11分割案、13分割案が提唱されています。
公:自治権はまあ良いとして。
  それはあれか。何県か集まって、『よーし、今日からお前らプチ国家な』
 ってことですか?
岬:あくまでまだ議論の段階で、本当に実現するかは分かりませんが、
 イメージとしてはそんなもんですかね。
公:……仲良く出来るのか?
  いや、日本って地域でコソコソやる社会で、隣県は敵視してる雰囲気が……。
岬:たしかに、無理かも知れません。
公:そんなアッサリと。
岬:なので、まだ構想段階なんですよね。
  たしかに、日本は官僚支配が行き詰っている感もあります。
  中央集権が限界に来ていると言っても良いでしょう。
  ですが、地方に権力を分散して、酷く崩れるリスクとどちらが上か、
 軽々に結論が出せるものではないでしょう。
  先輩が言う通り、エゴイスティックな地域が多いのも事実ですからね。
公:国家運営のマニュアルって無いもんですかね。
岬:そんなものがあれば、アレキサンダー大王か、
 或いはチンギス=ハン辺りがとっくの昔に世界統一してるでしょう。
公:たしかにその通りです、はい。
岬:道州制を行うに当たって、メリットとされているのは、行政の効率化でしょう。
  今まで、県毎に行っていた行政を、幾つか纏めることでスリム化を狙えます。
  公務員や、地方議員を減らせる訳ですね。
  予算も大きくなる訳で、広域的且つ効率的に行えば、理論上は経費を減らせます。
  あくまで、理論上は、ですが。
公:はいはい、利権の御約束、利権の御約束。
岬:デメリットとされているものの一つは、地域格差の加速です。
  現行の予算って言うのは、簡単に言うと、都会で大きく税金を吸い上げて、
 地方にバラまいて均一化を図っているんです。
  地方の政治家の能力とは、
 国家から幾ら予算を分捕るかとまで言われてるくらいです。
  ですが、地力の無い地方が依り固まったところで弱いままで、
 更に国からの支援を減らされると、悲しいことになるとも言われています。
公:でも、権限増えるなら、自力で再興すれば――。
岬:それが本当に出来るなら、私も分権派に回るんですけどねぇ。
公:たしかにそれも、その通りです、はい。

今項目の纏め:道州制とは、日本を9から13に分割し、自治権を高めようという将来的な構想。何故か知名度は低いが、一部で着々と進んでいる。


【知事って一体なんなのさ】
岬:知事とは、国より小さいけれど、市町村よりは大きい位の地方自治体の長を指す言葉で、
 日本では概ね、都道府県知事、47名を指します。
  現在(2008年12月時点)の現職では、石原東京都知事、橋下大阪府知事、
 東国原宮崎県知事辺りが有名ですね。
  全員を憶えろとは言いませんが、住んでる都道府県の知事くらいは把握しておくのが、
 日本国民として正しい姿勢と言えるのではないでしょうか。
公:か、神奈川県知事(※1)は……ま、松本。
岬:松沢成文神奈川県知事です。2003年4月に当選して、既に二期目ですので、
 六年近く、神奈川のトップとして君臨している方です。
公:半分当たったから、50点ってことで。
岬:臆面も無くそんなことを言わないで下さい。
公:えへっ♪
岬:さて、この知事になろうと思ったらどうしたら良いのか。
  答は明瞭で、基本的には四年に一度行われる、知事選挙に勝利すれば良いんです。
  小選挙区と同じく、一位以外は全て落選のバトルロイヤルです。
  選挙権を与えられるのは、満二十歳以上の日本国民で、
 その都道府県に住民票がある方です。
  立候補出来る条件は、日本国民でであることと満三十歳以上である二点のみです。
公:あと十四年(※2)の辛抱だな。
岬:冗談は捨て置きまして。
公:捨て置かないでくれ。
岬:この都道府県知事に立候補する際、
 当該都道府県に住民票等を持っている必要はありません。
  人材を広域に求めるというのがその主たる目的です。
  もちろん、出身であるとか、数十年に渡って住んでいた方が住民受けが良く、
 当選しやすいものではありますけどね。
公:まあ、そういうもんだよな。
岬:他に、年齢の上限も無く、
 武藤嘉門元岐阜県知事が88歳という高齢まで勤めあげました。
  ちなみに最年少は、田中敏文元北海道知事の35歳と5ヶ月です。
公:高齢化社会が進んでるし、その内、百歳で県知事とか出てくるんじゃないか?
岬:どうですかねぇ。
  幾ら最近の御年配が元気とはいえ、知事は激務ですから、
 体力的に見て、75か、せいぜい80くらいで頭打ちだと思いますけど。
  あくまで個人の資質が問題ですから、杓子定規な話をするつもりはありませんけど。
公:吸血鬼の秘法を、そろそろ世界に流布させるべきだな。
岬:あ、それと再任の回数制限もありません。
  一般的な議員と同じく、選挙で再選されれば何年でも知事であり続けられます。
公:幾ら規定がそうなってるからって、二、三十年やれる訳じゃない――。
岬:私の資料に依りますと、日本記録の最長は中西陽一元石川県知事の8期31年ですね。
  年数が半端なのは、八期目の在任中に死去されたからだそうです。
公:……世には、凄い奴が居るもんじゃのぉ。
岬:私には、七回もチャンスがあって打倒できなかった他の候補が衝撃ですけどね。

※1 センセーショナル・エレクションの舞台は神奈川らしいです。
※2 七原公康は満十六歳です。

今項目の纏め:知事とは、現在の日本では主として、都道府県知事47名を指す。都道府県民に依る直接選挙で選出される。被選挙権を与えられる条件は、三十歳以上の日本国民であることだけで、年齢上限も再任制限も無い。


【知事って結局なにするの】
岬:知事選というのは、日本で行われる最大規模の直接選挙です。
  都道府県単位での長を、個人名で投票する訳ですからね。
  その中で最も盛り上がるのが、人口で見れば1200万以上、
 有権者も1000万を超える東京都知事選で、
 一人を選ぶものとしては、間違いなく日本最大の選挙です。
公:えーと……全校生徒が1800人位の俺らの学園から見ると――。
岬:ざっと、5、6000倍といったところでしょうか。
公:ここまででかいと、今一つピンと来ないな。
岬:最大であるがゆえ、泡沫候補、
 ぶっちゃけて表現すれば冷やかしや売名をする方が多いのも事実です。
  傍で見てる分には、楽しいとも言えますけどね。
公:チラチラこっちを見ながら言うのはやめて貰おうか。
岬:しかし、これだけ大仰な選挙を勝ち抜いた知事です。
  都道府県毎に差はあるものの、与えられる権限は相当なものになります。
  先ずは予算案の提出権と執行権です。
  究極的に言えば、都道府県予算は、知事の一手に担われていると言っても、
 それ程に間違っているとも言い切れないでしょう。
  日本の中央都市、東京都ともなりますと、その年間予算は六兆円以上、
 札束で作ったプールに入ることも、不可能では無いかも知れません。
公:喩えは実にバブルチックだが、何となく凄さだけは把握した。
岬:他にも、議会が決めた条例を拒否する権限があります。
  言い方を変えれば、議会が決めたとしても、
 最後に通すか否かを決める権利は、法的に知事が持っているということです。
  総理大臣とは、決定的に違いますね。
公:何か俺、総理より知事になりたくなってきた。
岬:後は、地方税を課す権利を持っていたりもします。
  都道府県議会と総務省の同意が必要ですが、地域内での財源として、
 特定の企業や個人から税金を取ることが出来ます。
  石原都知事が課したホテル税なんかが一例ですね。
  公共事業も知事の認可が必要ですので、田中元長野県知事の様に、
 ダム建造をストップさせることも可能です。
  更には、県庁の人事権を握っているので、気に食わない職員は、
 ガンガン左遷させて黙らせることも、理論上は可能でしょう。
公:都道府県内だけなら……独裁者!
岬:唯、総理とは違い、余りに悪政をやらかすと、住民の直接請求に依って、
 リコールされる恐れもあります。
  具体的には、有権者の三分の一の署名を集めると請求出来ますので、
 首長や議会の暴政に苦しんでる方は調べてみると良いでしょう。
公:やっぱり、民主主義は民主主義なんですね。
岬:無条件で権力が与えられる程、今の世界は甘くないってことですよ。

今項目の纏め:直接選挙で選ばれる知事の権限は、その都道府県内に限れば、かなりのレベルで認められている。但し、総理とは違い、住民に依る直接のリコールもあるので、暴走も程々に。


【金が無くとも湯水の如く】
岬:政治という仕事の中で大きなものの一つは、財政問題です。
  如何にして国民から不公平感が無い様に税を徴収し、公平に還元するか。
  その予算を握る財務省官僚が、『官僚の中の官僚』と呼ばれるのも、
 ここに起因しています。
  地方政治でもそれは同じで、お金の問題は実に悩ましいものなんです。
公:貨幣制度とは、人が生み出した最大の業であるとは思わぬかね……。
岬:そういう、大き過ぎる哲学的命題はさて置きまして。
公:そろそろ、この放置っぷりにも慣れてきた。
岬:地方自治体が直接手にする税金は色々とあります。
  住民税と呼ばれている、市民税、県民税辺りが有名でしょう。
  他にも、現行の消費税は、5%の内、1%は地方の税源だったりします。
  後は、たばこを買ったり、ゴルフ場を利用する際にも徴収されています。
  嗜好品や贅沢品に掛けることで庶民の反感を買いづらいというのが、
 この類の税金に対する理由でしょうね。
  それが公平な税金の掛け方かと言われると、また別の話ですが。
公:気付かれない様に搾取するのが、一流の政治家だよな。
岬:ですが、特に産業が無い地方では、余りお金が回らない為、税収はさして伸びません。
  前にも少し触れましたが、このアンバランス具合を解消する為に、
 主として都会から吸い上げた税金を地方へと回す訳です。
  これが、地方交付税と呼ばれるものです。
公:何か、それだけ聞くと、地方ってのは都会に飼われてるみたいな印象なんだが。
岬:実際、この地方交付税が財源の半分近くを占めている自治体もあります。
  言い方は悪いですけど、首紐を中央官僚に握られている訳ですね。
  地方分権は、この甘ったれ根性を叩きなおす為という考え方も出来ます。
  もちろん自由競争社会ですから、何処の地域も勝てる訳ではありませんが。
公:頭の余り良くない俺に説明してくれ。
  今の話を聞いて思ったんだが、格差社会、地方格差と連呼しておきながら、
 中央官僚批判して、地方分権をプッシュするマスコミって矛盾してないか?
岬:マスコミに一貫性が無いのは、昨日今日に始まったことではありません。
公:言い切られた!
岬:財源として使えるのは、他に地方債なんかですね。
  国債と同じく、市債、県債といった形で借金する訳です。
  当然、財政状況によって発行額や利率が決まる訳で、見通しが甘いまま刷りすぎると、
 全国的に有名になってしまった北海道夕張市の様に、財政再建団体として、
 事実上の破綻をする恐れさえあります。
公:人間、身分相応の生活が大事だね!
岬:正論は正論ですが、人間というのは生活レベルを一度上げると、
 落とすのが難しい生き物ですからね。
  バブルの旨味を吸った世代が社会に多く居る中、
 今後、どうなるかは予想も付きません。

今項目の纏め:地方が使える財源は、地方税、地方交付税、地方債などがある。地方税だけで賄うのが理想だが、そうもいかないのが難儀なところである。




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