ついこの前までは、午後六時でも、まだまだ明るかったというのに、今はすっかり空も橙色に染まっている。 この様子だと、もう一か月もしたら、同じ時間で夜になってしまうだろう。 季節は着実に秋、そして冬へと移行しつつあるのだ。 「お〜い、莞人〜!」 僕が橙色の空を見ながら、そんな思いにふけっていると、元気な声が聞こえてきた。 声のする方を向くと、こちらに向かって元気に手を振る同居人、飛月の姿があった。 飛月は、すぐさま僕のもとへ駆け寄ってくる。 「おかえり飛月」 「あ、うん、ただいま。……莞人は買い物?」 僕が手に持つスーパーの袋を見て、飛月は尋ねる。 「特売があったからね。今日は、早く事務所に帰れたし、買いだめ出来る時にしておこうと思って」 家計が常時苦しい我が事務所では、生活費の削減が必須事項だ。 だからこそ、特売やタイムセールの類は、主婦の如くチェックしている僕がいる。 ちなみに、今日の目玉にして最大のターゲットは、卵パック七八円(お一人様二パック迄) 「相変わらずマメだねぇ。……はぁ。これで、あの体たらくが真面目に仕事してくれれば、莞人の苦労ももっと減るのにね」 「あ、仕事っていえば、依頼人が来てるよ、今」 「……マジ!?」 そんな他愛もない話をしながら、僕達は夕陽に染まる通りを歩いてゆく。
事務所にお客さんが来たのは、僕がタイムセールに合わせて買い物に出かけようとした矢先だった。 その来訪は、いつものように流行りの携帯ゲームをやっていた駿兄も驚いたらしく、データがどうしたクエストがどうしたとわめいていた。 そのことを、道すがら話していると、飛月はけらけらと笑った。 「あはは、自業自得だよ」 「ま、お客さんも目を丸くしてたから、あまり笑えたことじゃないんだけどね……」 仕事中にゲームをしてた探偵、なんて噂が広まったら、それこそ死活問題だ。 いろんな意味で洒落にならない。 「……ん? でも、だったらどうして莞人は買い物に出かけたの? いつもなら依頼の話とか一緒に聞いてるのに」 飛月の言うことはもっともだ。 僕は、良くいえば事務所の助手として、悪くいえばミステリファンの興味本位から、依頼の内容について、事務所内に残ってよく聞いている。 とは言っても、それが出来るのも、僕が外出していない僅かな時間のみだけの話なのだが。 それに、その件については飛月も似たようなものだ。 「う〜ん、まぁ、聞いてみたいのは山々だったんだけど……お客さんがちょっとね」 「話を探偵以外に聞かれるのを嫌がったとか?」 「まぁ、そんなところかな」 実際に口で言われたわけじゃない。 ただ、依頼内容を口にしようとした瞬間、僕に向けられた視線がそう訴えていた。 だからこそ、僕は買い物に出かけることができたのだが。 「ふ〜ん。……んで、その依頼人って、どんな人だったの?」 「男の人だったよ。僕よりちょっと白いワイシャツに眼鏡をかけた少し神経質そうな顔した……」 「――ねぇ、その人って、結構痩せてる?」 「え? う、うん。確かにちょっとヒョロっとしてたかなぁ」 たしかにぱっと見、その険しい表情と相まって、体調不良なのかと勘違いしそうだったような。 「もしかして、あんな感じだったり?」 「うん、そうそう。まさにあんな風の人で……って、本人!?」 飛月の指差す先には、まさに僕と入れ違いで事務所に来た依頼人の姿があった。 どうやら、入る時も入れ違いなら、出る時も入れ違いだったようだ。 依頼人であるその人は、僕達の傍を横切ろうとしたので、僕は慌てて軽く会釈をした。 しかし、当の依頼人はそんな僕など、目に入っていないかのように、何も反応を示さずに横切っていってしまった。 「何あれ? 感じ悪〜」 「い、いや、単に僕のこと覚えてなかっただけかもしれないし……」 顔を合わせたと言っても、一分程度のことだ。 忘れてしまっていても無理はない。 「それにしてもさ〜、あんな仏頂面で歩かなくてもいいのに。きっと暗〜い性格だよ、あの人」 人間誰でも馬が合う合わないがあるという。 きっと、飛月にとってのあの依頼人は、おそらく後者だったのだろう。 「ま、まぁ、とりあえずさ。あの人が駿兄に仕事を持ってきてくれたことを祈ろうよ」 「そうだね。仕事が入れば、新聞の折り込みを毎日くまなくチェックする作業に明け暮れずに済むもんねぇ」 そんな冗談を飛ばしながら、僕達は事務所の階段を昇る。 ……仕事、入ってればいいんだけど。 「なぁ、莞人。今度の土曜、暇か?」 事務所に帰ってきた僕達に向けた駿兄の第一声がそれだった。 そして、僕はその言葉の意味をなんとなく理解する。 「う、うん。別に用事はないけど……仕事の手伝いでもするの?」 「さすが我が弟、察しが早いこって」 「てことは、あの陰気な依頼人の依頼を引き受けたわけだ」 飛月は、納得したように頷く。 「で? どんな依頼だったわけ?」 いつものことながら、飛月は依頼内容に興味津津のようだ。 いや、僕も気にならないわけではないけど。 「だから何でお前に教えなきゃいけな…………まぁ、いっか。どうせここで断っても、埒があかねぇし」 物語の展開的に話すべきだし、と呟いたように聞こえたのは気のせいだろう。 駿兄は、絶対に他言無用だぞ、と付け足した後、ついさっき引き受けた依頼について、簡略に説明を始めた。 その内容をまとめると以下の通りだ。 依頼人は、国立大学の薬学部に通う大学生の ここ数週間、自宅に帰ると何者かに侵入されているような気がするらしく、その実態を調査してもらうべく相談に来たようだ。 「侵入されてるような気がする……って、ちょっと曖昧じゃない?」 「そういう曖昧な相談に、はっきりとした形で答えてやるのが俺達の仕事なんだよ」 確か、僕も昔同じような事を駿兄から聞いた気がする。 世の中には、警察に相談しづらい事、相談していいか判断に困る事が山のようにある。 そして、そうした相談に警察に代わって乗ってやるのが探偵なのだという。 駿兄も今回の件のような依頼は今までに多々受けている。 「ふ〜ん、そういうものなのかなー」 「そういうもんだ。……というかな、お前が最初にここに来た時の依頼内容も似たようなもんだったろ」 「あー……。そういえば、そんなこともあったっけね〜。あはは……」 あのポルターガイストの一件は、飛月がここで生活するようになったきっかけだ。 忘れたくても忘れられるはずもない。 ……が、本人にとっては過去のことらしく、たった今思い出したかのように取り繕っていた。 「で、駿兄。その調査に僕を駆り出すっていうけど、具体的には何するの?」 「自宅に誰かが侵入してるかもしれない、って言ってるからな。盗聴や盗撮の調査、後は防犯カメラの設置をしようかと」 「なるほどね」 僕が手伝いをする場合といえば、専ら機材の運搬や設置を伴う時だ。 この前の、飛月のお姉さんの会社の依頼の際に、地中を調査する機材を用意した事なんかがいい例だろう。 「防犯カメラの設置って……そこまでするの?」 「あちらさんからの直々に依頼だよ。もし誰かが侵入してるんなら、それが知りたいんだと」 「だけど相手は学生でしょ? なのに、そんな高くつきそうなカメラを、しかもこんな胡散臭い探偵に頼むなんて……」 「誰が胡散臭いんじゃ! ……まぁ、金のことはきになったがな。向こうも『金はいくらでも出す!』なんて強気だったからよ」 学生身分でそんなことが言えるなんて……。 常に火の車の家計に頭を悩ませる僕にとっては、実にうらやましいことだ。 「まぁ、そういうわけだから、明日は俺と莞人で依頼人の家に出掛けるか――」 「じゃあ、あたしも一緒に行かないとね! 人手はあったほうがいいでしょ!」 「……なんとなく予想はしてたが、やっぱそうなるわけね」 駿兄は呆れと諦めの混じったような顔で、肩をすくめた。 そこに、同行を断固阻止しようという考えは見えない。 「……いいの? 飛月がついてっちゃって」 「いい加減、もう諦めたわ。……ま、あいつなら、ベラベラ余所に依頼の事も言わなそうだしな」 確かに、飛月もそこまで口が軽いわけじゃないだろう。 そういうところは、意外ときっちりしてるし。 ただ、振り上げる腕の軽さは水素レベルなんだけど。 あの軽ささえ無ければ、どれだけ気が楽な事か……。 「へくしゅ!! 誰かがあたしのこと、悪く言ってるような……」 どうやら、ついでに勘も鋭いらしい。 うん。これ以上考えるのはやめよう。 翌日。 僕達は予定通り、昼過ぎに依頼人の住むマンションへと向かった。 「四〇五号室……っと、ここで合ってるみたいだな」 マンションの表札には、依頼人の名前である“高橋”と表記してあった。 それを確認して、駿兄はインターホンを押す。 しかし、しばらく待っても反応はなく。 「……おかしいな。昼一時の約束だっつーのに」 「本当に約束したの今日なの? まさか来週の土曜なんてことは……」 「んなわけねーだろ。ちゃんと今日会うことになってたっつの」 だとすれば、約束があることを知っていて、依頼人は留守にしているということだ。 ……それは、それでおかしい話だけど。 「まさか、昼寝してて気づかないってか?」 「あのねぇ……あんたじゃないんだから、それこそありえないでしょ……」 飛月が呆れたように突っ込みを入れる。 だが、確かにあの神経質そうな依頼人が、約束を寝過ごすなんてことは考えにくい。 そうなると、考えられる可能性は―― 「どこか近所のコンビニとかに買い物に出かけてるんじゃない? 待ってれば、五、六分で帰ってくるかもしれないよ」 「ふむ……、仕方ない。少し待ってみるか」 こうして僕達は、部屋の前でしばらく待つことにした。 きっと、約束をすっぽかしてるわけでもないし、数分で戻ってくるに違いない。 そう思っていたのだけれど……。 「……来ねぇ」 十分経っても、部屋の方にはだれも来る気配がなかった。 「やっぱ寝てるんじゃないのか?」 「そんな馬鹿な……って言いたいけど、なんだか真実味を帯びてきたわね」 流石の飛月も、駿兄の軽口を言い返せない状況になってきたようだ。 「ねぇ。試しに電話掛けてみたら? もしかしたら、約束の日時を勘違いして遠出しちゃってるのかも」 「だとしたら、本当に迷惑な依頼人だな……。だが、試してみる価値はあるか」 依頼を受けた段階で、依頼人には住所や連絡先を記入してもらうことになっている。 駿兄は手帳にメモした番号をプッシュして、携帯で電話を掛ける。 しかし、相手は出ないようで……。 「――駄目だな。なら、自宅の固定電話の方にも一応……」 駿兄が電話をかけると同時に、ドアの向こうから聞こえてくるコール音。 だが、そのコール音が切れることはなかった。 「ねぇ、ここにいても埒が明かないんじゃない?」 すると、そんな中で飛月が口を開いた。 「これだけ待って、反応ないってことは、やっぱり留守なんだよ」 「だよなぁ。ったく、約束しておいて留守とかどういうことだっつーの……」 「ま、まぁ、向こうにも何かやむにやまれぬ事情があったかもしれないし」 とは言ってみるものの、そんな事情があったなら、先に連絡しているはずだ。 相手がごくごく常識的な人ならば。 「それにしたって、ここに居続けても意味無いってことだろ? とんだ時間の無駄だったっての……」 「そればっかりは同意せざるを得ないわね。その上、あたしと莞人は、重たい機材も運んできたのに」 機材っていうのは、依頼人の部屋に設置する予定の防犯カメラとその周辺機器などの一式のことだ。 ――ただ、機材の殆どは僕が運んでて、飛月が持ってるのは軽いケーブル類だけなんだけどね。 「んじゃー、とりあえず事務所に帰るとす――」 「高橋さんに何か用か?」 帰ろうとした矢先。 隣の部屋のドアが開き、若い男の人が姿を現した。 どうやら、隣人のようだ。 「おたくら、さっきから人ん家の前で何かやってるけど……用があるならとっとと入ったらどうだい?」 男の人は、訝しげに僕達の方を見やる。 十数分はドアの前に立っていたのだ。 何かやましいことを考えているのだと疑われても無理はないけれど。 「い、いや、それが、どうやら留守のようでしてね。それで帰ってくるのを待ってたりしたんですが、どうも――」 「留守ぅ? っかしいなぁ。そんなはずないんだが」 「?? どうして留守でないと?」 考え込むような仕草を取る男の人に対し、駿兄は当然の疑問を投げかけた。 隣に住んでいるとはいえ、さすがに隣人の在不在までは知れるはずがないのだが……。 「いや、壁越しに隣の風呂場の方から、水だか湯だかが流れる音が聞こえるんだよ、ずっと。さすがに水道開けっぱで外出するわけもないだろうし……」 「ただ栓を閉めるのがゆるかっただけってことは?」 「壁越しに聞こえるくらいの水の勢いだぞ? 栓の緩みで片付く話じゃないと思うがな」 話を聞く限りでは、ただの閉め忘れではないようだ。 しかし、そうだとすると話がややこしくなる。 僕達は電話やらインターホンやらで不在をほぼ確信した。 一方で、隣に住む人は水の音で在宅していると確信している。 これは一体……。 「なら、電話でもかけてみたらどうだ? ひょっとしたら寝てるだけかもしれないし」 「電話ならとっくにかけましたよ。インターホンもね。それで反応がないから留守だと――って、ん?」 何気なくドアノブを回していた駿兄が何かに気づいた。 「鍵がかかってないぞ、これ」 駿兄がノブを回しながらドアを押すと、何の抵抗もなくドアは開いた。 「うわぁ……不用心だね」 「でも、これで留守かどうかはっきり確かめられるわけだ」 「あ、ちょ、ちょっと、あんた!」 隣人が制止するのも聞かず、駿兄は部屋の中に入る。 「くそっ、何がどうなってるんだよ」 そして、隣人の男の人もそれに続くように中に入っていった。 こうして、廊下には僕と飛月が残されたわけで。 「……どうしよっか」 「まぁ、この場合は入っても問題ないでしょ。何もやましいことしなきゃいいわけだしね♪」 どうやら、飛月は飛月で入る気マンマンのようだ。 でも実際、これって不法侵入に当たるんじゃ……。 「う、うわぁぁぁぁ!!!」 部屋に入るか入らまいか迷っていると、部屋の中から男の人の叫び声が聞こえてきた。 あの隣人の声だ。 「莞人!」 「う、うん!」 先にドアノブに手をかけたのは、飛月だった。 僕は、飛月に続いて開かれたドアから部屋の中に入る。 「んんっ!? な、何なの、この臭い?」 部屋に入ってすぐ、飛月は鼻を手で覆うようにして、顔をしかめた。 確かに、飛月の言うとおり、この部屋には、普通じゃありえない異臭が立ち込めていた。 異臭といっても、ガスの刺激臭や腐った野菜の腐敗臭の類とも違う、金属混じりの鈍い臭いだった。 金属? いや、もっと細かく言える。 これは……鉄の臭い。 「考えたくないけど、もしかして……」 臭いの元を探そうと周囲を見渡すと、玄関から向かってすぐ右側にあった部屋に駿兄と隣人がいた。 洗濯機や洗面台があるところを見ると、どうやらこのスペースは脱衣所のようだ。 一般的な住宅の間取りにあるように、脱衣所の更に奥は風呂場となっているらしく、二人は揃ってその風呂場に体を向けていた。 駿兄は直立したまま。 そして、隣人は腰を砕いた姿勢のまま。 「駿兄、一体何が……うっ!?」 脱衣所に足を踏み入れた瞬間、ムワっとした熱気、そして先ほどの臭気がますます強くなって鼻を突いた。 熱気の正体は言わずもがな、風呂場からとめどなく流されているシャワーだ。 隣人の言っていた水の流れる音というのは、シャワーの湯が水道管を流れる音だったのだろう。 「ちょ、ちょっと、これってまさか……」 飛月の問いに答えないまま、駿兄は上着を脱いで風呂場の中に入ってゆく。 風呂場の中には既に先客がいた。 ただし、湯船の縁に突っ伏す形でぴくりとも動いていなかったが。 駿兄はそんな先客の手首を紅く染まる湯船の中から持ち上げ、顔を歪ませる。 そして、そのままその顔を横に何度か振る。 「……ダメだ。もう」 「ま、まさか、それがた、高橋さ……」 「俺の記憶に間違いがなきゃ、間違いなく、こいつは依頼人――高橋絹一郎だ」 いるはずなのに留守としか思えない反応を示す。 ――そんな一見矛盾した状況の答えがまさかこんな形だったなんて。 「あ、あたし、警察に電話してくる!」 飛月は、脱衣所を飛び出すと、アパートの廊下に出て行った。 「駿兄。高橋さんはその……手首を……?」 赤く染まった湯船、目立った外傷のない背中や足から推測できる事はただ一つ。 駿兄は、今度は首を縦に振った。 「あぁ、手首をスッパリやられてる。俺は検死官じゃないから詳しいことは分からんが、こいつが恐らくは死因だろうな」 駿兄は、何かに気づいたようにシャツを腕まくりすると、湯船に腕を突っ込む。 そして、腕を引き上げると、その手には小さな金属製の物体が。 「……剃刀、か」 剃刀といっても、よく店で売ってるようなT字ではなく、全体が金属でできている珍しいタイプだ。 でも、剃刀が湯船に沈んでいたということは、やっぱり……。 「じ、自殺!? リストカットってやつだろ、それ?」 ようやく立ち上がった隣人は、声を荒げる。 確かに、この状況では、どうしてもそんな結論に至ってしまう。 だが、駿兄はその問いには考え込むような仕草を取っている。 「……気になる」 「気になるって……何が?」 「勿論、このことだよ。この自殺っぽい何かのな」 「自殺っぽい何か……って、自殺じゃないの、これ?」 そう尋ねると、駿兄は僕の額にデコピンをする。 「あだっ!!」 「お前な、普通自殺しようと思ってる奴が、今日人と会う約束なんかするか?」 言われてみれば、確かにそうかもしれない。 自殺する人間は、その前に身の回りを整理する、と聞いたことがある。 だとすると、約束事を残したまま自殺してしまうというのもおかしい。 「自殺するなら、約束のキャンセルをするとか、俺達と会った後にするとかいろいろ方法もあったはずだろうに」 「それをしないってことは……」 「まぁ、発作的に自殺したって可能性もありえないわけじゃないが、それにしても、まだおかしい点がいくつかある」 駿兄の言うおかしな点というのは、僕にはいまいち分からない。 だけど、探偵に依頼までした人が、いきなり自殺するというのは確かに変な話だ。 「とにかく、だ。この件、ただの自殺で片づけられる話じゃない気がするんだよ」 駿兄は、そう言って再び高橋さんの遺体を見やる。 僕も、それに倣って高橋さんの方を見ると、目を閉じて小さく頭を下げる。 「警察に電話してきたよ! すぐに来るってさ!」 すると、外に出て通報をしていた飛月が戻ってきた。 「……って、どうしたの? そんな考え込むような顔して……」 飛月は、不安げに駿兄と僕の方を見ている。 ただの自殺で片づけられる話じゃない、か。 確かに、駿兄の言うことはもっともだけど、ならば一体、ここで本当は何があったというのだろう。 今の僕には、まだ何も分からないことだらけだ……。 <中編に続く!>
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