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「と、盛大に煽ってみたはいいんだけど、どういった勝負をするかは全く考えてないよ！」 「類は友を呼ぶとは、良く言ったものだとは思いますわ」 「友達って、良いもんだよな」 微妙に会話が成り立ってないのは、いつものことだから、軽く処理することにして。 「運試しといえば、ロシアンルーレットだよね」 「……」 千織に言われて、一呼吸、考えてみる。そして、銃で連想した遊那を見遣ってはみたんだけど――。 「いや、デザートイーグルってオートマだから無理だろ」 尤も、遊那が持ってるのはあくまでエアガンで、構造がどうなってるかまでは知らないけど。 「リボルバーなら、コンバットマグナムがあるぞ。ちょっと待ってろ、たしかカバンの中に――」 こいつは、学園に何をしにきているんだろうか。 「お、あったあった。ロシアンルーレットなら、火薬で音を鳴らすだけで良いんだろ？ たしか、それ用の弾もここに――」 幾ら未成年が色々と法的に保護されているといっても、職質を受けた場合、どうやってやり過ごす気なんだろうか。意外とチキンなこいつのことだから、すぐさま桜井家へ連絡をしそうな気がしないでもないけど。 「つーか、随分とノリノリだな」 「話題が守備範囲に入ってきた時、テンションが上がって能弁になるのが、マニアという人種だ」 間違っちゃいない気もするが、マニアと自分で認めてしまうのもどうなんだろう。 「シリンダーの装弾数は六だ。構造上、どうしても外から弾が入っていることが視認できるから、ダミーで埋めておくぞ」 言って、遊那は弾倉に五発のダミーと一発の空砲を入れ、カラカラとシリンダーを回した。うーん、殺傷能力は低いにしても、こんな物騒なもんをすぐさま用意できる奴を野放しにしていいんだろうか。やっぱり、大事になる前に、何らかの対策を求めるべきなのかも知れない。 「そういや、リボルバーって、弾が五発の奴もあるよな。あれでロシアンルーレットやろうとしたら、先行がメチャクチャ不利だよな」 「一発ずつか、二発ずつで終わらせれば良いだけのことじゃありませんの」 「いや待て、装弾数を五として、一発ずつで終わらせると、先行は五分の一の確率だが、後攻は四分の一で、先行有利になるじゃないか」 「……」 あれ、遊那の発言に、綾女ちゃんが本気で冷ややかな目になっちゃいましたよ。 「順番はどうあれ、弾倉の重量に偏りがないとすれば、何発目であろうと発射の確率に変わりはありませんわよ」 「そう……なのか？」 「お前、本当に、数学ダメなんだな。むしろ算数レベルな気もするが」 世の中を渡っていく為に必要な知識は多くないとは言うけれど、マルチ商法的な詐欺に引っ掛からない為にも、この程度の計算は出来るべきだと思う。 「それにしても、妙ちくりんな遊びですわよね。どういった意図で開発されたのか、興味あるような気もしますが、調べる気にはなりませんわ」 「これが男の、ハードボイルドってもんさ」 「言いたいことは、それだけですの？」 そう言い放つと綾女ちゃんはコンバットマグナムの銃口を俺の方に向けた。 「え、えーと、これは一体――」 「貴方と居た時間、嫌いじゃ無かったですわよ」 言葉と共に綾女ちゃんはトリガーを引き絞った。同時に轟く、爆音と言ってもいい破裂音。割と本気で、身体がブルッとしたぞ。 「明らかに火薬量を間違ってるだろ、これ」 「ふむ、ちょっと分量を間違えたか」 「お前の自作かよ！？」 たしか日本の法律じゃ、ちゃんと免許的なものを持ってる人じゃないと火薬を扱っちゃいけなかったような……まあ、そもそもデザートイーグルのエアガンが違法改造されてると言われると、何の反論も出来ないんだが。 「それにしても、これだけの音を立てて、誰一人として教室に駆け込んでこないことの方が、空恐ろしくもある」 うちの学園って、一応、世間的には進学校の部類だけど、色々な意味でもうダメなのかも知れない。せめて俺が卒業するまでは、高等学校の認可を取り消されないで欲しいものだ。 「ところで、この場合、勝敗はどうなるんだ？」 普通、ロシアンルーレットって、自分の頭を撃ち抜いた奴が負けだよな。綾女ちゃんが勝手に先行を選択して、一発目で被弾した扱いにするなら負けで問題無い気もするけど――。 「ん？」 ちょっと待てよ。何の疑いもなく、六発中一発が当たりって決めつけてたけど、遊那のイタズラ心で、全弾当たりって可能性もあるんじゃないか？ 綾女ちゃんは、それを見切った上で俺に向けたんだとしたら、話の辻褄は合う。 「失礼」 一言断ってマグナムを手にすると、撃鉄を引いて、六分の一だけリボルバーを回転させる。そして遊那に向けた上で人差し指に力を篭めてみたんだけど――。 カチッ。 歯車が噛み合った時の様な、無機質な音しか漏れでてこなかった。念の為、あと四回、同じ作業を繰り返してみたけど、結果は同じだ。 「お前ら、平気で銃口を人に向けるとは、一体、どういう教育を受けてきたんだ」 遊那がゆーな。つうか、普通に日本で生活してて、銃の扱いなんて教わる奴は、殆どいやしねーよ。 「綾女ちゃん、何で最初が当たりだって分かったの？」 「分かる訳ありませんわよ」 え、又、この展開ですか。 「破裂音がしたのであれば、何の問題も無し。仮にハズレを引いたとしても、貴方が、『おいおい、驚かすなよ』とでも合いの手を入れて頂ければ、流れに支障をきたしませんわ」 う、たしかに俺なら、その場のノリで言いそうな気がする。 「ねぇ、本来の対戦相手である僕の扱いが、凄くぞんざいな気がするんだけど」 「それは、いつものことじゃなかろうか」 「ううん、泣かないよ。僕、強い子だから」 何やら、乙女チックモードに入ってる千織は捨て置いて。 俺の中では、やたらめったに遊那を危険視する度合いが増えただけのロシアンルーレットなのだった。 「次の方、どうぞー」 ここは病院の待合室か何かか。 「一柳さんをナック・アウトしてもいいと聞いて、やってきました」 あれ、何、この凄いデジャブ感。そして岬ちゃん。ノックアウトが、何でそんなネイティブ寄りの発音なのさ。 「私、何でこんなにも叩きのめされる対象となってますの」 「カリスマとは、狂信的な味方を作る反面、敵も多いものです、サー」 尚、サーとは男性上司に対する敬称らしいけど、ノリなので深くは考えないでおこう。 「先の期末試験で、八百点満点で学年一位を掻っ攫った事実は忘れません」 地味に器の微妙さ加減を晒す岬ちゃんなのでありました。 「てか、西ノ宮の時に結論が出たんだけど、所詮は運ゲーよ？ 例え勝てたとしても自慢にはならないよ？」 「内容はともあれ、勝ったという事実が一つあれば、生きる支えには充分というものなんです」 深いようなそうでもないような、判断に困る発言だな、おい。 「それで、具体的に何をしますの」 「さっきから考えてるんだがな……三つ子の件で、思ったんだ。世の中、意外と純粋な運だけで決まるゲームって少なくないか。カードゲームは長期的に見れば心理戦だし。ロシアンルーレットは何か、うやむやだったし。やっぱ俺達じゃイカサマできないことだし、サイコロ辺りが妥当なのではと――」 「私、六面ダイスでしたら、好きな数字を出せますわよ」 「ナンデスト？」 「お兄様に、仕込まれましたもの」 あの麻雀狂のバカ兄貴、ロクなこと教えねぇな。 「では、乱数表を使いましょう。こう、第三者に適当な起点を決めて貰ってですね。縦横二回、移動距離をサイコロで決めれば、振り手の意志に関わらず、純粋に近い運勝負が可能です」 「何でそんなものを普通に取り出せるかについては、触れちゃダメなんだよな？」 そろそろ、全員の持ち物検査を実施すべき時期なのではと、思わないでもないぞ。茜さん辺り、遊那以上に法に触れてそうで、とても強行できる自信無いけど。 「と言うか、大本は宝クジで一発当てようという話だったんだが」 「宝クジって、控除率が五割以上ある、異常な博打じゃなかったでしたっけ。分かり易く言うと、誰かに三億円が当たれば、三億数千万円が御上の懐に入ってると言いますか」 ここにも居たよ。合理主義で、夢の無い人。 「分かった。俺が金を出すから、今から、ちょっとスクラッチのクジを買いに行こう。んで、当たったら、皆でパーッと使う。これならフェアだし、問題はあるまい」 「そんな金があるなら、缶ジュースの一本でも奢って貰いたいものだがな」 やかましい。ここまで来たら、綾女ちゃんの神通力を確かめずにはおれんのじゃい。 「宝クジの購入に年齢制限はありませんが、未成年者契約法で話がややこしくなることがあるので、売らない売店もあると聞いてますわよ」 「安心しろ。駅前の売り場は、小学生が相手だろうと平然と売りつける豪快な場所として有名だ」 「それはそれで、多大な問題性を感じますわ」 ギャンブルというのは、権力という衣を被ればやりたい放題の特権商売なのさ。少なくても、この日の本の国ではな！ 『よぉ、兄ちゃん。可愛い子を二人も連れやがって羨ましいな、ゲヘヘ。悶え死ね』 「宝くじ売り場のオイちゃんが何か言ってますが、深くは考えないように」 「何だか、ツッコミどころが幾つかあった様な気がしてならないんですが」 「ここに居る女性は三人。これは『可愛い』二人が誰かという論争にさせて内部撹乱をするという戦術だな」 「私が小さくて見えなかったというのでしたら、それはそれで失礼な話ですわよね」 さりげなく、遊那の言った通り、微妙にギクシャクしてませんか、あなた達。 「そんなことはどうでもいい。さぁ、宝クジ、買う、オーケー？」 「何でカタコトなんですか」 細かいニュアンスはともかく、言いたいことを大雑把に伝えたいなら、案外、単語だけでもいけるよね。 「一枚、お願いします」 「私もですわ」 『グユヘヘ。一枚ずつね。極上モノを仕入れておいたぜ』 宝クジに、良いも悪いも無いだろ、って突っ込んだら負けだぜ。 「そういや、『この売場で一等が出ました』なんて張り紙あったりするけど、何処で買おうと一緒だよな、理屈上」 「大分、確率論というものが分かってきたようですわね」 認めたくないけど、随分と汚染されてしまった模様です。 「スクラッチを削るのには、十円玉が一番です。むしろ十円玉を使わない人とは、腹を割って話せる気がしません」 たしかに一般的なのかも知れないが、そこまで言われることだろうか。 「お、百円が当たりました」 うーん、何度となく控除率が半分を超えるって話をされてきたけど、二百円で購入して百円が手に入るのを、『当たった』と表現していいのか、謎ではあるよな。 「ところで、当たったらパーッと使うと言ってた訳だが、百円でどうやってパーッとやるんだ？」 「どっかで駄菓子でも買って分け合うか？」 「高校生のパーッとじゃないですよね、それって」 その件に関しては、敢えて否定も肯定もしないでおく。 「オイちゃん、当たったよー」 『あいよ、百万両な』 古式ゆかしい駄菓子屋の婆ちゃんか、あなたは。 「綾女ちゃんは、どうだった？」 むしろ本命は、こっちだったりする訳なんだが。 「あれ、まだ削ってないの？」 こう、九個の丸から三つを選んで削って、揃えばその額が当たりになる方式なんだけど、ジーッと見てたところで、透けるような不備がある訳でもなかろうに。 「宝クジとは、夢を買うものですわ」 何だ？ いきなり、メチャクチャ一般的なこと言い出したぞ。 「詰まるところ、私がこれを削らない限り、永遠に当たる可能性が残る訳で、長い夢を楽しめると思いませんこと？」 「払い戻し期間を過ぎたら、例え百億当たってようと無価値だと思うのですが」 「そういった詭弁はいいですわよ」 永遠とか言い出す綾女ちゃんが悪いんじゃない。俺、何も間違ってないよね。 「つまり、一柳さんは、私に負けるのを恐れて尻込みしてるという訳ですね」 たかだか百円で、ここまで強気に出れる岬ちゃんもどうなんだろう。 「そこまで言われては、引き下がれませんわ」 そして、こんな定番すぎる挑発に乗っちゃう綾女ちゃんに関しても、言いたいことはたくさんある。 「……」 カリカリカリ。 でも、やることは結局、小銭で削るだけなんだから、絵的にはすっごい地味だ。 「どうだった？」 「五百円、当たりましたわね」 サラリと言ってのけてくれてるけど、これってもしや錬金術なのではなかろうか。綾女ちゃんなら、このまま倍々ゲームに勝っていけそうな気がする辺り、俺の論理的思考力もたかが知れていると思う。 「オイちゃん、何と又、当たっちゃったよー」 『ケッ、侍らせた女は幸運の女神って話かよ。燃え尽きてしまえ』 仮にも接客業としてこの態度はどうなんだろうと思わなくもないけど、クビにならないところを見ると、一部に人気があるんだろう。 「さぁて、儲かったと言っても、収益は二百円。六百円使うにしても、大したことはできないな、と」 まあ、ドブに捨てるつもりで買ったもんだし、遊那がバイトしてるファミレスにでも行きますかね。 「……」 「あれ、綾女ちゃん、どうしたの？」 何か俯いちゃって、気分でも悪い訳？ 「オーホッホッホ。岬さん、意気揚々と挑んでおきながら、この体たらく。お粗末様と言う以外にありませんわね」 と思いきや、いきなり顔を上げると、テンション高く言い放った。 「つーか、綾女ちゃんの高笑いを聞いたの、すっげー久々な気がする」 もしかして、選挙以来じゃなかろうか。いやー、懐かしい話だなぁ。 → 挿絵 別窓 「無様ですわね。醜態ですわね。惨めですわね。この様なザマを晒すようでしたら、参謀をお願いするという話も、考え直さざるをえませんわ」 「何だか今日の綾女ちゃん、元気なかった感じだったけど、立ち直ったみたいで良かったなー」 「とんでもない棒読みですね」 だって、どう反応していいものか分からないんだもの。 「私としましては、これはこれで色々と問題だと思うんですが」 たしかに、白昼堂々、これだけ人が流れてる場所で高笑いできる精神状態というのは、深刻と言っても差し支え無いのかも知れない。 「でもまあ、綾女ちゃんなら問題ないんじゃないかな」 特に根拠も無く言い放ってる間に、綾女ちゃんは公共の長椅子に乗って、高笑いを続けていた。ちゃんと、靴は脱いでる辺りが、公序良俗的に考えて、ギリギリ及第と言ったところか。 「しかしまあ、何で高笑いをする人は、ああ、高い所が好きなんだろうか」 「こう、少しでも遠くに声を届けようという、野生動物の本能に近いものなのではないでしょうか」 わーい、岬ちゃんも、色々と言いたい放題な感があるよ。 「ホーッホッホッホ」 うーむ、そう言われると、何だか森のお友達の威嚇や、求愛行動に見えてくるような。よし、ここは筋肉部隊を招集して、後の始末をして貰おう。奴らなら、きっとあの声に惹き寄せられて近場にいるはずだ。 という訳で、綾女ちゃんの強運については結論が出なかったし、大儲けしようという当初の目論見も外れたよ。だけどまあ、何か色々楽しかったし、俺としてはありってことにしておくわ。 綾女ちゃんの、次回挑戦を、楽しみに待っていてくれ。 了
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