やぁ、皆元気かな? 俺は元気だ。ははははは。
 俺は今、とても気分がよい。
 何故なら……ついに、ついにこの貧乏生活から脱出する時が来たのだ!
 信じられないかも知れないが、紛れもない事実である。その理由、説明してやろう。
 ――事の起こりは、数十分前に遡る。


ビンボール・ハウス6
〜神様警報発令〜

大根メロン


 ……今日も、俺は不幸だ。
 家に帰ろうと思ったら、ゴグマゴグが出たせいで道を遠回りしなきゃいけなくなるし。
 信号は赤ばっかだったし。
 その上、借金取りにも追われたし。
 ――そして、何より。
「おぉ、今日は海が綺麗ー」
 散歩中だった、貧乏神に遭遇するし。
「いつもと同じだろうが。何が綺麗なんだよ」
「匠哉、心眼でるんだよ」
「そんなスキルが俺にあるか。瀬利花や迅徒じゃあるまいし」
 俺達は、海岸沿いの道を進んで行く。
 潮風が気持ちいい……とか気の利いた事を言えばいいのかも知れないが、マナのせいでそれどころではない。
 ……学校や家以外くらいは、こいつから解放されたいなぁ。
「はぁぁ……」
 溜息と共に、海に眼を向ける。俺には、いつもと同じようにしか見えない。
 ――だが。
「……?」
 海岸に、何かが見えた。
「……おい、マナ。あれ、人じゃないか?」
「え? あ、そうだね。何か人が倒れてる」
 俺達は海岸に下り、その人の元に走り寄る。
 倒れているのは……びしょ濡れの女の子。
「まさか、海に溺れたのかっ!?」
 俺はすぐに、脈や呼吸などをチェックする。
 ……どうやら、心肺蘇生法は必要なさそうだ。
「溺れたんじゃ……ないみたいだな」
 改めて、女の子を観察してみる。
 緑がかった長髪。洋服より和服に近い、民族衣装みたいな格好。
 その服には、所々に見た事もない象形文字で何か書いてあった。勿論、意味は分からない。
「――匠哉」
 マナが、やけに真剣な顔で言う。
「何だ?」
「この子、神だよ」
「……は?」
 マナは、気を失ったままの女の子の頬に触れ、
「かなり高い神格を持ってる。海から来たみたいだから……海神なのかな」
 海神……海の神様、だと?
 海の神様、海の神様、海の神様……。
「よし、何にしろ放ってはおけん。とりあえず、俺の家に運んでやろう」
「……匠哉、微妙にテンション変わってない?」
 くっ、鋭い。
「ははは、何を言う。下心なんぞあるものか」
「眠ってる女の子を本人の同意もなく家に連れ込むとはねぇ。匠哉のレヴェルがそこまで高いとは思わなかったよ」
「――人聞きの悪い言い方をするなぁ! これは貧乏脱出のチャンスなんだよッ!!」
「チャンス?」
 あ、ヤベ。言わんでいい事言った。
 貧乏神が、ぬっと顔を近づけて来る。
「貧乏脱出のチャンスって、どういう事?」
「……チッ。お前だって分かってるだろうが。海から来る神様っていうのは、いい神様なんだよ」
「…………」
「七福神の恵比寿えびすだって海の神だし、少彦名すくなひこなだって海から来て国を造った」
「……はん」
 貧乏神が、ニタァ……と笑った。
蛭子えびすは海の神、かぁ……まぁ、お父さんとお母さんに捨てられて海に流されたんだから当然だけど。ところで匠哉、水死体の事を恵比寿っていうよね」
「なっ……や、止めろ! いきなりテンション下がる話をするなッ!」
「H・P・ラヴクラフト的には、海から来るモノって極めて邪悪だよね」
「止めろっつってんだろ、この貧乏神ぃぃぃ!!!」






 ――話は現代に戻る。
 我が家の一室。布団の中では、例の女の子がスヤスヤと眠っている。
「で、結局連れて来ちゃった訳だね」
「ああ、これで貧乏ともオサラバだ」
「匠哉……あのアルビオンだって、海神の子なんだよ? 『海神=いい神』って方程式、必ずしも正しくないと思うんだけど」
「ふん、お前の言葉には騙されん」
「……後悔しても知らないよ」
 貧乏神はそう言うと、部屋から去って行く。
 後悔なんぞする訳がないだろうが、このバカ貧乏神。
 ――そして、しばらくの後。
「う〜……」
 女の子が、眼を醒ました。
「星辰が、元の位置に戻ったのだ〜……?」
 そう言って上体を起こし、寝惚け眼を擦る。
 しばらくぼーっとした後、
「戻ってないのだ……」
 再び、布団の上に倒れた。
 何か、真みたいなヤツだな。
「……のだ?」
 ようやく状況に気付いたらしく、女の子は起き上がって俺を見る。
「ところで、君は誰なのだ?」
「……やっと俺の存在に気付いたか。俺は、月見匠哉。海岸に流されて来てたお前を助けた人間だよ」
「海岸に、流されて来てた……?」
 女の子は少し唸った後、ポンと手を打って、
「おお。そう言えば、ちょっと水泳中に眠ってしまったのだ」
「――眠った!? 水泳中に!?」
「苦手な水を克服するための訓練なのだ〜」
 いや、それにしてもおかしいだろ。
 ……神だからか? 神だから、人間おれ如きでは理解出来ないのか?
「んで、お前の名前は?」
「しぃの名前は、しぃなのだ」
 ……『しぃ』?
 マナと同じく、仮の名だろうか?
「星辰の日になれば、しぃは<大いなる"しぃ"ビッグ・シィ>として復活するのだ〜!」
「……星辰の日? <大いなる"しぃ"ビッグ・シィ>?」
 何だろう。もの凄く嫌な予感がする。
 この17年で研ぎ澄まされた俺の不幸センサーが、最大限の警鐘を鳴らしている。
「……お前、水泳中に流されたんだよな。どこで泳いでたんだ?」
「南太平洋なのだ。それが、どうかしたのだ?」
 南太平洋、だと?
 いや、いくら何でもそれは……でも、『Cしぃ』って名乗ったし。
 そんな、まさか。
「……正確には?」
「南緯47度9分、西経126度43分なのだ。しぃの住処――海底都市ルルイエの近くなのだ」
「…………」
 グッバイ、貧乏脱出の夢。
 てゆーか、今回のネタはさすがにマニアック&唐突過ぎる気がする。
「大丈夫、さりげなく第三話で伏線張ってあるから」
 戻って来たマナが、俺の肩をぽんぽんと叩く。
 ……どうでもいいが、人の心を読むな。
「だから言ったでしょ? H・P・ラヴクラフト的には、海から来るモノは極めて邪悪だって」
 ……分かってたなら、こうなる前に教えろよ。



「と言うか、南太平洋から日本ここまで流されて来るのってどれくらいかかるんだ」
「想像も出来ないのだ」
「……まぁ、お前は寝てたからな」
 俺達は読者を置いてけぼりにしつつ、話を進める。読者の事を気にする余裕などない。自分の方が大事だし。
 しぃはテレヴィの電源を入れ、リモコンでチャンネルを操作する。
「……普通にテレヴィとか見るんだ?」
「ルルイエにだって、文明の機器くらいはあるのだ」
 あんのかよ。ってか、素直に死眠ねむってろよ。テレヴィなんて見てんなよ。
「それで、貴方はこれからどうするの?」
 マナが茶菓子をかじりながら、しぃに尋ねる。
「う〜む……さすがに、ここから泳いで帰るのは面倒なのだ」
 ま、そうだろうな。流されるのと泳ぐのでは当然違う。
「仕方ないのだ。迎えが来るまで、月見家ここでお世話になるのだ」
「か、勝手に決めるなッ!」
「……文句があるのだ?」
 しぃの眼がギラリと光り、長い髪の毛が触手みたいにウネウネ動く。
「ありません、しぃ様。どうぞごゆっくりしていってください」
 俺、即座に土下座。
「よかったのだ〜♪」
 ……チクショウ、このタコ女め。
 それに、迎えって何が来るんだ。カエル面ならまだしも、それ以外が来ると少々困るぞ。
「そういう事なら、これからよろしく。私はマナ。この家の貧乏神だよ」
 マナが、しぃに右手を差し出す。お前にも握手という文化があったのか。
 ……だが、しぃは鼻で笑った。
「地球の小神如きと握手する手なんて、このしぃにはないのだ」
「…………」
 マナの額に、分かりやすい怒りマークが現れる。
 あ、ヤバい。
「……船に体当たりされたくらいで怯むヘッポコ神が。調子に乗らないでよ」
「あ、あの時はお腹が空いていて力が出なかったのだ!」
「はんっ、笑わせるね。そんなんだから、貴方達は南極の連中にけたんだよ」
「…………」
 しぃが、ゆらりと立ち上がる。再び眼が光り、髪の毛が蠢く。
「何、闘る気? 上等じゃない、受けて立つよ」
「……その言葉、5秒で後悔させてやるのだ」
「それは楽しみ。じゃあ、勝った方が――」
「この地球ほしの神になるのだ〜ッ!」
 マナとしぃが、お互いに向かって跳んだ。
「――や、止めい!!」
 月見匠哉(17)、人生の中で最も命懸けのツッコミ。そして、おそらくは人類史上で最も命懸けのツッコミ。
 俺は決死の覚悟で、二柱ふたりの間に割って入る。
「開け黄泉比良坂、来たれ八雷神――」
「絶技! SAN値大減少攻撃ッ!」
 ってこいつ等、俺の事なんて眼中にねえっ!!?
「――『貧乏サンダー』!」
「――『狂気光線』ッ!!」
 爆発。
 次の瞬間、俺は屋根を突き破って空を飛んでいた。
 ……これは、さすがに死んだかなぁ。
 ああ……世界、が……遠……く……。
 ――暗転。



「お、眼が醒めたみたいだね」
 マナが俺の顔を覗き込みながら、ニコリと笑う。
 ……どうやら、さっきまでしぃが寝ていた布団に寝ているらしい。
 天井の穴は、板を打ち付けて塞がれていた。元々ボロい家なので、それほど違和感はない。
「……何で俺生きてんの?」
 さっきの一撃は、確実に致命傷だったと思うのだが……。
「私が治療したんだよ。ほら、級長の時みたく」
「ああ、なるほど」
「いやぁ、あとちょっと施術が遅かったら、匠哉の魂は黄泉に逝ってたね」
 マジデスカ。
「……まぁ、いいや。んで、邪神様はどうした?」
「街を見てみたいとか言ってるよ。匠哉、案内してあげれば?」
 別に、それくらいは構わないが――
「ってかお前、もうしぃと喧嘩すんなよ。元禍津神と旧支配者が全力で闘ったら、俺が死ぬくらいじゃ済まないんだろ?」
「大丈夫。私は力を封じられてるし、しぃは完全に復活してる訳じゃないから。犠牲は匠哉1人だけで何とかなると思うよ」
 ……全然嬉しくねぇ。
「仮にどっちもパーフェクトな状態だったら、世界の1つや2つくらい簡単に滅びちゃうだろうけどね」
「…………」
 ……さて、しぃに街の案内をしてやるか。



「ここが星丘海岸。お前が流されて来てた場所だ」
「ほう……海が近い事はいい事なのだ」
「そういうリアクションに困る発言は出来る限り控えてくれ」
 俺はしぃを連れ、街を巡って行く。
 貧乏神も、何故か後に付いて来ている。ヒマなのだろう。
「……むぅ。匠哉がしぃに優しい気がする。実は、そういうボケっが好きだとか?」
 何か言ってるし。
「違う。……って、何でそんなに不機嫌そうなんだよ?」
「いや、神としては信者が改宗するのはちょっと嫌かなぁ、とか思って――」
「いつから俺はお前の信者になったんだ!!? お前に対する信仰心なんて欠片もねぇよッ!!!」
「ないのだ〜」
 復唱したしぃを、マナがギロリと睨む。
 しぃは素早く、俺の後ろに隠れた。
「た、匠哉〜、小神が苛めるのだ〜」
「え? あー……よしよし、怖かったな。もう大丈夫だぞ」
 とりあえず、頭を撫でてやる。宇宙的恐怖コスミック・ホラーの化身に、『怖かったな』ってのは我ながらどうかと思うが。
「うう……! 神様差別だー、宗教弾圧だー!! 匠哉のバカ! アホ! 一神教徒っ!!」
 マナは駄々っ子っぽい動きで、道路をゴロゴロと転がる。
「この不敬者ぉ! 『新しい世界を』と『俺が神になる』の選択肢が出たら何の迷いもなく『俺が神になる』を選ぶタイプだね、匠哉はッ!!」
「常人に分かるネタを使え」
 貧乏神はガバッと起き上がり、
「匠哉、もう決めてもらうよッ! 私を信仰するか、しぃを信仰するかッ!!」
「いきなり変な二択を突き付けるな! テメェ、信教の自由ってのを知らないのかっ!?」
アメリカ人クリスチャンに作らされた憲法なんて、何の価値もないんだよっ! 日本人なら日本の神を信じなよ!!」
「うるせぇ! 俺の王は俺だけで、俺の神も俺だけだッ!! 元禍津神だろうが旧支配者だろうが天にまします我等の父だろうが、俺の心に踏み込む事など出来んッ!!」
「ホントに、器量が小さいよね……!」
「ああ、俺の器にはお前が入る余地なんてどこにも――って、あれ?」
 ふと、気付く。
 ……しぃが、どこにもいない。



 幸いにも、しぃはすぐに見つかった。
「うりゃ〜!」
 ――何か、ゴグマゴグと闘ってるし。
 近くでは、メイドと妖精がポカーンとした顔でそれを見ていた。
「匠哉〜」
 巨人を全滅させたしぃが、俺に手を振る。
「こいつ等、弱いのだ〜」
「……お前より強い生物が、この地球上に存在するのか?」
 それ以前に、強い弱いの問題ではないが。
 マナはどうでもよさそうに、
「しぃ、何でゴグマゴグなんかと闘ったの?」
「こいつ等から邪悪な気配を感じたのだ」
「……自分の事は完全に棚に上げてるね、この邪神」
 俺は心の中でマナに同意すると、しぃの元に歩いて行く。
 と、その時。
「……匠哉」
 メイド級長が、やけに低いトーンで俺に声をかけた。
「何だ、きゅ……じゃなくて、魔法冥土マジカル・メイドカナメ」
 変身してる時は、級長と呼ばない方がいいだろう。
「その子は、何?」
 ……級長、どうして肉食動物みたいなプレッシャーを放ってるんだ?
 気を付けろ、俺。変な事を言ったら捕食されるぞ。
 そうだな、とりあえず最小限の事実だけを伝えよう。
「こいつの名前は、しぃ――」
「匠哉が家に連れ込んだんだよ。そして、2人仲良く布団ベッドに直行」
「死になさい」
 唸るハンマー。弾き飛ばされる俺。
 ……何か、最近こんなんばっかだよなぁ。
 俺はぼーっとそんな事を考えながら、空から地へと帰還する。
 とりあえず、生きてはいるな。一応、手加減されたようだ。
 ――それと、貧乏神。お前は後でブチ殺ス。
「また新しい女の子に手を出したのね……。私の顔も3度までよ、匠哉。今日こそ断罪してあげるわ。自分の愚かさを地獄で後悔しなさい」
「級長、嫉妬?」
「……マナ。その口、閉じた方がいいわよ」
 級長は、倒れている俺にハンマーを振り上げる。
「匠哉、最後に言い残す事は?」
「……1度でいいから、焼肉を腹一杯食べたかった」
 素直に言い残す。
「そ、そう……」
 級長はそれを聞いて、少し躊躇った。と言うか、熱くなってた頭が冷えたようだ。
 ――それが、命取り。
「先輩に何するんですか、このメイドぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」
「……え?」
 何の伏線もなく、緋姫ちゃん登場。
 彼女は即座に、蹴りの動きに入った。
「はぁぁぁぁぁぁッ!」
 ……凄い、軸足が90度以上曲がってるぞ。
 緋姫ちゃんは捻った軸足の回転力をフルに活用し、野球選手のフルスイングみたいなロウキックを放つ。
 ……それを受けた級長の足から、『ボキッ!』っていう嫌な音がした。
 当然、級長は自分の体重を支えられなくなる。
 下がる、級長の頭。叩き込まれる、緋姫ちゃんの掌底アッパー。
 右腕の肘に左腕を当てて掌を押し上げる事により、腕2本分の力が込められた一撃。しかも、アッパーの勢いに落下の勢いがプラスされている。完全に殺人技だ。
 ……使った時間は、僅か2秒程度。
 級長は派手に吹っ飛ばされ、ピクリとも動かなくなった。
「カ、カナメ――ッ!!?」
 パックは級長に寄ると、逃げるように転移する。
「先輩! 無事ですかっ!?」
「あ、ああ……」
 ……俺はむしろ、級長が無事かどうかが気になるんだが。
「匠哉、大丈夫なのだ?」
 しぃが、俺に言う。心配してくれてるらしい。
 ……何ていいヤツなんだ。必死に笑いを堪えているどこかの貧乏神とは格が違う。
「せ、先輩……この方は?」
 しぃの存在に気付いた緋姫ちゃんが、訝しげな様子で俺に尋ねる。
「こいつは、しぃっていう――」
「匠哉が家に連れ込んだんだよ。そして、2人仲良く布団ベッドに直行」
「――テメェ、ふざけんなぁぁッ!! さっきと一字一句たりとも違ってねぇしッ!!!」
 また余計な事を言うマナ。完全にウソではないあたり、かなり質が悪い。
 ……緋姫ちゃんは!?
「あはは、それは面白いですね」
 軽く笑っていた。どうやら、マナの言葉は冗談だと分かってくれたようだ。
 さすがは緋姫ちゃん――
「あはは、先輩……信じてたのに……」
 ――うわヤベェ。
「もう、許しませんよ……」
 緋姫ちゃんはリュックに手を入れ、黒い鉄パイプを取り出す。
 ……どう見ても、バズーカだった。
 どうやってリュックに入れてたんだ、という俺の心のツッコミは無論届かない。緋姫ちゃんは俺達との距離を取り、それを構える。
「お、落ち着け、緋姫ちゃん――」
「まずは匠哉が落ち着きなよ。大丈夫、私のバリアーがあるから」
 ……あ、そっか。
 マナのバリアーの中なら、俺達は掠り傷さえ負わない。周囲に多少の被害が出るだろうが、今はゴグマゴグ出現の直後。人は避難していて、この場には誰もいない。
 そういう事なら、安心しても――
「ニュークリア・ロケット弾で、跡形もなく吹き飛ばしてあげます……!」
「――核弾頭ニュークリアッ!!?」
 って安心出来ねぇ!!
「マ、マナ! どうする!?」
「だから大丈夫だって。いくら核でも私のバリアーには――」
「周囲に出る被害の話をしてるんだよッ!!」
 と言うか、何より緋姫ちゃん自身が危ない!
 くそっ、確かにCしぃへの核攻撃はデフォだけど! 何もこんな事で……ッ!!
「ソロモンよ――」
 緋姫ちゃんは引き金にかけた指に、力を込める。
「――私は帰って来たぁぁぁぁぁッッ!!!!」
 ロケット弾が、発射された。
 弾速が遅いとはいえ、着弾までは僅か数秒。その数秒が俺の頭の中で引き伸ばされ、灰色の世界へと変わる。
 そのゆっくりとした世界の中で、俺は見た。
 俺達の前にしぃが跳び出し、大きく口を開ける。
 そして……スッポリと、吸い込まれるようにロケット弾はしぃの口の中に入って行った。
 もぐもぐ。
 むしゃむしゃ。
 ごっくん。
「…………」
 絶句する皆。
 ――こいつ、核弾を喰いやがった。
「チョコみたいな味なのだ」
「……そうか。それは良かったな」
 俺は今の悪夢めいたヴィジョンを、脳の奥底に厳重封印する。
 緋姫ちゃんは完全に凍っていた。今は、そっとしておいてあげた方がいいだろう。
 俺は歩き出し、緋姫ちゃんの横を抜ける。
「ほら、マナ。行くぞ」
「……え? あ、うん」
 俺の言葉によって再起動したマナが、しぃと一緒にトテトテと付いて来た。
「じゃ、そろそろ帰るか」
「そうだね、お腹も減ってきたし」
「帰るのだ〜」
 家に向かう、俺と神ふたり。
 しばらくすると背後から、
「何ですか、それはぁぁぁぁっ!!!?」
 という緋姫ちゃんの絶叫が聞こえたが、気にしない事にした。
 ……それにしても、酷い目にあったな。
 はぁ……どっかに、幸運を呼ぶ神様が落ちてないかなぁ。
「あ、匠哉。あんな所にビリケン人形が落ちてる」
「――! よし、拾って来い!」
「車に轢かれて、粉々になってるけどね」
「…………」
 ……まぁ、俺の人生なんてそんなものか。





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