「うぅむ、これはどういうことだ…………」
 初老の男性――源賢矢が悩む仕草をする。
「まさかここまで難解とは……」
 男の隣に立つ若い女――苑部奈都子もまた、同様に渋い顔をして頭を抱える。
「こんな難解な事件、今までに聞いたこともないぞ」
「悔しい……こんな事件なんかに……! でも迷宮入りしちゃいそう……!」
 警察である彼らですらも、解決することを放棄しそうになってしまうほど、その事件は難解だった。
 このままでは、迷宮入りも時間の問題だ。

 ――だが、世の中にはそんな迷宮入りを何としてもよしとしない不屈の精神を持つ者がいた。
 ――それは…………

「待ってください、警部さん! 奈都子さん!」 
「――!! そ、その声は!!」
「ま、まさか!!」
 二人が振り返ると、そこには一人分の人影が。
「この事件、迷宮入りにはさせません! この僕の名において!」
 影が一歩、また一歩と前進する度に、その姿ははっきりと見えてくる。
 猫のような耳と尻尾、ストレートロングの青髪、ゆったりとした服装にロングのスカート、そして手には杖のようなもの……。
 そう、彼女――いや彼こそが迷宮無し名探偵として名高い……
「魔法探偵エクセルかんと、只今到着!!」

魔法探偵エクセルかんと
第××話:悪魔の五重密室! ノートに予定されていた死! File5

civil


「かんと君! 来てくれたのか!!」
 その珍妙な格好を見て、源達は咎めるどころか、彼に笑顔を見せて近づいてゆく。
「事件あるところに僕はあり、ですよ。警部さん」
 その性別を超えたところにある魅力溢れる笑みを、かんとは源に見せる。
 すると、奈都子は顔を赤くしながらも、少し困ったような顔に。
「……で、でも、今回の事件ばかりは、犯人を見つけるなんてこと難しいすぎるわ。……例えあなたでも、これをあっという間に解くなんて……」
「ところがどっこい。もう既にトリックも犯人の目星もすっかりついちゃってるですねぁ、これが」
 かんとは余裕の笑みを奈都子へ見せる。
 そして、その言葉は警察二人にとってはまさに寝耳の水であり……

「「な、なんだってぇー!!!」」

 ――と、大きく叫ぶことになるのは自明の理であった。
「い、一体どんなトリックだというのかね、かんと君!!」
「そ、それで犯人は!? 犯人は誰なの!?」
「お、落ち着いて! 落ち着いてください二人とも!」
 詰め寄る二人に、かんとは多少たじろぐが、一歩後ろへ下がると説明を始める。
「――まず言ってしまうと、今回の事件を解く最大のポイントはやっぱりあの密室にあったんです」
「……そりゃ、あの五重にロックされた密室の謎を解かない限り、犯人は分からないだろうけど……」
「……そう。犯人の意図は、まさにその『密室をどうやって作ったのか』という部分に論点を持っていくことだったんです」
「ということは、あの密室の本質は、“五重の密室”という部分ではない別の場所に?」
 源の問いに、かんとは頷く。
「そうです。言ってしまえば、あの密室を構築する五つのロック。……それはなんてことはない、犯人が内側から全て掛けたものにすぎないんです」
「な――!! そ、それじゃ犯人は一体どうやって逃亡したっていうの!! あそこは窓どころか通風孔すらないというのに!!」
「そこなんですよ、奈都子さん。今回の密室は『どうやって作ったのか』ではなく『どうやって外へ逃げたのか』を考えることが大事だったんです」
「そ、それって……どういうこと?」
 ここまで来てもまだ何がなにやら分からない奈都子さん。
 すると、かんとは今まさに自分が立っているその場所の床を足で小突いた。
「『どうやって逃げたか』……。窓も通風孔もないこの和室から脱出する為の方法。それは、この畳の裏にあるんです」
「畳の裏…………! まさか!!」
 源が何かに気付いたように畳をめくる。
 すると、そこには……。
「床板がめくれていて、土を掘り返した跡がある……。ということはやはり……」
「そうです。犯人は床からトンネルを掘って、脱出経路を作ったんです!!」
「そ、そんな……!! で、でもトンネル掘りなんて、そんな簡単にできることじゃないだろうし、ましてや私達の目を盗んで埋め戻すなんて……」
「えぇ、普通なら無理でしょうね。……ですが、一人だけ可能な人がいるんです。土の属性を持った魔術師の彼なら出来るんです!!」
 そう言うと同時に、かんとは持っていた杖の先端をその掘り返した土へと向ける。
「マジカルスケール、頼んだよ!」
『OK,Brother!』
 杖が喋り、先端部に付いた青い水晶が光る。
『Gravity hall』
 そして、杖がそういうと同時に、埋め戻されたばかりの土が一気にめくれ上がり、そこには再度穴が出来上がる。
「……な、こ、こんなトンネルがあったというのか!!」
「油断しないでください……! 来ます!!」
 穴の奥を見据えるかんと。
 すると彼の警告どおり、その穴の中から一人の黒衣に身を包んだ男が姿を現した。



「……くくく。どーやらバレちまったみたいだなぁ……」
「……お、お前さんは……!!」
 そして、ついに姿を現したその男を見て、源は思わず言葉を失う。
 奈都子もそれは同様で、一歩前へと歩み出る。
「まさか……あなたが犯人だったの……!! ねぇ、そうなの駿太郎!!?」

 ※今までのあらすじを知らない人の為に注釈だ!
 駿太郎とは今回の事件で探偵役として最初の方でさりげなく登場した奈都子の幼馴染の事だゾ!
 
「奈都子さん……この人は紛う事なき土の属性に特化した魔法犯罪者なんです」
「そ、そんな……」
 奈都子の顔は、落胆一色に染まり、彼女はその場にへたりこんでしまう。
 そんな彼女を見て、それと対照的に駿太郎は更に高笑いをする。
「くくくく……ひゃーっはっはっは! どーやら何もかもバレちまってるみたいだなぁ」
「どうしてお前は、こんなことをしたんだ!」
「……どうして、だと? ……んなの決まってるだろ?      ――楽しいからさぁっ!!」
 駿太郎が、そう言って口元を醜くゆがめた瞬間、周囲は大きな揺れに見舞われた。
「な、ど、どうしたんだ!?」
「これは……! いけない! 警部さん、奈都子さん! すぐにここを離れるんだ!!」
「そ、それはどういう……」
「ひゃははははは!!! もう遅いわぁぁぁ!!!」
 するとその瞬間、高笑いを響かせる駿太郎の周囲に先程畳がめくれ上がった部分から大量にあふれ出てきた土が集まり始め、それがなにやら一つの形を作り出してきたではないか。
 完成する頃には、それは巨大な人型となっていた。
『ひゃはは!! 見ろ! これが俺の魔道武装“ゴーレム”だ!!!!』
 魔道武装――それは、自らが特化している属性に合わせて作れる武器のような存在だ。
「な、なんて大きいんだ……」
『ははは! そうだろうそうだろう! この俺のゴーレムの太くてかったぁぁい腕にかかれば、お前なんぞ一撃でミンチだぜ!!』
 そう言いながら、ゴーレムは既に腕を振り上げており……
『――んじゃ、とっと死ねぇぇぇい!!!』
「いけない!!!!」
 振り下ろされる腕。
 それから源と奈都子を守るべく、重力シールドを展開しようとするかんと。
 ……だが。
(――マズい! 発動が……!!)
 かんとは、シールド展開に、僅かながらに遅れてしまう。
 このままでは、三人はなす術もなく、潰されてしまう。
(そんな……そんなこと……!!!)
 させてたまるか!
 そう強く願った瞬間だった。

 ――ズンッ!!!

 一際、低い地に響くような音が目の前で響いた。
「……え?」
 そして、かんとはその音の正体を見ようと正面を見る。
 すると、そこには見慣れた少女が、見慣れない格好をして、振り下ろされたゴーレムの腕を受け止めていた。
 ――拳一つで。
「――どーやら間に合ったみたいね……」
「え、あ、あれ……?」
「何驚いたような顔してんのよ。助けてあげたんだから、礼の一つくらい言いなさいよ」
 拳で腕を押し返しつつ、彼女はそう言う。
 そして、彼女の拳は留まることを知らず、そのまま――
「せぇぇぇい!!!! 鉄拳爆砕!!!!」
『ぐあああああ!!!!』
 腕を完全に押し返してしまったどころか、それを粉砕してしまった。
「……ふぅ、これでとりあえずは窮地離脱ってトコね」
「あ、あの……ありがとうございます」
「え? あぁ、うん。ま、これも仕事だからねぇ。君もどうやら同業者みたいだしさ、仲間は助けないとさ」
 振り返った彼女の姿。
 それはまさしく、かんとが知るその外見と一致しまくりであり……
「あ、まだ名前名乗ってなかったわね。……私は飛月。鋼鉄の魔術師アイアンひづきよ。よろしくね」


 【File6へ続く!!】


 この続きを見たい方は、わっふるわっふると脳内で念じてみてください。
 もしかしたら見れるかもですよ。




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