邂逅輪廻



【専任が必要な程の高難易度らしい】
公:プポォ、ペポペポ、ポペー。
遊:法螺貝を、そんなショボい鳴らし方する奴を初めて見た。
公:意外とムズい。しかし、これを鳴らさずして戦国時代と言えるだろうか。
莉:何にしても、それを鳴らすのは大将じゃないんじゃないかって、
 言っちゃったらダメな感じなのかな。


【昼間に有効だとも思えないしな】
涼:そもそも、合戦の折、乱戦状態になっても大雑把な指令が届くように、
 大音量で遠くまで届く法螺貝が用いられた訳だ。
公:別に、こんな難しい楽器じゃなくていい気がしてきたな。
遊:よし、発光弾作ろう、発光弾。火薬はあるし、炎色反応くらいは分かるから、
 花火的なものくらいなら何とかなるはずだ。
公:乱戦つってるだろ!
  切り結んでる最中に、一々音の出どころ振り向いてる暇なんかあるか!


【低音ほど大きくなる仕様だからしょうがない】
遊:仕方ない、シンバルでも鳴らすか。
公:高音はダメじゃないか。低音の方が波長が長くて、遠くまで届いたような。
莉:コントラバスとか、重低音の代表格だよね。
公:只でさえ甲冑一式が邪魔くさいのに、二メートル弱の楽器を担いで戦場を走り回るとか、
 何かしら粗相をしでかした末の罰ゲームなのではなかろうか。


【流石に零から無限は生まれない】
公:結局、法螺貝以上に妥当感のあるものは思い付かなかった。
涼:長く使われているものには、理由があるということだな。
公:高校生程度の知識じゃ、戦国時代で革新的なことは出来ないな。
遊:諦めるな。何かを成すのに大事なのは保持している情報量じゃない。
  それをどう活用するかだ。
公:この中で成績最下層の遊那が言っても何の説得力も感じられない辺り、
 勉強するって大事だなって思い知らされるよ。


【世には労働者と非労働者しか居ないという主張】
綾:むぅ……ですわ。
岬:どうかしましたか。
綾:捨扶持を充てがって飼い殺している兄が居るのですが、
 突如として使命感に目覚め、働きたいと言い出して困っていますの。
岬:つまり、私と同じ半ニート仲間ってことですね。
綾:話の本質を、ちゃんと理解してくださってますの?


【あれを少々で済ますのか】
岬:いいんじゃないですか。経緯はどうあれ勤労意欲が湧くのは素晴らしいことです。
  私は働きませんけど。
綾:何故飼い殺しているのかを考えてくださいまし。
岬:たしかに、どんな役立たずの益体無しでも、身内を放逐するのは根性要りますよね。
綾:少々甘やかしたせいか、岬さんの頭の回転が鈍くなってる気がしてなりませんわ。


【ニートにありがちなその場凌ぎ的発想】
綾:そうですわね。例えるとすれば極限まで飢えた猛獣の様なものですわ。
  その力は底知れぬものですが、飼い慣らすのは容易ならざることですの。
岬:それだけ聞くと、適当な国にほっぽり出したら内部崩壊を誘発してくれそうですけど。
綾:最悪の場合、その国を乗っ取って、こちらに牙を向く可能性も考えられますわ。
岬:うちも大概、乗っ取られてる感じがありますし、
 別段、問題無い気がするんですけど、どうなんでしょうね。


【他所の国も大概だから安心しろ】
空:一柳空哉です。この度は家臣団の末席に加えて頂けることとなり、誠に喜ばしく――。
岬:あー、そういうのはいいので、分からないことがあったら妹さんに聞いてください。
空:おぉ、我ら兄妹に格別なる信頼を寄せて頂いているということですな。
  妹よ、これは命を張る価値のある主君だな。
綾:何故、私のところばかり使いこなすのに苦労する部下が舞い込んでくるのか、
 何処にも吐露する場所が無いのが遣る瀬ないですわ。


【挑発も兼ねる隙の無い一手】
麗:あまりに難攻不落過ぎる我らが城に業を煮やしたのか、
 東の大大名から懐柔と思しき書状が届きました。
千:どうします、親分、燃やしますか。
麗:舞浜さんが、すっかり小悪党配下のチンピラになってるのはさておきまして。
茜:んー、鉱山利権全部寄越すなら不干渉条約を結んであげてもいいって返事しといて。
麗:いつも通り突っぱねる訳ですね、分かりました。


【縛るつもりが縛り付けられてる】
麗:利権の、四分の一までなら譲ってもいいって返ってきました。
千:舐めてますな。見せしめに使者の髪を剃り落としましょうぜ。
麗:正直、ここまで譲歩されるのは想定外ではありますが、どうしましょうか。
茜:うん、くれるって言うなら貰っておこうか。
  どうせこっちから攻める気なんて今のところ無いんだし、丸儲けだよね。
麗:敵を牽制する最大の手段はこちらのイメージを肥大させること。
  言うは容易いですが、こうも上手く嵌まるのは珍しいのではないでしょうか。


【家族のみならず公康辺りも追加で】
茜:あ、そうだ。ついでだから、姫を一人寄越せって追加しておいて。
千:ぐえっへへ、親分も好きですなぁ。
麗:そのキャラ作り、却って疲れませんか?
千:いや、これがまたやってみると楽しくてさ。
茜:麗ちゃんって、奇行への対応力が凄いよね。
麗:いささか経験が多いのは、どうやら事実の様ですので。


【歴史的に見れば珍しくもない光景】
彩:えーと、親に有無を言わさず、こっちで暮らせって言われたんだけど、
 どういうことなのか説明してもらってもいい?
千:数学教師ですよ、数学教師。紛れも無いインテリですよ。
麗:築城の計算等で、役に立ちそうな人材を送ってくれましたね。
茜:これからもちょくちょく絞りとれる、いい友好関係を築けそうだね。
彩:何一つ質問には答えて貰って無いけど、
 親に売り飛ばされたってことだけは分かったから、もういいです。


【最高知力持ちが自動配備されるシステムなんだろう】
公:岬ちゃんのところと同盟、ね。
涼:ああ、この過酷な立地で消耗しあうのは得策じゃないだろう。
  幸いにと言うか、あちらには海が無い。交渉の手札は幾らでもある。
公:実に理に適った提案だとは思うが――。
涼:が?
公:一体、いつから北島先輩が軍師的立ち位置になったのか、それが問題だ。


【バグにバグが重なって正常作動みたいな】
公:なんかこれだと、俺が自力では何も思い付かないみたいじゃないか。
莉:そうじゃなかったの?
公:ハッキリと言うなぁ。一応は大名に向かって。
遊:生き死にが掛かってる職場で太鼓持ちなど必要無いということだ。
  戦場で陣太鼓は必須なのにも関わらず、な。
公:何かちょっとうまいこと言ってんじゃないのって気がするけど、
 遊那だし、聞かなかったことにしておこうと思います、はい。


【考えてみたら義理や愛着なんて無いし】
公:まあいいや。それで、誰が交渉役を務める?
遊:私が行こうか。一応、岬とは面識があるしな。
莉:好待遇を提示されて、そのまま残っちゃったりして。
遊:……ソンナコトある訳ないじゃないかー。
公:りぃ、補佐についてけ。絶対に、単独で接触させるなよ。
莉:ラジャー。


【演技に見せ掛けて実は素という高度な仕込み】
岬:へー、同盟ですか。一柳さん、損得で言うとどうなんですか。
綾:悪くはないですの。塩等が安定的に調達出来るようになりますし、
 国力は大して変わらないので、真っ向からぶつかり合ってもいいことはありませんわ。
岬:成程〜。じゃあ、その方向で詰めておいてください。
遊:どうでもいいと言えばいいんだが、一応は他国の使者が来てるのに、
 どうして岬は涅槃仏みたいに横たわって頬杖ついてるんだ。
岬:この体勢が、一番楽なんですよ。


【腹心は皆のお母さんじゃないんですよ】
綾:これでとりあえず、南に対して割く兵力を減らせますわ。
  とはいえ北、東、西の三方向から大大名級が目を光らせている上に、
 南東では茜お姉様が不気味な沈黙を守っていますし、
 どうあっても油断できる状況ではありませんわね。
空:綾女ー。俺の具足用の小手、どこに行ったか知らないかー?
綾:国内は国内で面倒事が多過ぎますし、苦労の種が尽きませんわ。


【思い付きで動くと碌なことがないという好例】
岬:お姉ちゃんは、何がしたいんですかね。
綾:それが分かれば、少しは作戦の立てようもありますわね。
岬:そうですね、皆さんに任せっぱなしなのも気が引けますし、
 ここは一つ、私が直接問い質して――。
綾:お願いしますから、大将は大将らしく、堂々と腰を据えて下さいまし。


【意外とこういうタイプは生き残る】
綾:こういう時は、失っても最悪の事態とならない人材を起用するものですわ。
空:んあ?
綾:そういうことですから、お兄様、任せましたわよ。
空:よぉし、何だかよく分からないが、
 妹に期待されたとあっては張り切らざるを得まい。
岬:どさくさに紛れて謀殺されることを期待しているように見えますが、
 お姉ちゃんのことですから、生かして活用するんでしょうねぇ。


【英雄の資質ってイカれてるとほぼ同義】
空:分かったぞ、綾女。あの桜井の嬢ちゃんは、何も考えていない。
  目先の面倒事に首を突っ込んで、行き当たりばったりの綱渡りを楽しんでいる。
岬:それは、分かったと言うんですかね。
綾:対処法が思い付かないという意味では、最悪の相手ですわ。
空:なぁに、そういうことならガン無視を決め込めばいいだけじゃないか。
綾:理屈の上ではそうやも知れませんが、
 城を素通りして後ろから襲われる可能性を完全に消し去れるのは、
 お兄様並の大馬鹿にしか出来ないと思われますわよ。


【理想的じゃないかと思ったらもう末期】
彩:んーと、こっちの家臣にこれだけの石高を与えると不公平感が増すから――。
麗:流石は数学の先生ですね。数字に強いというのは、この時代では相当の強みです。
彩:一応、私、姫って話じゃなかったかな。
  何でこんな、国の方向性を左右するくらい重要な仕事をやらされてるの?
茜:希望するなら、天守閣の一室に閉じ籠もって、
 無口な女中が世話をするだけの生活を用意してもいいけど。
彩:いやー、やるべき仕事があるって、実は素晴らしいことだよね。


【泰平の世で奥を作るまでは死ねない】
千:さぁて、ドンドンと僕の立場が危うくなってるよね、これ。
麗:安心して下さい。最初から期待している方など、何処にも居ませんから。
千:うん、お約束ありがとう。
茜:大丈夫、千織君には、城を枕に大量の火薬に火を付けて、
 敵の大群を道連れにするっていう大事な役目があるから。
千:アメリカ映画ならそれでハッピーエンドなのかも知れないけど、
 僕は現世にしがみついてこそ勝者って考え方だからね!


【凡庸を自覚するのは大切なこと】
千:こんなことなら、公康のところに残るんだったな。
茜:別に、今から戻ってもいいよ?
千:それはそれで、釈然としないなぁ。
茜:裏切りを繰り返して生き残れるのは利用価値がある間だけだって、
 歴史上の基本は教えておくけどね。
千:何を仰られますか、茜さん。
  ぼかぁ、離反した時からこの家に骨を埋める気で満々でしたよ。


【見返りが期待できるだけマシとか言い出しそう】
千:さぁて、今日も今日とて何の面白みもなくて平々凡々だけど、
 無難で堅実な仕事に精を出すことにしようっと。
麗:若干の、ヤケッパチ臭を感じるのですが。
茜:手が動いてる間は大丈夫だったりするんだよ。
  世の悪徳企業は、それを利用して労働者を酷使してるんだけどね。
麗:戦国武将も似たようなものだと考えると、少し奥深い気がしてきました。




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