緋姫 「何だか、空気がピリピリしてて眠れませんね……」 緋姫 「少し、出掛けてみましょうか。病室で呆っとしていても、得るものはないですし」 緋姫 「でも、気を付けないと――見付かって、看護師さんに怒られるのは嫌ですからね」
VS霧神瀬利花 ??? 「……緋姫っ!? お前、また病院から抜け出したのかっ!!?」 緋姫 「あっ、霧神さん……もう、大袈裟なんですよ。私は記憶を失っているだけで、他は元気なんですし」 瀬利花 「お前が記憶を失った原因は頭部へのダメージだ、楽観出来るものではない!」 瀬利花 「とにかく、病院に戻るんだ。何かあったらどうするつもりなのだ?」 緋姫 「その言葉に、『はい分かりました』と頷けるような人間なら、そもそも抜け出したりはしないんでしょうね」 瀬利花 「……なら、力尽くで送り返す。少し痛いだろうが、我慢してくれ」 緋姫 「怪我人相手に、酷い事を言う人ですねえ」 緋姫 「でも知っているでしょう、私は喧嘩が強いんですよ。まぁ、私自身は良く知りませんが」 VS鳳仙院瑞枝 ??? 「……あれ、撫子さん?」 緋姫 「はい? 私ですか?」 ??? 「あ……御免なさい、人違いでした。しかし、本当に良く似て――って、どうかしました?」 緋姫 「あ、いえ……足が、悪いんですね。あ、変な事を訊いて済みません」 ??? 「いえいえ、お気になさらずに。脊椎の方に、ちょっと問題がありましてね。けれども、貴方も――」 緋姫 「はい。頭に大怪我したらしくて、記憶がなくなっちゃったんです」 ??? 「それはそれは……大変でしたね」 ??? 「でもまぁ、多少身体が悪くとも何とかなるものですよ。私も、この車椅子で空手を続けていますし」 緋姫 「空手、ですか」 ??? 「ええ。ですから、強い人は見逃せないんです。武人の血が騒ぐんですよ」 ??? 「――闘えますよね? 多少身体が悪くとも、何とかなりますからね」 緋姫 「え、あの……?」 瑞枝 「鳳仙院流空手、鳳仙院瑞枝――いざ、参りますッ!」 VS春獄晴良 ??? 「――夜更かしは良くないよ。それが怪我人なら尚更だ」 緋姫 「貴方は……春獄晴良、さん」 晴良 「おや? 1度見舞いに行っただけなのに、名前を覚えててくれたとは嬉しいね」 緋姫 「……他の人からも、貴方の名前は聞きますから」 晴良 「へえ、それはちょっと気になるな。君は僕に関して、どんな話を聞いている?」 緋姫 「……では、単刀直入に尋ねます」 緋姫 「私が記憶を失ったのは、貴方のせいだという話――それは、本当ですか?」 晴良 「ああ、全然違うよ。僕のせいじゃない」 晴良 「あれは、君のせいだ。君が僕より弱かった事が、何よりの原因さ。僕に勝っていれば、大事な記憶を失う事もなかっただろうに」 緋姫 「――……」 晴良 「そんなに睨んでも、意味はないよ。僕をどうしたって、君の記憶が戻る訳ではないしね。八つ当たり以外の何物でもない」 晴良 「でもまあ……今ならそれも正解かな。僕を倒して進めば、もしかしたら望むモノに出会えるかも知れないよ?」 VS倉元緋姫 緋姫 「え……っ!?」 緋姫 「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。いつも見ている、貴方自身の顔ですよ?」 緋姫 「…………」 緋姫 「……私には、一卵性双生児の姉妹がいるとか? 別に、いても不思議ではありませんけど」 緋姫 「いえ、そういう事ではありません。私は、貴方の外形を被っているだけです」 緋姫 「……偽者、ですか?」 緋姫 「まぁ、簡単に言えばそうですね。けれど私に取っては、貴方の方が偽者ですが」 緋姫 「……? 何を――」 緋姫 「私は、今の貴方を転写している訳ではありません。記録から引き出した、倉元緋姫の情報を纏っているんです」 緋姫 「つまり――この倉元緋姫には、過去の記憶があるんですよ」 緋姫 「……ッ!!?」 緋姫 「だから、私は貴方が赦せない。あれ程までに身を焦がした情熱を忘れ、ただ生きているだけの貴方が」 緋姫 「消え去りなさい、この偽者めッッ!!!! 彼への想いを知らない貴方に、倉元緋姫を名乗る資格はありません――ッッ!!!!」 VS月見匠哉 緋姫 「……彼への想いを知らない私、か」 緋姫 「その彼っていうのは、何処の誰なんでしょう……?」 ??? 「げっ、緋姫ちゃんっ!!?」 緋姫 「――? 何ですか貴方は、人の顔を見るなり嫌そうにして……」 ??? 「ああいや、嫌ではないんだが……会いたくなかったと言うか、合わせる顔がなかったと言うか」 緋姫 「……貴方も、過去の私を知っている人ですか?」 ??? 「えっと……うん、そう」 緋姫 「なら、訊きたい事があるんです。見舞いに来てくれる方々は、何故か私の過去に関しては口を噤むんですよ。一体、どうしてですか?」 ??? 「あー……それに関しては、俺も口を噤むしかないと思う」 緋姫 「……そうですか。まぁ、まともな人間じゃないだろうとは思っていますけどね。普通の人間が、こんなに『殺し方』を知っているはずがありませんし」 ??? 「いや。緋姫ちゃん、それは――」 緋姫 「では、最後にもう1つ。私には想い人がいたらしいんですが、それが誰か知っていますか?」 ??? 「ほぇ、想い人? 何と、緋姫ちゃんには好きな人がいたのか」 ??? 「……うーん、誰だろう? 泉、は在り得ないし……真? 迅徒? んん、しっくり来ないなぁ」 ??? 「ゴメン緋姫ちゃん、分かんない」 緋姫 「……そうですか。別に、期待はしていませんでしたけど」 ??? 「役に立てなくて済まなかった、じゃあ俺はこの辺で――」 緋姫 「――待ちなさい」 ??? 「え? な、何でございましょう?」 緋姫 「……何だか、貴方を見ていると胸がモヤモヤするんですよ。せっかく不眠の原因を消して来たのに、こんなものを抱えたままでは眠れません」 緋姫 「きっと、貴方がいるから悪いんです。抹消してから、病院に戻るとしましょう」 緋姫 「何だったんでしょう、さっきの人……勝ったと思った途端に、もの凄いスピードで逃げちゃいましたけど」 緋姫 「でも、あれは酷いです。『げっ』はないでしょう、『げっ』は」 緋姫 「私だって女の子なんですから、そんな事を言われれば傷付いてしまうのに」 緋姫 「そう言えば名も名乗りませんでしたね、あの人。いや別に、名前を知った所でどうだという訳ではないんですが」 緋姫 「もう2度と、会う事もないでしょうし。もう、2度と――」 緋姫 「…………」 緋姫 「……ま、まぁ、それも悲しい話ですね。どんな縁かは知りませんが、あの人と私は知り合いなんですから」 緋姫 「でも……知り合いなら、見舞いに来てくれてもいいじゃないですかっ。合わせる顔がないとか言ってましたけど、そんなの――」 緋姫 「……って、あれ?」 緋姫 「今夜は色々あったのに、何であの人の事ばかり考えてるんでしょう……?」
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