邂逅輪廻



【国会って何するところ?】
公:公康。
岬:岬の。
公&岬:猫でも分かる政治講座〜♪
公:わー、パチパチパチ。
岬:とまあ、自作自演で盛り上がる先輩はさて置きまして。
公:このコーナーは、俺、七原公康と。
岬:桜井岬で政治の勉強をしていこうというものです。
公:つっても、書いてる奴自体がそこまで事情通って訳でも無いから、
 あくまで入門書――てか、こども新聞レベルの内容になると思うけどな。
岬:要は、無知蒙昧な先輩に私が教える体で御覧下さい。
公:さっきからチクチクと刺さる毒針はさておいて……今日の議題は国会か。
岬:ところで先輩は、国会って何だと思いますか?
公:――ん? あ〜……永田町に議事堂がある。
岬:まあ、その程度の認識でしょうね。
公:はっきり言われた!? 間違いなく軽んじられてる!
岬:では、具体的な解説をしてみて下さい。
公:――ふっ。女性に優しく、千織には厳しくがモットーの俺だぜ。
  岬ちゃんの見せ場を奪う訳にはいかんだろう。
岬:男の方の妙な見栄は見逃してあげるとしまして、
 国会とは、日本国に於いては、立法能力を持つ唯一の機関です。
  世間的に言われる『法律』を成立させるには、国会を通す以外の選択肢はありません。
公:逆に言えば、『女子高生は全員水着姿で登下校しなくてはいけない』法案も、
 国会に働きかければ理論上は可決される可能性があるってことか?
岬:一応、提出すること自体は出来ますし、過半数の票を得る可能性も零とは言えません。
  ですが、表現の自由等の問題で、違憲とされて潰されるでしょうけどね。
公:ちょっと待て。イケン……違憲って何だ?
岬:では、それについては次の項目で取り扱うことにしましょう。

今項目の纏め:国会は国権の最高機関。法律を決められるのは国会だけ。


【憲法って何じゃらほい】
岬:先輩は、日本国が日本国である為に不可欠なものは何だと思いますか?
公:あー……我が国固有の領土と、日本国民か?
岬:たしかにそれも間違いではありませんが、他にもあります。その一つが憲法です。
公:えっと……いわゆるところの『法律』とは何か違うのか?
岬:憲法は、国家の基本方針を明文化した国の指針そのものです。
  その為、時流などに依ってコロコロと変える必要が無いよう、
 表現が幾分緩くなっています。
公:興味がある人は、探してみて読んでみるのも良いかもな。
岬:国会が制定する『法律』は、この憲法の範囲内でしか作ることが出来ません。
  例えば日本には貴族、華族制度は無くなっており、
 特定の一族に特権を与える法案は通せません。
公:ほっほぅ。
岬:仮に通したとしても、最高裁が違憲と判断すれば、その法律は有名無実化します。
  法解釈は専門でないので、詳しくは語りませんけど。
公:あくまで、憲法ってのは法律の親分ってことか。
岬:現実問題として、かなり網の目の粗い部分を本質的に有しているのが憲法ですから、
 解釈一つでいかようにでも取れてしまう部分があります。
公:良く色々な先生方が揉めてるよな。
岬:幾ら曖昧な表現をしていると言っても、
 当然、何十年も経てば時代に合わなくなることもあります。
  そこで飛び出すのが、憲法の改正です。
公:国の指針を、そんな簡単に変えられるのか?
岬:全然、簡単じゃないですよ。改正に必要なのは、衆参両院議員の内、
 それぞれ三分の二以上の賛成、更に国民投票に依る過半数の賛成獲得です。
  一つの法案が片方の院を通るかどうかだけで紛糾する国会で、
 そうそう国民投票まで持ち込めるとは思えません。
  事実、日本国憲法が公布されて六十年程が経っていますが、
 一度も改正されたことはありません。
公:と言うか、つい最近まで、その法整備自体整ってなかったって聞いたことがあるんだが。
岬:ある意味、そっちの方が異常なんですけどね。
公:それじゃ次は、その魑魅魍魎が住まう国会内部に潜入かね。

今項目の纏め:憲法は国家としての指針。これに反する法律は通せない。


【国会議員になる為に】
公:どうでも良いとは言わんが、俺には縁が無さ過ぎる世界の気がする。
  茜さんや綾女ちゃんならまだしも。
岬:そうでも無いですよ。一番手っ取り早い方法としては、
 才能を認められて引退目前の議員先生の養子になって地盤を引き継げば良いんです。
公:それはそれで、恐ろしく難易度が高い気がしてならない。
岬:正攻法でこの世界に飛び込もうと思ったら、方法は二つです。
  自分の選挙区で立候補し、規定人数内に入り込むか、政党の比例名簿に名前を載せてもらい、
 その順位以上の比例票を獲得することを祈るかです。
公:もう少し分かり易く。出来れば、幼子に文字を教える母親レベルで。
岬:では衆議院を例に説明しましょう。衆議院の定数は480です。
  その内、小選挙区が300、比例代表が180になります。
公:小選挙区ってのは……あれか。街角にポスターが張ってある。
岬:そうですね。一般的に選挙というと、こちらの方が分かり易いでしょう。
  町長選、市長選、知事選等と同様、複数人の立候補者から一人を選ぶ選挙です。
  一位の方に一票でも負けていると、それ以下の方は落選となります。
  ちなみに、当選する人数が一人の地区を小選挙区、三人から五人程度を中選挙区、
 それ以上を大選挙区と区分することもあります。
  現状、衆議院は小選挙区がメインなので、そこは難しく考えなくて良いですけどね。
公:何人出てこようとバトルロイヤルでの一位獲りか。分かり易くて良いな。
岬:その為、敵対する政党がピンポイントで対立候補を擁立することも少なくありません。
  最近では刺客という名称が一般的ですかね。
公:余り聞きたくないんだが……負けた政治家先生はどうなるんだ?
岬:有力な方であれば比例名簿の上位に名が載っていることが殆どですので、
 復活当選をすることが多いです。無所属や微妙な立ち位置の方は……最悪、無職です。
  政治家は、選挙落ちれば、只の人、とは良く言ったものです。
公:肝に銘じるべき恐ろしい話を聞いたところで、次はその比例選出についてだな。

今項目の纏め:小選挙区は一地区に付き一人を選ぶ選挙。二位以下は得票数に関わらず落選する。


【国会議員になる為に・弐】
岬:比例代表制とは、政党政治の現実を踏まえた上で、
 死票を少なくすることを目的に作られたシステムです。
公:死票……って、つまり、落選者に入れた票のことか。
岬:はい。前に触れましたが、小選挙区は二位以下は一票でも負けていれば落選ですから、
 余程の有力政治家でもない限り、当選者の得票は50パーセント程度、
 低い時は30パーセント程度にまで落ち込みます。
公:裏返せば、50〜70パーセントの、『民意が反映されてない票』があるってことか。
岬:それを緩和するのが、比例代表制です。衆議院では、日本を北海道、東北、北関東、
 南関東、東京、北陸信越、東海、近畿、中国、四国、九州沖縄の十一ブロックに分けて、
 党公認の候補を選出する選挙が行われます。
公:俺は未成年で選挙行ったこと無いんだが、『比例は●●党、●●党に宜しく』って奴か。
岬:そうですね。比例では原則、政治家名ではなく、政党名を記入するのが基本です。
  参議院などでは個人名でも政党票として扱うこともあるのですが、
 ややこしいのでとりあえずは忘れてください。
公:で、その集まった票をどう処理するんだ?
岬:分かり易い様にサンプルブロックを作りましょう。定員10名のブロックに、
 100万の有効票が集まったとします。
  A党は60万票、B党は30万票、C党は10万票を獲得しました。
  さて、公平な議席の分配とはどの様な形でしょうか。
公:あー、A党に6議席、B党に3議席、C党に1議席ってことになるな。
岬:正解です。もちろん現実にはこんな綺麗に分配されることはなく、幾らか死票も出ますが、
 それでも小選挙区に比べれば大幅な削減が望めます。
公:良い制度じゃないか。むしろこっちを主流にすべきなんじゃないのか。
岬:実際、こちらが殆どを占める国も少なからずありますが、
 これもまたメリットだけのシステムではありません。
  第一に、政治活動をすべきエリアが異常に広く、選挙費用が膨大になる点です。
  先輩、九州沖縄、全県行脚とか毎年の様にしたいですか?
公:全力で断らせて貰う。
岬:この点、小選挙区であれば一候補が回るべき場所は、各都道府県の数分の一、
 選挙区内で済むので費用が抑えられます。
  正直なところ、全比例にされると私達、選挙参謀は仕事が減ってしまいますしね。
公:私情が漏れ出てるのはさておくとして。
岬:他にも、個人での立候補が難しくなるのも欠点ですね。
 尤も、個人で北海道や東北といった一ブロック全域に影響力を持っていれば、
 不可能とは言えない訳ですが。
公:ほぅほぅ。 
岬:それに、個人名での投票が出来ない為、どの候補者が通るかは、
 政党任せになってしまう点もあります。
  先程、A党が六人当選しましたけど、この六人ってどう決めるか分かりますか?
公:へ? えーと……後付けで勝手には無理だよな。
岬:そうです。当然のことですが、事前に登録する必要があります。それが比例名簿です。
  きっちりと各候補に順番付けが成されている、議員先生にとっては、
 閻魔帳にも似た恐ろしいものでもあります。
公:じゃ、次はその比例名簿について深めに聞いてみることにするかね。

今項目の纏め:比例代表制は死票が少ないシステム。基本的に個人名では投票出来ない。


【比例代表制のアレコレ】
岬:物凄く単純に言ってしまえば、六人当選であれば、
 比例名簿の一位から六位までの方が当選します。
公:案外、分かり易いな。
岬:ですけど、この順位ってどう決めると思います?
公:ん?
岬:考えてもみて下さい。比例選出の候補にとって、この順番はまさに命なんですよ。
  これが一つ足りなかっただけで、代議士として国政で活躍するはずが、
 無職の浪人生になるなんてのもザラにあることです。
公:つまり、これを決める大物に取り入って媚びを売る輩が出ると――?
岬:現実問題として、そういうこともありますね。
 党員をたくさん獲得した方を優遇する政党は多いですし。
  何処とは言いませんが、身内の話し合いだけで決めて国民のことなんか、
 興味無い政党もありますし。
公:政治家は大変だなぁ。
岬:と言っても、各政党が主張する政策にブレが無ければ、
 特に問題が無いとも言えるんですけどね。
  与野党問わず、その場に依って意見がコロコロ変わる現状では、
 如何ともしがたいとも言えます。
公:ほむぅ。
岬:あと、前にも少し触れましたけど、
 小選挙区に立候補してる方でも比例名簿に名を載せることは可能です。
  と言うかむしろそれが主流で、現実的な問題として比例代表制は、
 小選挙区の補欠として扱われる側面があります。
  その為、法律上の権限はともかく、政党内では小選挙区を勝ち上がった議員の方が、
 発言権が強い傾向にあります。
公:苦労した方が偉いってのは、分からんでも無いな。
岬:ちょっと補足なんですけど、名簿に載せる方を三つの領域に分ける考え方があります。
  ほぼ確実に当選するであろうエリア、情勢によってどうなるか分からないエリア、
 先ず無理だろうというエリアです。
公:三番目が真面目に切ないんだが。
岬:それが選挙の現実です。なので、このエリアには正直、
 どうでも良い名前が連ねられることが多いのですが――。
公:が?
岬:逆に言えば、政党幹部の想定を超える程の大勝が実現してしまうと、
 そのどうでも良いはずだった方が国会議員になってしまうこともある訳です。
  誰とは言いませんが。
公:あいつ……か。
岬:とまあ、選挙のやりかたはそれぞれに長所と短所がありますから、
 絶対的な手法なんてものはありません。
  それなりに民意を反映し、死票も控えめにし、
 無所属であろうと立てる小選挙区制と比例代表制の並立は、
 妥協案としてはそこそこのものという解釈も出来ますね。
公:俺でも、明日から国会議員を目指せるんだな。
岬:言い忘れましたけど、衆議院は二十五歳以上、
 参議院は三十歳以上で日本国籍を有することが立候補の為の最低条件です。
  他にも資金面等、種々の問題がありますので、当面は無理だと思って下さい。
公:わーい、現実の壁って素敵だねー。
岬:では、次にその国会が選出する総理大臣について説明していきましょう。

今項目の纏め:比例名簿は議員のプライド。選挙方式は一長一短なので、一概にどれが良いとは言えない。


【総理大臣になろう】
岬:さて、先輩。総理大臣って何ですか?
公:……日本で一番偉い人か?
岬:半疑問系に見られる自信の無さはさて置きまして、
 とりあえず半分だけ正解ということにしておきましょう。
  首相と表現されることもありますが、これは主席宰相の略です。
 要はオレ様一番で間違いありません。
  日本は立憲君主制なので、建前上、一番偉いのは天皇になるんですけどね。
公:それで、仮に俺が総理になろうとしたら、何をどうすれば良いんだ。
岬:先ず国会議員であることが最低条件ですので、選挙に勝って下さい。
  次いで衆参両院に於いて過半数以上の賛成票を得ることで就任出来ます。
  衆参で別の方を指名する場合もありますが、
 その時は衆議院の優位性が認められて、衆議院選出者が就任します。
公:衆議院の優位性……?
岬:衆議院は任期が四年なのに対し、参議院は六年です。
  更に衆議院は解散することもある為、実質的な任期が更に短くなります。
  と言うか、戦後に限って言えば、任期満了での総選挙は一回しかなく、
 任期の平均は三年未満となっています。
  詰まるところ、淡々とその構成が変わる参議院に比べ、
 衆議院の方が民意を細やかに反映するという解釈で、
 衆議院には参議院より多くの権限が認められています。
  と言うか、むしろ参議院不要論も一部にあるくらいです。
  総理大臣も、衆議院から出すのが通例です。
  各大臣については、参議院枠という通例があるんですけどね。
公:で、総理になると何が出来るんだ?
 『女子高生は体操着で登下校しなければならない』法案は可決させられるのか?
岬:一応、細かいと言えば細かいんですが、根本に謝りがあります。
  総理大臣はあくまで、行政、つまり法や予算を実行する組織の長です。
  と言っても、内閣を代表して議案を提出することが出来ますし、
 ほぼ、与党第一党の党首が就任しますから、相当の影響力があることも事実ですが。 
公:総理であるだけでは、法案を通すことに何の優位性も無いと?
岬:法律上は、そうなりますね。
公:何だろう……この虚しさ。
  総理になればどんなこともやりたい放題だと信じていたあの頃を返して欲しい……。
岬:それは独裁って言うんですよ、先輩。
公:心にぽっかり空いた穴は我慢するとして……
 結局、総理大臣に出来ることって何なんだ?
岬:一番大きいのは、国務大臣の任命権です。
  いわゆる、『●●大臣』を選ぶ権利です。
  これは政党内の力関係で選ばれることも多いのですが、
 理屈の上では総理の独断で任命して問題ありません。
  形式上は天皇が認証することになっていますけど、戦後、
 天皇の権限は形骸化してますから、
 実質的には総理が任命していると言って構わないでしょう。
  他にも自衛隊や警察等を含めた行政各省への指揮権を持ち合わせています。
  唯、これに関しては現実的に官僚が強い力を持っていますので、
 実際、自由に動かせるかは手腕次第です。
公:結局、そこに行き着く訳か。
岬:何事も、何かを成す為には、それを成す為の準備と力が必要なんですよね。

今項目の纏め:総理は事実上、日本で一番の権限を持つ人。だけど、国会と行政機関を掌握できるかは実力次第。





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