――某月某日、月見家。 「さて。知っての通り、我が家はその日の糧にも困る有り様なのだが」 俺はちゃぶ台に座って、厳粛な面持ちでふたりの神を見る。 同じくちゃぶ台に就いているそいつ等は、『いきなり何を言い出してんだ』といった模様。 ……だが、そんな顔をしてられるのも今の内だけだ。 「とは言え、我々にも美味しい食事を摂る権利がある! よって俺は、今回こんなモノを入手したッ!」 バッと、紙の束を掲げた。
「そ、それは――ッ!?」 「まさか、伝説のアレなのだ……!?」 一転し、驚愕するマナとしぃ。 ま、当然だ。これは―― 「そう! 今はなき某社の投入原料日報であるッ!! これがあれば、俺達もお安く牛肉(味)が食えるのだッ!!!」 「な、何という偽装牛肉……ッ!」 「まさしく肉の希望なのだ……!」 牛肉という言葉に反応し、眼を輝かせる神サマ達。 ……それはどうなんだ。いや、いいけどさ。 「しかし、朗報はそれだけではない! 先日、街外れの精肉工場が潰れたのは知ってるな?」 「うん、経営難がどうとか。でも、それがどうしたの?」 分からなそうな顔で、答えるマナ。 フッ、鈍いヤツめ。 「工場には今なお、肉を加工する機材が残されている。その内売り払ったりするんだろうが、まぁ、現在は放置されている訳だな」 「……ッ!!? ま、まさか匠哉――ッ!!?」 「その工場から、挽肉製造機を頂いて来ようと思うッ!!! うちには挽肉作れるような機材ないし、折角だから本格的なヤツをゲットするのだッッ!!!」 「その手があったか……! そうと決まれば匠哉、早速行くよッ!! 今夜のハンバーグのためにッ!!」 何とも話が早い。 急いで、準備をする俺達。 「しぃも行くのだ〜ッ!」 「いや、お前まで来るとややこしい事になる予感がするから。留守中に、皇室三馬鹿が攻めて来ても困るし……悪いけど留守番な」 「……のだ〜」 で、到着。 株式会社『ギルティ・ミート』の工場である。 外観は、いかにも工場といった感じ。飾りがなく質素だ。 入り口には鍵が掛かっていたが、マナの拳で破壊。 「さ、スニークだ」 そろーりそろりと、工場内に進入する。 玄関を無視して、土足で進んで行く。 「で、匠哉。肝心の作業場はどこなの?」 「うーん、分からん。見取り図とか、用意出来れば良かったんだけどなー……」 まぁそんなに広い訳でもないから、歩いてれば見付かるだろう。 廊下を進む。更衣室や食堂に続く、分かれ道があった。 という事は……作業場も近いな。待ってろ、ミンチャー! が、しかし。 「……? どうした、マナ?」 貧乏神が、急に立ち止まった。 周囲の気配を探るように、険しい顔をしてる。 「匠哉、誰かいる――来るよッ!!!」 「あん? ――って、のわぁぁあああッッ!!!?」 マナが俺を抱えて跳び退いた途端、フルオートの銃撃音と共に廊下が穴だらけになった。 同時に奔る斬撃。床に、十字の傷跡が刻まれる。 これは―― 「そこの人達! 不法侵入は立派な犯罪――って先輩ぃぃ!!?」 「ああ、やっぱり緋姫ちゃんか……」 ナイフと硝煙昇るP90短機関銃を持った緋姫ちゃんが、俺達の前に現れた。 つーか。銃を撃ち捲るのは、立派な犯罪じゃないのか。 「緋姫、何してるの? こんな所で」 マナが、うんざりしながら緋姫ちゃん言う。 対する緋姫ちゃんも、一気に不機嫌そうに。 ……これは、工場オワタフラグか? 「警備会社の人に頼まれて、泥棒が入らないように警備していただけです。そう言うマナさんは、一体何をしに?」 話しつつも、P90に新たなマガジンを装着し、初弾を装填する緋姫ちゃん。完全に臨戦態勢だ。 「ん? 私達は、この工場のミンチャーをかっぱらおうかと思って」 もう少し、遠回しな言い方は出来ないのだろうか。 「……そうですか、要は泥棒をしに来たと。じゃあ死んでください」 「んー? いいのかな、そんな事言って? この工場のミンチャーが手に入れば、匠哉は美味しい牛肉料理が食べられるんだよ?」 安い肉を牛肉味にした、偽装牛肉だがな。 マナの台詞に、僅かに狼狽する緋姫ちゃん。 「う……い、いいんです、私が代わりになりますから! 昔は、『人肉ミンチ製造機』とか呼ばれてた私ですしッ!」 「それはどうなの、人間として」 「黙りなさいッ!貴方達以外にも、場内に何者かの気配を感じますから――さっさと終わらせて、次に行きますッ!!」 「それは御苦労。でも、緋姫に『次』はないんじゃないかなー!?」 俺を放り捨て、マナは緋姫ちゃんとの間合いを詰める。 緋姫ちゃんは迷わず標準を合わせ、P90のトリガーを引いた。 「……ッ!?」 銃撃を躱すマナ。 ……躱した? 「今の弾は――」 「カナさんに造って貰った、対神SS190弾ですよ」 「……この世で緋姫しか使わない弾丸だねぇ」 足元に転がって来た、薬莢を見る。 ……そこには、『SS190 KANA』と彫られていた。 「うわぁ、マジかよ……」 俺が呆れている間にも、ふたりの激闘は続く。 疾風のような速さで振られる、緋姫ちゃんのナイフ。マナは上体を反らし、ブリッジして避ける。 「このナイフも、対神仕様です! これなら貴方如き――」 「ふーん。『貧乏キック』」 上体を下げたマナは、シーソウみたいに片足を振り上げた。 その蹴りを、紙一重で避ける緋姫ちゃん。 「く……!?」 足を下げるマナ。一緒に上体を起こす。 連射されるP90。特注の弾丸を惜しむ事なく、マナに撃ち込もうとする……! が。 「――甘いよッ!! こっちは、日々の食事が掛かってるんだからねッ!!!」 弾の嵐を、グレイズギリギリで抜けるマナ。 そして、緋姫ちゃんを間合いに捉えた。 「『貧乏キック』――下段蹴りッ!」 マナの足がしなり、緋姫ちゃんの足を打つ。 さらに、 「――上段蹴りッ! 踵落としッ!!」 バランスを崩した緋姫ちゃんの頭を蹴飛ばし、踵で追撃を加えた。 頭頂を打たれ、思わず頭を下げる緋姫ちゃんの顔に―― 「――跳び膝蹴りィィッ!!!」 身体の中でも特に硬い部位である膝を、思い切り打ち込んだ。 「あぅああ――ッッ!!!?」 吹っ飛ぶ緋姫ちゃん。 ……な、何というフルボッコ……!! 「お、おいッ!! 殺す気かッ!!?」 「え? 私と緋姫は、出遭った時から互いに殺す気だけど」 「…………」 ……ああ、そうでしたね。 もう、殺し合いを止めようとしてる俺の方が間違ってる気がしてきた。 「こ、のぉ……!」 壁に叩き付けられながらも倒れる事はなく、蹴られた顔を手で押さえる緋姫ちゃん。 ……指と指の間から覗く修羅の瞳が、爛々と光り一睨する。 「死になさい……ッ!!」 緋姫ちゃんは猛獣の如く跳躍し、マナに襲い掛かった。 俺では目視出来ぬ程の超越的なスピードで、銃撃と斬撃の波状攻撃が仕掛けられる……! 「……っと」 マナの服に、僅かに攻撃が掠った。 そして。次の瞬間には、袖が大きく裂ける。 「ふぅん、まだスピードが上がるか――『貧乏パンチ』ッ!!」 繰り出される拳打。 しかし緋姫ちゃんは低い姿勢で拳の下に潜り込むと、マナの胸に向けてナイフを突き出す――! 「その命、貰いますッ!!」 「――でも甘いッ!!」 もう片方の手で、ナイフを白刃取りするマナ。 人差し指と中指に挟まれていた刀身が、バキンと折れた。 「チィ……ッ!!」 緋姫ちゃんは舌を打ち、バック転でマナとの距離を取る。 柄だけになったナイフを投げ捨て、リュックから別のナイフを抜く。 「まだまだ駄目だねぇ、緋姫。一線を越えて人道を通り過ぎないと、超越者たる私には勝てないよ」 「く……ッ」 「エリン達の会社の言葉だと……何て言うんだっけ。能力の発現レヴェルが低い、だったかな?」 「――五月蝿いですよッ!!!」 再び、マナに挑む緋姫ちゃん。 ……と言うか。 ミンチャー1つ手に入れるためだけに、どうしてこんなシリアス・バトルを……。 と、その時。 「――おや、先客がいらっしゃいましたか」 新たなる人物が、舞台に上がった。 マナと緋姫ちゃんは戦闘を中断し、その人物を見る。 執事服を着込んだ、典雅な佇まいは―― 「し、清水さん?」 渡辺家の執事にして殺人テコンドーの使い手である、あの清水さんであった。 「どうして、こんな所に?」 「メイド達から御嬢様に、もっと大きな冷蔵庫が必要との進言があったので。ここの業務用冷蔵庫を、ちょっと拝借しに」 「…………」 あれだ、俺達と大して変わらんな。 しかし、金持ちなんだから買えよ。いや……こういう事で金を使わないから、貯まってゆくのか? 「それで、月見さんとマナ様はどうしてここに?」 「うち等の目的はミンチャーです。清水さんの目的とはぶつかりません」 「ああ、それは良かった」 本当に安心した表情で、言う清水さん。 とは言え―― 「そんな事は許しませんよ」 ここには、警備員の緋姫ちゃんがいる訳で。 ススス、っと下がるマナ。代わりに、清水さんが緋姫ちゃんと相対する。 「お久し振りです、倉元様。どうか、そこを通しては頂けないでしょうか?」 「はい、と頷くと思いますか?」 「そうですか……では失礼ながら、力尽くで」 構える、清水さん。 それに対し、緋姫ちゃんは勢いよく突っ込む……! 「テコンドーには下段がない! ならば、足を潰せばそれで終わりですッ!」 的確な判断だ、緋姫ちゃん。 でもな、その人にそれは通用しないんだよ……! 「ああ、残念ですね」 強烈な下段蹴りで、緋姫ちゃんを転ばせる清水さん。 そして、容赦なく踵を振り下ろす――! 「……ッ!!?」 手足を総動員して、それから逃れる緋姫ちゃん。外れた踵が、床を大きく陥没させた。 起き上がり、慎重に清水さんとの間合いを測る。 「油断するな緋姫ちゃん! 清水さんは、ハロルドを1対1で倒した達人だぞッ!!」 「……あの人を、ですか……?」 確か、テロクラから武器を奪った時だったか。 あの時に闘ってるから、緋姫ちゃんはハロルドの実力を知っているはずだ。 「下段も何も関係ないから! その人、ウォン・インシク並みに強いからッ!!」 「はは、インシクですか。懐かしいですね」 大らかに笑いながら、間合いを詰めて蹴りを放つ清水さん。緋姫ちゃんの手から、P90が飛ぶ。 緋姫ちゃんはナイフを振るう。銃を抜く余裕はないのだ。 だが清水さんは足で、ナイフを握る緋姫ちゃんの手を押さえる。 ……軸足1本で立ってるのに、バランスを崩す様子は少しもない。ホントにインシクみてえ。 軸足を刈ろうとする緋姫ちゃん。しかし、清水さんの足と拳が、緋姫ちゃんを打ち飛ばす方が速い。 「ぐ……ッ!!!?」 ガードしつつも、緋姫ちゃんは廊下を後退。 うわぁ……あの一瞬で3発打ち込んでたぞ……。 「匠哉。一応言っておくけど、7発だからね」 …………。 そうですか。 「し、清水さん。何だか、前より強くなってませんか?」 「日々、鍛錬と研鑽を重ねておりますから。まだまだ、若い人には敗けませんよ」 ブンブンと、足を振り回す清水さん。 ヤバいぞ。いくら緋姫ちゃんでも、マナとの一戦で消耗してる身では勝てないかも知れん。 退いてくれれば良いのだが……かのプリンセスが、1対1の闘いで退くとは思えない。 「……ッ」 緋姫ちゃんは、リュックからFive-seveNを抜く。 発砲するが……清水さんは片足立ちのまま、ひょいひょいと跳び回って避けてしまう。 「――『瞬刻全段蹴り』!」 間合いを詰め――蹴りを放つ清水さん。 神速で放たれた3発の蹴りが、下段・中段・上段に打ち込まれる……! 「くぁあ……ッ!!?」 余りにも速くて、3本の足で同時攻撃したようにしか見えなかった。 上段は腕、下段は脛で止めた緋姫ちゃんだったが……中段はどうにもならない。 「……ッッ!!」 距離を取る緋姫ちゃん。 ……が、彼女とてやられっぱなしではなかったようだ。 「やりますね。さすがは、名高きプリンセスです」 清水さんの足から、血が流れ出していた。 緋姫ちゃんの、ナイフによる斬撃だろう。いつ斬ったのかはさっぱり分からないが。 清水さんは床の割れ目に足先を突っ込み、一気に蹴り上げた。捲り上がった床板を、緋姫ちゃんに向けて蹴り飛ばす……! 「通用しません……ッ!」 ナイフの一撃で、緋姫ちゃんはそれを真っ二つにする。綺麗に左右に分かれ、彼女の横を抜けて行った。 その隙に間合いを詰め、緋姫ちゃんを攻撃する清水さん。 が、言葉通り通用しない。打ち出された足と拳は尽く、緋姫ちゃんにガードされる。 「……へ?」 いつの間にやら、2人は俺を挟んで向かい合っていた。 俺の脇や股、肩の上なんかを通って緋姫ちゃんを襲う、清水さんの蹴り。 「先輩、御免なさい!」 「――うわぁぁああッッ!!!?」 緋姫ちゃんが、俺の足元を蹴っ飛ばした。勢いが有り過ぎて、側転みたいに1回転する。 その間、清水さんの攻撃が止まった。さすがに、回転する俺の脇や股を縫って攻撃するのは無理らしい。 しかし、緋姫ちゃんはそれを可能にする――! 「はァ……ッ!!!」 「く――ッ!?」 ナイフの突きが、清水さんまで届いた。 回転が終わり、何事もなかったかのように直立する俺。 それと同時に、2人が大きく後退した。 「やれやれ、まさかあの間隙を縫うとは……」 清水さんの身体の数箇所に、刺された後があった。急所には当たってなさそうだが。 しかし、数箇所……俺に見えたのは、一突きだけだったのに。 「はぁ――はぁ……」 対する緋姫ちゃんも、息が荒い。 さすがに、辛くなって来たのだろう。とは言えそれは、彼方此方刺された清水さんも同じだろうが。 「あ、あわわわわわ……!!」 2人の直線状から、大慌てで逃げる俺。 次の一撃で相手に引導を渡さんと、猛速で駆ける両雄。 「『刹那・六根浄』――ッッ!!!!」 「――『瞬刻全段回転横蹴り』ッ!!」 が、しかし。 「長いんだよ、もう飽きた。『貧乏ボディプレス』ッ!!」 いきなり天井から降って来た貧乏神が、纏めて2人を叩き潰す。 乱入したマナは、両者に纏めて引導を渡してしまったのだった……! 「おま、空気嫁……ッ!!!」 「それどころじゃないでしょ、私達は。さっさと帰らないと、夕飯を作る時間がなくなっちゃうよ?」 む……まぁ、そうだけど。 しかし、大ダメージを負っている2人を放置しておく訳にもいくまい。 「ほら、マナ。緋姫ちゃんと清水さんを治療するんだ」 「えー、何で?」 「何でって、お前がやったんだろうが」 「私がやって私が治したら、ただの自作自演じゃない」 「そういう問題か。大体な……緋姫ちゃんが死んだら、ヴォランティア・クラブは人数足りなくなって廃部だぞ?」 「う……!? そ、そうだった」 「それに清水さんが死んだら、この場にいながら阻止できなかった俺はバイトをクビになるだろう。あーあ、収入源がなくなるなー」 「…………」 渋々ながらも、2人の治癒を始めるマナ。 眼を醒ます様子はなかったが、大きな傷は残らず消え去った。 「良くやった。じゃ、行くぞ」 「……ちぇー」 場内の探索を、再開する俺達。 しばらく、うろうろすると。 「……お?」 それっぽい場所に、辿り着いた。 大きな機械がいくつも置いてあり、それがベルト・コンヴェアで繋がってたり繋がってなかったりする。 「よっしゃ、多分ここだな。マナ、例の物を探すぞ」 「りょーかい」 捜索開始。機械を、1つ1つ見て回る。 こういうのって、ちょっと油断すると指がポロリと逝ったりするんだよなー……んで、他のお肉と一緒になって。 ……止めよう。 「あ! 匠哉、これじゃない!?」 「――! 見付かったのか!?」 駆け寄る。 おお、確かに! 「やったなマナ! これで、牛肉(味)のハンバーグが食えるぞッ!」 「ヒャッホウ、肉の錬金術師!」 が、しかし。 それは、突如襲って来た。 「――ッ!? 『貧乏バリアー』ッッ!!!」 凄まじい斬撃が降る。 バリアーを展開し、攻撃から俺達とミンチャーを護るマナ。 「この一撃は……模造草薙剣っ!? じゃあ、まさか――」 バッと、眼を向ける。 そこには―― 「……防ぎましたか。まぁ、今のは防いで貰わないと困るんですが」 製鉄の神――カナが、佇んでいた。 マナはさり気なく立ち位置を変え、ミンチャーを庇う。 「……何の用なの、カナ?」 「用は2つあります。まずは、ナイフと弾の実用データを取る事。こちらは果たしましたが」 「さっきの闘い、見てたのか……」 「もう1つは……最近、鉄の絡繰りに興味が出て来まして」 「絡繰りって。微妙に元の神性から離れてきたね」 「原因は、どこかの誰かが巨大ロボの修理をさせた事ですけどね」 「……で、それが何なの?」 「ここに、なかなか良い機械があると聞きまして。考案者が創意工夫功労者賞を受賞した、攪拌機付きミンチャーだとか」 「……!」 マナの瞳に、戦意が灯る。 ……モテモテだな、このミンチャー。 「それは私が持ち帰ります。退きなさい、マナ」 「ペッペッ、唾付けたから私のだもんね」 「……そうですか。では、死体に変えて奪うとしましょう」 カナが、勢い良く剣を振り上げた。 床が一気に斬り裂かれ、細かな破片が飛び散る……! 「うわぁあああっ!!?」 逃げる俺。 マナは大きく跳び上がって攻撃を避けつつ、空中から間合いを詰めて蹴りを連打。迎え撃つのは模造神器。 ……激突の衝撃で、何百キロもありそうな機械がいくつも宙を舞う。 うお、飛んで来たぁぁッ!!? 危ねぇぇえええッッ!!!! 「お前等ッ!! そろそろ、拳じゃなくて口で解決する文化を持てぇッ!!!」 無駄と知りつつ、必死で馬に念仏を聞かせる。滑稽な事だ。 当然聞いてくれるはずもなく、お馬さんどもは爆走するのみである。 「久し振りだね、カナと一戦交えるのは!」 「1番最後に闘ったのは……確か、東京大空襲の最中でしたか。ドサクサに紛れて皇居を強襲しようとした貴方を、私が止めたんでしたっけね」 「カナのせいで、あと1歩の所で幽子に勘付かれたんだよ! あの時の怨み、ここで晴らしてやるぅ!」 ……それは、明らかに逆怨みではないのか。 拳を打つマナ。カナは剣の腹で正中線を隠し、打撃をガードした。 「その前は……壇ノ浦でしたね」 「うん。ドサクサに紛れて草薙を奪おうとした貴方を、私が止めたの」 「……奪おうとしたのは貴方も一緒でしょう」 で、最後はマスケラに掠め取られたと。 馬鹿ばっか。 「私達の闘いの余波で潮の流れが変わって、平氏は敗けたんだっけねー」 「……盛者必衰です。別に、我等のせいではありません」 その時歴史が動いたッ!!? お前等、色々と迷惑掛け過ぎッ! 「……刃ッ!!!」 剣を振るカナ。 刃圏の内にある物を、一切合財区別なく破壊してゆく……! 「おーっとっと!!?」 マナは背中を向け、大慌てで逃げようとする。 追うカナだったが―― 「莫〜迦♪」 マナは、ニヤソと笑った。 背を向けたまま裏拳や踵を打ち出し、カナを何発も強打する……! 「く……背面で、これ程の攻撃を……!?」 「――とうっ!!」 ジャンプするマナ。 カナの頭上に落下し、背中と床で彼女をサンドウィッチにした。 「ぐぁ……!?」 くるりと回転しながら、マナは起き上がる。 ……今度は、正面からカナと向かい合った。 「ほらほら、はりーはりー!」 「くッ……調子に乗ってッ!!」 カナの袖から、閃光のような速さで何かが飛び出す。 鎖付き分銅――暗器である。 「――甘いッ!」 しかしマナは飛来した分銅をひらりと避けると、逆に鎖を掴む。 思い切り引っ張り――引き寄せられたカナに、膝蹴りを叩き込んだ。 「く……ッ!!?」 怯むカナ。剣を振り下ろす。 が、通じない。マナは剣を両手で白刃取りすると、ぐるりと回してカナの腕を捻る。 マナはカナの肘に足を掛け、可動方向とは逆向きに力を加え―― 「おりゃ♪」 「う、ぐぁぁッ!!?」 間接を、見事に壊してしまった。 片腕しか、使えなくなったカナ。剣のキレが著しく落ちる。 好機到来。マナは、パンチとキックのラッシュを打ち込む……! 「お、お前……何か、今日はノリノリだな」 「んー? だって、最近活躍の機会がなかったんだもん。その鬱憤、ここで晴らそうと思って」 凄い私情だ。 そんな理由で、ボコボコにされる哀れなカナ。 「母より賜りし八雷神――刮眼せよ! 『貧乏サンダー』ッ!!」 雷撃が放たれる。 まともに喰らったカナは壁まで吹っ飛ばされ、勢い良く跳ね返った。 マナは戻って来たカナに、変身ヒーローの必殺技みたいな跳び蹴りを当てる――! 「ぐぁあ……!!?」 後頭部から、床に落ちたカナ。 手足を突いて立ち上がるが……もはや、それだけの動きですら苦労している様子だ。 ……剣はない。さっきの連続攻撃を受けた時、落としてしまっている。 「このぉぉ……ッ!!!」 苦し紛れの蹴り。 マナは、その足を掴むと―― 「お星さまにな〜れ♪」 思い切り、放り投げた。 カナは天井を破り、上へ上へと昇って行く。 ……落ちて来る様子は、ない。 「ふぅ、終わった」 「……圧倒的だな……」 「まぁね。さて、ようやく持って帰れそうだよ」 ミンチャーを床に固定しているボルトを、指で掴んで引っこ抜くマナ。 そして、持ち上げようした時―― 「……あれ?」 ミンチャーが、真っ二つになった。 ……どうやら、模造草薙剣の斬撃を受けていたらしい。 「…………」 混戦の中で当たってしまったのか、勝てぬと悟ったカナの嫌がらせなのか。 ……マナが、プルプルと震える。 「カナぁぁぁああああああああああッッ!!!!」 「ただいまー……」 意気消沈し、月見家の玄関を潜る俺とマナ。 あれだけやって無駄骨だったのだ、テンションが上がるはずもない。 ……俺は、ほとんど何もしとらんけど。 ふたり揃って、居間に向かう。 「お帰りなのだ。例のブツは手に入ったのだ?」 「残念ながら……」 「……まぁ、そんな事になるだろうとは思っていたのだ」 見透かされていた。 今夜のハンバーグ計画、どうすっかなー。これはもう、ホントに人肉ミンチ製造機さんに頼むしかないかも知れんねー。 「そう言えば、要芽が来てこんなのを置いて行ったのだ。もう使わないから、とか言ってたのだ」 部屋の隅に置かれていた箱を、ちゃぶ台の上に乗せるしぃ。 それは―― 「た、匠哉っ! これは……!」 「フード・プロセッサーだとぅッ!!?」 「……? 匠哉、ふーど・ぷろせっさーって何なのだ?」 しぃが、首を傾げる。 フッ、聞いて驚くなよ。 「食べ物を粉々にしたり混ぜたり出来る、台所の御友達だ。当然、肉を放り込めばミンチも作れる」 「……!? じゃあ――」 「こいつを使えば、偽装ミンチが作れるっ!」 「おお、やったのだーッ! いあッ!!」 万歳するしぃ。 マナも、それを真似する。 「ありがとう級長ッ! この恩は、忘れるまで忘れないよーッ!」 喜び合う、月見家の面々。 こうして俺達は、見事目的を果たす事が出来たのだった。 ……他人の力で、だが。級長ありがとー。
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