光の剣振り下ろす時
我が手は審判を得る
我が敵に復讐を誓い
これを倒すであろう
主よ 我を聖人の一人にお加え下さい

人の血を流した者は
男により報いを受ける
その男とは神に許された者なり
悪なる者を滅ぼし
善なる者を栄えさせよ
汝を我が羊として数え
全ての天使の加護を与えん

主のために守らん
主の御力を得て
主の命を実行せん
川は主の下へ流れ
魂はひとつにならん
父と子と聖霊の御名において

決して罪なき者の血は流すな
だが悪を行う者の血は川のごとく流せ
黒い翼を広げた男たちが
神の裁きを下すであろう

よく聞け
貧乏も飢えも許す
怠慢も堕落も許す
だが不正は許さん
悪事は見逃さない
地獄の果てまで追いつめる
悪事を働く者を殺し血の雨を降らせてやる
殺すな 姦淫するな 盗むな
これが神を信じる者の掟だ
人としての基本的な振る舞いだ
守らぬ者は死で報いよ
罪悪にも程度がある
それが軽い罪悪ならとがめはしない
だが度を超せば俺達の出番だ
お前達も罪を犯せば
必ず俺達が現れる
それは報いを受ける時だ
お前の信じる好きな神の下へ送ってやる

主のために守らん
主の御力を得て
主の命を実行せん
川は主の下へ流れ
魂はひとつにならん
父と子と聖霊の御名において


――『処刑人』


ビンボール・ハウス4
〜神と神々のチェス〜

大根メロン


 ある日の星丘高校。
「匠哉。私、クラブを作ってみようと思うんだよ」
「……は?」
 俺は思いっきり不審な眼で、マナを見る。
「お前、突然何を言い出すんだ?」
「だってほら、高校生の青春といったら部活動だと思わない?」
「思わん。俺はバイトだけで手一杯だ」
「……はぁ」
 貧乏神は哀れみのこもった視線で俺を見ると、わざとらしく溜息をついた。
 ……こいつ、いつか殺してやる。
「それに、わざわざ作らなくても、今あるクラブに入ればいいだろうが」
「ちっちっちっ。私の感性に合うクラブは、私が作るしかないんだよ」
「…………」
 何が感性だ。
「……ま、いいけどな。でも、クラブを作るには最低でも6人集める必要があるんだぞ? どうするんだよ、お前以外の5人は」
「あ、それに関しては問題ないよ。6人のアテはあるから」
「ふーん……」
 ま、どうでもいいや。俺には関係ない。
「という訳で、私に続く2人目は匠哉ね」
「『という訳で』って、どういう訳だぁぁッ!? テメェ、いい加減にしないとリップして内臓引き摺り出すぞッ!!!」
「協力しないと、月見家は今より貧乏になるよ」
「…………」
 ――月見匠哉、入部決定。



「真、入部してー」
「ぐー……」
「よし、3人目ゲット」
「ぐー……」
 ――田村真、入部決定。



「級長ー」
「……はいはい、分かってるわよ。どうせ、私に拒否権はないんでしょう?」
「うむうむ。物分かりのいい人って好きだよ」
 ――古宮要芽、入部決定。



「ねぇ緋姫。私、クラブを作る事にしたの。それで、定員の6人を集めてるんだけど……ぶっちゃけ入部して」
「……頭に蟲でも湧きましたか? どうして私が――」
「匠哉も入るよ」
「それを早く言ってください」
 ――倉元緋姫、入部決定。



「瀬利花ー」
「……話は聞いている。私は断固拒否だ。お前のような妖物とクラブ活動など出来るか」
「私だけじゃなくて、英国UKの妖精も一緒だと思う。部員としてじゃないけど」
「なら尚更だ。それ以前に、私は女剣クラブの部長だぞ」
「掛け持ちすればいいじゃん。別に問題ないはずだし」
「だからと言って――」
「緋姫も入るよ」
「……仕方ない。そこまで頼むなら、力を貸してやろう」
 ――霧神瀬利花、入部決定。



「6人集まったよッ!」
 ……何てイージィな。知り合い全員かよ。
 俺達5人――いや、真を除く4人か――は、呆れ果てた眼でマナを見る。
「あとは、書類に名前書いて生徒会に提出すれば完了だね」
 貧乏神はルンルンと楽しそうに、
「じゃ、活動始まったらまた集まってもらうから。楽しみにしててよ」
 そう言って、歩いて行った。
「…………」
 俺はふと思う。多分、俺だけではないだろうが。
(……結局、どんなクラブを作るんだ?)






 ――そして、数日後。
「さて、ついにスタートだよ」
 貧乏神は、俺達を高校の一室に集めていた。
 ……どうやら、ここが俺達に与えられた部室らしい。
「と、その前にマナ。1つ聞きたい事があるんだが」
「ん? 何、匠哉」
「このクラブは、何をする部活なんだ?」
 そう、1番肝心な事を俺達は知らされていない。
 正直言って、かなり不安である。
「あれ、言ってなかったけ?」
 マナは少し驚いたような顔をしたが、すぐに得意気な表情に変わり、
「……ふふん、なら聞いて驚いてよね。世のため人のためになる、素晴らしい部活なんだから」
「何でもいいですから、早く言ってください」
 緋姫ちゃんが苛立たしそうに言う。このままだと、第三十六次マナ緋姫対戦が勃発しそうだ。
「我等が部活動、その名は――!」
 全員のやる気なさそうな視線が、マナに集中する。
「――『ボランティア・クラブ』だよっ!!」



 ボランティア・クラブか。確かに、世のため人のためになりそうだな。
 ……って、ちょっと待て。
「お前、本当にあのマナかッ!?」
 瀬利花が叫ぶ。無理もない。
「……どういう意味?」
「どうもこうも、お前にボランティア精神などある訳がないだろう!」
「失礼な」
 マナはフンと鼻を鳴らすと、
「想像力が足りないよ、瀬利花。ま、人間じゃそれが限界なのかも知れないけどね」
「…………」
 瀬利花が、ぎゅっと木刀を握り締める。初日からこんなんで大丈夫なのか?
「じゃ、自己紹介でもしようか。私は、ボランティア・クラブ部長のマナ。皆知ってると思うけど」
 マナが俺を見る。次は俺の番、という事らしい。
「2年の月見匠哉。ってか、俺の事も皆知ってると思うが」
 簡潔に済ませる。貧乏神は面白くなさそうだ。
「田村真。ぐー……」
「えっと、倉元緋姫です。武装風紀委員1年生部隊の隊長をやってます」
「……霧神瀬利花。女剣クラブの部長もやってるから、なるべくこの部活には関わりたくない」
 瀬利花、関わりたくないのは皆同じだ。部長マナ以外。
「古宮要芽。マナや匠哉と同じクラスで、級長やってるわ。極々普通の一般人よ」
 級長が、『一般人』の部分を強調しながら言う。
「じゃあ、ついでにオイラも自己紹介するのさ。オイラは、パック=ロビングッドフェロウ。英国ブリテン出身の妖精で……まぁ、要芽の守護霊ガーディアンみたいなものなのさ」
 パックまで適当な事を言い出した。どうやら、魔法冥土マジカル・メイドの事は隠し通す方針らしい。
「なら、一応私の護法も紹介しておこうか」
 瀬利花が、錫杖を取り出す。
 護法って……あの夫婦鬼か。
「霧神さん、何度言えば分かるんですか! A級使い魔ファミリアの召喚は国際法で禁止されてるんです! 『国際I祓魔E機構O』に知られたら、ただじゃ済まないんですよ!?」
「大丈夫だ、緋姫。見ててくれ」
 錫杖が、鳴る。
 それと共に、小さな男の子と女の子が現れた。
 ……って、こいつ等があの鬼かッ!!?
「童子形なら、クラスはB級に下がる。規制されているのはA級とS級だけだから、問題ないだろう?」
 童子形……ああ、護法って普段は目立たないように、子供の姿をしてるんだっけ。護法童子っていうくらいだし。
「我が名は善童鬼。またの名を、前鬼と申します」
「我が名は妙童鬼。またの名を、後鬼と申します」
「我等護法夫婦鬼神、主の命により参上いたしました」
 ……姿形どころか、キャラまで違う。
「自己紹介はこれくらいにして、そろそろ活動に入ろうか」
「って言っても、何するんだ? 校内のゴミ拾いとかか?」
 すぐに出来るボランティアといったら、そのくらいしかないと思うんだが。
「そんな、誰にでも出来るようなボランティアはしないよ。せっかくこんなメンバーが集まってるんだから、私達にしか出来ないボランティアをするの」
 このメンバーでしか出来ないボランティア……何だか、もの凄く嫌な予感がする。
「まずは、これを渡しておくよ」
 マナが全員に、掌サイズのマシンを配った。
 一見すると携帯電話か何かのようだが、携帯よりも一回りほど大きく、ゴツゴツしている。
「……マナ、これは何だ?」
「最新鋭軍用無線機。皆には、これからはこれで連絡を取り合ってもらうから」
「待てぇぇッ!?」
 最新鋭軍用無線機って、お前!?
「何でわざわざそんな物をッ!?」
「だって、携帯電話って簡単に盗聴されちゃうし。その点これは、電波が高度に暗号化されるから盗聴される可能性が低いの。しかも、電源が入ってればお互いの位置まで分かるスグレモノだよ」
 マナが無線機を操作する。すると、ディスプレイにいくつかの光点が表示された。
 その光点は、1ヶ所――つまりこの部室に集まっている。どうやら、本当にお互いの位置が分かるらしい。
「……どうやって、こんな物を手に入れたの?」
 級長が、半分呆れたような様子でマナに訊く。
「『イースト・エリア』のブラック・マーケットで買ってきたの。あそこは、どんなものでも売ってるからね」
 ……おいおい、マジかよ。
 イースト・エリアとは、星丘市の東に広がるスラム街の事だ。数十年前の『大火災』によって焼失した東方地区が、そのままスラム化したらしい。
 あらゆる犯罪が日常的に行われている、日本で最も危険な場所だ。
 そして……孤児だった緋姫ちゃんが、数年前まで住んでいた街でもある。
「さて、そろそろ今回の活動の説明に入るよ」
 マナはリモコンを操作し、テレヴィをつけた。
 どうやらニュース番組らしく、何かの建物が生放送ライヴで映っていた。
 建物の周りは警察やマスコミで一杯になっており、緊迫した空気が漂っている。
「数時間前、イスラエル大使館が『キリストの復讐者達リヴェンジャーズ・オヴ・クライスト』っていう旧キリスト教カトリック系反ユダヤ主義テロ組織によって占拠されたの」
「…………」
「警察は特殊S強襲A部隊Tを突入させようとしたんだけど、大使館側がそれを拒否。そのせいで、膠着状態が続いてる」
 ……まぁ、世の中では色んな事が起こっているのだろうが。
「それが、クラブ活動とどう関係があるんだ?」
「もう、匠哉ったら鈍いなぁ。今から私達が大使館に行って、テロリストどもを制圧するんだよ」
「……はぁああ!!?」
 睡眠人と貧乏神以外が、同時に叫ぶ。
「ふざけんなぁぁ! どうして高校生の部活でそんな事をッ!!?」
「だって、星丘高校の部活動ってこういうのが基本でしょ?」
「それは『五大クラブ』での話だ! 何で出来たてほやほやのクラブでそんな事をしなきゃならんッ!?」
 ちなみに五大クラブとは、星丘高校を牛耳っている5つのクラブの事だ。
 テロクラや、瀬利花が部長をやっている女剣クラブなどがそれである。
「はいはい、文句は死んでから言ってね。時間がないから早く行くよ。パック、転移魔法テレポートの準備をして」
「……拒否権はあるのさ?」
「拒否したら、五体を引き裂いて黄泉の底に放り落としてあげる」
「…………」
 ……うわぁ、こいつ無茶苦茶だぁ。
 パックが、凄く嫌そうに呪文を唱え始める。
 もう、マナに対して文句を言う者はいない。皆、完全に諦めていた。
「覚悟は出来てる? それじゃ、行くよ」



 ――大使館前。
「私がボランティア・クラブ部長のマナです。日本政府からの極秘依頼により参りました」
「お、お待ちしておりました。私は県警の――」
「自己紹介など時間の無駄です。貴方達は、速やかに指揮権を私達に移してくれればいいんですよ」
「……は、はい」
 ツッコミ所満載の遣り取りをした後、マナが俺達の元に戻って来る。
「じゃ、役割分担を説明するね。私、匠哉、緋姫、瀬利花が館内に突入してテロリストを殲滅する役。他は、外に待機して連絡役って事で」
 何てアバウトな……って、待て。
「うぉぉぉぉい!!? 何故に俺まで突入役なんだッ!!?」
 戦闘能力ゼロの俺にどうしろと!?
「マナさん! 先輩を殺すつもりですかッ!?」
「これで死ぬなら、その程度の人間だったって事だよ」
 いや、普通死ぬから。
「きゅ、級長! 助けてくれ!」
「頑張りなさい、匠哉。骨は拾ってあげるわ」
「なぁぁぁぁぁ!?」
 ――級長にまで見捨てられた!?
「まぁ、いつかは思い出話になるさ。ぐー……」
「……その『いつか』が、生きて迎えられればな」
 俺は真の顔面に、ワンパン叩き込む。
「ほら、さっさとカメラどもを下がらせて!」
 貧乏神は警察に指示を出し、再び俺達に言った。
「皆、そんなに緊張しなくてもいいよ。リヴェンジャーズなんて、所詮は小物だし。ただ……異端審問部と繋がりがある、なんてウワサがあるけど」
「……!」
 緋姫ちゃんと瀬利花、そしてパックの表情が厳しくなる。
 ……何だ?
「ま、やる事は簡単だよ。見つけた奴からブッ潰す。それだけ」
 マナは緋姫ちゃんと瀬利花を連れ、さらには俺を引っ張りながら、大使館へと向かって行った。



 そして、俺達は大使館に突入。
「血海に沈みなさい……ッ!!」
「次に生まれて来る時は、もう少しマシに生まれて来い!」
 緋姫ちゃんの銃弾と瀬利花の木刀が、次々とテロリスト達を薙ぎ倒してゆく。
 ……だが、死なないように手加減はしているらしい。俺には、完璧に殺しまくってるようにしか見えないが。
 俺とマナは、緋姫ちゃんと瀬利花の後に続く。2人が敵を全て倒しているので、やる事が何もない。
 緋姫ちゃんが倒した相手から、武器を奪い取る。
ウージィUZI……ハッ、反ユダヤ主義アンチ・セミティズムのくせに武器はイスラエル製ですかッ!」
 UZIを掃射。
 バタバタと倒れてゆく、テロリスト達。
 数人が銃を無力化するために接近戦を仕掛けて来たが、緋姫ちゃんは一瞬でリュックからナイフを取り出した。
 そして、人間離れしたスピードで敵を斬り捨てる。
 手足の腱を断たれたテロリスト達が、壊れた人形のように倒れた。
「ああ……なんて美しい。まさしく戦の女神だ」
 ……瀬利花は緋姫ちゃんの勇姿を、キラキラした瞳で見続けている。
「しかしまぁ、あれだな。人質とかいなくて良かったよな」
「そうだねぇ。おかげで、こんな力技でも何も問題ないし」
 やる事がないので、俺と貧乏神は持って来た水筒からお茶を注いで飲む。まったりまったり。
「貴様等も何かしろぉッ!!」
 瀬利花の木刀が空気を斬り裂き、真空の刃となって俺達に襲いかかる。
 だがマナのバリアーのおかげで、俺達が傷付く事はない。まったりまったり。
「クッ、どこまでも腹の立つ貧乏コンビめ……!」
「霧神さん、先輩に剣を向けないでください!!」
「あ、いや……違うんだ、緋姫! 私が狙ったのは貧乏神だけで――」
 この調子でいけば、すぐに片付きそうだな。
 もしかして、思ってたより楽勝か? まったりまったり。








「くそっ、どうなっている!?」
 キリストの復讐者達リヴェンジャーズ・オヴ・クライストの長――カール・シェイドは、カメラから送られて来る映像に驚愕する。
 そこには、組織のメンバーをまるで紙屑か何かのように蹴散らしてゆく、2人の少女が映っていた。
「ふふ、情報通りですね」
 カールの背後に、1人の神父が立つ。
 だが、神父というにはあまりにも若い。青年よりも下、少年という表現が相応しいような神父だった。
 少年の顔にはカールのような焦りはなく、ただただ微笑が浮かんでいる。
「情報通り……だと!? まさか、教皇庁ヴァチカンはこうなる事が分かっていたのか!? 分かっていたのなら、何故私に教えなかったッ!?」
「私達――異端審問部がリヴェンジャーズから受けた依頼は、この国に武器弾薬を密輸する事だけです。他の事は知りません」
 少年の手に、1枚の折り紙が現れた。
 彼は器用に、片手だけで鶴を折る。
「……それにしても、面白い人達が攻めて来たものですね」
 少年が、画面の中の緋姫と瀬利花を見た。
「彼女は、10歳にも満たぬ年齢でイースト・エリア最大のアウトロウ・グループ――『クラウン』を作り上げ、スラムの住民を統治していた、あの倉元緋姫さんじゃないですか。ある日突然、スラムから姿を消したらしいですが……まさか、こんな所でその姿を見る事になるとは」
「……ッ!?」
「しかも、もう1人は霧神瀬利花さんですね。剣士としてだけではなく、咒術師としても優秀で、いずれは霧神史上初の女性当主になるのではないかといわれている方です」
 カールが、絶句する。
「なっ……一体、一体どうすればいいのだ、ファーザー・ミサカキ!」
「先程も言いましたが、そんな事は知りませんよ」
 少年が、折り鶴を握り締める。
 再びその手を開いた時、折り鶴は既に折り紙へと戻っていた。
「……と言いたい所ですが、仕方ありません。1つだけいい事を教えてあげます」
「な、何だ!?」
「ほら、あの2人の後ろを走っている女性がいるでしょう?」
 カールの眼が、マナを捉えた。
「あ、ああ……しかし、あの子供がどうかしたのか?」
「外見は子供でも、中身は違いますよ。彼女は、以前から教皇庁ヴァチカンが国際手配している悪魔のひとりです。生け捕りにして差し出せば、多額の懸賞金が手に入るでしょう」
「……! よ、よし! そういう事ならば、何としてもアレを捕らえなければ……!!」
 カールが、部屋から去って行く。
 誰もいない部屋の中で、少年は呟いた。
「……貴方達如きに、あの悪魔を捕らえる事など不可能だと思いますが。まぁ、精々頑張ってください――かくあれかしAmen








「緋姫と瀬利花は上の階に上がって。私と匠哉はこのまま1階で動くから」
 2人が、2階へと上がって行く。
 俺と貧乏神は、1階を進み続ける。
「しかしマナ、もう1階でやる事ってあるのか?」
 この階の敵は、全て倒したと思うんだが。
「んー……ま、一応チェックくらいはしておいた方がいいかと思って」
 マナはそう言うと、進む速度を緩めた。
 ……こいつ、実は楽したいだけなんて事はないだろうな。
「そう言えば、いくつか訊きたい事があるんだが」
「ん? 何?」
「イスラエル大使館は、どうしてSATの突入を拒んだんだと思う?」
 マナは少し考えると、
「大使館っていうのは、秘密でいっぱいの場所だから。大使館員の中に諜報員でもいるんじゃない? ほら、モサドとかの」
 ……ディープだなぁ、オイ。
「じゃあ、もう1つ。さっき言ってた、異端審問部ってのは何なんだ?」
 以前、瀬利花が霧神家に並ぶ組織としてその名を上げた事があるが、詳しい事は何も知らない。
 ……何だか不吉な感じのする組織名だと、感じているだけだ。
「う〜ん……匠哉、まず異端審問って何だか知ってる?」
「ああ、ローマ・カトリック教会は異端としたものを裁判にかけ、処罰しまくってたんだよな。魔女狩りとか、そういうヤツ」
「そう。審問……と言うか拷問によって自白を引き出し、極刑の場合は容赦なく火炙りにする。スペインでは、国王直轄として行われていたんだよ」
 スッと、マナが眼を細める。
「科学者、罪人、異教徒、背信者、魔術師、夜族、異教神。そういった反カトリック的存在――即ち異端者を殲滅するために、異端審問官達は正義の鉄槌を振り下ろし続けた」
「……でも、それは昔の話だろ? 異端審問はとうの昔に廃止されてる」
「…………」
 マナが、俺の顔を覗き込む。
「本当に、そう思う?」
「……何?」
「カトリック教会が、本当に異端審問を廃止したと思う?」
 ……徐々に、マナの言いたい事が見えてきた。
「バカな。ヨハネ・パウロ2世は2000年にカトリックの罪を認め、神に赦しを請っている。なのに、異端審問が現存するだなんて――」
「現存するの。勿論、秘密裏にだけどね」
 マナは当然の事のように、ハッキリとそう言った。
「ローマ教皇を大審問官とし、4人の精鋭異端審問官『黙示録四騎士』によって率いられる、教皇庁ヴァチカンの暗部を担う宗教裁判機関。それが、異端審問部なんだよ」

教皇庁ヴァチカンに弾圧されるのさ。ローマには、「魔女の鉄槌マレウス・マレフィカルム」を聖書に次ぐ書だと思っているバカが、今でも山ほどいるのさ』

 そう言えば……パックもそんな事を言っていた気がする。
「しかも、現在の異端審問官は昔のそれよりよっぽど質が悪い。何しろ、告発も審理も判決もなく、いきなり死刑執行から入るんだから」
「……無茶苦茶だ」
「うん。そして私は、その無茶苦茶な連中を相手にずっと戦い続けてる」
 ニッコリと、何かを隠すようにマナが笑う。
「どういう事だ?」
「イエズス会って知ってるよね? かつて、カトリックを布教するために日本に来た宣教師達」
「ああ」
「でも、この国に来たのは会士だけじゃなかった。それに混じって、当時の異端審問官も来日していたんだよ」
 マナが、天井を見上げる。
 まるでこの室内においても、空があるかのように。
「この国の宗教って、混沌としてるでしょ? 日本古来の八百万やおよろずの神だけではなく、インドや中国の神々まで入って来ている」
「…………」
「カトリックを始めとする一神教っていうのは、自分達が信仰する唯一の神以外に、神というものを決して認めない。奴等は、数多の神が存在する日本の世界観が許せなかった。それを文化とする日本人は、背徳者でしかなかったの」
 ……マナは架空の空を見ながら、言う。
「――だから、異端審問官どもは日本人を皆殺しにしようとした。この日本に、異端審問所を作ってね」
「な……ッ!?」
「その計画があまりにもウザかったから、日本の神々は豊臣秀吉や徳川幕府を使ってキリスト教を弾圧した。そして見事、異端審問所設立計画を叩き潰したの」
 でもそれは……多くの犠牲の末の勝利だろう。当時の切支丹キリシタン全てが、弾圧され殺されなければならないような人々だったはずがない。
「そのせいで、日本の神々はカトリック教会から敵視されるようになった。特に、積極的な活動を行っていた私はね」
「…………」
「ローマの異端審問所が消え去っても、異端審問は検邪聖省に受け継がれ、さらには教理聖省に受け継がれた。異端審問が消えるなんて事は有り得ない。ヴァチカンを、ローマ教皇を、何よりカトリックを滅ぼさない限りは。それを成就するために……そして自分自身を護るために、私は連中と戦っているの」
 ……なるほど。世の中には、まだまだ知られざる事があるって事か。
「ま、頑張れ」
「……匠哉。今の話聞いて出て来る言葉が、たったそれだけ?」
「ああ、それだけだが?」
 マナが、深淵の如き深さの溜息をついた。
「まぁ、いいけど……それより」
 マナが、ニヤリと笑う。
「ほら、お出ましみたいだよ」
「――ッ!?」
 いつの間にか、廊下の向こうに人影があった。
 その男は少しの足音も立てずに、俺達に近付く。
「私の身内が、随分とお世話になったようだな」
 マナは男と対峙すると、笑いを消す事すらしないまま言った。
「カール・シェイド。リヴェンジャーズの長だね」
「いかにも。私が――」
「――『貧乏パンチ』ッ!」
「ぐふぉアアッッ!!!?」
 ――って、うわぁぁ!!?
「お、おいマナ! いくらなんでも語ってる最中に攻撃するのは相手が可哀想すぎるぞっ!!」
「長話は早死にの元だよ」
 貧乏神はロープを取り出すと、気絶しているカールをグルグルと縛る。
 そして、肩に担ぎ上げた。
「よし、敵のボスを捕獲。この仕事、もう終わったも同然だね」
 ……そんなに簡単でいいのか?



 そしてやはり、簡単には終わらないらしい。
「なぁ、マナ。分かっているとは思うが」
「…………」
「さっきから俺達、同じ所を何度も通ってないか?」
 貧乏神はむむぅと唸ると、
「……そんなはずないよ。一本道を進んでるだけなのに、同じ所に出るはずがない」
「そもそも、このデカい建物において廊下が一本道というのがまずおかしいんだがな。普通あるだろ? 部屋の扉とか、他の廊下とか」
「廊下がループしてるっぽいね……ウロボロスの結界にでも閉じ込められたかなぁ? でも、別にそんな感じはしないし」
 マナが、周りを探るように見廻す。
 そして、
「……まさか」
 何かに気づいたらしく、壁に近づいた。
「匠哉。これ、廊下じゃない」
「……は?」
 意味不明な言葉に、俺は思わず力の抜けた声を出した。
 廊下じゃないって……じゃあ何だっていうんだ。
「えいっ!」
 俺の混乱に構わず、マナは壁を思い切り叩く。
 ――すると。
「何……!?」
 バラバラと、壁が崩れた。
 だが、壁というには材質がおかしい気がする。これは、どう見ても……
「……紙?」
「うん、そうみたいだね」
 マナが、壁の破片を手に取る。紙で出来たそれを破片というのは、正しくないかも知れないが。
「……折り紙で巨大な作品を作るのって、どうやると思う?」
 突然、マナがそんな事を尋ねてきた。
 どうしてそんな事を訊くのかは分からなかったが……とりあえず答える事にする。
「単純に、バカでかい紙を手間暇かけて折って、バカでかい作品を作るとか」
「他には?」
「あとは……ユニット折り紙、あたりか?」
 ユニット折り紙とは、その名の通り部品ユニットを大量に折り、それを組み合わせて1つの作品を作る方法だ。
 要は、玩具のブロックみたいなものである。ただ、ブロックと違って折り紙のユニットは全て同じ形なのだが。別に違ってもいいだろうが、同じ形の方が当然美しい。
 そしてブロックと同じく、組み合わせ方によって様々なものを作る事が出来る。勿論、多くのユニットを使えば、その分だけ複雑な形の作品を作れるのだ。まぁ、手間もかかるだろうが。
「んで、それがどうかしたのか?」
「この廊下、ユニットで作られてる」
「……は?」
 また、そんな声を出してしまった。
 って、この廊下がユニットで作られてるだと? 
 そんなはずがない――と言いたい所だが、崩れた壁の破片は確かに紙で出来ていた。
 マナが、その破片を握り潰す。潰れた破片は、小さな部品に分かれて床に落ちた。
 ……間違いなく、折り紙のユニットだ。
「マナ、これは……」
「やられたよ。私達は、折り紙で作られた廊下の中をグルグル廻ってたみたいだね」
 マナは、キッと前を睨み付ける。
「いるんでしょ? 出てきなよ!」
 その言葉に応えるように、景色が崩れ始めた。
 まさか……本当に、全てが折り紙で作られていたのかっ!?
「思っていたよりも、少し早く見破られましたね。まぁ、この程度の誤差は許容範囲内ですが」
 崩れた景色の向こうには、神父のような格好をした男。歳は、俺と同じくらいか?
 ……いや、それよりも。
「何だ、この感じ……?」
 その神父が現れた途端、辺りの空気が変わった。
 ――あまりにも清浄。あまりにも神聖。
 だがそれ故に、その空気はハッキリとした違和感を俺達に突き付ける。
「……貴方、何者?」
 マナが問う。
 神父は微笑みを浮かべたまま、答えた。
「ヴァチカン教皇庁教理聖省異端審問部『天草隊』隊長――美榊迅徒みさかきはやと



「異端、審問官……ッ!?」
 まさか、本当にそんなものが。
 マナの話を嘘だと思っていた訳ではないが、やはりどこか信じきれていなかった。どこか、夢物語のように感じていた。
 ……だがその夢物語は、こうして俺達の前に立っている。
「ふーん、やっぱりリヴェンジャーズと異端審問部は繋がってたんだ」
 マナが、カールを投げ捨てた。
「本当は姿を見せるつもりはなかったのですが、さすがに貴方を見逃す事は出来ないので。初めまして――神の恩寵を破壊する者ラック・バスター
「初めまして、美榊迅徒。それで? 人間リリンの分際で、私と闘うつもり?」
「それが仕事ですから」
 ふたりの間の、張り詰めた空気。
 ……まるで、じわじわと締め付けられるような圧迫感。窒息しそうな気さえしてくる。
「ふん、笑わせないでよ」
「笑いたければ笑ってください。武芸とはその言葉通り、『武』であると同時に『芸』でもありますから」
 迅徒の手に、何枚も折り紙が現れた。
 彼はそれを、一瞬で手裏剣へと折り上げる。
「かの天草一揆において幕府軍を震え上がらせた、美榊流折形術の妙技――とくと御覧あれ」
 迅徒が、手裏剣を投じた。
 放たれたそれを、マナはとっさに回避する。
 外れた手裏剣は、壁に命中。
 ガリガリと。チェーンソウでも当てたかのような傷を刻みながら、手裏剣が壁を伝い続ける。
 ……そして。
 ついにその衝撃に耐えられなくなったのか、壁が割れて吹き飛んだ。
「……何だ、今のは?」
 俺は呆然としながら、破壊された壁を見る。
 紙、だったんだぞ? いや、紙でなくともこんな事は不可能だろうが。
「そんなに大したものではありませんよ。ほら、トランプで野菜を真っ二つにする芸を見た事はありませんか? あれの一種ですね」
 ……そんな言葉で納得出来るか。
「それにしても、回避を選択したのは賢明でした」
 迅徒が、クスクス笑いながら言う。
 回避……マナにはバリアーがあるから、避けなくてもよかったんじゃないのか? でも、それが賢明?
「貴方は、物理的攻撃、科学的攻撃、超心理学的攻撃、隠秘学的攻撃、超自然的攻撃……あらゆる攻撃を、戦略レヴェルであっても完全に防御する事が出来るそうですね。しかしこの手裏剣は、神の祝福ゴッド・ブレスによって、その防御結界バリアーですら軽く斬り裂けます」
 ……なるほど。前に緋姫ちゃんが使っていた弾丸と同じか。
「ま、それくらいのハンデはあげないと」
「……ハンディキャップというのは、条件を対等にするためのものですよ。これはハンデとは言えません」
 再び、手裏剣が奔った。
si quis non amat Dominum Iesum Christum sit anathema maranatha!!
 だが今度は、投げた動作すら見えない。
 気づいた時には、マナの身体に小さな切り傷が付いていた。
「く……っ!?」
「ほう、胴体を両断するつもりだったのですが……このスピードでも、紙一重で躱しましたか。さすがは、教皇庁ヴァチカンが危険視する13匹の悪魔――『十三呪徒しと』のひとりですね」
 しかし、迅徒は余裕だ。まるで、避けられる事など予測していたといわんばかりに。
「ですが、無駄ですよ。私はカミり、カミろす――この身は我が神と共にあります。敗北など、あろうはずがありません」
「……言霊信仰? カトリック狂徒のくせに?」
「『神は言われた。「光あれ」。こうして、光があった』――そういう事ですよ」
 その言葉が終わるより早く、
「無上霊宝神道加持……ッ!」
 迅徒へと向けられたマナの掌から、光弾が放たれる。
 その攻撃は、迅徒に命中したかのように見えた……が。
「――ッ!?」
 光弾を受けたのは、無数のユニットによって組み上げられた等身大人形。
 即ち、身代わり。
「しまった――!!?」
 マナに生まれた、致命的な隙。
「美榊流折形術、陽之章其之八――」
 それを、狙って。
「――『紙刃豪雨』」
 数え切れないほどの手裏剣が、凄まじい破壊力と共に襲いかかった。
 その一撃により、廊下が粉砕される。壁や床の破片が、宙を舞う。
 マナの身体も、同じように吹き飛ばされていた。
 俺の目の前に、血塗れのマナが頭から落下する。
 倒れたマナの身体に、宙にまかれた彼女自身の血が……雨のように降り注ぐ。
「か、ぁは……ッ!!」
「おい! マナっ!?」
 ……そんな、まさか。
 あのマナが、こうも簡単にやられるなんて。
 あいつ、かなり強い――
「別に、私が特別強いという訳ではありません」
「……何?」
 俺の考えを見透かしたかのように、迅徒が言う。
「ただ、異端審問官は異神狩りのプロフェッショナルです。相性が悪かった――それだけの事ですよ」
「……謙遜のつもりか? 異端審問官が皆お前みたいな奴だったら、マナはとっくの昔に殺されてるだろ」
 俺は、手の中の無線機に眼をやる。
 だが次の瞬間、手裏剣が無線機を弾き飛ばした。
「浅はかですね。助けなど呼ばせはしません」
「…………」
 ……やれやれ、浅はかなのはどっちだよ。
「助けはもう呼んだ。お前がマナと闘っていた時に」
「――ッ!?」
 迅徒の微笑みが、初めて崩れる。
「……そうですが。しかし、この大使館は各所に『無限廊』が張ってあります。先程、貴方達を閉じ込めていた折り紙の廊下ですよ。上の階に上がった御二人が下りて来るには、かなり時間がかかるでしょう」
 また、見当違いな事を言い出した。
「……お前、本当に何も分かってないな。うちの戦力は、マナと上の2人だけじゃないんだよ」
 遠くから、破壊音が聞こえる。
 進路上にある物全てを壊しながら、真っ直ぐここへと向かって来ているのだろう。
 ――そして。
深き森の真夏の夜、妖精達は踊り歌う!Fairies dance and sing in a deep forest on the midsummer night!
 現れたのは、魔法冥土マジカル・メイドモードの級長。
スペシャル御奉仕!Special service! 『メイド・ハンマー』ッ!!"MAID HAMMER"!!
「――っ!!?」
 ハンマーの一撃が、迅徒に叩き込まれた。
 ――決まったか!?
「なるほど、まだ味方がいたのですね」
「――!!? そん、な……!?」
 級長は、素早く迅徒から距離を取る。
 ……なんて奴だ。巨人族ゴグマゴグ殺しのハンマーを、たった1枚の折り紙で受け止めるなんて。
「しかしそうなると、2対1ですか」
「……何?」
 俺は迅徒の視線を追う。
 そこには。
「折り紙遊びにしては……危険が過ぎるよ」
 立ち上がった、マナの姿。
「……もうしばらくすれば、上の方々もここに来ますね。そうなると、さすがに不利ですか」
 大量の折り紙が、視界を埋め尽くすように舞う。
「仕方ありません。今回は退きます」
「――!? 逃げるつもりっ!?」
「そう焦らないでください、マナさん。貴方達との決着は、いつか付けますよ」
 折り紙の紙吹雪が晴れた時、そこに迅徒の姿はなかった。
「では、また御会いしましょう。その日までは御元気で――AMEN!!



「まったく、酷い目に遭ったよ……」
 立ち上がったマナが、再び倒れる。
「お、おい、大丈夫か?」
「大丈夫、と言いたい所だけど……」
 マナは、ゆっくりとその眼を閉じた。
「……匠哉。私、もうダメかも知れない」
「そうか。じゃあさよならだ。あの世でも元気に暮らせよ」
「――ええっ!?」
 貧乏神が飛び起き、俺の胸倉を掴んでガクンガクンと揺らす。
「何その冷たい言葉!? 瀕死の私に対して、もっと他に言う事はっ!? 悲しみのリアクションはっ!!?」
「随分と元気な瀕死だな」
「級長が死にかけた時は、あんなに凹んでたクセにっ!!」
「級長は特別なんだよ」
「……ほほう」
 マナは俺を揺らすのを止め、ニヤリと笑い、
「ふむふむ……つまり、匠哉にとって級長は大切な存在、という事なのかね? ん? 答えてみたまえ」
「ああ、少なくともお前よりはな」
「うわ、普通に返された……」
 俺は、貧乏神の手を振り解く。
「特別? 大事な存在? 私が? 私って誰? 私の事?」
「……級長? おーい、帰って来ーい」
「え、あ……た、匠哉?」
「もうすぐ2人が降りて来るぞ。変身、解いておいた方がいいんじゃないのか?」
「そ、そうね……」
 級長は、頭のカチューシャを外す。
 服が、メイド服から制服へと変化する。
 ……すると。
「先輩、無事ですかっ!?」
 緋姫ちゃんが、こっちに向かって走って来るのが見えた。
 瀬利花も、その後ろにくっ付いている。
「ああ、何とか健在だ」
「そうですか……」
 緋姫ちゃんは安心したかのように、ふぅと息をつき、
「それで、敵はどうなったんです? 無線で言っていた、異端審問官は?」
「あ、ああ、えーっと……緋姫ちゃん達を呼んだ事を言ったら、不利を悟って退いたよ」
 真実は隠しておく。
「……ところで、どうしてここに要芽がいるのだ?」
 瀬利花が、級長を見た。
「そ、それは……匠哉達が危ないみたいだったので、つい飛び込んで来てしまったんです」
「…………」
 瀬利花は、疑るような視線を向ける。
 それと、級長。いくら上級生だからって、そんな奴に敬語を使う必要はないぞ。
「……今後は、そういう無謀な真似は止めた方がいい。お前はただの一般人なのだからな」
「は、はい。気を付けます」
「もっとも、本当に一般人ならの話だが」
「…………」
 級長の顔に、一筋の汗が流れた。
 瀬利花は級長からマナに視線を移し、
「それで、交戦した異端審問官は何者だ?」
「美榊迅徒って奴だよ。私は名前を聞いた事があるくらいで、詳しくは知らないんだけど」
「…………」
 瀬利花は記憶を探るように、少し黙った。
「……カミオリの美榊迅徒か」
「知ってるの?」
「ああ」
 瀬利花が、散らばってる折り紙を、1枚拾う。
「天草一揆勢を影から支援していたとされる、隠れ切支丹の名家――『美榊家』の元次期当主。聖誕祭クリスマスの日に生まれ、7歳で美榊流折形術陽之章を全て修得した神童だ。美榊家が滅びた今では、天草財宝の在り処を知る唯一の人物でもある」
「――天草財宝だとぉ!!?」
 思わず、大声を上げてしまった。
 ……皆が、冷たい眼で俺を見る。
「カネの話になると喰い付きがいいね、匠哉」
「……うるさい、誰のせいだと思ってる」
 ともかく、そういう事なら。
「今度会った時は、絶対に捕まえなきゃな……」
「あ、それ無理。あいつは私が殺すから」
「――生かせよ! 貧乏脱出の邪魔すんなぁぁぁっ!!!」
「誰に向かって言ってるのか分かってる? 私は貧乏神なんだよ?」
 ……くそっ、やっぱりまずは貧乏神こいつをどうにかしないといけないのか。
「ま、色々大変だったけど……後は、こいつを警察に差し出せば部活動完了ミッション・コンプリートだね」
 マナが、放置してあったカールを拾う。
 ……そう言えば、こんな奴がいたっけ。
「初回にしては上手くやったよ。次も、この調子で行こうね」
 っ言うか、この先こんな事が続くのか?
 うわぁ、死の予感。もう本気で勘弁してくれ……。






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