私は走っていた。ただひたすらに。 迫り来る悪しきものから。 私は逃げた。あの、存在から。 ただひたすらに走った。 なんてね。 ◇ 朝起きるのがしんどくなって来た今日この頃。 そんな気持ちで、担任の授業を受けていた。知ったら108つぐらいにばらされるのかね。 そんな事を思いながら、横にある開いている窓から覗く景色を見ていた。 直射日光が容赦なく照りつけ、秋風が容赦なく吹きつける。 そんなときだった。 「ん?」 一瞬だけ目の前が暗くなった気がする。 まあ、気のせいだろうと、眠りに入ろうとしたとき、 「おい、誰だよ?」 「さあ、陰陽師?」 「でも、女だよな」 そんな会話が聞えてくる。 気になって、教室を見渡すと、 後ろの開いているスペースに陰陽師が立っていた。うん、どう見ても晴夜さんだ。 「おや、授業中でしたか。失礼」 先生、突然だからか呆然としてる。 「ふむ、おや?」 げ、こっちに気づいてしまった。なんですか、その『いかにも納得』みたいな顔は。 「くっ」 ようやく回復したのか、早速攻撃態勢に入った先生。だけど、晴夜さんは、 「おやおや。こんなところで逝ってしまうのもいやですしね」 そういうと懐から、お札を取り出し、先生に向かって投げた。 先生は撃ち落とそうと折り紙を投げる。 「『閃光』!」 晴夜さんがそう言うと同時に、お札が光り輝き、何も見えなくなった。 しばらくして、視界が戻ると、晴夜さんはおらず、替わりに晴夜さんの後ろにあった黒板に折り紙が刺さっていた。 なぜか、先生は悔しがっている。ん? 懐に何かが入っている。誰にも気付かれないように、そっと見ると、「京へ」と書かれた封筒があった。後で読んでおこう。 「多町、後で職員室に来るように」 はい、フラグ確定!マイナスのほうの。 ◇ う〜ん、授業中だったか。でも、京があそこにいたのは、偶然に近いものだろう。 手紙も渡せたし。うん。 「はあ」 どうやって隠れよう。急いできたから、服がこのままだし。…そうだ。 「戒〜」 呪符を取り出し、名前を呼ぶ。 すると、呪符が光り、少しの間輝く。輝きが収まると、袴の色が紺色の巫女服を着た女性が現れた。 女性は晴夜に一礼すると、 「どうしましたか?」 「うむ、すまないが、レインに見つからないように、あの服を取ってきてもらいたい」 「承知いたしました」 戒は窓から出ようとし、一旦降り、晴夜に向き直り、 「晴夜様、やはり、アレをするのですか?」 「うむ、仕方が無い。レインを避けるためにはそれしかないから。だから、戒」 「わかっております」 今度はしっかりと、窓から降りた。 ◇ こちらはどこぞの商店街。活気溢れるその中で、変な格好をした人が一人。 「嬢ちゃん嬢ちゃん」 今では珍しい八百屋のおっちゃんが、その人に声をかけた。 「ん?僕?」 声をかけられた、僕っ子(仮)は八百屋のおっちゃんに返事をした。 「そうだ。今ここらにいる嬢ちゃんはあんさんしかいないよ?」 「ん〜そうだね。で、何の用?」 僕っ子はおっちゃんにツインテールをぴょこぴょこさせながら聞いた。 「そうだよ、嬢ちゃん。これ、買ってくれないかねえ?」 そう言って差し出したのは、紙切れ…いや、呪符である。 「?これなに?」 「ああ、すまんねぇ。説明するよ」 おっちゃんは、苦笑いしながら説明をした。 「これはね、"式神"だよ」 「え?これが式神?どんなの?」 「それは、出してからのお楽しみ」 「う〜ん、どうしようかなぁ〜」 「嬢ちゃん。是非買ってくれ。でないと…」 おっちゃんがそこまで言うと、僕っ子は何かわかったようで。 「はっはーん。分かった買うよ。いくら?」 「おお!買ってくれるのか!ありがとう。(えっと、これはまだ新しすぎるから…)…7万でいいよ」 おっちゃんがそう言うと、僕っ子は意外そうな顔をして、 「ふーん式神にしちゃ安いね」 「なんだ。知っているのか」 「うん。知り合いに、そっちの方の人がいるから」 「そうかい」 僕っ子は、アサルトバックから無造作に七万円を取り出し、おっちゃんに投げ渡した。 「はい、毎度」 「うん。どうもー」 僕っ子は、笑顔で答えた。 去り際に、僕っ子はこんな事を言っていきました。 「でもね、おっちゃん。僕は女の子じゃなくて男の子だよ?」 と、 僕っ子の変な服装は、傍から見れば、童顔の軍人みたいな人という、印象を受ける。 藍色のTシャツの上にアーマーを着ており、下はカーゴパンツにブーツを履いている。 腰にはアサルトバックをつけており、右大腿部には銃を収納するホルスターがある。 そんな格好をしているこの子は、八岐一族である。 ◇ しばらく隠れていると、戒がちゃっかり戻ってきた。手にはしっかりとあの服が抱えられている。 「お持ちしました」 「うん、ありがと。少し遊んでていいよ」 「いえ、そんな事は出来ません」 戒はそう言うと、呪符に戻った。律儀な事なこと。まあいいや。 拙者は、早速きがえた。うん、動きやすいね。 「さて、と」 拙者は、心の奥に力を入れるように力を込めると、姿が変わり始めた。 NEXT→陳念編
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