――皇居、その最奥。 「やはり、草薙剣はかの家が所持しているようです」 1人の少年が恭しく跪き、壇上の少女と向かい合う。 少女の姿は、少年と変わらない10代後半に見える。少なくとも、外見上は。 ……彼女の顔は半分が仮面によって隠され、口元しか見る事が出来ない。 「くすくす。そう――」 鈴を転がすような声で、少女は答える。 「やはり、三種の神器は皇室の手になければ。『表』の連中のように皇位継承なんて行わないけれど、アレは我々の切り札に成り得るモノだから」 「陛下が握れば、もはや敵うものはないと存じます」 「くすくす。明雅、貴方は相変わらず世辞が得意ね――」 「…………」 少年――土御門明雅にとって、その言葉は世辞ではない。 異人の血が混ざり、形骸化した『表』とは違う――天孫の娘。彼女が草薙を握れば、千騎に匹敵するだろう。 「明雅、草薙を取り返しなさい。分家の生まれでありながら、土御門家に迎え入れられ――その若さで皇居陰陽寮陰陽頭となった貴方の力、見せて頂戴」 勅命が下る。 「……畏まりました、幽子陛下」
休日の月見家。 俺達は、ぼーっとテレヴィを見る。 貧乏暇なしなんて言葉があるが、貧乏人にだって暇な時くらいはあるのさ。フッ。 「そう言えば匠哉、気になってた事があるのだ」 「何だ?」 「この家って、どこから電気が来てるのだ? 電気代とか、払ってないのだ」 「……!」 しぃよ、遂に気付いてしまったか。 ……マナも、しぃに哀れみの眼を向ける。気付かなければ幸せだったのに、と。 「そんなに知りたいか?」 「……その悲壮な顔は何なのだ?」 「どうしても知りたいか?」 「し……知りたいのだ」 「……そうか」 なら、仕方ない。 「絶対口外するなよ?」 「わ、分かったのだ。で、どんなカラクリなのだ〜?」 「イースト・エリアに棲んでた頃、違法工事の業者と知り合いになったんだ」 「…………」 「んで、この家のカスタマイズにも協力して貰った。電気のみならず、水道とガスも――近所の家々からコッソリ引っ張っている」 「……さすがなのだ、匠哉」 「素直に褒め言葉として受け取っておくぞ」 テレヴィ番組が、ちょうど終わる。 しぃが、よいしょと立ち上がった。 「じゃ、しぃは散歩に行って来るのだ〜」 「おう、いってらっしゃい」 家から出て行くしぃ。 「匠哉って、ヤバい人脈が広いよね」 「否定はせん。が、お前もその一員だぞ貧乏神」 そして、しばらくの後。 「……匠哉」 マナが珍しく真剣な様子で、俺に声をかけた。 ……何だか、嫌な感じがするな。 「家を出るよ。違法工事で造ったこの家、派手に壊されたら困るでしょ?」 「……もしかして、面倒なお客さんでも来たのか?」 「うん。よかったね、またヤバい知り合いが増えるよ」 1ミクロンたりとも喜べないがな。 ……俺とマナは、家から出る。 「――……」 玄関の先に、1人の男が立っていた。 俺と同じくらいの歳でありながら、その眼光は歳不相応に鋭い。修羅場を潜ってる眼だな。 格好は、平安貴族みたいな狩衣。そして腰には、一振りの剣があった。時代錯誤にも程がある。 しかし、そんな事より。男の狩衣には――胸に、菊の御紋が。 「……皇居陰陽寮」 マナが呟く。 ……空気が、穏やかじゃなくなって来たな。 「月見匠哉、大禍津日神」 男が腰の剣を抜き、切っ先を俺達に向けた。 ……それだけで、真っ二つにされそうな威圧が奔る。 「私は、皇居陰陽寮陰陽頭――土御門明雅」 陰陽頭……って。そりゃまた、随分と偉い奴が出て来たもんだな。 アレか。マナが、天羽々斬をパクった件か? 「用件は1つだ。草薙剣を、皇室に奉納しろ。三種の神器は皇室にあるべき御物。それが分からないほど、愚かではないだろう?」 あ、そっちか。 「フン。草薙は、私が正当な手段で手に入れた物だよ。それを奪おうだなんて……何、鉄でも不足してるの?」 正当な手段なのだろうか、アレは。 「……これは勅命だ。逆らう事など許されない」 「べー。知った事じゃないよ」 「…………」 明雅が、剣を構える。 ……どうしてこうケンカっ早いんだ、どいつもこいつも。 「まつろわぬ神め。服されるがいい!」 「……まつろわぬ神とは、また言うねえ。天に牙を剥いた八十禍津日を封じたのは、どこの誰だと思ってるんだか」 地を蹴った明雅が、瞬く間もなく剣を振った。 跳び退いたマナの髪の毛が、少しだけ落ちる。 ……マナに、攻撃が届いた? バリアーはどうなってる!? 「へえ……十種神宝か。死者すら蘇らせる神剣に黄泉の壁なんて無意味、という訳だね」 「十種神宝だと……? って事は、八握剣か!?」 かつて、饒速日命が天照大神から授かった十の神器。 八握剣は、十の内の三。凶邪を討つ剣である。 「それにしても、私の眼でも斬撃を追い切れないなんてね……なるほど、そういう事か。土御門明雅、思い出したよ」 「…………」 「咒われた母から才を受け継ぎ、倉橋家から土御門家に迎えられた鬼子がいると聞く。それが貴方か」 倉橋家の、咒われた母って……まさか。 「……吐普加美依身多女、祓ひ給へ清め給ふ!」 再び、斬りかかる明雅。 「く……ッ!?」 回避するが、僅かに服の袖を斬られるマナ。 「開け黄泉比良坂、来たれ八雷神――『貧乏サンダー』ッッ!!!」 明雅に、雷撃が襲い掛かる。 まともに当たれば戦闘不能は免れない、必殺の一撃。 しかし―― 「――はッッ!!!!」 裂帛の気合と共に、明雅は雷を斬り払った。 雷神を退け、明雅は摺り足でマナとの距離を詰める。 斬り下ろさんと、迫る剣を―― 「……ッ!!」 マナは白刃取りで、止めた。 ……後退し、間を開く両者。 初めの攻防は互角、といった所か。 「草薙を使ったらどうだ? 容易く潰しては面白くない」 明雅が笑う。 ……マナが草薙を手に取ったら、どうにかして奪う気か? いや――それでも自分は敗北しないという、絶対的な自信の表れだな。 「で、どうするんだマナ。言われた通り、草薙を抜くのか?」 「バカ。一体どこに、蟲螻1匹殺すために核爆弾を使う奴がいるの?」 例えが滅茶苦茶だが、要は人間相手にそこまでする必要はないという訳か。 ……変な所に拘るなぁ。そんなんだと、迅徒と闘った時みたいにあっさりと敗けるぞ? 「それに――しぃがいない間を狙って攻めて来るような小者なんて、私の敵じゃないよ」 「……九頭龍とは、さすがに闘いたくはないからな」 あっさりと、情けない言葉を口にする明雅。 しかしそれは、自分の実力を弁えている証拠だ。その奴が――勝てると踏んで、マナと対峙している。 うぅむ……マナ、実はかなりピンチじゃないか? 「と言うか匠哉、貴方はいいの? 草薙の世話になったのは、私よりむしろ匠哉の方だと思うんだけど」 「んー……」 まぁ、確かに。 あの剣のおかげで、抜けれた窮地も多い。なくなれば、いずれ後悔するかも知れん。 でもなぁ。 「別に返してもいいんじゃないか? 元来は皇室の物なんだし。何だか、盗ったみたいで決まりが悪い」 「――なッ!!? この裏切り者ーッ!!!」 「ハッハッハッ。つーか、アレはお前がカナに直させた物だろ。だったら、草薙がどうなろうと俺には関係がない。お前が責任持って何とかしやがれ」 「くぅ、さすがは使い捨てが大得意な匠哉。鬼畜以外の何者でもないね……!」 ……何だか、とてつもなく不健全な事を言われた気がするのだが。気のせいか? 「月見匠哉は、勅に沿うようだな。なら、後はお前だけだ――大禍津日神」 瞬間移動かと思うような動きで、マナの背後に回る明雅。 「……ッ!?」 「一二三四五六七八九十、布瑠部由良由良止布瑠部ッ!!」 俺との会話に気を取られていたマナは、その速攻に対応出来ずに―― 「――何やら愉快な事になっているな。某も混ぜろ」 いきなり降り注いだ大量の矢によって、絶体絶命の場から救われた。 ……この声。そして、この矢は―― 「花音……? お前、どうしてこんな所に?」 俺は、電柱の上に立っている巫女さんに眼を向ける。 ……しかし、何故電柱の上? 演出か? 花音が、地に飛び降りる。 「何、いい加減草薙を返して貰おうかと思ってな」 「――って、お前も草薙目当てかいっ!!」 「しかし、来てみればこうして面白い事になっているではないか。皇居陰陽寮陰陽頭の首……草薙剣と共に、頂くとしよう」 草薙を持って帰る事は決定事項なのか、花音よ。 「マナ……だったな。加勢するぞ」 「助かるよ。でも、草薙は渡さないけど」 草薙を使うのはNGでも、2対1で闘うのはOKらしい。基準がよく分からんな。花音だって神器持ってるんだし。 「左前の巫女装束……谷川花音か。渡辺の護法でありながら、皇室に弓引く気か?」 「連中の護法になったつもりは毛頭ない。サンフォールも消滅した事だし、そろそろ縁を切りたい所だ」 「チッ……伊邪那美の巫女めッ!」 明雅が、ふたりに向かう。 しかし――やはり、さすがに2対1では分が悪い。 「幽世の大神、憐れみ給い恵み給え、幸魂奇魂、守り給い幸い給えッ!」 「く……ッ!?」 花音の矢が、明雅を掠めた。 掠めただけとは言え、傷を負うのは免れない。それは、何度もあの矢で射られた俺が1番知っている。 「――『貧乏キック』ッ!!!」 「が……ッッ!!!?」 明雅の背後を取ったマナが、背中に一撃。 今のは見事に決まった。倒れ、地に伏す明雅。 「――トドメだよッ!!」 「その首、貰ったッッ!!!」 ふたりが、最後の一撃を放とうとしたした時―― 「――ア・マ・テ・ラ・ス・オ・ホ・ミ・カ・ミ」 それは、起こった。 「う――ぁぁああああああッッ!!!?」 突如として襲い掛かって来た、凄まじい波動。マナと花音は、為す術もなく吹き飛ばされる。 ふたりは、壊れた玩具のようにコンクリの地面を跳ね――何度目かの地面との激突で、ようやく停止した。 「…………」 まさに絶句。感じた事のない圧倒的な力に、ただただ呆然とする。 「くすくす……」 そして――アレは、何だ? 俺の見ている先では、仮面の少女が微笑していた。 少女の纏う雰囲気は、とにかく異質。何か――遭ってはいけないモノに、遭っている気がする。 こうして向かい合っているだけなのに、畏れ多いと思う気持ちが湧き上がって来るのは……一体、どうしてだ? 「陛下……何故、このような所へ!?」 ……陛下、だと? 「くすくす。だって、貴方が敗けるのは読めていたんですもの――」 「――っ、しかし……!」 「それに、どうするつもりだったの? 草薙を奪っても、男性の貴方には触れられないのに」 「……っ!?」 確かにそうだな。全然考えてなかったけど。 「……陛下は御人が悪い」 「くすくす。御免なさい――」 少女が、俺の方に歩み寄って来る。 ……俺は完全に気圧され、指1本動かす事すら出来ない。 「貴方が月見匠哉ね。太陽の力を跳ね返すなんて……貴方の名は、余程強いみたい」 言われて、初めて気付いた。あのマナと花音を倒した攻撃を受けたのに、俺は傷1つない。 「……お前は、何者だ?」 「私は幽子。この瑞穂国の帝」 くるりと、踊るように――幽子と名乗った少女は、俺に背を向けた。 「帰りましょう、明雅」 「――っ!? 陛下、何を――」 「くすくす。いいから帰るの。それとも、私の言葉が聞けないのかしら?」 「っ……畏まりました」 明雅を従え、幽子は歩いて行く。 「では皆様方、いずれまたお会いしましょう――」 そして、俺の視界から消えた。 「痛たたた……」 「く……ッ、あの女……!」 後ろで、マナが花音が呻く。 「――っ! お前等、大丈夫なのか!?」 「うん、何とか……」 マナが、立ち上がる。 「それにしても、まさか幽子が出て来るなんて……さすがに、日の下では勝てないね」 「……マナ。あいつは、何なんだ?」 「匠哉。石長比売命と木花之佐久夜毘売命の神話、知ってる?」 「ああ……」 天照大神の孫――邇邇芸命が、地上を統治するために天から降臨した際の話だ。 石長比売と木花之佐久夜毘売の姉妹は、ふたり揃って邇邇芸の妻となるが――絶世の美女だった木花之佐久夜毘売に対し、石長比売はとても醜かった。よって、邇邇芸は石長比売だけを親の元に送り返したのだ。 ……だが、それが問題だった。 木花之佐久夜毘売は花の如き繁栄を、石長比売は石の如き生命を表している。邇邇芸が石長比売を送り返した事によって、彼の子孫は永遠の命を手放してしまった。 邇邇芸と木花之佐久夜毘売の末裔である天皇家が、神の血を引きながらも短い寿命しか持たないのは、この為だという訳だ。花のように、儚く散ってしまうのである。 「……んで、それが何だ?」 「幽子は……存在しないはずの、邇邇芸と石長比売の娘」 ……何だと? 「石のように長大な寿命を持ち、神代から生き続けている――『裏』の天皇だよ」 街の中を、幽子と明雅が進む。 ふたりは堂々と歩いているが、それを誰も気に留める事がない。まるで、姿が見えていないかのように。 「……陛下。どのようなお考えなのです?」 「何の事かしら?」 「何故、草薙剣を取り戻さなかったのでしょうか? 陛下の御力ならば、赤子の手を捻るよりも容易いはず」 「くすくす。私は暴君ではないわ。力尽くなんて、好きではないの」 「……しかし、陛下……」 「言いたい事は分かっているわ、明雅」 幽子は、空を見上げる。 青空が綺麗だった。平和そのものの、世界。 しかしそれは、表側だけの話である。 「無念の死を遂げ、怨霊と化した武士や貴人。護ったはずの国の民から、戦犯と貶められる靖国の御霊達。そして――雌伏より起き上がらんとする、まつろわぬ神々。今やこの国は、彼等の怨念が渦巻く魔境。いずれ、かつてない神災が国を襲い――多くの人民が、伊邪那美命への御供となるでしょう」 「――……」 「その時……国難に立ち向かうには、あの護国の剣が必要となるわ」 「ならば――」 「焦らなくてもよいのよ、明雅。有事の際には、彼等ごと草薙を手に入れればよいだけの事だもの。そうでしょう――?」 「……御意に御座います、陛下」 「くすくす。今日貴方を闘わせたのは、大禍津日神の力が見たかったからなの。敵になるにしろ味方になるにしろ、彼女の力は知っておかなければね」 足を止める、幽子。 「ついでと言っては何だけど――マリリンが言っていた、彼を見る事も出来た。私の力が通じないだなんて、愉快な子だったわ」 「――……」 「あら、面白くなさそうな顔。尊王攘夷の志士としては、私とマリリンの繋がりが気に入らないのかしら?」 「……滅相もない」 「くすくす。心配しなくても大丈夫よ。少し、お喋りしたり殺し合ったりするだけだから。彼女ったら、『小型核兵器を奪ったのは貴方達でしょう!?』なんて言うのよ。でもあれは、日本には持ち込まれていないはずの物。くすくす……ない物は奪えないわ」 幽子は、明雅と向かい合う。 「さて、貴方には面倒をかけたわね。何か、望みはある?」 「…………」 ……長い長い、沈黙の後。 明雅は躊躇うように、ゆっくりと口にした。 「恐れながら、この土御門明雅――陛下の御尊顔を、拝見したいと存じます」 「――……」 予想もしていなかった言葉に、幽子は仮面の中で眼を丸くする。 「くすくす、くすくす……酔狂ね、明雅」 「…………」 「醜い事この上ない母上から生まれた、私の顔が見たいと? 駄目よ、明雅。私のような醜女の顔を見たら、貴方は気を失ってしまうかも知れないわ――」 再び、歩を進める幽子。 「……失礼いたしました」 明雅は、その後ろに続く。 ……後ろを歩くばかりの彼。隣を歩く事は、どうしても出来ないのだ。 明雅の想いは――仮面と心の壁に阻まれ、幽子には届かない。 「……さて、厄介なのは去った。草薙を、うちの神社に奉納して貰おうか」 花音が偉そうに、俺とマナに言う。 ……どうすっかなー。皇室に返すのはいいんだが、こいつに渡すのは何となく気に入らねー。 「渡せないのなら、力尽くで奪うぞ」 矢を、弓に番える花音。 「ほほう、力尽くねえ……そんな悪い事を言うのは、このお口か?」 「……ッ!!?」 俺は花音の唇を、人差し指で撫でる。 ズザザーっと、花音は俺から距離を取った。 「――阿呆か、其方はッ!? 毎度毎度こんな事を……ッッ!!!」 「へえ、毎度やってるんだ」 「……ッッ!!!?」 ニヤニヤと笑うマナに、かーっと顔を赤くする花音。 「うむ。花音たんとは、麗衣がいない間にこんな事をしている」 花音の背後に回った俺は、花音の胸に手を伸ばす。 もみゅもみゅ。 「――っ!!? で、出鱈目を言うな……! っんぁ!?」 「止めて欲しいのなら、振り払えばいいじゃないか。お前の力なら簡単だろ?」 「――……っっ」 「そりゃ」 一瞬の隙を突き、花音を家の中に引っ張り込む俺。 「……ぬふふふふ」 気持ち悪い笑い声を立てながら、マナが花音に接近。緋袴の中に手を突っ込む。 「ふぁっ!? や、止め――」 「ただいまなのだ〜」 と、ちょうどその時――しぃが帰って来た。 「よう、お帰り」 「――って、何をやってるのだ?」 しぃは、俺達の姿を見ると。 「……何だか楽しそうなのだ。しぃも混ぜるのだ〜!」 髪の毛を、ニュルニュルと花音に伸ばした。 花音に巻き付き、さらには巫女服の中に侵入する。 「ひゃん……な、何だこの髪はぁ……!?」 「おやおや花音、いい声を出しますなー」 「……ッッ!!!! 止めろと言ってるであろうが、この虚けどもがぁぁぁぁッッ!!!!」 ふふふ、花音。一体どこの世に、止めろと言われて止める奴がいるんだ。 まぁよろし。その生意気な口も、すぐに利けなくしてやるゼー。 「ふぅ……」 真っ向勝負によって、花音を追っ払った後の月見家。 「で、マナ。連中、あっさりと退いたが……草薙は諦めたって事なのか?」 「それは在り得ないね。今日は、まぁ様子見なのかな」 ……様子見。って事は―― 「また来るのかよ、あいつ等」 「それがいつになるかは、分からないけれどね。事が起こる前後だろうとは思うけど」 ……『事が起こる』? 「ま、匠哉が気にしても仕方ないよ」 「…………」 俺は、窓から外を見る。 青空が綺麗で、平和そのものだ。確かに、俺が気にしても仕方ないか。 「……さて。昼飯の準備でもするかな」
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